久々の休日の昼下がり、私は部室棟を目指し1人歩いていた。
以前友人の茶室を訪れると約束したは良いものの、あれから中々予定が合わずようやく時間のとれた今日彼女の元へ遊びに行けるようになった。
私は目的の部屋の扉を開き、その奥の襖越しに声をかける。
「サエ、いる?」
「フウカさんですか、どうぞ入ってください」
私の耳に聞き慣れた声が聞こえてくる。
襖を開けると右奥には着物姿で正座をする友人の姿があった。
「相変わらず綺麗な部屋ね」
「茶室を綺麗に保つのは基本ですから」
私は隅々まで掃除が行き届いた茶室を見渡しながら彼女の対面に座る。
「早速飲まれますか?」
「うん、お願いしてもいい?」
「勿論です、では少々お待ちを」
サエはそう言って真ん中の茶釜に水を入れ始める。
この茶室に訪ねてまず最初にするのは、彼女手ずから淹れたお茶を飲む事だ。
湯呑みに淹れるまでの彼女の洗練された仕草は何度見ても飽きる事はない。
やがて私の元へと運ばれた湯呑みを丁寧に受け取ると、ゆっくりとその中身を口の中へと流し込んでいく。
ここまでの道のりは別に大したものではないが、それでも彼女の淹れた程よいお茶の味に何となく疲れがとれる様な感覚を覚えた。
お茶を味わいながら飲んでいると、ふと前から視線を感じた。
勿論ここには私とサエの2人だけしかいないので、必然的に視線の正体は彼女になるのだが、彼女は何故かチラチラとこちらの様子を窺う動きをしている。
...まさかあれでバレていないと思っているのだろうか。
彼女が私の様子を窺っている理由も何となくだが理解した私はついため息を吐いてしまった。
「大丈夫、この前サエに言われてからちゃんと自分の体調には気をつけてるから」
私の言葉に驚いたサエは、盗み見していたのがバレた事にバツの悪そうな顔をしながら頬をかいていた。
流石に忠告を無視してあれ以上彼女を心配させる訳にもいかない、だから今ではしっかりと休める時は休むよう自分の身体に気を遣っている。
勿論それでも食堂の忙しさは変わらないし、後輩として入部して来たジュリの教育も今では担当している為、これ以上の改善は今のところ望めないのだが。
「ところで、さっきから気になってたんだけど...何か良いことでもあった?」
ここへ来た時から妙に機嫌の良かったサエ、普段の彼女の様子を知る私から見ても余程の事があったのは間違いない。
「実は...今度この同好会に後輩が入ってくる予定なんですよ」
「え、本当!?」
私はつい大きな声を出してしまった。
彼女とは1年の頃からの付き合いのため、その間彼女の同好会に他の人が入ったなんて話は聞かなかったし、そんな事実に彼女が1人寂しそうにしていたのも知っていた。
「良かったじゃない!」
「ふふっ、まあいつかは来るとは思ってましたけどね」
サエはそう言い自信満々な顔で腕を組むと、いたって当然の事だと言わんばかりに振る舞い始めた。
嬉しさが隠しきれていないそんな彼女の姿に、私は何だか微笑ましさを感じてしまい笑みが溢れた。
それからもサエとの話は弾み、すっかり時間を忘れて過ごしていた時だった。
「あれ、誰かこの部屋に来るわよ。さっき言ってた後輩さん?」
「いえ、その筈は....」
私とサエは不思議そうにしながら徐々にこちらへ近づいてくる足音に耳をすます。
やがてその足音は部屋の前で止まり、そのまま中へと入ってくると勢いよく目の前の襖が開かれた。
「あら、まさかフウカさんまでいらっしゃるなんて、運が良いですわね♪」
そこに立っていたのは、サエとは別の意味で付き合いの長い少女達の姿....あの赤い髪の子は確かハルナの所に新しく入った1年の子の筈だ。
「実はジュンコさんの入部祝いがまだできていなくて、折角ならふさわしい料理を味わいたいと思い色々と候補を考えていたんです」
「ですがどれもあまりしっくりきません...そこで、私達にいつも協力してくれるお二人の力を是非お借りしたいと思い参った次第ですわ」
「ハルナ、一応言っておくけど私は今日休みだからね」
「ひとまず最初はフウカさんにとっておきの料理を作って頂こうと食堂を訪ねたのですが姿が無かったもので...であれば料理に合うお茶をサエさんにお願いしようとこちらに来てみれば、フウカさんまでいたのでラッキーでしたわ♪」
駄目だ、こちらの話を全く聞こうとしない。
私は相変わらずのハルナについ頬がひきつってしまう。
「まさに一石二鳥...これもジュンコさんの為、お二人には今から一緒に来て頂きましょう」
「さあ、あんまり動かないでくださいねー?」
「これから美味しいもの作ってくれるんでしょ!?」
そう言ってハルナや後ろに待機していたアカリとイズミ達は縄をもってこちらへ近づいてくる。
「....私の休日...」
私はそう一言だけ呟くと、そのまま考える事を放棄した。