【本編完結】山田リョウを餌付けした未練タラタラな元カレくん 作:SUN'S
ようやくバイトを終えた帰り道。
「玄関前でどうしたんだよ。合鍵は?」
「合鍵はダメだ。私の部屋に置いてきた」
「お前は天津飯か何かか?」
そうまだ少し肌寒さが残る季節だというのに下北沢高校の制服姿で俺の部屋の前に座り込んでいるリョウに話し掛けると俺の漫画のネタをドヤ顔で披露してきた。
こいつ、寒くても余裕あるのか。
「とりあえず、シャワーでも良いから風呂に行っとけ」
「いやん」
「アホなことしとらんで、早う行け!」
わざとらしい照れ顔を作っているリョウにドギマギしながら部屋の中に招き入れ、さっさとシャワーを浴びるなりして冷えた身体を温めろと文句を言う。
しかし、今夜はリョウも帰って一人だけだと思ってたからな。あんまり食材をストックしてない。はあ、仕方ねえから冷凍保存してた野菜使って、今夜は少しだけ豪華に天ぷらだ。
俺は一人鍋用に買ってきたシイタケの茎を切り、傘の部分に軽く切り込みを加え、特売で買った大葉の付け根は軽く洗い、キッチンペーパーで水気を切る。
チクワやアスパラは大胆にぶつ切りに、海老は頭を切り落として殻と背わたを抜く。冷凍のイカをお湯を使って解凍し、ゲソと頭部を切り分け、丁寧にイカの内臓を取り出す。
コイツはコイツで塩辛にして、近所の酒飲みお姉さんに渡しておけば無駄になるとはない。そんなことを考えながら良さげな温度になってきた油の中に衣を一滴し。
ジュワアァァァッ……。
なんとも心地好い音色を奏でる油の海に衣を纏わせた海老を投下し、さらにもう一個ほど海老を油の海に投下している間にバイトに行く前に用意していた炊飯器を確認して、炊飯器ごと居間にお米を運ぶ。
ロングケーブルって、こういう時に役立つ。
「お風呂ありがと」
「……お、おう…」
「?」
相変わらずお風呂上がりのリョウの破壊力はヤバすぎる。元カレだったから耐えられたけど。普通にまだ彼氏だったら我慢できずに襲ってた、マジで恐るべし!!
そんなことを考えながら和紙はないので、キッチンペーパーを敷いた四角形の大皿に天ぷらを乗せていき、塩、めんつゆ、カレー粉と各種スパイスの粉末など小鉢に入れてリョウの待つテーブルに向かう。
「お待ちどう」
「今日も待ってたよ」
「良いからお茶碗貸せ」
「ん」
ゆっくりと濡らしておいた杓文字を使い、リョウのお茶碗に白米を乗せていると「もっと」やら「まだだ」やらとリョウが俺に囁きかけてくる。
「ほら」
「まだ、いけた」
それは、お代わりすれば問題ない。
「「いただきます」」
いつものように言葉を紡ぐ。
「はむっ」
ちょんっ、と。めんつゆにイカの天ぷらを浸したリョウはきつね色の鮮やかな衣を染めるめんつゆを、うっとりと見つめたかと思えば、天ぷらの半分にも届かない量を齧る。僅かに綻んで緩んだ彼女の表情に俺も満足し、俺はイカの天ぷらを塩で食べる。