HUNTEE+HUNTEE   作:砂漠谷

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ハンターハンター連載?再開おめでとうございます
ということで堪えきれず投稿しました。
一週間は毎日更新します。


BETRAYER

「~♪、ふふ、ハンタ38巻発売だァ!」

 

 つい嬉しくて、声を上げてしまう。

 底辺エンジニアとして、職場と家を往復する日々。仕事が忙しく、本誌に手を付けることができていなかった。

 だが、単行本を読むスキマ時間くらいはある。有名な漫画だ、コンビニにも売っているだろう。付録のしおりも欲しいが、書店に行く暇はない。

 

 足取り軽く、家に帰る途中で目に入ったコンビニに寄り道をする。

 

 ――多少人より妄想するのが得意で、中学生の頃には、黒歴史ノートを百科事典ほどの量、書き上げた記憶がある。

 そんな特技を活かすことができたらいいな、と、コンピュータの専門学校に入ってCGグラフィックを学ぶが、月並な言葉を言えば「思ってたのと違った」。

 CGの仕事は、創作性など求められず、デザイナーの指示に従って3次元に起こすだけの作業だった。そして需要は少ない。

 デザイナーになる、という選択肢は無かった。絵はてんでダメだった。一年間毎日一時間書き続けても、人の顔は歪んでしか描けない。脳内でははっきりと現像されているのに。不器用なのだ、要は。

 

 パソコンの知識を活かし、どんな会社でも需要のあるセキュリティシステムで下働きをする日々。セキュリティも、妄想とはかけ離れている、地に足をつけて現実の脅威を認識しなければ、やっていけない仕事だ。ストレスがたまる。

 

 だが、その漫画。HUNTER×HUNTERは、時折降る恵みの雨だった。短期連載しては長期休載し、を長い事やっているが、あの情報量を完全に消化しきって自らの血肉とするには、それくらいがちょうどいい、とすら思う部分もある。長期休載という、砂漠に慣れきってしまったとも言えるが。

 

 そしてその最新刊が、自動ドアが開いた先に――え?

 

 眼の前には、包丁を店員に突き出して脅している、覆面の男がいた。

 

「おっ、お前!そこを動くな!動いたらこの女を殺すぞ!」

 

 コンビニ強盗だ、明らかにコンビニ強盗だろ。コンビニ強盗にしか見えない。何かの撮影? 他の店員は? 夜だからワンオペ営業なのか? お前って誰? 俺のことか?

 混乱した脳は現状の認識と疑問で体が硬直する。

 

 そして、そんな状況の最中に、レジの前に置いてある本の表紙が、目に入った。

 

 笑顔で拳を突き出している、ゴンのイラストが。

 

 相手ではなく。ゴンを凝視しつつ、手に持っていたカバンを地面に落とし、手を挙げる。

 

 しかし、その態度が相手の癪に触ったようで。

 

「あ゛っ!? お前、何漫画本見てんだよ! 無視しやがって、どいつもこいつも、俺を無視しやがって! あああああ!」

 

 相手に視界を戻すと、包丁を腰だめに構え、俺に向けて駆けつけざまに突き刺そうとしているところだった。

 

 ああ、こんなところで死ぬのか。

 

 走馬灯は、中学時代、友達を作らずに積みに積み上げた黒歴史ノートの内容だった。あのときは図書室に籠もって、色々な小説や図鑑を読み漁り、様々なオリジナル能力やモンスター、果てには物理・魔術法則まで作り上げたっけ。

 

 走馬灯とは、一説には、死を回避するために使える過去の情報を漁っている状態らしい。全く、俺の人生は使えないことばっかり積み上げてきたものだ。

 

「あ」

 

 包丁が、俺の胸目掛けて勢いよく突き刺さろうとする瞬間、相手が、まるで防御を捨てていることに気がついた。

 

 胸ポケットのボールペンを引き抜き。せめてもの抵抗、とか。一矢報いる、とか。何も考えず。ただそれが当然かの如く。相手の眼球とその奥の脳に届くように、ボールペンの切っ先を突き出した。

 

 俺の心臓が貫かれるのと、俺の指先に、脳までペン先が突き刺さる感触がするのは、ほぼ同時だった。

 

 失血により、急激に意識が薄れる。最後の思考は、以下の通り。

 

「――不器用じゃないじゃん、俺」

 

 暗転。

 

 

 

 明転。

 靄のかかった白い空間に、二人の人影がいた。

 一人は俺、もう一人は、よく姿がわからない。ただ、身長と体型が強盗の男に似ている気がした。

 刺された胸を押さえるも、胸ポケットには取り出したはずのボールペンがあり、その向こうから鼓動が感じられる。ボールペンは、ヒヤリと冷たかった。

 

「な、何だよここ! 俺を出せよ! 元の場所に戻せよ!」

 

 人影の声色はあの強盗に似ている。おそらくこいつが強盗だろう。

 

