ゲヘナに漂うお茶の味   作:Mrふんどし

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クリスマスのひと時

「もうすぐ?」

 

「はい、おそらくその筈ですが....」

 

街灯の光に彩られた中をゆっくり進んでいく一台の車...それを運転する私はキョウカさんの言葉に周りの風景を見ながら答えます。

今日はクリスマスイブ、現在私達はゲヘナを飛び出しトリニティのある場所を目指していました。

 

何故私達がトリニティへ来ているのか、それは数日前届いたモモトークが理由です。

 

『サエさん、クリスマスイブのご予定は何かありましたか』

 

『よろしければご一緒にお祝いをしようかと思っておりまして...是非トリニティまでお越しいただけないかと』

 

『勿論他のメンバーの方々も来ていただいて結構ですわ、一緒に年に一度のイベントを楽しみましょう?』

 

突然届いたシズクさんからの連絡に始めは驚いた私でしたが、特に予定も決まっていませんでしたし皆さんと楽しめるのであれば断る理由もありません。

 

そう思い彼女のお誘いを二つ返事で答えた私はそれから送られてきた目的地の場所を調べ、来たる当日に向けての準備を進めたのでした。

 

「あ、あの建物じゃないですか?」

 

記憶の中で今日までのやり取りを振り返っていた私は助手席から聞こえてきたアサリさんの声に視線を向けると、そこには確かに来る前に調べた建物が見えました。

 

「.....調べなくてもわかったかもしれませんね」

 

「そ、そうですね...」

 

「大歓迎ですね!」

 

「おお、目立ってる」

 

ですが、目の前の光景を見た私は思わず苦笑いを溢してしまいます。

何故なら....

 

《お茶飲み同好会ご一行様、貸切》

 

そう書かれた巨大なポスターが建物上部に掲げられていたからです。

明らかに異様な光景に近くを歩いている歩行者は不思議そうな目を建物に向けています。

 

...正直あの中を歩いて行くのは躊躇われますが....折角シズクさんが待っていてくれるのですから行かない訳にはいきません。

 

私は近くの駐車スペースに車を停めると積んできた物を手分けして運びながら件の建物へと近づいて行くと、タイミングを合わせたかの様に目の前の扉が開かれ中からシズクさんが姿を現しました。

 

「あらサエさん、それにお三方も、お待ちしておりましたわ!」

 

「シズクさん、今日はお誘いありがとうございます」

 

「何も気にする必要はありませんわ、私がただ皆様方と楽しみたかっただけですもの....さあどうぞ中へ!」

 

それからニコニコと笑顔を浮かべる彼女に促されるまま中へと足を踏み入れた私達...彼女の案内で奥へと進んでいくと、すぐさま豪華な飾り付けが施された部屋が出迎えてくれました。

 

「す、凄い部屋ですね....まさかこれもシズクさんがご用意を?」

 

「ええ、折角のイベントですもの。これくらいは当然ですわ」

 

得意気な顔をするシズクさんを横目に改めて部屋を見てみますが、明らかにただのイベントの為にしては過剰過ぎる飾り付けが多い様な気が....

天井に設置されたランプしかり、テーブルや椅子に至るまで...更にテーブルの上にはとても美味しそうな食事が食器に盛り付けられており、彼女がどれだけ本気で準備していたのかが伝わってきます。

 

これに加えて今日の為にこの建物を貸し切ったというのですから、彼女の行動力には目を見張るものがあります。

....以前から思っていましたが、いとも簡単にこうして実行に移せるシズクさんの資金力はどうなっているのでしょうか?もしかするとトリニティではこれくらいが普通なのかもしれません...

 

その事実に若干怖くもありますが、ここまでしていただいたのですから楽しまないのはそれこそ失礼です。

私達も全力を尽くして今日という日を満喫するとしましょう。

 

「さあ、お好きな席に座ってくれて構いませんわ!今紅茶をお淹れいたしますので」

 

「ありがとうございます...では座りましょうか」

 

「は、はい!」

 

「じゃあ失礼して...」

 

「お腹空いた」

 

こうして私達のクリスマスパーティーが幕を開けたのでした。

 

 

 

 

 

「美味いですねこれ!」

 

「こんなに美味しいお肉初めて食べました...」

 

「...っ!」

 

「きょ、キョウカさん、美味しいのはわかりますがあまり一気に食べない方が...」

 

パーティー開始から暫く、それぞれ席についた私達はテーブルに並べられた料理の味に舌鼓を打っていました。

アサリさんとミオさんは目を輝かせながら、キョウカさんは夢中になり過ぎてもはやこちらの声が聞こえていない様です。

 

「うふふ、そこまで喜んでいただけるなんて用意した甲斐がありましたわ」

 

「こちらは全てシズクさんが?」

 

「はい、こう見えて料理を作るのは少し得意でして」

 

「...凄いですね」

 

私は彼女の話を聞きながら改めて目の前に盛り付けられ料理を口に運んでいきます。

...正直お店と遜色ないレベルです、ここまで上手く作るのにきっと努力を重ねてきたのでしょう。

 

そんな彼女の料理を食べ進めていた中

 

ドォォォン!!!

