HUNTEE+HUNTEE   作:砂漠谷

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主人公は人間の屑にして復讐者の鑑


透明なゆりかご

『ボォオオオオオオ』

 

「ホエールがぼえーるってか、ぎゃははは!」

 

 イーファが晴天の下、白鯨の上で寝ころぶ。

 ここは海上、念獣モビーの背の上。

 

 海に落下した人身売買の被害者たちは、殆どが無事だった。鉄骨などにぶつかって負傷した人でも、即死でなければトーヴの念能力で治癒された。

 トーヴの念能力をサポートするために、彼の変化オーラを用いた新たな念獣も描いたが、それは後で紹介するつもりだ。

 被害者百数十人のうち、船崩壊による死亡者は二人。それも元々かなり怪我をしていて、衰弱していた人たちだった。

 トーヴは自分を責めていたが、むしろここまで暴れまわって死者は二名、上出来な方だろう。

 

 母の遺骸も、被害者たちの死体置き場に安置されていたのか、他の死体と共に冷凍されていた。疫病を生まないように、という意図だろうか、死体焼却装置が船にないため、氷漬けにされていたのは不幸中の幸いだった。水没した彼女をイーファと共に引き上げ、今はモビーの体内で、白霧の作用を使って冷却保存しているところだ。

 

 再度描いたモビーに被害者たちを乗せ、海上を泳がせている。モビーの大きさは被害者たちを載せるため、前回描いた時より更に大きく、背中の面積だけでも2500平方メートル(50メートル四方)はある。

 

「いやー、天気も良いし、任務も成功したし、新しい出会いもあったし、最高だな!」

 

 イーファは気軽に言うが、落ち込んでいるトーヴはそれを睨むようにぼそりと呟く。

 

「二人、亡くなった。しかも幼児と妊婦だぞ。お前が鉄剣使いを殺したせいで船が崩壊した。それがなければ、二人はまだ……!」

 

「爺さん、それは流石に無茶振りだろ。自分に向けて真剣を振り回してくる相手の命に配慮なんてできねぇよ……」

 

「お前はそれでもプロハンターか!」

 

「へいへい、申し訳ありませんね」

 

 雰囲気が険悪になっている。話を逸らそう。

 

「トーヴさん、イーファさん。牢屋の中では話を訊けなかったのですが、二人は何の任務でここに? ハンター協会経由ですよね」

 

 トーヴはうつむいて黙りこくるが、イーファは朗らかにそれに応える。

 

「いや? 俺らは協専じゃねぇからな。協専つってもわかんねぇか。インターポールバルサ諸島支部から直で依頼が来た。人身売買ルートを探れってことで、浮浪者っぽい見た目の俺と、浮浪者っぽい見た目になれる爺さんの二人で、スラムでうろついてわざと攫われた。売買業者が念能力者で、更に俺らの擬態も見抜けるような奴だったってのは想定外だったが」

 

「協専って、パリストン副会長の子飼いの?」

 

 おっと、口をついて出てしまった。流石に内部事情に詳しい7歳女児は怪しすぎる。

 

「パリストンって誰だ?」

 

「え? いや、あの……会長はあの、有名なネテロ会長ですよね。テレビにもよく出てくる」

 

 テレビ経由でハンター協会について知った、という事にしておこう。

 

「ああ、そうだが。ネテロ会長、そんなにメディア露出多かったっけ。んで、副会長はリンネの婆ちゃんだろ?」

 

「え、えっと、そうなんですか?」

 

「そうだぜ。まあ子供がハンター協会の内部事情なんて詳しくねぇか……ヘライ嬢ちゃん」

 

「ヘライクレオスです」

 

「その男っぽい変な名前、言いにくいんだよ、ニックネームとでも思って……」

 

 あ゛? この男は、母から貰った尊い名を、今なんと?

