やっちまったPart2。
身体が変質した痛みを押さえるための脳内麻薬か何かでハイになっていたのか。
何が「この火を目にしたものはすべて、責務を負う(キリッ)」だよ……。
デカい目的のために人数が必要だ。機会を逃さず人手を手に入れたことは、確かに最善手かもしれない。
それでも、母さんの葬式後にやるのが偽預言者――罰当たりにもほどがあるだろ。
「んで、結社名は"
「クレオスの名前が名前だからな。それに導き手って感じがするし、いいんじゃないだろうか」
信仰に目覚めた高齢者らを連れて下山したその後、スラムで三番目に大きな建物(元参列者・現信者の住居)を接収したところだ。煉瓦を積んで出来た、ぼろに見えるが割と頑丈そうな建物だ。
居間の机の上に紙を広げて、三人で計画を練っている。照明があまり機能していないからか、悪いことを企みそうな雰囲気がある。実際、信者たちを騙すという悪い計画を練っているのだが。
「教義はとりあえず無学なスラムのガキでも分かるように十か条。そのうち七つは既存宗教の
「特有のものは『汝の内なる光に従え』『待て、しかして希望せよ』『人の罪を、構造の罪は上回る』あたりだな。構造の罪については私の意見も取り入れてもらった」
ターリルはそれが癪に触ったのか、男口調になって切れる。
「あのな!? サークル活動じゃないんだから、教義を良いものにする必要は無ぇんだよ! 騙せれば何でも良いんだよこんなもん!」
「ターリル。罰当たりだぞ」
「こ、こいつ……! ぶち殺すぞマジで!」
拳を握り殴り掛かるターリルと、頑丈な身体でそれを受け止め、僅かに呻くだけのハウル。
そして、わちゃわちゃとした喧嘩を眺めてニマニマとしているだけの僕、クレオス。
被害者遺族と加害者という関係だが、本気の殺し合いに発展しない程度には仲が良くなったようだ。
一方的にターリルが殴るだけの喧嘩にひと段落がつき、彼女が僕に視線を遣る。
「……おい。で、約束の方はどうなんだろうな。イロンヴィファミリーのトップ含む幹部四人の暗殺」
「大丈夫、構想レベルでは練ってるよ。相手の護衛に念使いがいる可能性は高い。小国とはいえ、一国の裏社会を牛耳れる相手だ。モブの念使いも併せれば十数人はいる可能性もある――まずは自己の把握と、基礎能力の向上が先決だ」
「えぇと? つまり、修行ってこと?」
頷く。そして、筆槍銃、"
「わッ、手品?」
「いや、これが僕の能力。これで、変化したオーラから念獣を描くことができる。最終的にはこういう"発"を作ることが修行のとりあえずの目標な訳だけど――まあ、まずは目覚めてもらおうかな」
精孔を開く選択肢は二つ。外部からオーラによる衝撃によって覚醒させるか、それとも内部からじわじわと精孔を開くか。
ハウルは、既にバドウのオーラの籠った痰によって覚醒しており、自然に"発"を除く四大行と、"隠"、"円"、"流"を除いた大抵の応用技も体得している。ぶっちゃけ超弩級の天才である。原作のツェリ王子超えてるんじゃないだろうか。
じわじわと精孔を開いたら何か月かかるかわからない。"纏"を体得できなければオーラ切れからの気絶というリスクはあるが、ある意味後者の手法で覚醒させた方が良いだろう。
筆槍銃を消し、腕輪からUSBメモリを取り出す。首輪が外れて成長してから、USBのフォルムがやや大きくなり、内部に念獣が入っているメモリはそれぞれ固有の装飾を得た。
現在メモリに入っている念獣は、"
「"
メモリを床に突き挿し、床からすり抜けるように現れたのは全長2mと少しの、うっすら白い半透明の念獣。海月とクリオネを足して二で割ったようなフォルムをしており、人間でいえば頭部にあたる部分は特に大きい。
「お化けっ……って思ったらアレか、治療用のくらげ」
ターリルも一度見たことはある。これを"隠"で見えなくして老人たちの治療を行ったのだ。
「やることは老人たちの治療でやったことの応用技って感じかな。この子をターリルに被らせて"操作"の対象にする。この子は動作や思考の操作はできないけど、内分泌系と自律神経系と免疫系、つまり恒常性のコントロールはできる。そして、念に必要な精孔の開化と、"絶"、"纏"、"練"は恒常性の範囲に含まれる。操作されながら"発"除く四大行の感覚を体得してもらう」
恒常性に干渉して、痛覚を鈍らせて腫瘍や壊死した部位を海月の極細触手で走査し、切除。その後海月の培養液オーラを注入して、老人たちの欠損した組織を再生させた。
培養液オーラだけでは不可能な治療も、この手法なら可能になる。流石に全身に転移した重度の癌や、致死率の高いウィルス性の感染症、四肢レベルの欠損は難しいが、体力と外科的治療があれば解決できる病気はだいたいこれ一つで何とかなる。
