誤字報告ありがとうございます。
執筆時間が取れないのもそうですが、投稿頻度が遅くなる原因の一つとして今回の様に文章量が想定より多くなってしまうというのもあるかもしれません。
最近は文章量が無駄に多い事が続いているので、次回からは読みやすくする為に何とか以前の様に短く抑えられるよう頑張っていきたいです。
(それでも長くなってしまった場合は申し訳ありません)
薄暗い室内を照らすのはテレビの画面から漏れ出ている淡い光....スピーカーからは大音量で歌のイントロが流れ始めており、そんな部屋の中で音を背にマイクを握る影が一人.....つまり私のことです。
現在私の目の前には三人の姿がありました。
一人は楽しそうな笑顔を浮かべてこちらに携帯を向けている夜桜さん。
もう一人は彼女の隣に座り手拍子をしている旗見さん。
そして最後の一人はどこか恥ずかしそうに羽を縮こませながらも、二人につられてタンバリンを小さく動かしている空崎さん。
一体何故こうなったのか、それはほんの少し前の事....
その日は普段と特に変わりのない休日でした。
「さて、今日はどうしましょうかね...」
寮を出た私はいつも通り部室棟を目指し歩いていたのですが....半分程歩いた所でふと目の前に見覚えのある人物が立っている事に気がついたのです。
「あれは...空崎さん?」
その人物はなんと風紀委員長の空崎さん。
風紀委員会はその職務上常に活動しているイメージが強く、特に学園内外問わず問題の起きやすいゲヘナというのもありここでは動かない日の方が珍しいくらいです。
以前にも他の風紀委員の方々が休日も忙しなく動いている姿を見かけたことがあるのですが、今の彼女からはどうにもそういった雰囲気は伝わって来ず、むしろどこかリラックスしている様にも感じられます。
「空崎さん、おはようございます」
「っ!....ああ、貴方だったのね。おはよう」
そんな彼女の様子が気になった私はゆっくりと近づき声をかけてみると、どこか考え事をしていたらしき空崎さんは顔を上げ少しだけ驚いた表情を浮かべながらこちらに挨拶を返してくれました。
「ここで会うだなんて思わなかったわ、貴方はこれからあの茶室に?」
「はい、丁度部室棟に向かう所でして....それより空崎さんはここで何を?風紀委員のお仕事はお休みですか?」
「そうね、今日は本当に珍しくやる事が無い日だったの。一応追加の書類や問題生徒の通報も届く可能性もあるのだけれど...アコが今日は自分達が引き受けるから休んで欲しいって聞かなくて」
「そうでしたか、ではここに立ってたと言うことはこれからどこかお出かけの予定でも?」
「......まあそんな所ね」
空崎さんはそう答えますが、どこか歯切れが悪い様な...誤魔化す様な態度に少々不思議に思っていると
「あ、いたいたー!はろはろ〜ヒナっち〜!」
突然背後から元気な声と共に誰かが駆け寄ってくる音が聞こえてきました。
しかも明らかに空崎さんの事を指しているであろうあだ名につられて私は思わず振り返ると
「お待たせ〜!...あれ?サエっちじゃん!はろはろ〜!」
「本当だ、お茶の子もおはよう」
「は、はい、おはようございます.....えっと、お二人は空崎さんに何かご用でも?」
そこには見事な笑顔を浮かべながらこちらにも挨拶をする夜桜さんと、彼女の立ちながら小さく手を振っている旗見さんが立っていました。
いきなり呼ばれたあだ名に困惑してしまいましたが、”お待たせ”という言葉からどうやら彼女達は空崎さんと待ち合わせをしていたようです。
その事を尋ねてみると
「そうそう!これからヒナっちとカラオケ行くんだよね〜、まじ楽しみ!」
「あはは、昨日くらいからキララちゃんずっとこんな感じでさ。まあ楽しみだったのは私も同じだけどね」
「成る程、カラオケですか....」
空崎さんがカラオケ...正直彼女が歌う所に興味が無いかと言われれば思い切り嘘になります。
「...私は遠慮したのだけれど、彼女達が譲らなくて....」
「えー?ヒナっちあの時凄く嬉しそうにしてたじゃん、恥ずかしがらなくていいって!」
空崎さんは目を逸らしながらそう言いますが、本気で否定はしない辺り夜桜さんの言う通り内心ではとても楽しみにしていたのでしょう。
よく見ると背中の羽が小さく揺れているのがわかります。
「わかりました、そういことでしたら私はそろそろ行きますね。是非楽しんできてください」
折角の空崎さんの休日、それもお二人との楽しい時間をこれ以上ここで引き止めて削る訳にはいきません。
私はそう三人に伝え茶室へと向かおうと歩き出しました。
.....が、
「あ、待って待って!」
不意にこの場から去ろうとした私の肩に夜桜さんの手が置かれました。
何か言い忘れた事でもあったのでしょうか、そんな事を考えつつ振り返ると夜桜さんはニコニコと笑顔になりながら口を開き
「折角だし、サエっちも一緒に来ない?」
