ゲヘナに漂うお茶の味   作:Mrふんどし

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最近また忙しくなってしまい中々書く時間が取れず、今回はいつも以上に投稿が遅れてしまいました。
ただでさえ通常の投稿頻度が落ちているのですが、もしかすると次回以降もまた更に間隔が空いてしまう事があるかもしれません。
その場合は申し訳ありません。

*一応現段階で話としては15話分は用意しています。
この先もまだ話を考えるつもりではあるので、本作品の完結予定はまだありません。




炬燵の魔力?

「すっかり寒くなってしまいましたね」

 

冷たい空気が肌を吹き付ける中、私は腕をさすりながら部室棟までの道のりを足早に歩いていきます。

最近は万魔殿の仕事が忙しかったというのもあり、中々サボる事が出来ない日々が続いていました。

 

おまけにこの寒さ、そろそろ身体を休めなければ限界というもの。

こんな日は温かいものを飲みながらダラダラと過ごしたい、そう思った私が朝宮さん達の元へ行こうと決めるのにそう時間はかかりませんでした。

 

部室棟の冷たい扉に手をかけ冷え込んだ廊下を進む中、私の頭にはこれから彼女の茶室の中で過ごすイメージが明確に浮かんでいきます。

 

もうすぐ温まれる、そう考えながら廊下を曲がろうとした時。

 

「わっ!?」

 

「っ!とと...」

 

丁度曲がり角から何者かが飛び出してきました。

ギリギリの所でぶつかることは無く、走ってきた人物を支えながら顔を覗き込むと

 

「朝宮さん?」

 

「え?あ、ああ棗さんでしたか。これは失礼しました...」

 

何とその人物は丁度これから向かおうとしていた茶室の主である朝宮さん、彼女も私に気づいたようでぶつかりそうになった事を謝ってきます。

 

「いえ、それは大丈夫ですけど...そんなに慌てて何かあったんですか?」

 

「そ、そうでした!棗さん、どうか力をお貸しください!」

 

「え、い、一体何が....」

 

彼女がここまで慌てている姿を見た事がありません。

疑問に思った私はそう問いかけると、朝宮さんはハッとした表情を浮かべると同時にガシッとこちらの手を掴み、そのまま茶室の方へと私を引っ張って走ってしまいました。

 

突然の事に驚いた私はそのまま引き摺られる様に彼女に着いていき、やがて部屋の前までやって来ると朝宮さんはどこか真剣な顔でこちらを見つめながら呟きます。

 

「....棗さん、準備は良いですか?」

 

「えっと、いまいち状況がわからないんですけど...」

 

「中に入ればわかります、油断しないでください」

 

何をそこまで警戒する要素があるのか、もしかしたら最近の寒さで変になってしまったのかと僅かに心配の気持ちが強まりますが、若干の冷や汗を流しながら朝宮さんによって一気に襖が開かれました。

 

「こ、これは.....!」

 

そうして私の視界に広がったのは.....

 

 

「「「............」」」

 

 

茶室の真ん中に鎮座している炬燵、その中から飛び出している少女達。

朝宮さんの後輩三人がまるでとろける様な顔をしながら畳に寝転がっている姿でした。

 

「朝宮さん、炬燵を買ったんですか。良いですね、この時期の炬燵はさぞかし気持ちよさそうです。彼女達もあんなに.....」

 

そう言いながら炬燵に近づこうとした私の服を朝宮さんは強く引っ張ってきました。

 

「駄目です棗さん!それ以上近づいては危険ですよ」

 

「え、ただの炬燵では?」

 

彼女が止めてくる理由が全くわからず困惑してしまいますが、私が炬燵から離れたのを見た朝宮さんは小さく溜息をついてからゆっくりと話し始めました。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

「もう冬ですか...」

 

茶室の中で私は湯たんぽを抱きながらふとそんな独り言を呟いていました。

早いもので季節は11月、外の空気や部室棟の廊下の冷え込みから嫌でもその事実を感じ取れます。

 

そしてこの時期になると必ず考えなくてはならないのが”寒さ”です。

 

この部室棟はその名前の通り部活動の為の場所なのですが、当然ながら真面目に活動する方達は珍しく、現状は他の生徒達の溜まり場の様な使われ方をしていました。

そのせいもあり暖房設備の設置にあまり関心が無く、夏も冬も中々に厳しい環境となっているのです。

 

去年は今の様に湯たんぽで寒さを多少は凌いでいたのですが、今年はアサリさん達がいるのでそういうわけにはいかないでしょう。

 

「こ、こんにちはー。寒いですね」

 

「一気に冷え込んできましたよね」

 

そんな事をぼんやりと考えていると、丁度襖が開きアサリさん達がやって来ました。

 

「サエ、寒い.....」

 

二人の後ろから元気なさげなキョウカさんも現れ、私は先程まで抱いていた湯たんぽを彼女に渡しながら彼女達を茶室に招き入れます。

 

(さて、どうしたものですかね...)

