ゲヘナに漂うお茶の味   作:Mrふんどし

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尾行の末に

ゲヘナ郊外のとある街中に、一人の少女の姿があった。

 

夜会巻きに纏めた深緑色の髪に薄緑色の着物を身につけた彼女が歩くたびに、周りにはカラカラと小さく下駄の音が響き渡っている。

 

その少女...朝宮サエは時折り携帯を見ながらシズクとの待ち合わせ場所を目指し歩を進めていたのだが、その事に夢中になっていた為か彼女は気づいていなかったのだ。

自身を見つめる″三人″の視線に....

 

 

「........」

 

「......」

 

「.......」

 

サエが移動するたびに電柱や建物の影に身を潜め、一定の距離を保ちながら彼女の後をつけていく少女達。

 

「あの、アサリさん、キョウカさん」

 

「....何、ミオちゃん」

 

そのうちの一人、川根ミオがサングラス越しに二人を覗き込みながら小声で声をかけた。

 

「あたし達本当にこんな事してて大丈夫なんですかね?...明らかに怪しいというか....」

 

「ミオ、問題ないよ。ちゃんと周りに溶け込めてるから」

 

「いや流石に無理がありません!?さっきから他の通行人に見られちゃってますし...それにやっぱり尾行なんて良くないんじゃ...」

 

彼女が言う通り全員が黒いサングラスにコートを羽織り、物陰から一人の少女を見つめる姿は側から見れば怪しい事この上ない。

おまけにキョウカに至っては口におもちゃのパイプを咥えており、余計にその怪しさに磨きがかかってしまっている。

 

「大丈夫、これはただの確認だから...先輩が怪しい人に騙されてないかの」

 

彼女達が何故こんな尾行をしているのか、それは数日前の事。

 

 

 

 

「今度のお休み、一緒に先輩の様子を見に行って欲しいの」

 

「え?」

 

「?」

 

ある日、アサリからモモトークの連絡が入り彼女の寮室に招かれたキョウカとミオ。

お菓子を食べながら雑談に興じていた彼女達だったが、暫くして真剣な表情をしたアサリからそんな言葉が飛び出し、二人は思わず首を傾げてしまった。

 

「つまり姐御を尾行するって事ですか!?」

 

「ち、違うよ!別に尾行とか大袈裟なものじゃなくて、ただその...先輩が当日何してるのか確認するだけだから!」

 

「アサリ、それは尾行だと思う」

 

「....もしかしてあの時姐御が言ってた事がきっかけです?」

 

「え、いや、その...」

 

ミオの指摘に目を泳がせるアサリ。

何とか言い訳を考えようとする彼女だったが、残念ながら見事に図星だった為誤魔化すことも出来ず素直に白状し始める。

 

「だ、だって二人も気になるでしょ?先輩の″デート″のお相手が!」

 

――――――――――――――――――――

『そうですね....実はデートの約束についての連絡だったんです』

 

『ええ、次のお休みの日にお誘いを貰いまして。なので今度お出かけに行く場所と時間を決めていたんです』

――――――――――――――――――――

 

あの日、サエが別れ際にさらっと言い放ったその言葉の衝撃は凄まじいものだった。

....サエ本人はただの冗談のつもりで話していただけなのだが、それを三人は知る由もない。

 

「確かにあたしも気にはなりまするけど...」

 

「あのいつも真面目な先輩がだよ?そんな素振り全然見えなかったのに、突然そんな事を言い出すなんて少し変だと思わない?もしかすると変な人に騙されてる可能性も.....」

 

「うーん、姐御にいたってそんな事はない気がするんですが...」

 

「ミオちゃん、恋は盲目って言葉があるんだよ。普段真面目な人ほどそういった事にハマると見抜けなくなるものなの」

 

「は、はあ...」

 

アサリの勢いに押されてつい言葉が詰まってしまうミオに、二人の会話を聞きながら黙々とお菓子を頬張っていくキョウカ。

 

「だからお願い!一緒に手伝って!」

 

二人を見ながら改めてアサリは口にしながら頭を下げる。

そんな彼女の姿にミオとキョウカは互いに顔を見合わせるのだった。

 

 

 

 

「あ、誰かいる...か、隠れて!」

 

尾行を続け三十分が経過した頃、突然サエの目の前に何者かが立っているのを目撃した三人は慌てて建物の壁に身を隠し、頭だけ覗かせた状態で様子を窺う。

 

そこにいたのは目元にサングラスをかけ、口元には顔半分を隠す黒マスク、更に全身を深く覆う黒いコートを羽織った謎の少女だった。

いかにもな雰囲気を纏う彼女に対し、サエはどこか呆れた様子で声をかけている様にも見える。

 

「あの人怪しい所しかないじゃないですか...!絶対騙されちゃってますよ!」

 

「確かに怪しい」

 