「で、ハウルはとりあえず水見式かな。"練"、オーラを精孔から溢れさせるイメージでこういうコップにオーラを流してもらえる? こんな感じで、っと」
水を入れて葉っぱを乗せた硝子のコップに、僕は"練"でオーラを流し込む。
すると、コップの中に、鼓動を刻む不定形の生命?体が出てきた。数年前にやった時は心臓だったが、より適性が移り変わったということだろうか。
しかし、この生命体が光り始め、極彩色に煌めく。光はコップの中で反射し、プリズムのような輝きを放ち始めた。
「うわっ」
オーラの供給を止めると、光は徐々に収まり、不定形の生命体は水に溶けて消えた。水を少し口に入れてみると、うま味を中心とした、形容しがたい複雑な風味が口に広がる。
「む……これが念能力者の証拠か? 随分と派手だな」
「いや、これは念能力の中でも特質系の証拠……たぶん」
前回は具現化系と変化系の合いの子みたいな感じだったが、後天的に特質系に変わったのだろうか。たぶん、先ほどの肉体の変質に伴うものだろう。
「と、とりあえず二人ともやっておいて、終わったら報告して!」
隣の個室に行って、胡坐を組む。十六歳程度の身体に、少しの違和感を感じるが、それも時間が経てばなくなるものだろう。
母の最終決議、"
「ふぅー、はぁー」
おそらく、六つの誓約に対応した変化がある。一つは"二十年以内の出産"に対応する肉体の成熟。一つはおそらく"歩みを止めない"に対応する特質系への系統遷移。あとの四つだ、問題は。
一つは、頭が冴えているということだ。普段より深く、速い思考。それに記憶力も向上した気がする。おそらく"母を忘れない"という誓約に対応したものだ。
もう一つは――たぶん、これか。ふと目を開き、"絶"の状態から近くに置いてあった錆びかけの果物ナイフを、思い切り掌に突きさす。
ペキリ。ナイフの錆びた部位が欠け、掌には傷一つつかなかった。
肉体強度の上昇。"生き続ける"に対応するものだろう。どのくらいの強度なら貫通するのだろうと思い、爪に"硬"を籠めて掌に傷をつけようとすると、ゴムのような抵抗の後に皮膚が破れ、僅かに出血した。
オーラの籠った攻撃に対する耐性はそこそこ、と。一般的な強化系のジャブ程度なら無傷で済むという程度か。近代銃はともかく現代銃を無傷で弾くのは難しそうだ。
残りは二つ。"誇りを持ち続ける"と"幸せを目指し続ける"。前者についてはだいたいの推測はついているが、確信が無いので断言は避ける。後者については――まるで分からない。いやマジで。
「終わったぞ」「こっちも少しだけ感覚掴めてきたわー」
十分ほど経っただろうか。隣室から報告が届いたので戻る。
「ハウルさん、どうでしたっ……てコレ、何ですか?」
硝子のコップは黒く染まっていた。中の水だけでなく、上の葉やコップごと黒く染まっていたのだ。
それだけではない。地面や天井までもが僅かに黒く染まっていた。
「コップから何かが出てきたようだな」
ハウルは、盲目故か黒という色には気付かなかったようだ。
「えっと? ターリルちゃん、ハウルさんのコップに何が起こったか分かる?」
「えぇと、あたしもオーラの知覚に集中していたからそこまで見てないけど、確か黒い煙が出てきて、床を濡らしたり天井を
――完全に、特質系。そういやこの人クルタ族だったわ。
「えーっと、緋の眼の状態でそれやりました? あ、眼があった時であれば緋の眼みたいになるような感情の時、ってことです」
「いや、そんなことは無いな……しいて言えば、あの時から何か、頭の螺子が外れた感覚はあるが」
原作において、クラピカが覚醒させる緋の眼は"
あの時、とはおそらく妻と子が拷問を受けた時だろう。もしくは妻子が死んだ時か。
「何か、その時から疲れやすいとかは……」
「特にないな」
ノーリスクのようだ。先天的な特質系、ということか。
「えぇっと。特質系については、分からないことが多すぎて。どう能力を作ればいいのか僕にも分かりません。一応応用技について教えておきますね」
彼がまだ使えていない"隠"、"円"、"流"についても概要を教えておく。その体得法(原作知識と母の東ゴルトー方式を融合させたヘラ式修行法)も付け加えつつ。
かくかくしかじかまるまるうまうま、と。
「えっ、えっ、えっ、それあたしもやりたい!」
少女興奮中……あなたはまず四大行の精度を高めなさい。そう伝えると、口を膨らませた。
「むぅ……じゃああの硝子の、水見式? やらせてよ」
まあそれなら良いだろう。空き部屋を漁って新しい硝子のコップを見つけ、そこに貯水槽から水を注ぎ、適当に千切った葉っぱを乗せる。
少女水見式中……特に視覚的変化が見当たらない。
