ゲヘナに漂うお茶の味   作:Mrふんどし

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平社員との邂逅

「もうすっかりクリスマスムードですね...」

 

今日は丁度時間も空いたので私は久々に郊外の方へ買い物に来ていたのですが、そこに並んだお店の多くでは既にクリスマスの準備が進められていました。

お店の前に置かれた看板や飾り付け、イベントポスターなど各々気合の入った宣伝が所狭しとされている光景に、改めて今年も残りあと僅かであると実感させられます。

 

(去年はあまり本格的な催しはしてませんでしたが...今年はアサリさん達がいる事ですし、何か用意した方がいいかもしれません)

 

そんなもうじき迫ったクリスマスに想いを馳せながら歩いていた私でしたが、少々考えることに没頭し過ぎてしまった為か、周りへの注意が散漫となってしまいました。

 

「きゃっ!」

 

「あぅ...!」

 

そのせいで前から歩いてくる通行人に気づかなかった私はそのまま避ける事なくぶつかってしまいます。

 

「す、すみません!ついぼーっとしてしまいまして...お怪我はありませんか?」

 

「あ、だ、大丈夫...です」

 

互いに小さく声を漏らす中私はぶつかってしまった人物に謝りますが、目の前の少女はどこか顔を隠す様に呟いています。

 

(ん?あれ...彼女はどこかで見た様な....)

 

ですがその時、少女の姿に何故か見覚えがあると思った私は改めて彼女をじっと観察してみると、その面影が徐々に記憶と共に浮かんできました。

 

紫の髪にどこかオドオドとした態度...確か私が以前骨董品屋に向かっていた時、途中で出会ったアルさんのそばにいた....

 

「もしかして、伊草さんでしたか?」

 

「えっ...」

 

不意に私がそう尋ねると、彼女は驚いた様子でこちらに向き直ります。

やがて伊草さんも私を思い出したのか、ハッとした表情を浮かべると同時に何故か身体を硬直させ、それから凄い勢いで何度も頭を下げ始めたのです。

 

「あ、アル様のご友人の....っ!?す、すみません!すみません!私なんかがぶつかってしまって...!」

 

「い、伊草さん!?急にどうしたのですか!?」

 

「すみませんすみませんすみませんすみません!」

 

その勢いは止まる事を知らずに段々と激しくなっていき、ついにはその場で土下座しそうになる程まで謝罪が激しくなってしまいます。

 

(ま、不味いです、このままではあらぬ誤解を....)

 

既に周りの通行人も不思議そうにこちらを見つめているのがわかります。

 

「い、伊草さん!もう大丈夫ですから!それに元々私が注意を払ってなかったのが原因ですし...」

 

「で、でもアル様のご友人にとんだ失礼を....も、もしかして謝る価値もないって事じゃ....死にます!」

 

「何故そうなるんですか!?と、とにかく一旦落ち着きましょう!ね?」

 

何度もショットガンを自分に構えようとする伊草さんを止めつつ、とりあえずここから離れようと私は彼女を連れて人通りの少ない公園に向かったのでした。

 

 

 

 

伊草さんを宥めること数分、私はようやく落ち着いてくれた彼女と一緒にベンチへ腰掛け安堵の溜息をついていました。

先程まで何度も銃に手をかけようとしていた伊草さんでしたが、今では身体をこぢんまりとさせながら隣で座っています。

 

「す、すみません....わ、私なんかの為に余計なお時間を割かせてしまって」

 

「いえ、お気になさらないでください....ところで、あそこにいたということは、伊草さんも何かお買い物に来ていたのですか?」

 

「か、買い物....あっ」

 

堅苦しいこの場の空気をほぐそうと何の気なしに尋ねたつもりだったのですが、私の言葉を聞いた伊草さんは明らかにサッと顔を青くさせると、そのままガクガクと再び震え始めました。

 

「あ、ああああ...わ、私は何という事を....や、やっぱり死んでお詫びを..!」

 

「伊草さん!?」

 

またもや銃を手に取ろうとした彼女を慌てて制止し、それから詳しく彼女の話を聞いてみると、どうやらアルさんの頼みで買い物に来ていたのだとか。

 

「クリスマスの準備?」

 

「は、はい...こ、今回は奮発しようとアル様が仰いまして。た、食べ物を買うのはまだ早いので小道具を先に...」

 

「成る程、それでアルさんが伊草さんに頼んだと」

 

「そ、そうです....で、でもアル様に頼まれた仕事を一瞬でも忘れてしまった私は....」

 

「い、伊草さん!また銃に手が伸びてますよ!」

 

まさか彼女がここまで思い詰めてしまうタイプだったとは....正直このまま別れて帰るのは心配ですね、今日は時間がある事ですし。

 

