ゲヘナに漂うお茶の味   作:Mrふんどし

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ハロウィン

いつもの様に私が茶室で皆さんが来るのを待っていたある日の事です。

 

淹れたてのお茶を味わいながら、今日は何をしようかと頭の中で考えを巡らせていた時、不意に廊下の方からタッタッタッと誰かが走ってくる音が聞こえてくるのがわかりました。

 

(時間的にアサリさん達でしょうか?...走り方からしておそらくキョウカさんでしょうね)

 

そう思いながら飲み終えた湯呑みを置くと同時に、勢いよく襖が開かれ小さな人影が視界に入ってきました。

そこに現れたのは予想通りキョウカさん、ですが少し予想と違った事が一つ...

 

それは彼女の頭から狼の様な耳が生えていた事です。

 

(あれは...カチューシャでしょうか?それに服も着ぐるみの様な格好をしてますし...)

 

「こ、こんにちは...!」

 

「今日もよろしくお願いします!姐御!」

 

何故彼女がそんなものを身につけているのかわからなかった私は思わず首を傾げてしまいますが、それから少ししてアサリさんとミオさんも茶室へとやって来ました。

 

「ああ、お二人ともこんにちは.....」

 

が、続いて現れた二人の格好も普段と随分変わっており、アサリさんは黒いとんがり帽子に制服の上から羽織っている黒いローブ、ミオさんは赤いマントを羽織り口元から二本の鋭い歯を見せています。

 

私の知らない内に万魔殿が仮想大会でも開いたのかという考えが頭をよぎりましたが、そんな私に向かってキョウカさんが口を開きました。

 

「サエ、トリック・オア・トリート」

 

「え?」

 

「トリック・オア・トリート」

 

手をこちらに差し出しながら同じ事を告げるキョウカさん、一瞬固まる私でしたがようやくその言葉の意味を理解しました。

 

そう、今日は10月31日....ハロウィンである事を。

 

 

 

 

「成る程、それで皆さんはその様な格好を...」

 

「はい、ミオちゃんが色々と頑張ってくれたんです」

 

「は、恥ずかしながら一時期そういう服を自分で作った事もあったんで....お役に立てて何よりですよ!」

 

それから私は茶室に上がった三人から事情を聞いていました。

何でも始めはお菓子が無料で貰える事にやる気を出したキョウカさんが発端だったらしく、そこから二人も乗り気になり、ミオさんが協力して二人に合う衣装を今日までに揃えたのだとか。

 

...前も思った事がありましたが彼女は色々と何かを作るのが上手いですね、当の本人はそうした趣味は自分に似合わないから恥ずかしいとどこか遠慮がちみたいですが。

 

まあ確かにそれならば彼女達がこうしてやる気になるのも納得です。

 

「わかりました、では今日の活動はお休みにしましょうか。是非ハロウィンを楽しんできてください」

 

そう言って私は彼女達を送り出そうとしたのですが、三人はどこか不思議そうにこちらを見つめてきます。

 

「え、先輩は行かないんですか?」

 

「勿体無い」

 

「うぅむ、私は生憎仮装用の服を持っていないので...」

 

折角素晴らしい仮装をしている三人の中に私だけ普通の服で混ざれば雰囲気を壊してしまうかもしれません。

確かに皆さんとハロウィンを楽しみたい気持ちもあるにはあるのですが....

 

私がそう告げると、顔を見合わせた三人が何かを話し合い始めます。

 

(...何でしょう、気のせいかもしれませんが何だか嫌な予感が....)

 

そんな不穏な空気を感じ取った私はそっと立ち上がり茶室を出ようとしますが、不意にガシッとその肩をミオさんに掴まれてしまいました。

 

「大丈夫です姐御!そう言うかと思って今すぐ着れる服を用意してきたんで!」

 

「そ、そうなのですか?」

 

「それに一度着た事あるものなので、サイズに関してもバッチリですよ!」

 

(ん?一度着た事がある?)

 

その言葉に違和感を覚えた私は必死に頭の中で記憶を探ります、ミオさんが用意できて、一度着た事のある衣装となると....

 

「...あの、もしかしてあの時に着たコスプレ衣装なんて言いません、よね?」

 

「「「.......」」」

 

私の指摘に目を逸らして誤魔化す三人。

間違いありません、かつて試験を頑張ったご褒美として、ミオさんから是非着てほしいと頼まれ着たあのスケバン衣装でしょう。

 

あの時はこの部屋の中、それもアサリさん達限定で見られていた(途中フウカさんにも見られてしまいましたが)のでまだ良かったのですが、それが公衆の面前となると話は別です!

 

「えっと、少々用事を思い出したので今日はこれで....」

 

そう言って改めて部屋から抜け出そうとしますが、いつのまにか私は三人に囲まれてしまっており、紙袋を手に持った彼女達はそのままじりじりとこちらに近づいてきます。

 

「あ、あの皆さん?ちょっと話を....!」

 

 

 

 

 

 

 

「何だか全然いつもと違う場所に感じます」

 

「かぼちゃケーキだって、美味しそう」

 

「やっぱりあたし達以外にも結構仮装してる人いますね」

 

ゲヘナ郊外の商店街、そこはまさにハロウィン一色の光景が広がっていました。

今日の為に色々と準備してきたのか、お店には様々な飾りつけが施され、更にはハロウィン限定の商品も所狭しと置かれています。

 

周りを歩く通行人もその多くが仮装をしており、皆で写真を撮る者、袋いっぱいのお菓子を満足気に持ち歩く者など多種多様な楽しみ方をしているのがわかります。

 

「.......」

 

「だ、大丈夫ですよ先輩!凄く似合ってますから」

 

「うん、バッチリ」

 

「また姐...サエ先輩のその姿を見られるなんて思いませんでした!ありがとうございます!」

 

そんなイベント真っ盛りな空気の中、どこか周りの視線を避ける様にアサリさん達の後ろを着いていく影が一人....はい、勿論私の事です。

 

(うぅ...さ、流石にこれは....!)