「......え?」
そう思いがけない事を告げました。
「カラオケだし人数いた方が盛り上がるじゃん?それにサエっちとも仲良くなりたいし!」
「いいね、私はキララちゃんに賛成」
「い、いえ、その....元々三人での予定でしたしそこに私が急遽入るというのもご迷惑でしょうし...」
「全然迷惑なんて思わないよ〜むしろ大歓迎!」
「そ、それにあまり歌は得意ではないので、皆さんの期待に応えられるかどうか...」
「あはは!サエっち真剣に考えすぎだって。カラオケは上手でも下手でも楽しく歌えればそれでOKなんだから」
何か話すたびに夜桜さんは全肯定してくるので退路がどんどん塞がれてしまいます。
ど、どうしましょう....私はそこでこちらのやりとりを静かに見ていた空崎さんに助けを求める意味も込めて目を向けると、私の視線に気がついた空崎さんは一瞬考え込み
「....いいんじゃないかしら、私も別に気にならないし」
「そ、空崎さん!?」
まさか、一人で歌うのは恥ずかしいからと私を巻き込むつもりですか!?
「あ、あの、でも私は....」
「じゃあそろそろ行こうか」
「よし!じゃあさっそくレッツゴー!」
「あっ!か、肩を押さないでください!わかりました!自分で歩きますから....!」
そして、それから一時間ほど歩いた頃。
「いいじゃん!めっちゃ広い!」
「パーティールーム予約して丁度良かったね」
(け、結局着いてきてしまいました...)
現在私は彼女達が予約していたカラオケ店のある一室の前で佇んでいました。
部屋の中は予想以上に広く、私達四人でも有り余る程の大きさです。
「ほらほら二人とも、入って入って!」
「好きな所座っていいよ」
「は、はい」
「ええ...」
恥ずかしながら生まれてこの方カラオケに入店した事が無かった私は夜桜さん達に招かれるまま恐る恐る部屋の中へと足を踏み入れました。
隣に立っていた空崎さんも私と同じ気持ちだったのか普段と違ってどこか緊張した様子が伝わってきます。
「とりあえず何か頼む?朝ごはんあんまり食べてなかったし、私はフルーツパンケーキで」
部屋に入り席に座ると同時に旗見さんがメニューを開きながら尋ねてきました。
「あたしはパフェにしようかな〜。あ、二人も食べたいのあったら頼んでいいからね」
「えっと、では玄米茶のホットで...」
「私はアイスコーヒーにするわ」
「二人とも飲み物だけ?ここのスイーツ結構美味しくて有名だよ?」
「ならあたしが頼んだやつシェアしようよ!結構大きいから丁度いいし」
「確かにキララちゃんの言う通りかも、なら私の奴もそうしようかな」
そうして部屋の中に備え付けられていた端末で着々と注文を済ませた後
「よし、注文も出来たし早速歌っちゃおうか!」
夜桜さんがパンッと手を叩きそう告げました。
(ついにきましたかこの時が...)
私はひっそりと緊張から手を握っていましたが、その間も夜桜さん達は端末のパネルを操作していきます。
どうやらあれで歌う曲を入力しているようです。
「ほい、ヒナっちの番!」
曲を決め終わったお二人は空崎さんに端末を渡すと、彼女は少しの間悩む素ぶりを見せながらもゆっくりと操作していきます。
それから順に端末を受け取った私でしたが....
(まずいです、全然思いつきません...)
自分が一体何を歌えばいいのかで思い切り頭を悩ませていました、音楽自体それ程聞かないというのもあり、最近の流行りの曲などは全く知らないのです。
(くっ...こういう時のために少し勉強しておくべきでした...)
「すみません、私は後で....皆さんが歌っている間に何とか考えますので...」
「オッケー、じゃああたしが一番手って事で....はーっ、歌うの久しぶり!」
「はい、二人とも」
「え?」
夜桜さんがピョンッと席を立ちマイクを握った瞬間スピーカーからは可愛らしい曲のイントロが流れ出し、そのタイミングで私と空崎さんが旗見さんからそれぞれマラカスとタンバリンを受け取ると同時にテレビの前に立った夜桜さんは身体を揺らしながら歌い始めました。
「〜♪」
「いいよーキララちゃん」
「こ、こうかしら」
彼女の歌に合わせて旗見さんが合いの手を入れていき、私達もマラカスとタンバリンでそれに加わっていきます。
...初めは勝手がわからずなんとなくで合いの手をしていた私でしたが、この場の雰囲気もあってか徐々にリズムを合わせることにも慣れ、彼女の歌が終わる頃には早くも身体が自然と動くようになっていました。
どうやら空崎さんの方も照れながらですが見事にタンバリンを叩き終える事ができたようです。
「ふぅ、見られながらだと緊張するね〜」
「めっちゃいい感じだったよ、じゃあ次は私かな」
続いての手番は旗見さん。
マイクを受け取り目を瞑りながら歌う彼女によって、先程とは違うどこか静かながら力強い歌声が室内に響く中
パシャパシャパシャパシャ!!!