 一瞬だけオーラの制御を忘れる。淀んだ白霧が、呼気に混ざる。

 

「その発言、取り消してください」

 

 理性を保ち、怒りを堪える。しかし怒気は察されてしまったようだ。

 

「おっと、すまねぇ。いやマジですまん、軽率だった。変じゃねぇ、良い名前だと思うぜ。だが、連携の時に長い名前だと支障が生じる、短い付き合いかもだが、何かしらニックネームを付けさせてくれねぇか?」

 

 ……ふぅ。怒りは何とか呑み込めた。悪意はないのだ。人間心理に疎いだけなのだろう、イーファという男は。

 

 それに比べて、トーヴ爺さんは少しだけノンデリ具合が低いようで、僕らの会話から自然に離れ、亡くなった二人の遺族と思しき人に頭を下げている。遺族の人は、何かを言おうとして、しかし何も言えていない。

 

「名前のヘライ、という部分は、"ヘラたちの"という意味です。クレオス、"栄光"という省略なら許します」

 

「分かった。ありがとう、クレオス」

 

「許す代わりに、一つ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「? おう」

 

「今年は何年ですか?」

 

「1978年、だな」

 

 ――――――薄々、可能性に気付いてはいた。

 

 HUNTER×HUNTERの原作が始まるのは、1999年。主人公の同年代に、つまり1987年前後に生まれるのだと、薄っすらと勘違いをしていた。

 東ゴルトーで使われているのは『建国歴』。あの部屋にあったカレンダーは西暦ではなかったから、分からなかった。

 だがそもそも。"マサドルディーゴが影武者に替わる前に、彼の種によって母は僕を孕んだ"のだ。いくら原作を読み込んでいたとはいえ、()は彼が隠居を始めたのはいつだったのかは覚えていなかった。

 

「クレオス嬢ちゃん、もしかして東ゴル」

 

「『何も疑問に思わずに』、と言ったはずですが」

 

「……そういうことか。分かったぜ、黙っておく」

 

 逐一、他人の不快を刺激する男だ。これで悪意が感じ取れないのだから、一周回って苦笑が漏れてしまう。

 

「ククッ」

 

「? 嬢ちゃん、どうかしたか」

 

「いえ、別に。さて、トーヴさんの方も終わったみたいですし。バドウ艦長閣下の尋問に行きましょうか」

 

「尋問は割と得意だぜ」

 

「あなたが? 嘘でしょう」

 

 人間心理に疎いコイツが尋問に有能さを発揮するとは思えない。だが、トーヴは人情派故に、凶悪犯相手には怒りに任せて拷問しそうだから、イーファの方がマシなのかもしれない。

 

「トーヴさーん! ん? どうしました?」

 

 トーヴは、頭を下げて謝っていた相手も僕の方に連れてきた。

 

 謝罪相手は男性だった。家族諸共攫われ、妊婦が妻、幼児が子供、ということだろうか。

 

 両目には血が滲んだ包帯が巻かれ、最近失明したことが伺える。身長は190ほど。体格に優れており、目が隠れていても彫りの深い顔立ちが分かる。

 

「彼はハウル。誘拐された被害者じゃが、家族で各国を放浪していたため、帰る場所がないと言っていた。そして……」

 

「いい、あとは私から言わせてくれ。私はハウル、妻と息子と、生まれるはずだった娘を失った、愚かなで惨めな男だよ」

 

「申し訳ない……イーファ、お前も頭を下げろ!」

 

「あ、ああ。すまない」

 

 自分が遠因として家族を死なせた男の前では、イーファも多少はしおらしくなるらしい。

 

「君たちに罪はない……とは、言えないよ。私の心に、君たちを憎む部分が全くないとはいえない。だが、それは道理じゃない。船にいた118人のうち、どうして死んだ二人が私の家族だったのか。全て私のせいだ。正確には、私の瞳が」

 

「それは――」

 

 トーヴが、発話しようとして口をつぐむ。イーファも気付いたようだが、流石に空気を読んだ。

 

「私はクルタ族の血を継いでいる。掟を破り、記録抹消刑を受けたから、一族の一員とは言えぬがね。それ故、放浪生活をしていた。放浪の途中で妻と出会い、そこからの四年間は、幸せだった。とても、幸せだったんだ――」

 

 眼球はなくても涙腺は生きているようで、包帯が湿る。

 

「私が、私が悪い。家族を危険に晒す緋の眼(こんなもの)など、さっさと棄てれば良かった。戦闘術や銃器の取り扱いには自信があったが、ネンという力に対して何の役にも立たなかった。凌辱と拷問の限りを尽くされ、妻と我が子は死に体だった。トーヴさん、と言ったね。君の能力でも、命を繋ぐことはできないかもしれないくらいには」

 

「それでも、すまない――可能性は、あったのに。儂たちが、潰してしまった」

 

「そうだな、そうかもしれない。妻も子供も、心と身体に大きな障害を負っただろう。それでも、愛すべき家族を背負って生きていく未来は、有り得たのかもしれない――もう、望めない未来だ」

