ゲヘナに漂うお茶の味   作:Mrふんどし

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いつも読んでくださる方々、本当にありがとうございます。


彼女の想い

ごきげんよう、私はトリニティ総合学園紅茶部所属の本山シズクですわ。

 

さて、突然ですが私は今何をしているのかお分かりでしょうか?それは....

 

「ねーお昼奢ってくんない?」

 

「あんたそれ昨日も言ってたじゃん、また財布忘れたの?」

 

「ね、お願い!ちゃんと明日は持ってくるから!」

 

「......」

 

ちょうど正面から並んで歩いてきた角や尻尾が生えた二人の生徒の横を、顔を俯かせながら通り過ぎていきます。

そう、現在私はゲヘナ学園へ侵入している真っ最中なのです!

 

侵入自体はこれで二度目、当然許可など取ってはいませんので翼も目立たぬ様服に隠し更に今回は目元を隠すサングラスにマスクを身につける徹底ぶり、絶対にバレる事はないでしょう。

 

そもそも何故私がここまでしてゲヘナに足を運んでいるのか...その理由は勿論、あの方との何度目かになる勝負をする為です。

 

朝宮サエ。

このゲヘナ学園に通う生徒であり、少し前に真剣勝負をし合った間柄....もはやライバルと言っても過言ではないかもしれませんわ。

 

そんな彼女とはその日以降度々連絡を取り合っては勝負をしたり、互いの持つ知識を交換し合い見識を広めたりと中々に有意義な時間を過ごせておりました。

まあ基本的にこちらから連絡する事が殆どではありますが、きっと彼女も私と同じ様に思ってくれているでしょう。

 

そして彼女は最近声などからどこか疲れた様子を見せていたので、それならばと今日は私の方から彼女の元へ向かったという訳です。

 

 

そんな彼女との出会いはまさに偶然の導きと言えるものでした。

 

 

 

 

 

 

「あら、今日の紅茶はいつもと香りが違いますね」

 

「実は最近開店した紅茶専門店から購入したものなんです」

 

「まあそうだったんですか、今度私も是非買いに行きたいです」

 

窓から噴水の見える綺麗な部屋、その日は紅茶部のメンバー達がのどかな雰囲気の中紅茶を嗜んでいました。

 

「.....」

 

「あら、シズクさんどうかされましたか?」

 

「もしかしてお口に合わなかったり...?」

 

「..っ!い、いえそういうわけではありませんわ、少し考え事をしていたもので。皆さんが仰る通りとても素晴らしい紅茶だと思います」

 

私は思考の沼から意識を現実に戻し笑顔を浮かべながら紅茶を口に含んでいきます。

定期的に皆さんと開いているこちらのお茶会....同じ紅茶好きの同士として彼女達と語り合うこの時間はとても素晴らしいものです。

 

....ですが最近になって、私の心の奥底にはどこか”物足りない”という感情が生まれつつありました。

彼女達が本当に紅茶が好きなのは理解しております、しかし私の思いはそれ以上に強かったのです。

 

茶葉の種類、お湯の温度、淹れ方など少しでも変化があればそれだけで味や香りが変わってしまう紅茶の奥深さ。

まるで紅茶自体が感情豊かな生き物の様に感じられる事に心惹かれた私は、以来紅茶に対しては人一倍情熱を注いで生きてきました。

 

ですが、当然そこまで紅茶に対し夢中になっている人物など私以外にあまり見受けられず、仮に話をしようにもこちらの話についてこれないのが殆ど...その為時間が経つにつれ自然とその思いを人前に出す事は無くなってしまいました。

 

そんな気持ちを抱えたまま過ごしていたある日の事、たまたまニュースで紅葉の話題を耳にしたのです。

 

「紅葉ですか...確かにそんな時期も近づいてきましたわね」

 

(ふむ、そういえばゲヘナの方にある山には綺麗な紅葉が見られる場所があった筈ですわ、特にする事もありませんし折角であれば今度のお茶会の参考として下見に行くとしましょうか)

 

そんな事を思いつつ、流石に一人でゲヘナに向かうと知られれば面倒な事になると考えた私は学園の車を借りる事なくそのまま歩いて向かう事に。

道中足が痺れて若干後悔しそうになる瞬間もありましたが、なんとか目的の山まで辿り着きました。

 

「噂通り綺麗な場所ですわね」

 

視界を覆う紅葉の美しさに感嘆のため息を漏らしてしまった私は、そのままフラフラと道なりに沿って歩いていきます。

 

(こんな所で紅茶が飲めたらさぞかし美味しく味わえるのでしょうね...今から楽しみですわ!)