「怪しさでいったら今のあたし達も同じ様な気はしますけど....ん?でもアレって最近知り合ったトリニティの子に似てません?」

 

「え?」

 

謎の人物の登場に一気に警戒心を抱くアサリだったが、ミオの言葉を受けもう一度例の少女をよく見てみると、確かにその姿に見覚えがあった。

 

「あ、あの子シズクちゃんだ....」

 

「なら安心じゃないですか、きっと姐御もあの時は冗談を言っただけだったんですよ、今日はこれで....」

 

「う、ううん続ける!本当にデートかどうか見極めるまで帰れない!」

 

「え、相手が危ない奴か確かめるのが目的だったんじゃ!?」

 

「ミオ、最後までやり遂げるのが尾行の鉄則」

 

ほっと息をつき帰ろうと提案するミオだったが、まさかの返答に思わずツッこんでしまう。

 

「対象が移動開始した、早く行こう」

 

「あ、二人ともちょっと待ってくださいよ!」

 

 

 

 

 

 

「────、」

 

「───、」

 

「むぅ...聞こえない...」

 

「もう少し近づく?」

 

「これ以上は不味い気が...」

 

あれから暫くして、サエとシズクが喫茶店に入ったのを確認した彼女達は少し悩んだ後に続けて入店し、二人から少し離れた席に座り聞こえてくる会話に聞き耳を立てていた。

 

格好はそのまま席から身を乗り出し様子を窺っている状態の為、店員から困った様な目を向けられているのだが、当人達は勿論その事に気づいていない。

 

「──シズクさんは─」

 

「今サエが名前呼びしてるのを確認、対象同士は相当仲良くなっていると思われる」

 

「ほ、本当!?ま、まさか本当に...」

 

(...もしかして、今この場でまともなのってあたしだけなんじゃ....)

 

普段真面目なアサリは変に動揺してしまっているせいか冷静な判断が出来ておらず、キョウカは先程から妙なノリを続けているので必然的にミオがこの場では一番″普通″となっていた。

 

「ではそろそろ出ましょうか」

 

「そうですわね、中々有意義な時間を過ごせましたわ」

 

そんなやり取りをしているといつの間にかサエとシズクの会話が終わったようで、二人とも会計のために席を立ち移動し始める。

 

「あ、二人が行っちゃう....!」

 

「すぐに追跡再開...」

 

「お待たせしましたー、ご注文のプリンタルトでーす」

 

「ごめん、おかわり頼んでたの忘れてた」

 

「キョウカちゃん!?」

 

 

 

 

 

結局その後届いた大盛りプリンタルトは無事三人で手分けして食べ終える事が出来たのだが、案の定店を出た頃には既にサエ達の姿はどこにもなくなっていた。

 

「完全に行っちゃいましたね...」

 

「うぅ....」

 

二人を見失ってしまった事に意気消沈するアサリ。

こうなってしまってはここにいても仕方がない、彼女は項垂れながらもミオとキョウカを連れて学園へと戻る道をトボトボと歩いていく。

 

「アサリ危ない」

 

「え、きゃぁ...!」

 

だがそのせいで通行人の存在に気づくのが遅れてしまった彼女は、前からやって来た人物とぶつかり尻餅をついてしまった。

 

「す、すみませ....」

 

「おい、どこ見て歩いてんだ!」

 

相手の少女はいかにもな雰囲気を纏っているスケバン。

アサリは急いで謝ろうとするが、スケバン少女の周りにいた他の仲間達が次々と彼女に詰め寄り始める。

 

「おいおい、詫びだけで済ます気か?」

 

「うちらは今アイスの当たり棒がいくら買っても出なくて虫の居所が悪ぃんだよ、その程度で許すわけないだろ」

 

「持ってる金、全部つぎ込んだのに...あの店ぜってぇ許さねぇ」

 

「悪いと思ってんならうちらの代わりにその分の金払いな!」

 

「え、えっと...」

 

何とも理不尽な恐喝にたじろぐアサリにスケバン達は言葉を収める事なく更に詰め寄って来る、当然そんな彼女達の前にミオとキョウカが黙ってる訳もなくアサリを庇うように立ち塞がった。

 

「はぁ?そんなのお前らが勝手に散財しただけだろ、あたしらは関係ねぇ。みっともねぇ恐喝なんかやめてさっさと行きな」

 

「謝るけどお金は払う必要ない、それにお金が欲しいなら良い方法あるから今度教えてあげる」

 

「ははは!威勢だけは一丁前だな!」

 

二人はそう言いながらそれぞれ武器に手をかけるが、それを見たスケバン達は笑い出す。

三人に対しスケバン達の人数は倍以上、それに加えこの中で戦いに慣れているのは主にミオのみ、彼女達が不利なのは誰が見ても明白だった。

 

「たった三人でうちらと本気でやり合う気かよ?」

 

「ならお望み通り、アイス代をいただいてやr...」

 

 

パァン

 

 

