ゲヘナに漂うお茶の味   作:Mrふんどし

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思い出の日

シズクさんが茶室を訪れてから数日後

 

「はぁ....」

 

結局あれから深く考え込む癖が治らないまま、私はモヤモヤとした気分を抱えて過ごしていました。

おまけにそのせいで最近では若干寝不足になってしまっており、普段の生活にも支障が出始めてしまっています。

 

(まさか自分がここまで気にしてしまう性格だったとは...)

 

あの後も一度三人へ尋ねてみたのですが、相変わらずはぐらかされてしまうのみ。

 

 

『謀反ですわ!』

 

『これはサエさんをリーダーから引き摺り下ろし、代替わりを狙う為の下準備なのです、だからこそサエさんには相談出来ない...今頃彼女達はその時が来るまでの作戦を考えているんです!』

 

 

(まさか、シズクさんが言っていたあの言葉が本当に...?....いや、流石にそれは考えすぎですね。いけません、これでは作業に集中も出来ませんし今日は帰りましょう...)

 

結局その日は普段よりも早めに切り上げた私は、寮の自室へと戻りベッドに身体を預けたのでした。

 

 

 

.....そんな鬱々とした気分のまま、また数日が経ったある日の事。

どんなに気分が落ち込んでいようとお茶を淹れる事には変わりません、そうしていつもの様に茶室前にやって来て

 

「....ん?」

 

扉を開き襖に手をかけようとした時、中から微かな物音が私の耳に入ってきました。

 

(誰かいる?)

 

基本的に私よりも早く誰かがこの部屋へ来る事は珍しく、それ故にあまりない事態に少々警戒してしまいます。

流石に何者かが侵入しているとは考え辛いですが...注意するのに越した事はありません。

 

私は警戒を続けつつ恐る恐る襖に触れ、それを一気に横へずらしました。

 

 

その瞬間

 

 

パァァァン!

パァン、パァァン!

 

「お誕生日、おめでとうございます先輩!(サエ)(姐御)」

 

何発もの破裂音と共に目の前に広がる紙吹雪。

更にそれを鳴らしたであろうアサリさん、キョウカさん、ミオさんの三人の姿がそこにはありました。

 

「大成功ですね!」

 

「サエ、驚いて固まってる」

 

「びっくりしましたか、先輩?....あれ、大丈夫ですか?」

 

「......」

 

三人はそれぞれやりきったという清々しい顔を見せていましたが、いきなりの出来事に混乱してしまった私は何も言葉を発せずにいます。

 

「....誕生日、ですか?」

 

「はい!」

 

「....私の?」

 

「は、はい...あ、あれ!?もしかして間違っちゃいましたか!?」

 

あまりに私の反応がぼんやりとしていた為か、アサリさんは慌ててメモ帳を取り出すと必死にページを捲っていきます。

 

そんな彼女達を見ながら私は混乱する頭を少しずつ落ち着かせ、ようやく目の前の現実を理解し始めました。

 

三人の手に握られたクラッカー、誕生日という言葉、部屋の奥の飾り付けられた壁....ゆっくりとそれらを思い返しながら携帯を取り出し徐にそこに写されている日付を確認すると

 

《11月23日》

 

(...そうでした、今日は私の....)

 

いつぞやの日、私が誕生日を教えたのはキョウカさんが占いに必要だと言った時にポツリと告げただけだった筈。

きっと彼女達はその事を今日まで覚えてくれていたのでしょう、そして私を当日驚かせる為に一生懸命準備をしてくれたのです。

 

そう考えた瞬間、これまでの彼女達の動きが全て納得のいくものとなり、バラバラだったピースがまるで一つになるかの様な感覚が胸の中に浮かんできました。

 

「....先輩?」

 

「サエ、どうしたの」

 

「姐御?」

 

「.........」

 

一瞬顔を俯かせた私を心配そうに見つめる三人、

 

「....ふふ」

 

そんな彼女達の前で

 

「...あははっ!」

 

自分でもわからない様なおかしさが込み上げてきた私は、思い切り笑顔を浮かべていました。

 

それはこれまでの心配が自分のくだらない妄想だった事への呆れか、それとも心からくる安堵感か、彼女達に対する感謝か....どこか言葉では言い表せない程の温かな気持ちが止めどなく溢れてくる事だけはわかります。

 

そんな突然の私の様子に顔を見合わせる三人でしたが、やがて彼女達も私と同じ様に小さく微笑むと、ゆっくりと手をこちらに差し出してきました、

 

「先輩」

 

私は伸ばされている三本の手を見つめながら、笑いからくる涙を拭き取ると同時にそれに自身の手を重ね、彼女達に引っ張られるままま茶室へと足を踏み入れたのでした。

 

 

 

 

 

「さあ、どうぞ!」

 