 

アサリさん達に渡すお茶を淹れながら、私は一人対策を考え始めるのでした。

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

「....それで、その日の帰りにこの炬燵を買ったのです。丁度良い大きさと値段だったのでいいかなと」

 

「話を聞いてる限りおかしなところは無いように感じますけど」

 

最後まで朝宮さんの話を聞き終えましたが、ただ炬燵を買ってきたというだけで特段変な箇所はありません

 

「....確かに始めは普通でした、ですがそれから日に日にアサリさん達の炬燵に入る時間が増え、ついには三人とも炬燵から出なくなってしまいまして」

 

「...ただ気持ちよくて出られないだけでは?」

 

私の言葉を受け朝宮さんは徐に彼女の中の一人に近づくと、その両手を掴み力を込めて引っ張り始めました。

ぐいぐいと炬燵の中から移動させようとする朝宮さんですが、中の少女は全く動きません。

 

私は先程朝宮さんに言われた通り一応炬燵に気をつけながら彼女と共に引っ張ろうとしますが

 

「っ!これ...力強....!どうなっているんですか」

 

想像以上の抵抗に流石の私もそこで違和感を覚えました。

必死に出ないように踏ん張っているのかと思いましたが、この脱力ぶりから見てそれは難しいでしょう。

どちらかと言うと、まるで何かに引っかかって抜けなくなっているような.....

 

「わかっていただけましたか?私もどうしたらいいのか...」

 

「確かにこれは異常ですね、これを買った時に何か説明書などは無かったんですか?」

 

「説明書...確か組み立て用の紙と一緒に入っていたような」

 

そう言って朝宮さんは茶室の棚に置いてある箱を開けると、そこから何枚かの用紙を取り出しこちらに手渡してきました。

それを受け取った私は何が書かれているのかを見ようと目を凝らすと...

 

《KOTATU!!!DX Mark3 改良版》

 

「え、何ですかこの頭の悪そうな名前は...」

 

「えっと、店員の方に相談した時にこれをオススメされたので、何も気にせず買ってしまって...」

 

「何でいつもは落ち着いているのにこう言う時に変なものを買ってしまうんですか...」

 

あまりにダサすぎる名前に思わず突っ込んでしまいましたが、朝宮さんは誤魔化すように少し目を伏せていました。

いきなり怪しさが漂ってきましたが、気を取り直して再度書面に目を通していきます。

 

「炬燵の足....テーブル...バイタル状態感知センサー機能付き温度調節機....待ってください、明らかにおかしなものが混ざってますよね?」

 

やがて炬燵の組み立て方が載っているページに辿り着くと、そこにはどう考えてもいらない機能が多すぎるパーツが載っていました。  

 

「炬燵に入っている対象の脈拍、体温、筋肉の動きなどを感知し、適切な温度を維持します。常に極楽浄土の様な心地よさを貴方に....ん?」

 

いかにも胡散臭い謳い文句がつらつらと続く中、あるページの隅に小さく書かれている文に目が止まります。

 

《機能の一つとして使用者の状態に応じてランダムで拘束機能が作動する事があります。また炬燵内部から出ようとする場合センサー内部から備え付けの特殊ミストが噴出し、貴方の出ようとする心をまるで雪の様に溶かしてくれます》

 

「完全にこれが原因じゃないですか」

 

「ほ、本当ですね...まさかこんな隅の方に書かれていたなんて....最近の炬燵はこれが普通なのでしょうか?」 

 

「いや騙されないでください、絶対おかしいですから」

 

正体が厄介極まりない代物であると判明し頭を抱えたくなりますが、原因がわかった以上放置するわけにはいきません。

しかしだからと言って無理矢理引っ張り出そうとしても解決しないのはさっきの行動で証明済み。

 

おかしいですね...本来ここへは身体を休めに来た筈だったのですが、いつの間にか大変な事に巻き込まれてしまっている様な....まあ万魔殿として朝宮さんには何度もお世話になってますし、ここで協力しないのは私としてもあり得ませんからね。

 

(わざわざこんな機能をつけるくらいですからどこかに解決方法も載っているのでは?)

 

そう思った私は説明書をもう一度隅々まで読み直していきます。

すると予想通り最後の方のページにそれは書かれていたのです。

 

《もし出られなくなってしまった場合...強い意志を持つ事》

 

(え、それだけ?肝心の答えが抽象的すぎませんか!?)

 

「何ですかこれは、全然答えになってませんよ!」

 

あまりに投げやりな解答に珍しく声を上げてしまいましたが、無理もないでしょう。

 

「強い意志を持つ....」

 

「うぅむ、単純に出たいという気持ちを強く持てという事でしょうか?ですが今のアサリさん達の様子だとそれも難しい様な...」

 

確かに朝宮さんの言う通り、彼女達の表情を見る限り現状は中々厳しそうです。

となると、別の角度からアプローチをかける必要があると言う事....

