皆が寝静まり、虫の音が微かに聞こえる時間帯...私は寮の自室にて静かに窓の外を眺めていました。
「......そういえば、そろそろ十五夜ですね」
視線の先に浮かぶ月を見ていた私の口からそんな独り言がふと溢れます。
実は毎年この時期になると私はお祝いをしていました...といってもそこまで大袈裟なものではなく、ただ単に満月を見てお茶の味に浸るという簡単なものですが。
去年は確かお店で買ってきたお団子と淹れたお茶を一人味わいながらこの部屋で過ごしていましたっけ。
「さて、今年はどうしましょうか...」
当然今年も十五夜を楽しむ予定ではあるのですが....どうにも去年のように一人で過ごす気にはなれませんでした、以前までの私であればその様に気にする事は無かったでしょう。
(...きっと、彼女達と過ごす様になったからですかね)
私はそんな事を考えながらカーテンを閉め、その日はベッドに身体を沈めたのでした。
そして翌日、いつもの様に茶室で彼女達と共にお茶を淹れている最中の事
「皆さん、少々相談があるのですがよろしいですか?」
私は彼女達の手が止まるのを確認してからそう話を切り出しました。
「は、はい大丈夫ですけど..」
「何か問題でもあったの?」
「ならあたしに任せてください!姐御の為なら一肌でも二肌でも脱ぎますよ!」
「い、いえそこまで気合を入れる事ではないので安心してください。正確には相談というか提案なんです」
こちらの発言に首を傾げている三人を前に私は言葉を続けます。
「実はですね、今度の十五夜の日にお月見をしようかなと考えていまして」
「お月見ですか?」
「はい、それでその...もしよろしければ皆さんもご一緒にどうかなと思いまして。あぁ勿論無理にとは言いませんので.....どう、でしょうか?」
恐る恐るそう尋ねながら宇治さん達の様子を伺ってみると
「お月見...楽しそうです!やりましょう!」
「今までやった事無かったんであたしも楽しみです!」
「お月見って団子を沢山食べられるの?」
「え、ええまあ用意する予定ですが」
「じゃあやる....あと私も楽しみだから」
そう全員が私の提案に賛成してくれました。
「皆さん...ありがとうございます」
「それなら色々と準備しないとですね、十五夜まではあまり時間もありませんし」
「団子も沢山買わないと」
「夜中に見るなら一応外出許可?みたいなの取る必要ありましたっけ?」
私は三人の反応にどこか安心して思わず笑みが溢れてしまいましたが、彼女達の言葉でハッとし頭を切り替えます。
「そうですね、すっかりその事を忘れてしまっていました....では早速取り掛かるとしましょうか」
こうして私達はお月見の準備を始める事となったのでした。
「何?夜中の外出許可?」
「はい、どうしてもその日は夜中に集まりたい用事がありまして」
まず始めに私が向かったのはゲヘナ学生寮の寮長さんの元。
折角なら夜空を綺麗に見上げられる外の広場でやろうと決まったまでは良かったのですが、それにはまず夜間に寮の外を出歩く許可が必要との事で二年生寮には私が、一年生寮の方は宇治さん達に任せる運びになったのです。
「わかった、ただし火器の類は使用しないようにしてくれ。こちらとしても後で風紀委員から小言を貰うのは嫌だからな」
「そこについては問題ありませんのでご安心ください、お時間いただきありがとうございました」
そして寮長さんから許可を取り終え帰る途中、私の携帯に宇治さん達からのモモモークが届きました。
そこに書かれていたのは無事彼女達の方も許可を取れたという報告、ひとまずこれで最初の準備は完了でしょう。
そうなると次に用意すべきはお団子です。
丁度この時期になるとお店の方に様々な品が売られ始めるのは確認済みなので、お月見の提案から数日経った十五夜当日のお昼に皆さんと郊外へ出向く事に。
「とは言え色々あって意外と悩みますね」
早速お店に入り目当てのお団子コーナーを見つけたまではよかったのですが、形や大きさ、数など種類があり過ぎて逆に悩まされてしまいます。
(四人なので少ないのは困りますね...それに狭山さんは沢山食べそうですし...)
「あ、先輩これどうですか?」
私がそんな風に考え込んでいた中、隣から聞こえてきた宇治さんの声につられそちらを見てみると、彼女の手には可愛らしいカラフルなお団子のパックが握られていました。
「これなら数もありますし、可愛いと思いまして...」
「ふむ...中々色鮮やかで綺麗ですね、良いかもしれません」
「サエ、これにしよう」
私が彼女の持つお団子を見ていると、不意に狭山さんに後ろから袖を引っ張られました。
「狭山さんも何か良いのが見つかったのですか?」
「うん、はいこれ」
そう言って狭山さんはどこか自信満々な様子でこちらに手渡してきます。
私は彼女から差し出されたものを受け取りチラッと見てみると
「......えっと、これは少々大きすぎるのでは?」
「大丈夫、食べられるよ」
それは予想以上に巨大な一つのお団子がパックに包まれているという商品でした。
表面には”期間限定!ペロロ団子BIGバージョン”というシールが貼られており、どうやらお団子自体がモモフレンズのペロロを模した形をしているみたいです。
しかもその大きさは両手でギリギリ覆えるくらいあり、これだけでお腹いっぱいになってしまうでしょう。
「姐...朝宮先輩!これなんてどうですか?」
私が手渡されたお団子に困惑していると今度は川根さんがこちらに駆け寄ってきました。
「これは....」
そんな彼女が目をキラキラとさせながら持ってきたのは″ロシアンルーレット団子″、しかも”当たり”は一つでは無いらしくよく見てみると中には煉乳イカ飯味、クリームなまこ味、など明らかに怪しいものまで含まれている様です。
「ず、随分と個性的なお団子ですね」
「なんか面白そうだったんでつい!」
「成る程....」
(これは果たして食べても大丈夫なものなのでしょうか...?いえ、商品として売られている以上平気ではあると思うのですが...)