 

予想以上の収穫についつい頬が緩みます、そして頭上に広がる紅葉を見上げながらそんな事を考えていた時です。

 

「あの!そこから先は危ないですよ!」

 

「ひゃっ!」

 

突然私の背後からそんな声が聞こえたので思わず驚いてしまいました。

振り返ると、少し遠くの所に一人の少女が立っている様です。

 

深緑色の髪にこれまた目立つ薄緑色の着物を身につけている少女...当然見た覚えがないことからゲヘナの方なのでしょうか?

よく見てみると更に奥の方には彼女以外にも二人ほどいらっしゃるみたいです。

 

「え、誰なんです....ってきゃあ!?」

 

私はひとまず彼女達へ声をかけようとしたのですが、先程まで紅葉に夢中になっていたせいか、少し先の足元が傾斜になっている事に気づかずそのまま足を滑らせてしまいました。

 

支えを失った身体はどうなるのか...当然後は重力に従うのみ

 

「あぁぁぁぁぁ!あんまりですわぁぁぁ.....!!!」

 

ゴロゴロとそのまま斜面を転がり落ちていく私。

なんとも情けない姿を晒してしまいましたが、これが彼女との初めての出会いとなったのです。

 

 

 

 

それからは早いものでした。

 

意識を失い彼女達の乗って来た車で目を覚ました私はそこで朝宮さん達と少し話をした後、彼女が告げた”貴方と同じくらい情熱を注いでいる”という言葉に反応してしまい彼女へ勝負を言い渡しました。

 

私の紅茶への愛はそんな言葉ひとつで収まるものではない、それにも関わらずなんの気なしに平然と言ってくるその様に初めは許せないという感情が大きかった事を覚えています。

 

ですが....実際に彼女と勝負をした日、その思いは消え去ることとなったのです。

彼女がお茶を淹れる際の仕草、顔つき、茶葉や道具をひとつとっても大切に扱いながら私へお茶を淹れる一連の流れ...それを目の当たりにした私は、彼女は本当にお茶を愛しているのだと一瞬で理解出来ました。

 

当然完成したお茶も普段飲まない私ですらしっかりと美味しいと思える様な深く味わいのあるものであり、彼女の想いが本物であるというのは疑いようがありません。

その出来栄えに彼女の目の前で本気で悔しがる姿も見せてしまいましたが、そこで改めて私は確信したのです。

 

紅茶とお茶でタイプは違うものの、彼女とであれば互いを高め合える、より理想を追い求められると.....

 

 

 

 

「ふぅ、なんとか来れましたわね」

 

あれから無事誰にも怪しまれる事なく朝宮さんがいるであろう部室棟へ辿り着いた私は、マスクを外し静かに息をついていました。

そうして道具や茶葉の入った袋を一度床におきながら軽く扉をノックすると

 

「はい、どちら様で.....ってほ、本山さん!?」

 

暫くして中から件の朝宮さんが顔を覗かせてきました、彼女は私を見て驚いていらっしゃる様です。

 

「どうも朝宮さん、お久しぶりですわね」

 

「あ、はいお久しぶりで...ではなく!えっと、何故貴方がここに?」

 

「最近は会わずに電話越しで話すばかりだったでしょう?貴方にこちらまで来させるのも悪いと思いまして、なので今日は私がやって来たという訳です!」

 

「...一応お聞きしますが、ここへ来た理由は?」

 

「勿論勝負に決まってますわ!ここ数日、新たに手法を学びより洗練された紅茶を淹れられる様になったのです、これを試さずにはいられません!」

 

「は、はぁ成る程、ですが流石にここでの勝負はちょっと...」

 

うんうんと目を瞑り頭を悩ませている様子の朝宮さん、ですが私の押しに負けたのかため息をつきました。

 

「仕方ありません、勝負は出来ませんが折角ここまで来ていただいた以上帰すのも申し訳ないですしね。どうぞお入りください、ちょうど今宇治さん達にお茶を淹れていた所だったので良ければ本山さんもどうぞ」

 

「まあ、タイミングバッチリですわね!では是非ご相伴にあずからせていただきます」

 

彼女に迎えられるまま茶室へと足を踏み入れた私、その日は残念ながら勝負する事は叶いませんでしたが、朝宮さんや他の方々とご一緒にお茶や紅茶を飲み、陽が傾くまで茶談義を繰り広げたのでした。

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