ゲヘナに漂うお茶の味   作:Mrふんどし

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雪掻き

時刻は早朝。

 

目覚ましのアラームが鳴る前に意識を覚醒させた私は、ベッドから身体を起こすと同時にグッと背中を伸ばしました。

 

「んん....ふぅ...」

 

軽く背筋が伸びる感覚を味わいながら、静かに床へと足をつけた私はそのまま顔を洗いに洗面台へ。

 

それにしても、今日はやけに目覚めの良い朝でしたね...やはり昨日の出来事が影響しているのでしょう。

私はその事を思い出し小さく微笑むと、早速朝食の準備を始めていきます。

 

ご飯を少量で炊きながら、細々としたおかずを冷蔵庫から取り出し温める。

食後は歯磨き、シャワーを終わらせ厚手の着物に着替え終えた所で私は机の上に保管していた簪へと手を伸ばします。

 

「〜♪」

 

そうして小さく鼻歌を歌いながら、髪を新しく貰った簪で纏め終えたところで私は荷物を持って部屋を出ました。

 

階段を降り少し冷えた廊下の先に見えるのは寮の玄関口。

今日も元気に部室棟へ、などと思いながら外の世界へと一歩踏み出し....

 

ズボッ

 

「え?」

 

突然足が何かに沈む感触に思わず声を漏らしながら下を向くと....地面にあったのは膝元まで埋まるほど積もっている真っ白な雪。

嫌な予感を覚えた私は恐る恐る顔を上げますが、そこにあったのは予想通り大量の雪で覆われている建物や道が広がっていました。

 

(昨日まではここまで積もってませんでしたよね...?え、たった1日...というより数時間でこの状況が出来上がったのですか!?)

 

「あれ?あ、雪積もってる!」

 

「雪合戦しよ!」

 

「えー、寒いから今日サボるー」

 

呆然と外の景色を見ていると、背後から私以外にも起きてきた子達の声が聞こえてきました。

大雪に気分を上げる者、数人で外へと飛び出して行く者、雪を口実に部屋へ戻る者など反応は様々です。

 

....正直ここまで一気に積もるとは考えていなかった為流石の私もどうしようかと悩んでしまいますが、かといってこのまま放置すれば次に降った際より状況が悪化してしまうのは間違いないでしょう。

 

「...仕方ありませんね、予想より早いですが」

 

私は小さく溜息をつきながら拝借する旨を書いたメモ用紙を壁に貼り付け、玄関口のそばに置いてあった雪掻き様のスコップを手に取り外へ出ます。

 

寮前で既にこれならば部室棟前も同様かそれ以上の状態という事、なるべく早いうちに問題を解決しなければ....

 

私は気合を入れる様に再度息をつき、スコップを深々と突き刺したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

そのまま雪と格闘する事一時間程、

 

「ふぅ...ふぅ....全く終わりが見えませんね...」

 

いくら掻いても掻いても同じ景色が続く中、私は額の汗を拭いながら一人言葉を溢します。

 

寮からここまではある程度普通に歩けるくらいにはなりましたが、それでも明日降らないとは限りませんし、おそらく暫くは毎日雪掻きですかね...。

 

そんな事を思いながら、作業を再開させようとしたところで

 

「あ、サエ〜おはよう、そっちも雪掻き中だったんだ?」

 

「おはようございますサエ先輩!」

 

「フウカさん、それに牛牧さんも...おはようございます、お二人も雪掻きですか?」

 

不意に背後から声をかけられ振り返ると、そこにはモコモコと暖かい格好をした給食部の二人が立っていました。

彼女達の手には私と同様に大きなスコップが握られているのがわかります。

 

「はい!私はフウカ先輩のお手伝いで」

 

「食堂前も雪が積もっちゃって凄いの、このままだと車もまともに動かせないしもう大変」

 

「食堂が使い辛くなると他の生徒達も困るでしょうしね...」

 

「いっその事こういう時に温泉開発部がいればこの雪なんて一気に無くなりそうなのに」

 

「...かなり諸刃の剣になりそうな気もしますが」

 

「...それもそうね」

 

フウカさんは彼女達の事を思い直し、首を振りました。

 

「サエ先輩は部室棟の雪掻きですか?」

 

「ええ、とはいってもそこまで辿り着くにはまだ時間がかかりますね、何せこれだけの雪なので...」

 

「ならそこまで手伝う?どうせ食堂前以外にも雪をどかさなきゃいけないし」

 

「私もお手伝いしますよ!」

 

「いえ、お二人も大変でしょうし何とか最後まで頑張ってみます。お気持ちだけ受け取っておきますね」

 

流石に私の分まで手伝わせてしまうのは彼女達にとって負担になってしまいます。

ただでさえフウカさん達は雪掻きの他にもしなければいけない事が沢山あるでしょうし....私が断るとフウカさんは頷きスコップを持って別の場所へ歩いていきました。

 

「まあ手を貸して欲しくなったらいつでも言って。ジュリ?次は駐車場ね」

 

「はい!ではサエ先輩、また今度!」

 

そう言って新たな雪掻きスポットへ向かう二人を見送った私は、気合を入れ直すと再びスコップを握る手に力を込めたのでした。

 

 

 

 

 

 

それから更に時間が経ち、ようやく部室棟まで辿り着いた私はスコップを支えに深く呼吸を整えていました。

 

「結局午前いっぱいまでかかってしまいましたね....」

 

既に腕と腰が限界を迎えそうではありますが、この痛みとはこれから長い付き合いになりそうです。

とにかくやる事は終えたので、一度茶室で思い切り身体を休めましょう、そう考えていると

 

「先輩、おはようございます」

 

「おはようございます、姐御!」

 

「....ああ、お二人ともおはようございま....」

 

遠くの方からアサリさんとミオさんの声が聞こえてくるのがわかりました。

私は顔を上げ挨拶を返そうとしましたが、視界に入ってきた予想外のものに一瞬固まってしまいます。

 

「えっと、ミオさんが背負っているのはいったい?」

 

ミオさんの背に乗っているのは大きな毛布の塊。

流石に気になった私が尋ねようとした瞬間モゾモゾと毛布が動き、僅かな隙間からニュッと顔が現れました。

 

「.......おはよぅ...」

 

「お、おはようございます、キョウカさん」

 

薄々勘付いてはいましたが、その正体は案の定キョウカさん。

彼女は眠そうな目をこちらに向けるとすぐに毛布の中へと戻っていきます。

 

「あはは...キョウカちゃん、寒くて部屋から出れなかったのでミオちゃんが抱えて行く事になったんです」

 

「そうでしたか、人一人背負ってここまで歩いて来るとは凄いですね」

 

「これくらいは楽勝ですよ!それにキョウカさん全然軽いんで!」

 

「.....温かいお茶飲みたい」

 

苦笑いを浮かべるアサリさんに、自信満々な笑顔を浮かべるミオさん、背負われた毛布の中でボソリと呟くキョウカさん。

彼女達の姿を見ている内に先程までの疲れが不思議と消えていくのがわかります。

 

「あ、ご、ごめんなさい先輩!雪掻きをお手伝い出来なくて...」

 

「いえ大丈夫ですよ、丁度良い運動になりましたしね。さあ、身体が冷えないうちにお茶にしましょうか」

 

私はそう言いながら三人に笑いかけ、暖かな空気が待つ茶室へと足を踏み入れたのでした。

 

 

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