ゲヘナに漂うお茶の味   作:Mrふんどし

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サボり少女のお仕事

早朝から少しばかり経った頃、ゲヘナ学園の広場に積もった真っ白な雪の上をトボトボ歩く少女の姿があった。

 

「.....どうして私がこんな...」

 

臙脂色のボリュームのある髪を揺らし、溜息をつきながら冷える身体をさする少女....

 

「こんな日だからこそ部屋でサボる予定が...」

 

その少女の名は棗イロハ、万魔殿の戦車長である彼女は本来であればこの様な時期に自ら外出する事はないのだが...今回は少しばかりそうせざるを得ない事情を抱えていた。

 

イロハは手元の資料を見ながら、数日前の会話を思い出す

 

 

 

 

 

「キキキッ、よく来たなイロハ」

 

その日、マコトに報告事項があったイロハは彼女がいるであろう部屋へとやって来ていた。

 

そこにいたのは予想通りどこか威勢のある顔つきで笑う彼女...炬燵に入りながらの為いまいち迫力に欠けているのだが、本人はまるで気にしていない。

彼女の正面にはイブキが炬燵から顔を出しており、気持ちよさそうな寝息をたてているのがわかる。

 

なんとも緊張感の無い光景にイロハは溜息をこぼしながら扉を閉めマコトの元へと近寄り呟いた。

 

「こんな時間に来るとは珍しいな、何かあったのか?」

 

「まあ色々と、それよりマコト先輩に報告したい事があるんですが」

 

「何っ!ついに風紀委員長の弱点を見つけたか!」

 

「違いますよ...これです」

 

そう言いながらイロハは持っていた手元の用紙をマコトへと手渡す。

 

『雪が邪魔でいつも通ってた道が使えない』

 

『邪魔だから早く雪掻きして欲しい』

 

その様な文句が何枚もの紙にわたって書かれており、それを見たマコトは一体何なのかと首を傾げている。

 

「これは?」

 

「....学園の生徒からの要望書です、最近の大雪でかなり動きが制限されていましたから、不満が出るのも当然でしょう。一部の方々は自分達で雪をどかしているみたいですが」

 

「ふんっ、それくらい風紀委員会にでもやらせておけ。その程度のことでこのマコト様が身を粉にして動く必要はない」

 

(確かに私もあれだけの雪を全部何とかしろと言われても動きたくは無いですが....)

 

「でも今回ばかりは何かしら対応を打たないとマコト先輩が危ないのでは?最近は風紀委員会への評価もまた上がっているようですし」

 

「ぬぅ....」

 

イロハにそう言われ、顔を顰めたマコトは腕を組み何かを考えるように唸るが、それから少しもしないうちに彼女はニヤリと口角を上げるとイロハに向き直り告げた。

 

「キキキ...イロハ、このマコト様を誰だと思っている。それくらいの不満を解決する策は既に考えてあるに決まっているだろう?」

 

「いや、明らかに今思い付きましたよね」

 

「チアキ!」

 

「はーい!」

 

「って、チアキ!?いつの間にいたんですか」

 

そんなツッコミをスルーしたマコトが指を鳴らすと、どこからともなくイロハの背後から同じ万魔殿メンバーであるチアキが姿を現した。

 

「チアキ、資料に合う写真を選んでこい!」

 

「了解です!」

 

「え、今ので伝わったんですか?」

 

「サツキ!」

 

「は〜い」

 

「さ、サツキ先輩までいつの間に...」

 

「今すぐ資料の作成に取り掛かれ、誰もが納得する内容でだ」

 

「ふふ、任せてマコトちゃん」

 

「だから何故それで伝わるんですか?」

 

イロハの言葉が次々と無視される中、部屋を出て行ったサツキとチアキが帰って来たのはそれから一時間程経った頃だった。

 

「はいマコトちゃん、完成したわよ」

 

「写真もバッチリです!」

 

「ご苦労だ二人とも」

 

マコトは二人から受け取った大量の資料の束を見て不敵な笑みを浮かべると、それを眠るイブキの頭を撫でて待っていたイロハへと手渡す。

 

「今度はどんな変なことを考えたんですか?」

 

「キキキッ!安心しろ、さっきの大雪の件を解決出来る素晴らしい案だ」

 

自信満々にそう告げるマコトに、イロハは訝しげな視線を向けながら彼女から手渡された資料に視線を落とす。

 

「.....何ですか、このゲヘナ雪像祭りって」

 

「その名の通りだ、雪で困っているのなら原因そのものを利用してしまえばいい!」

 

「各々雪像を作り、最優秀者には素晴らしい景品を提供....まさかこれで彼女達自身に雪掻きをさせる気なんですか?」

 

