HUNTEE+HUNTEE   作:砂漠谷

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死亡フラグがビンビンでいらっしゃる、咥えて差し上げろ


ヘラたちの栄光

「マサドル・ヘラ。旧姓は忘れたわ」

 

 ヘラの現在の主導人格、レイが女兵士に返答する。

 

 その言葉に、兵士らは三者三様の反応を示す。

 

「はぁ? その名前を詐称することが、どういうことが理解できてるんでしょうね?」

 

 女兵士は怒りを。

 

「ハハハ、長年の幽閉生活で気でも狂ったか」

 

 体格の良い男兵士は嘲笑を。

 

「ふむ、確かにかつて、貴様はディーゴ総帥の愛人だったという。あの悍ましい事件が起こる前までは、な。しかし。婚姻を結んではいなかったと記憶するが」

 

 老人は、首を傾げて異議を唱える。

 

 彼らの否定に、レイは、ヘラは首を振る。

 

「私は彼から結婚を言い渡され――いえ、確かにあの人のことなんて、もうどうでもいいわね。でも、私にはこの子が。あの人の血を継いだヘライクレオスがいるから、伝えるわ。確かに、私は大罪人。権力と愛情を得られぬ嫉妬に狂い、ディーゴと性関係にあった全ての女を殺し、ディーゴを性的不能に追い込んだ張本人。でも、この子は。ディーヴァは。ヘライクレオスは関係ないはず。この子を、どうか。外に出してあげて。自由を見せてあげてほしいの――分かるでしょ? あなたも息子がいたわよね、ベオ隊長」

 

 ヘラを代表するレイの懇願に、老人は首を振る。

 

「ヘラ元少尉よ。今は隊長ではなく、戦闘顧問じゃが。助けることは、ならぬな。不穏の芽は摘むに限る。裏の総帥、ビゼフの口癖だ。脱出したからには反逆と見なす。お前とその子、可哀想とは思うが、どちらも殺さねばならん」

 

「そう――『追加決議――"かつての恩人、ベオ隊長の殺害"――全会一致で可決しました。目的達成のために必要な能力が向上します』。さよなら、ありがとう。隊長。あの頃は、ディーゴの次に、好きだった」

 

 パァン、という何かが破裂する音と共に。

 老人がどさりと、地面に斃れた。

 

「なっ――」

 

「"Ghost B.C.(クロックタワー)"。寄生蠅の卵を植え付けて、心臓で盛大に孵化させた。気付かれずに卵管を突き刺すのは大変だったけど、ゼブブは元々、隠密性に長けた蠅だったから」

 

 ヘライクレオスによる白霧のお陰でもある、ということを、彼女、ナオは言わない。

 ヘライクレオスが、白霧の発生源であると悟られたら、殺される可能性が更に上がってしまうと、察していた。

 

「ぐぅ、"正義の霊剣(パクス・アトミカ)"――"儂の死後、その効果を加速させよ!" 喃、ヘラよ。儂の置き土産、じゃ。せいぜい、噛み締めて逝け、むこうで、待っとるぞ……」

 

 老人はオーラで声帯と顎を動かし、言い終えた後にオーラを大気中に霧散させる。意識が完全に消失し、その命を終えた。

 

「クソ、このアマ!」

 

 オーラを更に増やし、殴り掛かろうとする体格の良い男兵士。

 

 だが、女兵士はそれを制止する。

 

「まって! ジョン、卵を植え付けられたのはベオだけじゃ……起爆される前に逃げないと!」

 

「そ、そうか! クソ、覚えてろ!」

 

 なぜか兵士の周囲にのみ風が吹き、追い風を味方につけた兵士二人は全速力で霧の外に向かって逃れた。

 

「――。」

 

 H.E.L.Aが卵をベオに植え付け、孵化させることができたのは、二重の"全会一致"による隠密能力の増強(当然"隠"も併用している)、そして、白霧による"誓約"の支払い延期能力ゆえだ。

 

 "Ghost B.C.(クロックタワー)"の誓約。それは、"この念能力で人間に回復不可能な障害を負わせた場合、人格『ナオ』は消滅する"というものだ。

 

 しかし、"白い恋人(アウターサイエンス)"の誓約代償支払い猶予により、一時的にナオの人格消失が免れる。

 大きな代償であるため、周囲の白霧が目に見える速度で薄れていく。それに気付いたヘライクレオスは、慌てて白霧を操作し、霧の濃度を維持する。

 