 

私の現在の格好は黒マスクに黒い帽子、着崩した制服に長めのスカートを履くという普段の私からは考えられないまさに不良スタイル...数ヶ月前に披露したあの時のコスプレ姿がそこにはありました。

 

流石に街中でこの装いをするとは思っていなかった私は頬を赤らめながら帽子を可能な限り深々と被り、少しでも目元を隠し身体を縮こませながら歩いていきます。

 

果たしてハロウィンの仮装としてこれが適しているのかはわかりませんが....どうやら周りの方達も特にこちらを気にする様子は無いので、私が単に気にしすぎなだけなのかもしれません。

...だからと言って恥ずかしさが無くなる訳ではないのですが。

 

「早くお菓子貰いに行こう」

 

「あ、キョウカちゃん待って...!」

 

そんな私が心の中で必死に羞恥心と戦っている最中、キョウカさんは早速袋片手にお菓子を手に入れようと駆け出してしまいます。

 

「サエ先輩、あたし達も行きましょう!」

 

「....ええ、そうですね。ここまで来てしまったのですから、私も腹を括りましょうか」

 

いくら恥ずかしいと嘆いても既にここへ来てしまった以上逃げる事はできません。

寮に戻るのは夕方頃、時間はそれ程長くはありませんし、周りには仮装をしている方達が沢山おり、尚且つ私も普段とはかけ離れた姿をしているのですから、万が一知り合いと出会っても私だと気づかれる事は無いでしょう。

 

...それに今日は折角のハロウィン、皆さんと新鮮な気持ちで楽しまなければ損です。

そう思った私はパンッと頬を軽く叩き覚悟を決めると、ミオさんと共に慌てて走るアサリさん達を追いかけていったのでした。

 

 

 

 

 

そう決意を固めた数時間後

 

(つ、疲れました...)

 

私は公園のベンチで一人身体を休めていました。

 

あれからアサリさん達とお店で色々お買い物をしたり、お菓子を貰って回ったりと過ごしていたのですが、次第に謎の緊張や疲れが襲いかかってきたのを感じた私は三人に断りを入れ現在に至ると言う訳です。

 

『すみません、もう少し休んでから合流しますね』

 

そうモモトークを送った私はゆっくりと息をつき、改めて自身の格好を見下ろします。

 

(まさかまたこの服を着る事になるとは....)

 

確かに恥ずかしいという気持ちは残っていますが、折角ミオさんが私の為に用意してくれたものです、それにいつもと違った服を着て皆さんと街を歩くというのも中々に貴重な経験ではないですか。

 

「たまにはこんな日があってもいいですかね」

 

そんな誰に言う訳でもなく独り言を呟き、そろそろ彼女達と合流しようと腰を上げた時

 

「少し失礼しますわ」

 

「え?」

 

立ちあがろうとした私に向けて、誰かが話しかけてきました。

突然の事に声を漏らし顔を上げた瞬間、私は思わず動揺してしまいそうになるのを必死に我慢しました、何故なら....

 

「この辺りに何か美味しい食事の出来るお店がないか探している所でして、ハロウィンらしい美食を堪能できる場所をご存知ありません?」

 

(な、何でハルナさんがここに!?)

 

目の前には何とこちらを見つめるハルナさんが立っていたからです。

よく見ると少し離れた後ろの方にはアカリさんやイズミさん、ジュンコさんまで勢揃いしているのが見えます。

 

(そ、そうです!今日はハロウィン...彼女達が動かない訳がありません)

 

いきなり見知った人物が現れ一瞬パニックに陥りかけた私ですが、すぐさま頭を切り替えます。

 

(いえ、落ち着くのですよサエ。もしハルナさんが気づいているのならばすぐに私の名前を呼ぶはず...それをせずにこうして声をかけてきている以上、彼女は私に気づいていないということ...)

 

「えっと....あ、ああすみま...悪い、そういう店はあまり知らないんだ。ハロウィンっぽさはわからないで...が、この近くの喫茶店の料理はかなり美味しいでs...らしい」

 

私は所々詰まりながらも精一杯今の格好にあった返答を返します。

 

「ふむ、そうですか。折角でしたらハロウィンらしいものを味わって見たかったのですが....まあ仕方ありませんわね、ご協力感謝しますわ」

 

「ええ....あ、ああ悪いな、お役に....役に立てなくて」

 

ハルナさんは手を口元に当てて何かを考え込む素振りを見せながら、そう言って三人の元へ戻っていきました。

 

(な、なんとか切り抜けました...)

 

私は先程以上の緊張にこっそり溜息をつきベンチに再び腰掛けます。

いきなりで驚きましたがこれでひとまず危機は去りました、後はもう少し身体を休めてから....

 

 

「ではサエさん、お互い良きハロウィンタイムを楽しみましょう。あ、それとその格好中々お似合いだと思いますわ♪」

 

 

 

「...........へ?」

 

 

それから間抜けな表情のまま暫く放心していた私はハルナさん達が去ってもベンチから動く事なく、最終的に心配したアサリさん達がやってくるまでその場で固まっていたそうです。

 

.....来年のハロウィンは茶室に引き篭もろう、そう小さな決意を抱かせた一日となったのでした。

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