だがそう一人が言いかけた瞬間、一発の銃声と共に先程まで笑っていたスケバンの一人が勢いよく顔から地面に倒れ込んだ。

 

「は?」

 

「失礼、貴方達はここで何をしているのでしょうか?」

 

同時にスケバン達の背後からそんな言葉が発せられる。

どこか冷静そうな声でありながらも、その声を聞いた彼女達の背には不思議と嫌な汗が流れ出した。

 

「....彼女達は私の後輩なのですが...まさか″恐喝″していた訳ではありませんよね?」

 

「は、はぁ?あんた一体何だよ!そもそもコイツが先にぶつかって来たのが悪いんじゃ....」

 

「おい、良くわからねぇけどコイツも纏めてやっちまおう!」

 

なんだがとても嫌な予感がする、そう感じたスケバン達は一斉に背後を振り向き持っていた銃を向けようとするが、それを見た少女は溜息を吐き目を閉じて、ふと呟いた。

 

「......仕方ありません、ではその前にひとつだけ訂正を」

 

「きゅ、急に何を...」

 

「先程聞こえて来た会話に″三人″とありましたが....」

 

そうして少女...サエが口を開いた瞬間

 

「正確には″五人″ですわぁ!!!」

 

パパパパッ!

 

「ぐっ!」

 

「なんだ!?う、上から!?」

 

スケバン達の上空からシズクによる銃弾の雨が勢いよく降り注いだ。

不意を突かれた事で一時的に動きを止めてしまった彼女達は、素早くハンドガンを構え直したサエによりまた一人気絶し地面に転がる。

 

「くそっ!お前ら調子に...ぐべぇ!」

 

慌てて反撃をしようとする残りのスケバン達だったが当然一度できた隙をミオ達が見逃すはずも無く、三人による背後からの攻撃によって、ものの数分もかからずに戦闘が終了したのだった

 

 

 

 

 

そして場所は再び変わり部室棟の茶室。

 

「確かに途中で何度か視線を感じていましたが、まさかアサリさん達が着いてきていたとは...」

 

あれから何故あそこにいたのかを尋ねられた三人は素直に白状し、事の顛末を聞かされたサエは畳の上でお茶を飲みながら深く溜息をついていた。

 

「先輩ごめんなさい!...怒るのは当然ですよね...」

 

「怒る?ああ、別に怒ってはいませんよ。そもそもアサリさん達を心配させてしまった私にも原因はあるでしょうし」

 

「やはりサエさんは中々面白い後輩をお待ちですのね」

 

そのまま流れで茶室まで着いてきたシズクはサエ達を見て小さく笑みを溢している。

すっかりゲヘナまで来る事が当然の様になっている彼女だが、サエ達も最近は疑問を抱く事も無くなって来たのか何も言わない。

 

「変な格好をしながらコソコソ移動する貴方達を見つけた時は思わず笑いそうになってしまいましたわ」

 

「え、も、もしかして気づいていたんですか?」

 

「それはもう目立ってましたもの!むしろ最後まで気づかなかったサエさんの方が凄いくらいですわ」

 

「はぁ...知っていたのなら私にも教えてくださいよ...」

 

サエは再度溜息をつくが、シズクは『そっちの方が面白そうだったから』と口元に手を当てて笑うのみ。

 

それから少しして、そろそろトリニティへ戻らなければならない時間との事で彼女は貰ったお茶を丁寧に飲み終えると満足した表情を浮かべながら四人に声をかけた。

 

「では私はこれでお暇させていただくとしましょう。おかげで今日は随分と楽しい一日になりました、感謝いたしますわ!サエさんもまたいつか″デート″しましょうね?」

 

「″お出かけ″、ですからね」

 

「それではご機嫌よう〜」

 

そう冗談めかして話す彼女はサエの言葉を聞かないふりをして流れるように茶室を後にしていった。

 

「ふぅ、私にはあまり冗談は向いていないようです、やはり自分らしくするのが一番ですね...さて、アサリさん」

 

「は、はい」

 

「先程怒ってないとは言いましたが....尾行という行為はあまりよろしくない事なのはご存知ですね?」

 

「....はぃ」

 

「少し″お話″しましょうか」

 

「ドンマイアサリ」

 

「姐御からオーラが出てる...」

 

にっこりしていながら、どこか恐ろしさを感じる笑顔にキョウカとミオはそそくさとその場から退散しようとする。

 

「キョウカさん、ミオさん?とても大事な事なので是非一緒に聞いていただきたいのですがよろしいでしょうか?」

 

「「......」」

 

 

 

「いいですか?今回は私だから良かったものの、万が一にでも他の方には.....」

 

「「「はい...」」」

 

結局それから全員が注意を主としたサエの軽いお説教を聞く事となったのだが、三人の中には不思議とどこか安堵の気持ちが生まれていた事に、サエも、そして本人達も気づいていなかった。

 

 

 

 

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