 

 イーファが、蒼ざめた顔で、涙を流して土下座する。

 

「ごめんなさい、ごべんなざい……俺が、あの剣士を生かしておけば、いや! 潜入なんてまどろっこしいことをせず、さっさと救出作戦に切り替えていれば!」

 

「そう、思うのなら。思ってくれるのなら。妻と息子を死に追いやった残りの二人を、私のこの手で、殺させてくれ。仇を討った後、地獄に往こう。そうしないと、モネとアンディ、ミティが、安心して天国に往けない……!」

 

 モネとアンディとミティ。妻と息子、そして胎の中にいた娘の名だろうか。

 ギリリ、とハオスは歯を噛み締め、顔に巻いた包帯を解く。

 目蓋を開き、何も収めていない眼窩を露出させる。そこには、吸い込まれるような昏さがあった。

 

「……インターポールからの依頼は、人身売買ルートの解明と、可能ならば首謀者の確保、引き渡しじゃ」

 

 それを聞き、ハウルは噛み締めていた顎を緩める。そして、儚げに言った。

 

「――わがままを言った。すまない」

 

「じゃが! 首謀者と交戦し、やむなく殺害した! 売買ルートは航海日誌に記されていたが、海に落としたため儂らの頭の中だけにある! それが、儂らが依頼人に語る"事実"じゃ! 良いな、イーファよ!」

 

 トーヴは、怒鳴るように言い聞かせる。

 

「あっ、ああ、もちろんだ!」

 

「……そうか、感謝する」

 

 話が終わったところで。女児らしく挙手をして質問をする。

 

「えーっと、首謀者に情報を吐かせて、その後ハウルさんに殺させるってことで良いですか?」

 

「そうじゃの。尋問は頼むぞ、イーファ」

 

 え、本当にイーファにやらせるのか。というかカタギに人殺させるのか。倫理観昭和過ぎないか? 昭和だったわ。

 ハウルの殺人適性はともかく、イーファに尋問適性があるとは思えないが、まあいいだろう。

 

「モビー、二人を」

 

『ボォオオオオ』

 

 鼻の穴から噴き出すのは、ガタガタと震え、抱きしめ合っている二人の男。おかっぱと、タトゥースキンヘッド。

 完全には治療していないが、トーヴの"失楽園(ピュア)"によって最低限の止血は行っている。

 その後白鯨モビーの口の中、白霧によってオーラと熱を吸う冷凍室の如き環境にぶち込んだ。"纏"で体温を守ることもできず、かなり体力は消耗しているだろう。

 

 モビーの柔らかい背に落下した二人は、寝転がって息を大きく吸い、酸素を取り込んでいた。

 

「あったけぇ、空気が、あったけぇ! うめぇ、うめぇよ!」

「……ああ、アッコ。確かに、空気が美味い。だが、俺たちの命運は、ここで尽きたくせぇな」

 

 バドウは呼吸をしながら、こちらをじぃと見る。そこには憎悪もなく、迫りくる運命をあるがままに受け入れる境地を感じた。

 

 冷凍室の中で悟りでも得たのだろうか。ムカつく男だ。

 イーファはバドウたち二人に近づき、右手でバドウの、左手でおかっぱ男アッコの口を塞ぐ。躱す体力すら残っていないようだ。

 

「もご、もごごごご!」

「がぼっ、がぼぼぼ」

 

 口から何かを流し込んでいる。水のオーラか。

 

「"透明なゆりかご(ソウル&クール)"、この水は瞬時に気体になるし、固体にもなる。意味は分かるな?」

 

 口から手を放したイーファは、バドウとアッコを見下す。アッコは何度も、バドウは一回深く頷く。

 

「水は俺のコントロール下にあるから、ゲロ吐こうとしても吐けねぇよ。んで、お前らに聞きたいことがあるんだ。あの船は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「そ、それを言ったら……」

 

「言うぜ。ジャイロでも地獄までは追ってこねぇだろ。アッコ、俺が言う」

 

 ジャイロ。これも見たことがある名だ。原作において、蟻編の最後あたりに意味深げにモノローグが挟まれた、NGLの創設者である。

 