 

「っ、な、何ですかいったい?」

 

突然建物の外から激しい轟音が鳴り響きました。

私は慌てて振り返り窓の方に視線を向けますが、音は断続的に聞こえており、だんだんと遠ざかっている事からどうやら音の発生源は移動している様です。

 

まさかこんな街中で暴動が?そう考えていた私でしたが、シズクさんは特に驚いた様子もなくティーカップを口元から離すと答えました。

 

「ああ、あれは救護騎士団の方々ですわね」

 

「...救護騎士団?」

 

「ええ、きっと何か喧嘩辺りが起きてその怪我人と原因になった者達を気絶させているのでしょう」

 

「成る程....ん?待ってください、その言い方だとその場にいる全員を武力で制圧している様に聞こえるのですが...」

 

「まあ実際それに近いものですので間違っていませんわ、何しろ怪我の治療よりも、その怪我の原因を取り除けば良いというのが信条ですもの。今頃は全員がトリニティの保健室に運ばれている所でしょう」

 

(それだと本末転倒なのでは?)

 

私は思わずそうツッコミたくなる衝動に駆られますが、ぐっと堪えます。

....名前からしてうちの救急医学部の様な組織だとは思うのですが、想像していたよりトリニティは中々凄いところなのかもしれませんね。

 

『死た....怪我人を回収しにきました、速やかに離れてください』

 

(...いえ、よく考えるとこちらも似た様なものだったかもしれません)

 

それ以外にも彼女からトリニティ学園についての様々な話を聞きつつそれからもパーティーは続き、ある程度用意されていた料理もその量を減らしていきました。

ですが想定していたよりも食べる量が多かったのか、私とシズクさん以外の三人はまだ食べられそうな様子....

 

「時間もある様ですし、何か追加で買ってきますわ」

 

そんな彼女達の様子を見てシズクさんはそう言って立ち上がりました。

 

「では私もご一緒してもいいですか?」

 

「あら、別に待っていても構いませんのに...」

 

「何もかもシズクさんにお任せするのは申し訳ないですし....それにトリニティの街並みもゆっくり見てみたいですからね」

 

「成る程、それでしたら私がバッチリ案内して差し上げますわ」

 

「アサリさん、キョウカさん、ミオさん、そういう事ですので少しお留守番をお願いします」

 

「は、はい、すみません...」

 

「姐....サエ先輩達がいない間の留守は任せてください!」

 

「気をつけてね」

 

こちらの申し出に頷いたシズクさんを背に、私は三人へ建物の留守を頼むと彼女と共に少し暗くなったトリニティ郊外へと足を踏み入れたのでした。

 

 

 

 

 

「ありがとうございましたー」

 

そうして建物から出て暫く、お店から出た私とシズクさんはそれぞれ手に箱を抱えて歩いていました。

 

「丁度良い時に来れましたね」

 

「ええ、てっきり混んでいるかと思っておりましたが、すんなり買い物を終えられて何よりですわ。それに歩いたおかげか何だか私もお腹が空いてきてしまいました」

 

他愛もない会話をしながら進む建物までの帰り道、その途中で私は改めてシズクさんに今日のお礼を告げました。

 

「シズクさん、今日お誘いいただいて本当にありがとうございました。おかげでとても楽しい時間を過ごす事が出来ました」

 

「それは私も同じですわ、数日前に突然連絡したにも関わらず来ていたけたのですから....それにしても、あの時山の中で出会ってからこうして一緒に過ごす様になるなど思いもしませんでしたわ」

 

「ふふ、確かにそうですね」

 

私はふと棗さん達と紅葉を見に行った時の事を思い返します。

あの時は急に勝負を仕掛けられ、実際後日勝負を行いその後何故かライバル認定され....今ではたまにゲヘナにまで遊びにくる様になったシズクさん。

彼女との出会いは本当に突然でしたが、その偶然のおかげでこうして同じ時を過ごせているのですからその巡り合わせには感謝しなければいけません。

 

「さあ、ゆっくりしていると折角買ったものが冷めてしまいますわ」

 

「ですね、急いで....」

 

ドォォォォン!!!!

 

「救護騎士団の団長と戦ってるって聞いたけど本当なの!?」

 

「わからないけど、ハスミ先輩達の近くにいる子から連絡来たから間違い無いと思う!」

 

「い、急がなきゃ!」

 

「......」

 

またもや遠くの方から鳴り響く轟音と、それに反応したのか慌てて目の前を駆け抜けて行く黒い制服を身に纏った少女達。

 

「サエさん、どうかされましたか?」

 

「.....いえ、何となくゲヘナと似たところがあるんだなと思いまして」

 

「?」

 

私は走り去って行く彼女達を目で追い苦笑いを浮かべながら、こちらを不思議そうに見つめているシズクさんに並んで三人の待つ建物へと早足で向かっていったのでした。

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