 強盗は振り向き、俺に気がついた。

 

「お前、誰だ? もしかして誘拐犯か? 俺はなぁ、こんなところに閉じ込められていい器じゃねぇんだよ! クソ、なんで、なんでこんなことに……俺は有能なのに……」

 

 思考がダダ漏れだ。ともあれ、俺がこいつを相討った男だとはバレていないらしい。

 

 強盗の前では喋っていなかったと思うが、声色でバレると困る。黙っておく。

 

「……ッチ、だんまりかよ……」

 

 どうやら、暴力を振るって聞き出すことはなさそう。意外だ。

 

 数分ほど沈黙が流れると、どこからともなく、おごそかな声が聞こえてきた。

 

『……ふむ、二人、か』

 

 コレは、アレか。ここはこの世とあの世の境みたいなアレで。この声の主は存在X的な四文字的なアレか。

 異世界転生作品も当然、かつては大量に嗜んでいた。最近は忙しくて殆ど追えていないが。

 

 声が続ける。

 

『貴様を、最も慣れ親しんだ作品の世界に転生させてやる。ここは純粋に、ただそういう場だ。――いいか?貴様"ら"ではない。貴様だ』

 

 複数形ではなく、単数形、つまり――。

 

「つまり言葉を発しないこいつみたいなモブ人影じゃなくて、俺様ってことか! ありがとう、神様かなんか! じゃあ俺を対◯忍の御館様にしてくれ!」

 

『強請るな、勝ち取れ』

 

「ッチ、転生先の地位は未定かよ、まあ対◯忍世界ならバカばっかだし成り上がれるだろ! じゃあ転生頼む!」

 

『強請るな、勝ち取れ』

 

「あ゛? 壊れたか? おい、おーい、神様が壊れてんじゃ、ンぎっ――」

 

 俺は、というか多分この男もだが、転生前と同じ格好をしていた。

 

 男の手には包丁は見つからなかったが、俺の胸ポケットにはボールペンがあった。

 男は俺をNPCのようなものと見なし、俺は男を明確な敵として見定めていた。

 

 先ほどの殺し合いとの違いは、ただそれだけだった。

 

 複数形ではなく単数形、さらに、強請るな勝ち取れという言葉。それが意味することは、コレだ。

 

 目の前に、眼球を貫かれ、脳をかき混ぜられた死体が転がる。霧は晴れ、空間は星のない宇宙のように黒く染まる。霧と共に、蝋燭の火が吹いて消されるように、死体も消えた。

 

『よくやった。転生特典は何がいい?』

 

 声だけが響く。視界が一瞬ブレ、黒く滑らかなナニカが見えた気がした。だが、これに意識を向けないほうがいいだろう。目をつむりその言葉にだけ集中する。

 

「転生特典、そこまでテンプレなのね。世界はHUNTER×HUNTERで合ってます?」

 

『ああ、生まれはメビウス湖内で、運命力が高いところでランダムだな。くじら島、ヨークシン、カキン帝国首都、流星街、NGL、東ゴルトーあたりが確率が高いな。転生特典に関しては、基本として"ゴンやキルア並の念・フィジカルの潜在能力"がある。それに加えて幾分かやろう。』

 

 幾分、幾分ね……。その幾分の程度を超えたら危険そうだ。

 

「随分饒舌になりましたね。では。『生まれた時から"纏"と"絶"と十全な思考ができる』でお願いします。"纏"と"絶"の精度に関しては、そちらにおまかせします」

 

 努力、友情、勝利のジャンプ三大原則を、ハンターハンターはそれなりに踏襲している。成熟した精神と、念におけるスタートラインである"纏"と"絶"。これらを生まれた時に習得することで、努力を始めて勝利にたどり着くまでの圧倒的なショートカットとなるはずだ。

 

『ククク、ハハハ! なるほど、随分考えたな! 詳細を定めず、こちらに裁量を放り投げるか! 強力すぎたり注文が多かった場合、こちらで勝手に相応のデメリットを付け足しておくつもりだったが、それも不要そうだ。オマケで、言語知識も与えておいてやろう』

 

 やはり。()()は邪神の類だ。一方的に、こちらの堕落や悲鳴を愉しむタイプの神。それもただの邪神ではなく、トリックスターに近い性質の持ち主。

 

「ありがとうございます。では、それでお願いします」

 

 こういった類が上機嫌な時には、刺激しない方がいい。触らぬ神に祟りなし、早々に離れたい。

 

『フ、では、門を開く。躊躇せず、さっさと行けよ。ここで修行でもされると面倒だ』

 

 目を開く。

 黒い空間が歪み、更に黒い、いや、虚無色と言うべき孔が空いた。

 

 深呼吸して、一礼。

 この世界そのものに、俺は救われていたのだから。

 

 頭を挙げて、一歩を踏み出し。

 

 意識は、掻き消えた。




強盗のモデルは、作者です(薄っぺらな嘘)
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