「キキキッ!勿論だ!どうだ、我々が苦労せずとも勝手に解決する素晴らしい策だと思わないか?」

 

「流石マコト先輩!」

 

「それを抜きにしても、彼女達がどんな雪像を作るのか今から楽しみね」

 

「もうやるのは確定なんですね...」

 

いきなり飛び出してきた作戦に呆気に取られてしまうイロハ、マコトは高らかに笑うとそんな彼女に指を突きつけ

 

「さあイロハ!その資料を他の生徒全員に配って説明してこい!」

 

「え、まさか今からですか?それに全員って...今日だけでは明らかに終わらなそうなんですが」

 

「それについては問題ない、開催予定日まではまだあるからな。キキキッ!これでまたマコト様の偉大さが大きく広まることになるぞ!」

 

「はぁ....」

 

 

 

 

そうしてマコトから宣伝を任されたイロハは、その日から寒空の下を何日も往復し資料を配り続けていた。

 

『え、雪像祭り?何それ面白そうじゃん!』

 

『へー、景品も出るんだ。折角だし私も参加しようかな』

 

『別にいいけど...それより最近給食部のトラックにも積もって大変だから専用の車庫とか欲しいって伝えて欲しい』

 

『雪像ってどうやって作るの?』

 

『雪で料理作ったらどんな味になるんだろう』

 

等々反応は様々であったが、ここ数日で概ね賛同者を得る事は出来ていた。

残る資料もあと僅か、白い息を吐きながら歩き続ける事数十分後。

 

「あの人は...」

 

不意に視界の前方に一人の少女を見つけたイロハは思わず立ち止まる。

そこにはこの大雪の中、変わらず着物を着て雪掻きをしている朝宮サエの姿があった。

 

「朝宮さん」

 

「おや、棗さんでしたか。お久しぶりですね」

 

イロハが声をかけると、彼女はスコップを雪に突き刺し額に張り付いた髪をどかしながら小さく笑って返事をする。

 

「朝からお疲れ様です」

 

「ええ、本当に....棗さんの方は何か万魔殿のお仕事ですか?」

 

「まあそんな所です」

 

「...どうやらお疲れの様ですね、よろしければこれから茶室へ一緒に来ませんか?こんな寒い日ですからね、温かいお茶をご馳走しますよ」

 

苦笑いを浮かべながら答えたイロハだったが、そんな彼女の顔を見て頷いたサエは小さく笑いながらそう提案してきた。

サエからの誘いにイロハは任された仕事についての考えを巡らせるが、身体がこれ以上冷えるのも良くない、健康管理も仕事の内と結論付け二つ返事で彼女と一緒に部室棟へと向かって行ったのだった。

 

 

 

 

 

「どうぞ」

 

「いただきます」

 

サエと共に茶室へと辿り着いたイロハは、早速彼女が目の前で淹れたお茶を味わっていた。

味もさることながら、この季節だからこそより沁みる温かさにイロハは満足そうに頬を緩ませる。

 

「それで、イロハさんは何をしていたのですか?」

 

自分用の湯呑みを手に取るサエに尋ねられたイロハは、畳の上に置いていた資料を彼女に見せながら数日前にあった出来事を話し始めた。

事情を聞いたサエは何度も頷きながら、資料をペラペラと捲り目を通していく。

 

「成る程、そんな事が....ですがこれまでの事と比較すると今回の場合は結構良いアイデアかもしれませんね。方法はどうであれ、あの積雪量には正直手を焼いていましたから」

 

「それもそうですね...だからと言って私一人がこれを配るのは少々骨が折れる作業ではありますが」

 

「まあ、確かに...本当にお疲れ様です」

 

サエはぐったり畳に倒れ込むイロハを見ながら困った様に笑いかける。

 

「では私もこのお祭りに参加しましょうかね」

 

「....良いんですか?」

 

「ええ、毎日していた雪掻きで体力はついていると思うので。それにたとえ私は作らなくても、多少の雪を運ぶ程度であれば他の方々を手伝えるかもしれませんしね」

 

そう言ってサエは着物の袖を捲ると、少し自信ありげな顔で腕を曲げ全く見えない力こぶを見せるポーズをとる。

彼女の様子に思わず吹き出してしまったイロハは、それから倒れていた身体を起こした。

 

「ありがとうございます、サエさん。では私はそろそろ.....」

 

まだ残りの資料を配り終えていない事を思い出し、仕事の続きをする為立ちあがろうとしたイロハだったが

 

「....いえ、やっぱりもう一杯おかわりをいただけますか?」

 

そう思い直し、彼女は畳の上へ座り直した。

 

「ふふ、ええ勿論」

 

その言葉にサエは嬉しそうに笑いながら、再度お湯を沸かしお茶淹れの準備を進めたのだった。

 

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