ゲヘナに漂うお茶の味   作:Mrふんどし

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☆『記録に残さぬもの』

「......」

 

茶室で行われた誕生日会の後、私は皆さんにもう一度心からのお礼を伝え寮の自室に帰ってきました。

 

「ふふっ」

 

ベッドに腰掛けながら、彼女達からいただいたプレゼントを見ていると未だに頬が緩んでしまいます。

 

本当に、今日は最高の一日でした。

フウカさん達が用意してくれた特性ケーキはとても美味しかったですし、ハルナさん達も珍しく何をするでも無く純粋にお祝いしてくれていました。

....計画してくれたアサリさん達には感謝してもしきれませんね、

 

私はそのまま暫くの間、先程の記憶を呼び起こしながら、ベッドの上で思い出に浸っていたのでした。

 

 

 

 

 

「.....?」

 

ですが時刻も22時を回った頃、そろそろ眠ろうと思った瞬間私の携帯からモモトークの通知音が聞こえてきました。

 

(この時間に連絡...誰でしょうか?)

 

私は徐に携帯を手に取り画面を覗いてみると、

 

「アサリさん?」

 

そこにはアサリさんの名前が表示されていたのです。

 

 

『先輩、こんな時間にすみません。今から寮の玄関まで出て来てもらえませんか』

 

 

理由も目的も無く、ただそう書かれている文面。

 

「.....」

 

私は彼女の意図が分からず不思議に思いながらも、了解の返事を打ち部屋を出て行きました。

 

 

 

 

 

 

「あ、せ、先輩...!」

 

「アサリさん、お待たせしました」

 

「い、いえ!むしろこんな時間に呼び出してしまってごめんなさい...」

 

玄関から出た私はそこから少し離れた場所に、先程連絡をくれたアサリさんが立っているのを見つけました。

寮の外壁に取り付けられた灯りに照らされている彼女は、どこか緊張した表情を浮かべているのがわかります。

 

「アサリさんこそ、寮の時間は大丈夫なのですか?」

 

「は、はい!一応許可は貰っているので。それで、その...先輩をここにお呼びした理由なんですが...」

 

彼女はそう言いつつも、中々話す事が出来ない様子。

何度も口を開きかけては直前で止まる、それを繰り返す中、私はただじっと彼女が話すのを静かに待っていました。

 

「えっと.....っ!せ、先輩!これを!」

 

そしてプルプルと震えながら声を上げたアサリさんは、そのまま背中に回していた手をこちらに向け何かを差し出してきました。

彼女の手に握られているのは、何やら綺麗な紙に包装された細長い箱。

 

「...これは?」

 

「た、誕生日プレゼントです...!」

 

「?プレゼントであれば先程皆さんから頂きましたが...」

 

「何というか...その、こ、これは私個人として先輩にお渡ししたかったと言いますか...!」

 

アサリさんは手をあたふたと動かしながら必死にプレゼントについて伝えてきます。

ともかく、彼女が私の為に用意してくれた事には間違いありません。

 

「ありがとうございます、アサリさん。早速開けてみても?」

 

「ど、どどどうぞ!」

 

私以上に緊張している彼女に促されつつ、丁寧に包装を解いた私はゆっくりと箱を開けていき

 

「......」

 

そして....中に入っていたものを見た私は、少しの間黙ってそれを見つめてしまいました。

 

 

そこにあったのは、端に綺麗な白い花の飾りが取り付けられている一本の簪。

箱の中に入っていた用紙を見てみると、どうやらストックという花を模している様です。

 

「......」

 

「ま、前から先輩には何か贈り物をしたいなと考えてまして、ずっと悩んでたんです。何なら喜んで貰えるかなって....そ、それで、最終的にその簪に...」

 

「.....」

 

「あ、も、もちろん今使っているものがよろしければ無理に使わなくても大丈夫ですので!」

 

「...アサリさん、今ここで使っても?」

 

「うぇ!?は、はい!」

 

彼女にそう尋ねた私は髪に挿していた自前の簪を抜き、箱の中からその簪を手に取ります。

長くバラけた髪を一つにまとめ、その簪を挿し何度か回転させ固定すると、その瞬間どこか不思議と髪に馴染む様な感覚を覚えました。

 

....きっと今、簪は美しく輝いているのでしょう。

鏡を見なくてもわかります、これは彼女が自分に似合う様一生懸命選んでくれたものなのですから。

 

目を瞑った私は、その存在感を確かめる様に簪に優しく触れながらゆっくりと視線をアサリさんに向けます。

 

「....アサリさん、”ありがとう”」

 

「......っ、はい!」

 

 

その日、空を覆う雲の隙間から差し込んだ月明かりが、笑顔を浮かべる二人の少女を静かに照らしていたのだった。

 

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