引き続きマラカスを振っていた私の横から勢いよくシャッター音が聞こえていました。
「うわっ、よ、夜桜さんどうしたんですか!?」
「え?ただエリカちゃんの一番映える瞬間を残そうって思って」
「それにしては撮りすぎでは....」
「サエっち甘い甘い、それだと映えの瞬間はすぐ逃げちゃうんだから」
「は、はぁ成る程...」
彼女はそう言って合いの手を入れながら再び写真を撮る作業を続行します。
...その速さは尋常ではなく、絶対に一番映える瞬間を逃すまいという気概を感じさせてくれますね....
「うん、まあこんな所かな」
「エリカちゃんマジ最高だった!」
「はい、重みのある良い歌声でした」
「とても良かったと思うわ」
「あはは、みんなありがと。....それじゃあ次は風紀委員長の番だね」
やがてマイクを口元から離した旗見さんは、一息つくと空崎さんへそれを手渡しました。
「空崎さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、元々彼女達の誘いに乗ったのは私だし、それに...私を楽しませようと色々と準備してくれていたのに、応えない訳にはいかないわ」
彼女はそう告げて旗見さんからマイクを受け取ると、静かに深呼吸をし口を開きました。
「────っ、」
それから聞こえてきたのは、小さく、でも真っ直ぐ透き通る様な声。
「〜〜♪」
「わぁ、ヒナっち上手!」
「うん、綺麗な声だね」
(おお、初めて彼女が歌っている所を見ましたが....これは中々...)
彼女の声に私は思わず無言になってしまいましたが、それはお二人も同じだった様で、彼女達も合いの手を忘れ夢中になって空崎さんの歌声を聞き入っているようです。
「ふぅ....どうかし...っ!」
「ヒナっち〜!!!すっっっごい!マジ可愛かったよ〜!」
やがて歌い終えた空崎さんは頬を染めながらこちらに問いかけようとしましたが、そんな彼女に向かってテンションが最高潮になったらしき夜桜さんがまるでロケットのように勢いよく飛び出していきました。
「あーキララちゃんって小さくて可愛い子好きだからね、よく考えたら風紀委員長ってキララちゃんの好みにハマってるのかも」
旗見さんはそう言いながらいきなりの事に困惑し目を回している彼女を見て苦笑いを浮かべています。
「それにしても空崎さん、先程は完璧に歌えていましたが、歌はよく聞かれるんですか?」
「別にそういう訳じゃ無いのだけど....前にイオリ達が話していたのを聞いて、軽く調べてた程度よ」
空崎さんがそう話す中、やがて満足したのか彼女を解放した夜桜さんは
「う〜ん!やっぱみんなで遊ぶカラオケ最高!どう?サエっちも歌う曲思いついた?」
「え、あ...」
満面の笑みで私にそう尋ねてきました。
が、すっかり皆さんの歌を聴く事に集中していた為肝心の歌については全く考えられておらず、焦った私は慌ててパネルを操作し何とか歌えそうな曲を探していきます。
「まあ別に歌わなきゃいけないって訳じゃないから安心していいよ、私達も他の子と一緒に盛り上がるのが目的な所あるし」
「うんうん、それが醍醐味だよね」
旗見さんと夜桜さんはそう言ってくれていますが、ここまで三人が歌って自分だけが歌わずにいるというのも少し思うところがあります....。
(何か、何か私でも出来そうな.....あっ)
そして悩み抜いた末に私はある事を思いついたのです。
「サエっち?」
「.....」
無言でパネルを操作し曲を入れ終えると、マイクを手に持った私は静かにテレビの前に立ちました。
目の前にはわくわくしながら携帯を掲げる夜桜さんに、手拍子をする旗見さん、タンバリンを小さく鳴らす空崎さんが座っているのがわかります。
曲が流れ始めたのを確認した私は、彼女達を見据えながら息を深く吸い込み
「....やなぎーの、ねにおりるー、すーずむしよー」
「おーつきさまーの、ひーをあびてー」
ゆっくりと、その歌詞を口ずさみ始めました。
それはずっと昔、私がまだ幼かった頃に口ずさんでいたもの....特に物珍しさは無い、子供の頃の童謡。
「りーん、りんりーんと、きーこえればー」