あの後茶室に通された私は、勧められるままに彼女達が用意していたテーブルへと向かい座布団に座っていました。

 

「はい、はい....もう準備はOKです!」

 

こちらを見ながら何処かへ連絡をとるアサリさんを私は不思議そうに見ていましたが、それから少しもしないうちに廊下の方から足音が近づいてくるのがわかりました。

やがて足音は部屋の前で止まり

 

「はーい、お待たせ」

 

「お待たせしましたー!」

 

「ふ、フウカさん!?それに牛牧さんも...!」

 

襖が開かれた先に立っていたのは、フウカさんと同じく給食部の牛牧さん。

二人はそれぞれ大きなお盆を手に私の待つテーブルの前へと近づいて来ます。

 

「どうしてお二人が...」

 

「あの子達に頼まれたの、”先輩のお誕生日だからとっておきのケーキを渡したい”って。まあ私もお祝いしたかったしね」

 

「ケーキはフウカ先輩が殆ど作りましたが、準備は私もお手伝いさせてもらいました!」

 

「ほら、これがサエ専用のケーキね。食べ切れるようにサイズは小さくしたけど、味は自信作だから」

 

そう言ってフウカさんはお盆からお皿を持ち上げると、小さめなワンホールのケーキをこちらに向けてくれました。

側面には生クリームの白と薄緑色の層が見えており、ケーキの上には大きなイチゴがいくつも飾り付けられています。

 

ケーキの表面にまぶされている細かい緑の粉...おそらく抹茶風味にしてくれたのでしょう。

牛牧さんの方には皆さんで分けて食べる用の大きなサイズのケーキがあらはましたが、そちらも負けず劣らずとても美味しそうです。

 

その完成度や気遣いに思わず頬が緩むのを止められずにいたのですが、皆さんに見守られるまま早速ケーキに手をつけようとした所で再度廊下の方から足音が聞こえて来ました。

しかも今度はおそらく先程以上の人数のようです。

 

アサリさん達も不思議そうに襖の方を見ていると、

 

「あら、皆さんお揃いでしたか」

 

「良い匂い〜」

 

「げっ、ハルナ....!何でここに...?」

 

「また良さげな食材の情報を手に入れたので、折角でしたらお二人をお連れしようと思った次第ですわ♪先程丁度フウカさんが部室棟に入っていくのが見えたものですから」

 

入って来たのはなんと美食研究会のハルナさん、当然のように他の方々も勢揃いしています。

 

「って、何誤魔化してるの?本当はこれを届けにきたんでしょ」

 

ですがどうやら彼女達がやって来た理由は違ったようで、後ろで会話を聞いていたジュンコさんがそう言うと、何か大きな袋をハルナさんにお渡ししながら肩をバシッと叩きました。

 

「その、まあこれは私からのお祝いの気持ちとして受け取ってください。日頃ご協力いただいているお礼ですわ」

 

それを受けて珍しくどこか緊張した様子で私の元にやって来たハルナさんは、そう言葉を溢しながら袋を差し出してきます。

 

「ハルナさん....ふふ、ありがとうございます。...もしよろしかったら、ハルナさん達も一緒に食べませんか?フウカさん、どうでしょうか」

 

「まあ、今日は余計な事しないならいいわよ。元々大きく作りすぎちゃったし、残すのは勿体無いから」

 

「....うふふ、ではお言葉に甘えさせていただきましょうか」

 

私とフウカさんの言葉を聞いたハルナさんは、一瞬パチパチと目を瞬かせるとそれから嬉しそうに笑いました。

 

 

「じゃああたし追加の座布団用意してきますね!」

 

「いただきます」

 

「きょ、キョウカちゃん!一切れが大きすぎない...!?」

 

「あら、本当に大きなケーキですわね。どんなお味なのか今から楽しみですわ」

 

「残ったら責任を持って私が食べますのでご安心くださいね♪」

 

「色んなソースあるから分けてあげるね!」

 

「ちょっと、それ絶対自分の分だけにしてよね!」

 

「これだと全員分のお皿が足りませんね、私少し食堂からとって来ますね!」

 

「あ、ジュリ私も行く。ハルナ達は少し待っててね」

 

皆がそれぞれ慌ただしく動く茶室内。

あまり広くない都合上、いつもの倍以上の人数が集まっているこの場所は今、普段と比べるとせまく沢山声の響く賑やかな空間となってしまっていました。

 

好きなお茶を淹れながら静かに過ごしたい...初めはそんな思いを掲げながらこの茶室を作り上げましたが、現在ではその時とはまるで違った様相に変化してしまっています。

 

「.....ふふ」

 

 

ですがそんな周りの”騒がしさ”を、いつの間にか”心地よいもの”だと認識している事を自覚した私は、誰にも気づかれる事なくまた笑顔を浮かべながら、抹茶ケーキにフォークをゆっくり伸ばしたのでした。

 

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