「では私も一緒に付き添いましょう」

 

「え、そ、そんな....わ、私なんかがアル様のご友人の手を煩わせる訳には...!」

 

「別に手間ではないですよ、私も今日は何かないか探しに買い物に来ていたので....それにアルさん達の近況も聞いてみたいですし、教えていただけると嬉しいです」

 

「あ、あああぅ....ご、ご期待に応えられる様頑張ります!」

 

「いえ、ただ買い物をするだけなのでそこまで気合を入れなくても大丈夫なのですが....」

 

 

 

 

それから暫くして、私は伊草さんと共に目的のお店を目指し歩いていました。

その途中彼女から便利屋の現状を聞いたのですが、どうやら最近はそこそこ依頼が届いており資金面では余裕が出始めているとの事。

 

...その内容は主に雪掻きなどの一般的なものらしく、アルさんが目指すアウトロー的なものでは無いと嘆いているそうですが...まあお金に困っていないのは良いことです。

 

「それにしても、やはり自分達で起業して生活出来ているのは凄いですね」

 

「っ!は、はい...!流石アル様ですよね....!」

 

私が素直にそう告げると、彼女ははっきりと目を輝かせて答えました。

その様子からアルさんへの大きな信頼が見て取れます。

 

「伊草さんはアルさんをとても慕っているのですね」

 

「....アル様は、わ、私を救ってくれた方ですから....あ、アル様のためであればどんなことだろうとやってみせます...!」

 

「...ここまで慕ってくれる社員がいるのですから、彼女もきっと幸せだと思いますよ」

 

伊草さんの力強い宣言を聞いた私は、小さく微笑みながらそう答えました。

 

「おや、どうやら着いたみたいですね」

 

そんなやり取りをしているといつのまにか目的のお店が目の前に迫っており、私の言葉に反応した伊草さんは急いで店内へと走っていきます。

それから彼女の後を追った私はクラッカー、蝋燭、ライター、飾りなど様々な小物を一緒に選び、お店を出る頃には両手いっぱいの紙袋がいくつも出来上がったのでした。

 

(少々買いすぎた様な気もしますが....まあ伊草さんが嬉しそうにしているので良いのでしょう)

 

「あ、ありがとうございました....!これできっとアル様も喜びます...!」

 

「気にしないでください、私もある程度飾りなどを揃えることが出来ましたので。よろしければ事務所までお送りしますよ、荷物も多く大変でしょうし」

 

そう言って店を出た私は彼女の荷物を少し持とうとした瞬間

 

ドォォォン!

 

ババババッ!

 

突然の爆発と共に何発もの銃弾が辺りにばら撒かれました。

私は急いでしゃがみすぐさま銃弾が飛んできた方角を目視すると、そこには案の定何名ものスケバン達が他の店共々襲っている姿が。

 

「おらおら!とっとと退きな!」

 

「どこもかしこもクリスマスムード漂わせやがって、ムカつくんだよ!」

 

「ケーキ!チキン!プレゼント!全部アタシらのもんだ!」

 

「.....これまた何と言ったらいいのか...」

 

明らかに正当性の無い理由を掲げて暴れる彼女達に溜息が溢れてしまいますが、このまま放っておけば他のお店や住民への被害が更に拡大してしまうでしょう。

 

「伊草さん、戦えますか?ここはひとまず彼女達の動きを.....伊草さん?」

 

そう考え私は隣にいるであろう伊草さんに声をかけましたが、何も反応が無い彼女に疑問を覚え視線を向けると

 

「......」

 

そこにいた伊草さんは何故か無言で顔を俯かせていました...彼女の目の前にはスケバン達が投げ込んだであろう爆弾の衝撃により吹き飛ばされた、先程買い物をした商品が散らばっています。

そのいくつかは残念ながら潰れたり破けてしまっている様です。

 

「.....ない」

「あ、あの伊草さん?大丈夫ですか...?」

 

「....さない」

 

「え?」

 

何かをぶつぶつと呟いている彼女に何処か嫌な予感を覚えた私は恐る恐る声をかけますが、それから間もなく伊草さんが思い切り顔を上げたかと思えば

 

「許さない許さない許さない許さない許さない許さない!」

 

まるで呪詛の様に言葉を連呼しながらスケバン達を睨みつけました。

 

「アル様の大切なクリスマスの準備を.....台無しにするなんて、許せません!!!」

 

「ちょ、伊草さん!?待っ...!」

 

「あああああああああっ!!!!」

 

私の制止も虚しく、伊草さんは銃を片手に叫びながら彼女達の元へと突撃していきます。

 

「うわっ、な、何だこいつ!?」

 

「こいつ目がやべぇ!」

 

「アル様の楽しみを傷つけるのは許せません!!!!」

 

