おそらく最後のオリ生徒となります。
気絶した少女を運び終え車の後部座席に寝かせる事十分後、件の彼女はまるで眠りから覚めた様に目をこすり呻き声を上げながら起き上がりました。
自分が何故ここにいるのかわからず混乱している様子の少女へ先程あった事を説明すると、少しの間固まった後溜息をつき頭を下げ、それからあの時何をしていたのかを話してくれました。
彼女が言うには、紅茶をより一層美味しく堪能できる場所を求めて景色の良いと有名なここへやって来たとの事。
まさかその為にわざわざゲヘナまで足を運んだのかと驚いてしまいましたが、そんな私達を前に彼女は紅茶を完璧に味わう為ならゲヘナでも地の果てでも向かうと力強く宣言してきます。
どうやら彼女は中々芯の強い方の様です、それに紅茶への熱い想い...なんだか人ごととは思えないその姿に私もお茶に関しては同じくらいの気持ちを持っていると賛同しました。
こちらとしては同じ様な趣味を持つ者同士の話題として口にしたつもりだったのですが...どうやら彼女にとっては若干違う受け取り方をされてしまったみたいです。
突然私の方を見たかと思えば自分の方が情熱を注いでいる、この気持ちは貴方なんかに負けない!...そう言いながら私に指を向け、なんと後日勝負をしようと言い渡されてしまいました。
いきなりの事にポカンと固まってしまう私でしたが、彼女は言いたい事は言ったと満足した顔をしながら車を降りるとそのまま去っていってしまいます。
....なんだかまた変な事に巻き込まれてしまったようです...というか彼女はここから歩いて帰るのでしょうか?
――――――――――――――――――――
棗さん達と紅葉狩りに行ってから数日、いつものように茶室へ向かうとその横の壁に何かが貼ってあるのに気がつきました。
そこには指定された時刻と場所の詳細、その下に”トリニティ総合学園紅茶部所属、本山シズク”という手書きの文字が書き殴られています。
しかも肝心の日時はなんと今日の午後...私の頭にはあの少女が話していた勝負という言葉が頭をよぎります。
...どうやってこの紙をここに貼ったのか気にはなりますがひとまず宇治さん達にこの事を話し、流石に無視するわけにもいかないので念のため道具や最低限の茶葉を持って全員で向かう事に。
やがて車で指定された場所...トリニティ近郊にある建物に近づくと、その前にはやはりあの時の少女が腕を組み仁王立ちで待っていました。
私だけが来ると思っていたのか車から降りて来た三人を見て見て若干驚いていましたが、最終的に許容した彼女...本山さんに着いていき向かった先は大広間、その空間の真ん中のテーブルには高級感溢れるティーカップやポットが置かれていました。
そしてこれからそのテーブルで今から本山さんが紅茶を、その後私がお茶を淹れそれぞれ評価を行い最終的にどちらが優れているかを決めるとの事。
紅茶とお茶をそもそもどうやって比較するのかという疑問はありますが、既に準備を始めてしまっている本山さんはすっかりやる気満々の様でこちらの声が聞こえていません。
...仕方ありませんね、ここまで来てしまった手前もありますし....それに彼女が本気で競うつもりであるのならこちらも手を抜くわけにはいきません。
私のこのお茶への想い、彼女へ届けてみせましょうか。
――――――――――――――――――――
現在私は少々疲れた顔を浮かべながらお茶を淹れていました。
そんな私を心配そうに見つめ何があったのかを尋ねてくる三人にその訳を話し始めます。
実を言うと本山さんとの勝負を行った日から今日まで、私は既に何度か彼女と顔を合わせていました。
ほとんどの場合、放課後寮へ帰ろうとするタイミングを見計らい電話をかけてきてはあの時のように勝負を挑んでくる...たまに勝負ではなく紅茶の素晴らしさについての談義を電話越しに夜遅くまでされる事もありましたが、どちらにも共通しているのは断ろうとしても彼女は絶対に諦めない事です。
行動力が凄いのか、それともただ思い切りが強すぎるだけなのか...ある時トリニティの方へ向かうのが無理なら自分から行くとまで言われ流石に学校までは来ないだろうと思っていたのですが、その後門前までやって来て私の名を大声で呼ぼうとした時は本当に驚きました。
...まあなんだかんだあそこまでお茶や紅茶の事で熱く語り合う経験が普段無いという事もあり、結局私が断りきれていないのも原因の一つな気がします。
そんな事を半ば自嘲気味に話していた時、突然茶室の扉が叩かれたので開けてみるとなんとそこには件の本山さんの姿が、しかも全身黒ずくめの服装をしており腰元に生えている翼も隠す徹底ぶり。
な、何故貴女がここに!?それにどうやって...え?変装して来たから余裕だった?
確かにその格好であればトリニティの方とは思われないかもしれませんけど、それ以前に怪しすぎて別の問題が発生している気がするのですが...
そんな彼女が尋ねてきた理由は当然の如く私との勝負、もはや生粋の勝負ジャンキーと化してしまっている様ですが流石にこの場で行う訳にはいきません。
とはいえこのまま帰すのも申し訳ないですし、結局諦めた私は彼女を茶室に招き入れ、折角ですしとお茶を振る舞う事となったのでした。