「この船――あの船は、どの港にも泊まらねぇ。ミテネ連邦西端、国際自然公園を除いて。それが船の行先だ。大抵はバルサ諸島の地方マフィア共に金を払い、適当に労働力になりそうなのを攫わせ、自然公園に秘密裏に作られた港に奴隷共を卸す。それが俺たちの仕事。念使いに関しては、使えそうで従順そうな奴をアッコが直接攫う。依頼主はジャイロ。NGLの指導者だ」

 

「そうか……ならなぜ。なぜ労働力になりそうもない妻と息子を攫った!」

 

 ハウルが叫ぶ。今にも殴り掛かりそうな剣幕で、トーヴに力で制止されていた。

 

「あんたは……そうか、クルタの。緋の眼はよく売れるから、俺たちに媚びたい地方マフィアの一組織が、()()()()諸共献上してきたんだよ。ああ、十老頭じゃねぇぜ? 緋の眼をまともに捌く伝手が無いくらいの、小さい小さい組織だ。んで鮮やーかに()()した緋の眼を売って得た金で、こんな仕事からもおさらば、と思った矢先にコレだ。ツいてねぇな、いや天罰か」

 

「畜生……!」

 

 うずくまり、声にならない声で叫ぶハウル。質問者は、トーヴに移る。

 

「NGLか……最近設立された自然保護団体じゃろ? なぜそれが人身売買も?」

 

「ん? 裏じゃそこそこ聞く話なんだが……あんたら、クライムハンターじゃねぇのか? NGLは麻薬製造もやってるって話は、裏の情報屋なら数百万で売る程度の話だぞ」

 

「いや……人身売買についてはそのあたりも尋ねたが、聞かぬな」

 

「ああ、そりゃダメだ。NGLが麻薬の出元だって扱いは数百万ジェニー級の情報でしかないが、NGLが人身売買もやってるってのは数億ジェニー級の情報だ。それも暗殺者がダース単位でオマケについてくるやつ。裏社会でもイメージが大事でな。テキ屋の兄ちゃんを上の上、賭博や売春の元締めは上の中、銃器密造やクスリの密売を中の下、カタギの暗殺は下の中。んで、人身売買は下の下の下だ。もちろん十老頭レベルなら関わってるが、それでもいつでも尻尾切りができるようなカス共にしかやらせてない。ああ、猟奇(スナッフ)趣味の素人がやる場合は別だが」

 

「――お前が言う、素人の案件にしか関わってこなかったな、確かに」

 

 イーファはぼそりと呟く。思い当たりがあるのだろう。

 

「裏の仕事にも、"格"があるというのは知っておったよ……じゃがまさかNGLが」

 

「クスリについては、あと数年で裏には広く出回る話だろうよ。さあ、喋ることはもうない。さっさと殺せ」

 

「……ハウルさん、どうしますか?」

 

 トーヴの問いに、ハウルは立ち上がり、拳を握りしめる。

 

「殺、させてくれ」

 

 ハウルは、トーヴに手を連れられて誘導され、バドウに近づく。

 バドウはそれを見て、口笛を吹く。

 

「なんだ、お前じゃねぇのか、氷使い。じゃあもう少しだけ喋るとするか」

 

 バドウは立ち上がり、それを慌てて制止するイーファを、瞬間、海に蹴落とした。

 

「イーファッ! バドウ貴様ァ!」

 

 バドウはニヤリと笑い、自分の首に爪を当て、()()()()()()()()トーヴを制止する。

 

「待て待て、こんな凪の海で死ぬわけねぇだろ念能力者が。それにさっきの蹴りで残りの潜在オーラもほぼ全部使い切った。ちょっとの失血やアンタのデコピン一発で死んじまう。そのクルタの男に殺させるんじゃなかったのか?」

 

「ぐ、ぬ」

 

「いいぜ、そのクルタの男に殺されてやる。身体が冷えてもう立ってられない。だがせめて遺言を聴いてくれや」

 

 嫌な予感だ。子供の直感でも、念使いとしての予感でもなく、ただ、()()()()()()()()()としての。

 

「いいか? クルタの。お前が妻と息子を失った原因は何だ?」

 

「それは、お前らが……!」

 

「どの口で、と思ったな。良いか、俺が訊いてんのは()()でも()()でもねぇ、()()だ。責任は俺ら(ハンザイシャ)にある。問題は人体蒐集家(ヘンタイたち)にある」

 

 まずい、それを、言わせてはならない。僕の良識の部分はそう思った。

 だが、僕の復讐者の部分は、それをほんの少しだけ、都合がいいと思った。

 

「言うなァ!」

 

