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*こちらの都合により茶室の大きさのイメージを六畳程に変更します、それに伴い二話の文章中の四畳半という部分を訂正しました。
特に大きく物語が変わることはありませんが、お知らせしておきます。
車を走らせながらフロントガラス越しに外を覗き込むと、そこには綺麗に色づき始めた木々が生えている光景、そして目的の山が近づいていました。
「やはりこの辺りは良い感じに染まり始めていますね」
私はハンドルを握りながらそう小さく呟きつつバックミラーの方へ視線を向けてみると、後ろの席には窓に手をつけて目を輝かせているイブキさん、そんな彼女を微笑ましく見つめている棗さんの姿。
私が今何故彼女達とこうして車で出かけているのか、それは一時間程前に遡ります。
今日は休日、その日はいつもの様に寮を出て私は一人茶室で過ごしていました。
「今日は三人とも来ませんし...どうしましょうか」
本来であればお昼頃から集まって皆さんとお話をしたりお茶を飲んだりとのんびりしている筈なのですが、今日彼女達はそれぞれ用事があるとの事で現在この場には私一人。
宇治さんはやらなければいけない課題に取り組むため、狭山さんはどこか行きたいところがあるとの事らしく外出中...彼女の場合は最近倒れたのもあり、無茶をしない様にと川根さんも見守ると言って狭山さんの付き添いに。
そういう理由で残された訳ですがそれでもやる事は変わりません、私は普段通りにお茶を淹れて静かに心を休めていきます。
部屋に漂う妙な静けさ、何だか久しぶりに思えるそんな雰囲気を味わっている時、不意にノック音が私の耳に入ってきました。
「朝宮さん、いますか?」
「棗さん?ええ、いますが...何かご用ですか?」
音と共に聞こえてきたのは棗さんの声、私は返事をしながら立ち上がり茶室の扉に手をかけます。
「サエ先輩!こんにちは〜!」
「おっと...!イブキさんもいらっしゃったんですね、こんにちは」
そうして扉を開けた瞬間、突然腹部辺りに衝撃が走りました。
反射的に腕で抱き寄せると、そこにはニコニコと笑顔を浮かべ私に抱きついているイブキさんの姿がありました。
「一応あの花火大会以来ですかね」
「そうですね、あの時は本当に無茶をさせてしまってすみませんでした...」
「いえ、こちらとしても最後には良い思い出になりましたから....それより、今日はどうしてこちらに?」
勿論ただ遊びに来たという可能性もありますが、どうにも棗さんを見ているとそれだけではない様子。
....まさかまた羽沼さんから何か頼まれごとを伝えに来たのでしょうか?
「大丈夫です、今日は万魔殿の依頼ではありませんので。実はこれからイブキと一緒に紅葉を見に行こうと思っているんです」
「紅葉ですか?」
「はい、昨日イブキが見たいと言いまして...丁度今日は休みなので行ってこようかと」
成る程、確かにそろそろ紅葉のシーズン...いえ、少し早いかもしれませんが、それでも場所によっては色づいている所もあるでしょう。
イブキさんの頼みならば彼女がノリ気なのも納得です、そう考えていると棗さんは続けて口を開きました。
「それで...もし良かったら朝宮さんもご一緒にどうです?」
「え、私もですか?」
なんと棗さん達がここに来た理由は紅葉狩りへのお誘いでした。
イブキさんの願いなら羽沼さん含め他の万魔殿の方々もいらっしゃるでしょうし私がそこに入るのは場違いなのでは...?