 

「そうですね、例えば炬燵に入っているよりも興味を惹かれる事を提案してみるとか?」

 

「成る程、確かにいい作戦かもしれません」

 

私の提案に頷いた朝宮さんは少しの間考え込んだ後、彼女達の元にしゃがみ込み一人一人に声をかけ始めました。

 

「キョウカさん」

 

「んん...?」

 

「今度のお休みの日に美味しいお菓子を買おうと思っているのですが、一緒に行きますか?」

 

「......いい、ここで休んでるから」

 

どうやら食べ物で釣ろうとした様ですが、あえなく断られてしまったみたいです。

(まあこの説明通りの機能ならば余程強い意志でないと抜け出すのは難しそうですし、やはりそう簡単には.....)

 

「そうですか、折角この間キョウカさんが話していた限定の羊羹を食べようと思ったのですg「何個?」....早いですね、今出るのならキョウカさんが希望する数で良いですよ」

 

「よし、交渉成立」

 

(ええ...それでいいんですか?)

 

提案から約三十秒、あまりに単純な理由で解決した事に何とも言えない気持ちになってしまいます。

強い意志というのは案外そこまで必要ないのでしょうか...いえ、もしかすると彼女が特別なだけかもしれませんが。

 

私がそんなやり取りを見ていた中、朝宮さんは次に黄檗色の髪に小さな角が生えている少女の元へ。

 

「ミオさん」

 

「姐御ぉ....気持ちいいですよここ、姐御も一緒に...」

 

「もしすぐに出たら、今度ミオさんの希望する格好を特別にしてもいいですよ」

 

今度は朝宮さんが何かの服を着る提案をしているようでした。

(聞き間違いでなければ彼女が朝宮さんを呼ぶ際の言葉が変だったような...?まあそれは良いとして、正直着替えるだけで替わりになるのか甚だ疑問なのですが...)

 

「え、本当ですか?何でもですか?」

 

「何でもかは内容にもよりますが...まあ可能な限りは善処しましょう」

 

「はい!出ます!出るに決まってますよ!」

 

....また簡単に抜け出せましたね。

今度は30秒もかかってません...何でしょう、もしかしてこの炬燵はそこまで凄いものではないのでは?

そんな疑問が浮かんできますが、そうこうしている内に最後の一人へ。

 

「アサリさん」

 

「あ....先輩...ここ温かくて、すごくふわふわしてるんですよ」

 

トロンと気持ち良さげな顔で朝宮さんに視線を向ける彼女。

これは中々の強敵そうですね、先程のお二人に比べて明らかに微睡みレベルが高いです。

今度はかなり厳しい駆け引きとなるのでは...

 

「来年になるかもしれませんが、いつか皆さんで旅行に行きましょう」

 

「えっ」

 

「夏休みに海へ行った時、今度は温泉に行くのもアリだと言ってましたよね?折角でしたら景色の良い所で皆さんと過ごせたらなと思いまして」

 

(....おや、もう既にだいぶ揺らいでいるのでは?)

 

彼女の顔には早くも活気が戻っており、朝宮さんの話を受けて何かを思い浮かべているようです。

 

「温泉良いね」

 

「最高じゃないですか!是非行きましょう!」

 

「ただ、それにはアサリさんも一緒に話し合って貰わないといけませんし...このまま炬燵の中で過ごすのならこの話は残念ながらなかった事に....」

 

「で、出ます!すぐ出ますから...!」

 

(.......)

 

結局、私がこの部屋に来てから三十分も経たずに炬燵捕らわれ事件は解決したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ...」

 

時刻は夕方頃、あれから件の炬燵を片付け箱へと仕舞い込んだ後、私は朝宮さんからのお礼と共におもてなしを受けていました。

色々と想定外の出来事ではありましたが、何だかんだ当初の目的である”休む”事は叶えられたので個人的には満足のいく日でしたね。

 

「後は万魔殿に戻って皆さんの様子を見て.....マコト先輩が余計な事をしていなければいいんですが」

 

まあ最近は珍しく理不尽な事は起こっていませんし、きっと今頃イブキと一緒に遊んでいるんでしょう。

その光景を思い浮かべながら、万魔殿へとたどり着いた私は部屋の扉を開くと

 

「ただ今戻りましt.....」

 

「キキキッ!丁度良いタイミングだったなイロハ、これを見てみろ!」

 

いきなり何やらテンションが高めなマコト先輩の声が耳に入ってきました。

 

「はぁ、また何か思いついたんですか?」

 

「いや、今回は良い物を買ってきた報告だ。本来この私とイブキにしか使わせる気は無かったが...イブキはもう寝てしまったからな。今日は特別に使う事を許可する!」

 

(良い物?)

 

そしてマコト先輩が指差す方に視線を向けた瞬間

 

「どうだ!《KOTATU!!!DX Mark4 新生版》だ!」

 

「.......」

 

「キキキッ、驚きすぎて言葉も出ないか。そう、これは従来の炬燵とは遥かににレベルが違う、まさに偉大な人物が使うべき代物らしい。つまりこのマコト様にピッタリの品と言うわけだ!」

 

(..........はぁ)

 

....きっと今日はある意味呪われている日なのでしょうね。

 

私は自信満々に次々と説明をしていくマコト先輩の話を聞き流しながら、一人深く溜息をついたのでした。

 

 

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