 良識の部分で僕と同じ思考をしたのだろう、トーヴはそれを言わせまいと、バドウを黙らせようとオーラで覆った拳を振り上げる。

 

 だが、ハウルはトーヴが握った手を離さず。トーヴの動きはやや狂った。

 

「原因は、どこにある? 認めろよ」

 

 重力に従い、ふらりと地面にあおむけに倒れて拳を避けるバドウ。

 

「ああ。緋の眼(クルタ)にある……!」

 

 ああ、目覚めてしまった、もう一人。僕の同族が。

 仄暗い喜びが、心の中に芽生えた。それを引き出しに仕舞う。

 花咲かせるべき感情じゃない。だけど、この芽を捨てたくはない。

 ()には()を入れて、どちらに転んでもいいように姿勢を整える。

 

「やめるんじゃ、それは! 人の道に悖る! ハウルさん、奥さんが、息子さんが悲しむじゃろう……! ここでケジメを付け、後の人生を幸せに生きる、それが御家族の喜ぶ……」

 

「黙って、下さい、トーヴさん。救けなかった、会ったこともない()の家族を、語らないで、くれ」

 

「さあ、まずは責任(オレら)を殺せ!」

 

 トーヴは、人道と約束の狭間で、動けないでいた。

 バドウは、それを見てにやにやと笑う。

 ハウルは、拳を握りしめ、バドウの下に近づく。

 

「ほーんの少し、()()()んな……俺からのプレゼントだ」

 

 バドウは()をハウルに吐きつけた。それも、オーラのそれなりに籠った痰を。

 額に痰を喰らったハウルは、頭蓋を少し揺らされ、ふらつくも気絶には到底至らず。

 しかし、その衝撃で、頭の精孔が一気に開く。

 頭からオーラが溢れ、その勢いで、首、胸、腹部、四肢とオーラが連鎖的に開く。

 そして、顕れたオーラは全て拳に集中し――

 

「クク。才能バッチシじゃねぇか。これでお前みたいに、悪意をバラ播けるかなぁ、ジャイ」

 

 "硬"。最期の一音を待たないハウルの一撃により、バドウの頭蓋は粉砕された。

 

 次、とばかりに、ハウルはもう片方の拳にオーラを凝縮していく。

 

「……じょ、嬢ちゃん!た、頼む、ハウルさんを止めてくれ! これはここで終わる復讐(シロモノ)じゃない!」

 

 トーヴはバドウの死で、ようやく動き出した。しかし、やることが小娘頼りである。

 確かに、あの威力の"硬"は、僕の白霧でオーラを吸うか、同じ"硬"をぶつけて防ぐしかない。後者はハウル側の負傷も避けられないだろう。

 だが、今は見ていたい。僕と同じ感情(オモイ)を抱えた人の芽吹きを。

 

「じょ、嬢ちゃん! 頼」「嫌ですよ」「え……?」

 

 断られると思わなかったのか、トーヴはまた固まる。

 復讐(アカシンゴウ)は、一人で渡るより、二人で、いや、もっと多くで渡りたい。

 

「俺は、リーダーがいなきゃ何んんもできねぇ。だからよ、地獄でも同じ船に乗って、クルタの男、お前を待ってるぜ!」

 

 アッコは言い切る。それを黙って聞き、"硬"の準備を終えたハウルは拳を振るった。一撃、脳漿が海に飛び散った。

 

「……ふぅー。モネ、アンディ、ミティ。ごめん、そっちにはまだ往けそうにない。いや、往き先は違うけど、空港にも行けないや。少し、空港で、待っててほしいんだ。父さんの我がままに付き合わせて、ごめんな?」

 

「嬢ちゃん、なぜ――いや、酷か。ハウルさん、これから、何をするつもりですか? 返答次第では……」

 

 トーヴは僕を詰問しようとしたが取りやめ、ハウルに尋ねる。

 涙の跡が残る顔で、ハウルは憑き物が取れたかのように。いや、むしろ天使か何かに与えられた使命に取り憑かれたかのように。水平線の先にチラリと見えた陸地を見て、こう返答した。

 

「いえ、しばらく、自然豊かな場所で乾いた心身を潤すつもりです」

 

「そ、そうですか。こちらの勘違いでした。申し訳ありません」

 

 ほっと、ため息を吐くように、闘気が抜けるトーヴ爺。しかし、続く言葉に耳を疑った。

 