そう尋ねたのですが、どうやら羽沼さんは本当に珍しく生徒会長としての仕事で出かけているらしく、他の二人もそれぞれ不在で今は棗さんとイブキさんの二人だけなのだとか。
「それに、イブキが折角なら朝宮さんと一緒に見に行きたいと話していまして」
「えへへ♪サエ先輩、良い?」
こちらを見上げながら可愛らしく首を傾げるイブキさん、その姿に私の心は綺麗に射止められてしまい、最終的に二つ返事で私は彼女達と紅葉狩りへ同行する事となったのでした。
それから一時間...二人を後ろに乗せ備品の車を運転し続けると、今回の目的地が視界の奥に見えてきました。
「わぁ!綺麗〜!」
「ここまで綺麗に色がつくものなんですね...」
そこに広がっていたのはオレンジや赤色の葉を持つ木が立ち並んでいる山、それらの葉一枚一枚か風で揺られる事で綺麗なグラデーションを見事に強調しています。
そんな美しい光景に二人は夢中になって窓の外を見つめていました。
「さて、ではこの辺りにしましょうか」
やがて辿り着いた山の麓付近に駐車し車を降りた私達は、そのまま多少整備されている山道を登っていきます。
一歩一歩足を踏み入れる度に周りの紅葉は濃くなっていき、車から見た時よりもはっきりと映し出される幻想的な光景に私も思わず見惚れてしまいます。
「すごーい!」
「イブキ、あまり走って転ぶと危ないですよ」
「ふふ、でもイブキさんがはしゃぐ気持ちもわかりますけどね」
私と棗さんはそんな大はしゃぎのイブキさんを後ろで見守りつつ、辺りの紅葉を堪能しながら歩いていきます。
ですがそうして道なりに沿って進んでいた時、私の視界にあるものが映りました。
「おや、あれは....」
それは私達から少し高めの場所に立っている人影...そこにいたのは一人の少女でした。
「.......」
あまりゲヘナの地区では見かけない白色の制服を身に纏い、紺色の長髪が風に靡いています。
どこか視線を上に向けながらゆっくりとその場を歩いている姿からはどこか優雅な雰囲気が伝わってくる程です。
彼女は無言で周りの景色を見つめている様ですが、そんな中私が気になったのは彼女が立っている場所。
よくよく見ると彼女の歩く先は若干傾斜になっており、足を踏み外せばそのまま転がり落ちてしまいます。
しかも少女は紅葉を見るのに夢中になっているのかその事に気がついていない様子...このままでは怪我をしてしまうかもしれません。
「あの!そこから先は危ないですよ!」
「ひゃっ!」
そう考えた私は少し遠くに見える彼女に向けて大きな声で呼びかけると、いきなり聞こえてきた私の声に驚いたのか少女はその場で驚いた様子で飛び跳ねました。
「え、誰なんです....ってきゃあ!?」
「あっ!」
しかしそのせいで足元のバランスを崩したのか、着地が上手くいかなかったらしき少女はなんとそのまま傾斜の向こうへ消えてしまったのです。
「あぁぁぁぁぁぁ.....!!!」
徐々に遠くなっていく叫び声と少女が転がり落ちる音、流石に不味いと思った私は大急ぎで彼女の元へ向かおうと走り出します。
「朝宮さん、どうかされたんですか?」
「たった今あの坂を人が落ちたんです!」
「え!?」
突然走り出した私に尋ねる棗さんに答えつつ、何とか急な斜面を転ばない様にしながら下まで降りていきます。
すると丁度下に生えていた一本の木の根本辺りに先程の少女が手足を広げて寝転んでいました、慌てて駆け寄りますが彼女は静かに目を瞑るのみで一切反応を示しません。
僅かに身体が上下している事から気を失っているだけの様です、おそらく落ちた際に木の幹にぶつかってしまったのでしょう。
どうしようかと悩んでいた私ですが、そんな時ふと彼女の着ている制服に目が止まりました。
正確には制服の襟の部分...そこには見覚えのあるマークが刻まれています。
「こ、これは....トリニティ総合学園の...」
そう、そこに描かれていたのはトリニティの校章、つまりこの少女はトリニティ総合学園に所属する生徒であるという証明。
「朝宮さん!一体何が....ん?その方は...」
「倒れてる人大丈夫ー?」
そんなとんでもない事実に気づいてしまった私の元に、少し回り道をしてきた棗さんとイブキさんがやって来ました。
そして棗さんが倒れている少女を見て、彼女がトリニティの生徒である事を理解した瞬間溜息をついてしまいます。
「はぁ....ここにマコト先輩が居なくて良かったです、絶対面倒くさい事になっていましたから...とりあえず彼女を安全な所まで運びましょう」
「そ、そうですね」
そう言って私と棗さんは一緒に気絶している少女を抱えると、なんとか車を停めた所まで運んでいったのでした。