「こーかげのーなーかーで、うーたいましょー」
目を瞑り、かつての記憶を思い返しながら音を歌詞にのせ歌い続けます。
「「...おーやまにあーめーが、ざーあざあとー」」
気づけば私の声に重なる様に夜桜さんの声も聞こえ始め
「「「「かーぜのこ、いーっしょに、おーどりましょ」」」」
終盤になる頃には全員で歌を懐かしむ様に歌を紡いでいたのでした。
そして背後から流れる音楽も鳴り止み室内に静寂が訪れると
「サエっちもやるじゃん〜!」
「わわっ...!」
先程の空崎さんの様に夜桜さんが私に抱きついてきました。
「そこまで褒められる様な事は...皆さんと違って私が歌ったのは子供の頃の童謡ですし....」
「そんな謙遜しなくても大丈夫だって!それにさっきも言ったじゃん?カラオケは皆で楽しむのが醍醐味だって。あたしも一緒に歌って楽しかったしバッチリっしょ!」
「そうなのでしょうか。あ、あと夜桜さん、そろそろ緩めていただけると....少し苦しいです...」
「あ、ごめんごめん!つい」
「お待たせいたしました〜、ご注文のミックスフルーツパンケーキとBIGストロベリーパフェ、アイスコーヒーに玄米茶です〜」
そんなやり取りの最中、まさに良いタイミングで最初に頼んでいた品が運ばれてきました。
「あ、すっかり忘れちゃってたね」
「丁度いいし一回休憩にしよっか。.....ふふ、みんなで美味しいものを食べるのも”青春”でしょ!」
それからも彼女達との時間は続き
「ん〜!めっちゃ美味しい!はい、ヒナっちあーん」
「こっちも美味しいよ、はいどうぞ」
「べ、別に自分で食べられるから...!」
「.....とまあそんな感じで色々と種類があるのですよ」
「サエっちって本当に色んなお茶に詳しいんだね〜、お茶って少し苦いイメージがあるけどそうじゃないのもあるの?」
「私も彼女から定期的にお茶をもらうのだけれど、どれも美味しく飲ませて貰っているわ」
「へ〜、あ、ねえねえ!なら今度サエっちの所に遊びに行ってもいい?」
「いいね、私も行ってみたいかな」
「ええ、勿論構いませんよ。いつでもお待ちしてます」
「ラ〜ラララ〜〜♪」
「ひゅー!いいよいいよ〜完璧すぎ!ね、ね!次これ一緒に歌わない?」
「わ、わかったわ。上手く出来るかはわからないけれど...」
「じゃあその次は私とこれ歌おうよ、勿論お茶の子も一緒にね」
「ならみんなで歌える奴も入れちゃおっか。え〜っと、どれかいいのないかな〜」
どれほど歌ったり、食べたり、話したりしていたでしょうか。
楽しい時間が過ぎるのはあっという間で、すでに時刻は夕方ごろを指し示していました。
「はぁ〜〜〜歌ったね〜!こんなに長い時間カラオケしたのは初めてかも」
「そうだね、でも凄く楽しかったな」
グッと背中を伸ばす夜桜さんに、今日のことをしみじみと振り返っている旗見さん、彼女達についていきながら私はゲヘナ学園までの帰路についていました。
「二人とも、今日はありがとう...とても楽しい休日だったわ」
「本当?ふふ、ヒナっちにそう思って貰えたならあたしも嬉しい!」
「私の方も本日はありがとうございました」
「サエっちも楽しんで貰えたみたいで良かった。...本当はちょっぴり心配だったんだよね、今朝だってほとんど無理矢理誘って連れて来ちゃったみたいな感じだったから」
「まあ確かに今朝は驚きましたが....安心してください、今は来て良かったと心から思ってますので」
私がそう言うと夜桜さんは嬉しそうに笑い、そんな彼女を見て旗見さんも一緒に微笑んでいました。
それから暫く和やかに話をしていると
「あ、忘れる所だった!」
不意に夜桜さんがそう呟き、携帯を取り出しました。
「写真、みんなで撮ろ!」
「写真ですか?」
「そうそう!ほら並んで並んで」
夜桜さんに言われるがまま私達四人は邪魔にならないよう道の端に並び、彼女の携帯のレンズを見つめます。
「ヒナっちもう少し寄って〜、サエっちもピースピース!....うん、いい感じ!じゃ、撮るよ〜」
そして彼女の合図と同時に撮影ボタンが押され...
パシャッ
一つの思い出が記録された音が静かに響いたのでした。