「ぐべっ!」

 

突然現れた伊草さんに彼女達は困惑しつつも銃弾を浴びせますが、彼女はまるで何事もなかったかの様にそのまま突進しスケバン達を薙ぎ倒していきます。

 

「......」

 

そんな彼女の姿を私は遠巻きにポカンと眺めることしか出来ませんでした。

....まさか彼女がこんなにも危うい子だったとは、彼女を制御出来ているアルさんは凄いですね。

 

どこか尊敬の念が湧き起こりながら伊草さんとスケバン達の戦闘を観察していた私でしたが、ふと彼女の手にあるものが握られているのに気づきました。

 

「ん?あれは.....って伊草さん!そこでそれを起爆させては...!」

 

彼女の手に握られているのは、どこに隠し持っていたのかと言わんばかりの大量の爆弾。

 

「お、おい!こいつ爆弾持ってるぞ!」

 

「逃げ......」

 

カチッ

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと!どうしたのよその格好!?」

 

現在目の前では、アルさんがものすごく慌てた様子であたふたと動き回る姿が繰り広げられています。

 

スケバン達による襲撃後、暴れていた彼女達を拘束した私達はアルさん達便利屋の事務所にやって来ていました。

 

入り口から顔を出したアルさんは始めこそ普通に出迎えようとしていたのですが、私と伊草さんの格好を見た途端白目をむいて事務所の中へと通してくれました。

 

...まあ彼女が慌てるのも無理はないでしょう。

片やボロボロとなった着物を身につけ、纏めていた髪が解けてボサボサと広がっている私。

片や同じく服がボロボロと破れ、顔が煤だらけとなった伊草さん。

そんな姿を見れば彼女の反応は当然です。

 

それから事務所の中で代わりの服を借り着替えた私は、先ほどまでの出来事を順にアルさんへ伝えました。

 

たまたま伊草さんと出会ったこと、一緒にクリスマスの準備の為の買い物をしたこと、その途中でスケバン達が現れたこと、その時伊草さんが大量の爆弾を起爆させたこと....全てを聞き終えたアルさんは私にすぐに頭を下げました。

 

「本当に巻き込んでごめんなさい!」

 

「す、すみませんすみませんすみません!わ、私のせいで....」

 

「だ、大丈夫ですから。お願いですから顔を上げてください」

 

アルさんの隣に立っていた伊草さんも必死に頭を下げてきますが、私はお二人の顔を上げさせると安心させる様に言葉を続けます。

 

「あの爆発は伊草さんがスケバン達を止めようとして使ったものですから...あまり気を負わないでください。それに悪いのは元々あそこで暴れていたスケバンの方々です、伊草さんはアルさん達の為に購入した商品が台無しにされた事に怒っただけですので」

 

私がそう言うとアルさんは申し訳なさそうにしながらも、こちらの思いを理解してくれたのか目を閉じ頷きました。

 

「わかったわ...ありがとう。でもとりあえず着物は新しいのを弁償させて頂戴、せめてそれくらいはしないと」

 

...私としては簪を守ることが出来ましたし、着物に関してもまだ替えが何着もあるので別に良かったのですが、アルさんは何か私にお詫びをしないと気が収まらないようで断ろうにも頑なに首を横に振り続けています。

 

(うぅむ、かといって弁償させるというのも気が引けるのですが.....)

 

そんな中、ふと私はある事を思いつきそれを彼女に提案しました。

 

「わかりました、では弁償の代わりとしてこちらからひとつお願いしたい事があるのですが...」

 

「!ええ、勿論。何でも言って頂戴!」

 

それを聞いたアルさんは何でもこいと言わんばかりの表情で私の言葉を待っています。

そんな彼女に私は...

 

「では.....すぐとは言いませんが、いつかこの事務所でお茶会を開かせて貰えませんか?」

 

「...へ?」

 

あまりに予想と違った内容だったのか、アルさんは私の話を聞いて固まってしまいました。

 

「え、そ、それだけでいいの?もっとこう...」

 

「ええ、私はそれで十分です。前々からアルさん達にお茶を振る舞いたいと思っていたのですが、結局中々会う機会も少なかったですし、これまで叶えられずじまいだったのです」

 

「それに...未来のお得意様と言われているのにも関わらず、依頼の一つもしないのは駄目でしょう?なので、”初回の依頼を無料にする”....それで今回の件は終わりにしてもよろしいでしょうか?」

 

そう尋ねた後暫く無言で立ちすくしていたアルさんでしたが、

 

「....ふふ、いいわ。その依頼、便利屋68が引き受けてあげる」

 

やがてそう告げながら、彼女は仕事人らしい不敵な笑みを見せてくれたのでした。

 

 

 

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