()()()、ミテネ連邦国立公園に蔓延るクズ共の血で、ね」

 

「ッ……! ハウルさん! ハンター特権で緊急拘束させてもらいます!」

 

 ハウルへと走り出すトーヴ。

 ――うん。ここで彼は途中下船してもらおう。

 "夜は短し歩けよ乙女(モノクローム・デヴォーション)"。チャージも調整も、済んでいる。(モノクローム)には(アウターサイエンス)を入れている。

 "隠"を解き、Gペンの切先は筋骨隆々の壮年に。

 

「"白い吸精(アウターサイエンス・バレット2)"!」

 

 バドウを倒すのにも使った、オーラ吸収液。それを今度はトーヴに向けて射出した。

 

 背後からの悪意に気が付き、踵を返してこちらに駆け寄る。トーヴはジグザグに走り、狙いを絞らせない。

 だがこれで、気は逸らした。

 後ろ手で、"十二人の優しい日本人(ALIVE)"のUSBメモリのうち、一本、セラ母さんの分を取り出し、地面、否、モビーの背中に突き挿す。

 

「♪大地を踏みしめて~」

 

 モビーが、メモリに吸収される。

 平らだったモビーの背中は、USBを頂点に、斜面の急な山のように歪んでいく。収納の過程における変形だ。

 トーヴは、それでも僕目掛けて走ってくる。

 

「♪君は目覚めてゆく~」

 

「嬢、いや、ヘライクレオス! 何が目的だ、子供の皮を被った狂人が!」

 

 答えない。被害者の治療後診断にあたっていた()()()()()()()、人間大のクラゲに指示を出し、ハウルのみを宙に浮かせる。

 モビーの背中に乗った百数人は、斜面に沿って滑り、海に落ちていく。まあ、凪いでるし、海には水属性のイーファがいるし、陸地も見えたし、大丈夫だろう。

 

「♪天使の微笑みで~」

 

 ハウルを抱えたクラゲに僕も掴まり、USBを掴んで宙に浮く。

 ハウルは、無い目を見開いて、僕を見つめる。ハウルの内心としては、"この娘は、いったい何をしようとしているのだろう"、という感じだろうか。

 ニコリ、と沈黙と笑顔で返す。盲目の彼には意味がないだろうに。

 

「♪連れ出して~!」

 

 ハウルを抱き締め、モビーをメモリに収納しきる。最後に、モビーの体内で凍っていた母さんの遺骸をクラゲの頭っぽい部分に丁寧に納め、()()()の保護効果で解凍しつつ腐敗を防ぐ。

 

「ヘライクレオォオオス!」

 

 海へと真っ逆さまのトーヴ爺は無視だ無視。

 

「You can smile! 大丈夫、ハウルさん。きっと、あなたは心の底から笑えるようになる」

 

 きっと彼は、同志になってくれる。

 確信めいた、予感と共に。ほのかな罪悪感を笑顔で塗り潰した。

 

 

 序章、ある母の愛と、ある父の涙、完。To Be Continued. なんつってね!




Q.なんでイーファは蹴られる直前や、海に落ちた後にオーラを気化爆発させなかったのか。
A.蹴られる直前は、純粋に油断で(オーラ吸収し切ったものと油断していた)(実際は数%潜在オーラが残っており、動けなかったのは身体が冷えていたから)。海に落ちた後は、変化系なので遠距離からのオーラ操作が苦手だからです。

Q.命の恩人にこんな仕打ち、どーすんのさ
A.主人公は『復讐は楽しまなくちゃやってられない&それはそれとして手段はあんまり選ばない』性質を併せ持つ♥
流石にアンチ・ヘイトタグは付けておきました、まだ原作キャラミリしか出てないけど敵対可能性がなくもないので(ガバガバプロット)

イーファのモデルは、作者です。(これはガチ)

バドウ「これでお前みたいに、リサイタルチケットをバラ播けるかなぁ、ジャイ」
ジャイアン「心の友よ~!」

バドウ「これでお前みたいに、少女漫画をバラ播けるかなぁ、ジャイ」
ジャイ子「やあ首吊りだ、がはは」

バドウ「これでお前みたいに、鉄球をバラ播けるかなぁ、ジャイ」
ジャイロ・ツェペリ「ピザモッツァレラ、ピザモッツァレラ、レラレラレラ」

11月の更新は以上です。感想、評価、お待ちしてます!!!!!!
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