少々悩みましたが色々と考えた結果、『折角の機会だから』という事で宇治さんの選んだカラフルなお団子、狭山さんの選んだ巨大なお団子、川根さんの選んだ様々な味のお団子全てを購入する事になり、残るは月が出るのを待つのみとなったのでした。
それから時間も幾許か経ち迎えた夜中、私はひと足先に寮を出て三人のいる一年生寮前までやって来ていました。
着物の隙間から入り込む風の冷たさから改めて季節が移り変わっているのを感じつつ、彼女達が出てくるのを静かに待ちます。
やがて待つこと数分、寮の入り口から宇治さん達が出てくる姿が見えました。
皆さん夜中というのもあり制服ではなく軽く外へ出られる様な私服を身に纏っているようです。
「すみません!お待たせしてしまって....」
「大丈夫ですよ、私の方こそこんな時間に集まっていただきありがとうございます」
「それこそ気にしないでくださいよ!あたし達が参加したいって言ったんですから」
「サエ、今日買った団子ある?」
「ええ、勿論忘れていませんよ。それに、こちらの用意も抜かりありません」
私は袋に入った皆さんのお団子と、鞄に入れてきた保温ポットと紙コップを三人に見せました。
ポットの中身は勿論温かいお茶です、寮を出る前に淹れたものでいつもとは違いますがこういうのもたまには悪くないでしょう。
そうして無事合流し終えた私達は、早速以前万魔殿によって行われた花火大会の広場へと向かいました。
あの時は大勢の生徒達で賑わっていた場所も今はここにいる私達四人のみ、その静けさになんとなく不思議な感覚が浮かんできます。
「あっ、見てください....!」
そんな事を考えていた時、丁度広場へ着いたタイミングでそう声を発した宇治さんにつられて顔を上げた瞬間....
私達の視界に大きな満月が映りました。
先程まで微かに雲が重なりぼやけてしまっていた月の輪郭も今ではその形を堂々と私達へ曝け出しており、おまけに月の周りには沢山の星が視界いっぱいに輝きそれにより美しい星空が広がっています。
「凄ぇ...」
「.....」
川根さんと狭山さんもその月の美しさに夢中になっているようです。
「これまでやってきたお月見の中で、これ程までの月は見たことありませんでした...本当に綺麗ですね」
私も目の前の月の魅力にすっかり惹きつけられていたのですが、そんな中不意に携帯が小さく震えるのがわかりました。
何かと思い袖から携帯を取り出し見てみると、画面に映ったのはモモトークの通知。
「おや、本山さん...?」
しかもその相手は本山さんでした、どうやら彼女は何か画像を送ってきたみたいです。
少し気になり彼女とのモモトークを開くと、そこには大きな月をバックに屋上らしき場所で紅茶を飲んでいる本山さんの手が写った写真が添付されていました。
『今夜は見事な満月でしたので、素晴らしい月の元紅茶を楽しんでますわ』という文章も追加で載せられています。
「ふふ、彼女もこの月を楽しんでいるみたいですね」
私はそんな彼女の連絡に、こちらも丁度今宇治さん達とお月見をしている旨を返信しようと文字を打ったのですが、それから少しもしないうちに再度携帯に通知が届きました。
しかも今度はモモトークではなく彼女からの直接の電話、その事に驚きつつも電話に出てみると
『朝宮さん!何故私に言ってくれなかったのですか!』
「え、な、何がでしょう...」
その瞬間突然本山さんの大きな声が聞こえてきました。
『お月見をやる事に決まってますわ!そんな楽しそうな事を勝手に計画していただなんて...言ってくだされば私も今日そちらに向かいましたのに』
「い、いえ、こんな遅くにトリニティからこちらに来るのは流石に問題があると思うのですが...許可をとるのも難しいでしょうし」
『あら、そこに関しては大丈夫ですわ。そんな面倒な事はやらずに勝手に向かえばいいだけですもの』
「いや駄目ですからね!?」
本山さんの言葉に思わず私はそうツッコんでしまいました....やはり彼女はどこか堂々としすぎている部分があるようです、もしかすると今も屋上にいるのも勝手にやっている事なのかもしれません。
「サエ、そろそろ食べてもいい?」
「ああすみませんつい話すのに集中してしまいまして...お二人もどうぞ、お茶も用意してるので早速お月見を始めましょうか」
「「はい!」」
私は袋のお団子を取り出しつつ彼女達にそう話しながら、ふとある事を思いつき本山さんにも声をかけました。
「本山さん、もしよかったら今からご一緒にお月見を楽しみませんか?場所は離れていても、今この月を見ているという事実は変わらないですし」
『...うふふ、まあ実際にお会いできないのは残念ですが、今日はその提案を呑むことにしましょう。それに、一人で紅茶を飲み続けるのもなんだか違うような気がしていた所でしたので』
本山さんは私の提案にどこか声を弾ませてそう答えます。
「先輩、どうぞ」
丁度そのタイミングで宇治さんが私の分のお団子を取り分けて手渡してくれました。
それを受け取った私は、彼女達と電話越しの本山さんを含めた四人と共に、どこか賑やかなお月見を開始したのでした。