「ねぇ、何もおこんないんだけど」
「舐めてみて」
「は?」
半ばキレ気味で問い直すターリル。味が変わっているかもと伝えると、渋々舐めて。
「苦っっっっが!!!」
コップを地面に落として割ってしまうターリル。水が床に溢れ、先ほどの黒い染みを洗い流す。あー勿体ない、スラムでは透明の硝子コップはそこそこ珍しいのに。
「うーん、洗剤味ってことかな?」
「アンタ、なんか混ぜやがったな? どっきり大成功みたいな面してんじゃねーぞ死ぬか?」
滅相もない。首を横に振って詳細を伝える。
「ターリルちゃん。あなたは変化系だね。味が変化するのは変化系と相場が決まっています。染みが洗い流されたのはちょっと奇妙だけど……普通の水でも流されるものだったのかもしれないし」
「変化系……びみょー、具現化系か強化系が良かった」
なんだと? 六相図の大まかな解説はしたが、具体的な能力例の解説はしていなかった。発想を狭める可能性があるからだ。しかし、これはもう少し解説をした方が良いかもしれない。
「変化系は、きちんと運用法まで考えてから作ればハズれなしですよ。強化系は鍛えて一流になるまでに時間がかかるし、具現化系は下手なものを作れば潰しが効かないデメリットがある。放出系――はともかく念弾の類は事前に分かってれば容易に対処される。操作系は思い入れのある道具やらの媒体かもしくは肉体接触が必要になる場合が多く、かなり面倒。例えば、具現化系のハズレ能力として挙げられるのが、"とてもよく切れる刀""当たれば死ぬ銃"などです。前者はそもそも普通の名刀を"周"で強化すれば十分ですし、後者もボウガンに即効性の毒でも塗っておけば良いのです。既存の道具で代用可能なものは能力にする必要はないですね。強化系も、変な制約を付けてベーゴマ強化とか分身の強度を高めるとかしても、一流の強化系の"凝"などに負けます。強化系は基礎修行だけしていればいい――というのは言い過ぎですが、奇を衒うのは雑魚ばかりという印象です。操作系は、一番だるいのが実際に存在する、思い入れのあるモノを媒介にする必要があるという点です。それを破壊されればお荷物ですし、体液などを媒介にしたところで相手に摂取させる手間があります。操作するより殺す方が楽ということも多々あり、ぶっちゃけ戦闘には向きません。陰謀向きですね。放出系は、空間拡張や転移などが可能というやや特殊な系統ですが、念弾を強化するのがシンプル・イズ・ベストでそこまで頭使わなくていい系統でもあります。極めればクラスター爆撃やバルカン砲並みの威力・連射力が"丸腰で"使えるというのもメリットでしょう。そんなことをしなくても、遠隔でオーラを動かせるという時点でできる幅はかなり広がります。相手のオーラと混ぜ合わせる技術を母の一人は使っていましたし、そのノウハウは僕も持っています。そして、変化系という応用力抜群の系統があなたの属性です。オーラに特定の性質を付与できる能力は、使い手の技量が試されますが、非常に高い応用性と発展性を持ちます。ゴムとガム、火薬、糸、電気……それぞれの利点があり、欠点は運用次第で補えます。強化系の最大の利点は、肉体強化倍率の高さよりも、放出系と変化系という二大有能系統を双方8割の精度で運用できる点にあるとする論者もいます。主に僕ですが。という訳で、しっかり考えれば変化系は非常に強力な能力なので、悪しからず」
「う、うん……」「お、おう……」
おっと、少し調子に乗ってしまった。
ともかく。僕の念能力への愛は伝わ……ごほん、それよりも重要なことは、念能力への理解だ。
「制約と誓約に関しては既にお話ししたと思いますが……念獣、除念、邪霊あたりもお話した方が良いですかね?」
「いや! とりあえず基礎修行頑張るよ!」「私も、変な知識を付ける前に基礎を磨いておくことにする」
……悲しいかな、同好の士は見つからなかったようだ。
「えー、では。ハウルさんは石割り――は飛ばして良いか。何が発のヒントになるか分からないので、とにかく全系統まんべんなく伸ばすことが肝要です。ターリルちゃんは、変化系を重点的に、強化・具現化・放出をまんべんなく。操作はたまにで大丈夫だよ」
「分かったわ。実戦で使い物になるまで何か月かかりそう? 大まかでいいから教えて」
「うーん、才能ありで半年ってとこかな…… 僕は二年くらい基礎修行に没頭してから"発"を作った訳だけど、そこまで晩成させる必要性も薄いしね。得意系統レベル6くらいまで行ったら"発"に取り掛かっていいかも」
「おっけい。最短でたどり着いて見せるわ」
「できることは少ないけど、協力するよ」
そして三ヶ月後、僕は二人の成長の早さに驚かされることになる。