「な、ナオ母さん! その念能力で人を傷つけたら――」

 

「そう。君のために、私は消え失せる。残りの十一人に託すさ――と思ったんだけど。人格だけじゃなくて、この身体ももたないみたい。たぶん、ベオ隊長の念能力は、"放射線"。細胞を破壊し癌化させる、変化系と放出系の混合能力ね。肉体の2%、いや、もう3%が癌化した」

 

 ナオの口が、残念そうに微笑む。

 ベオの念能力が"放射線"であるという推測は正しい。"正義の霊剣(パクス・アトミカ)"の能力は、自分が生涯で浴びた放射量と同様の効果を持つオーラを、一瞬のうちに相手に浴びせるものだ。それも、"死後強まる念"として、その生体汚染の力は強まっている。

 

「そ、っそれなら、患部を切除すれば――」

 

「血液循環を通して全身に癌細胞の芽が転移しているから、切除も意味がない。遺伝子治癒系の念能力なんて、今から作ろうとしても"容量(メモリ)"が足りない。君の成長を見届けられないのは残念だが、私たちの旅はここで終わりだ」

 

 ジュンの口が冷静に宣言する。

 H.E.L.Aの基本機能の一つに、自己の把握と数値化というものがある。それによって、癌化の状況を把握していた。

 

「だったら! 僕が、僕が……」

 

「"MUGEN(イマジナリ・スクランブル)"を使っても、イメージ修行が間に合わないわ。それに、私たち、いいえ、ヘラという女の人生はディーゴの妻たちを殺しつくして、狂いつくした時点で、とっくに終わっていたの」

 

 エリカが、本来の口を使ってヘライクレオスに語る。

 

「私たちという人格の存在は、うたかたの夢のようなもの。十二の()()()に、幸せな夢を見せてくれたあなたに、最大の感謝を。愛してるわ、私の、大事な大事な、たった一人の子供」

 

 ノアは、ぼそりと呟く。

 

「これから、とても辛い毎日が待っていると思う……でも、あなたならきっと大丈夫と信じてる」

 

 ジュンは、毅然と。

 

「これからは私たちを頼ることはできない。自分の力で、生き抜くんだ」

 

 ミヤは、嗚咽を堪えながら。

 

「うっ、うっ、泣かないでぇ。もし困ったら、『私たちならどうすか』を考えてみて?」

 

 レイは、叱るように。

 

「お前はこの先、数多の困難にぶつかるだろう。努力を怠るな、強くなれよ」

 

 ナオは、希望に満ちた微笑みで。

 

「レイはそういうけど。君ならきっと大丈夫。私たちも、力を遺すから。"採決を希望します"」

 

 ナオの希望によって、H.E.L.Aが、起動する。

 

『以下の念能力を、死後強まる念として作成するか否か、採決します。"全ての人格と、それらが所有する念能力を抹消し、空いた"容量(メモリ)"を外付けメモリとして具現化。自分の子供ヘライクレオスにのみ使用できる形で譲渡する。"――全会一致で可決しました。作成される当該念能力は向上します。完成時刻は死亡直前、およそ五分後とします」

 

 ヘライクレオスは、それを聞いて蒼ざめる。"前世"を持つヘライクレオスは、"来世"が存在する可能性もあると知っている。人格の抹消は、死よりも確実な消滅であることを、ヘライクレオスは理解している。

 

「母さん、やめて! 死んでも僕みたいに! 別の世界の別の国に生まれて、幸せに生きられるかもしれない! お願い、頼む、生まれ変わっても、幸せに生きてほしい!」

 

 ナオは、微笑んだまま何も言わない。それをココが代弁する。

 

「うーん、あのね? クレオスちゃん。あなたがいない世界に、意味ってあるとは、思わないよ? だって、わたしたち、元の人格『ヘラ』が消滅してから生まれたんだもの。生まれた時からあなたと一緒。実はね、心が過ごした時間だと、クレオスちゃんの方がずっとずっと年上なんだ! だよね? リナちゃん」

 

 話を振られ、リナは頷く。

 

「ええ。あなたは私たちよりずっと大人びていて、人格の中で一番成熟していると自負しているこのリナも、舌を巻くときがありました。あなたは自慢の息子で、娘です!」

 

 カオルは、それに付け加えるように。

 

「当然だ。それと、H.E.L.Aのシステムのうち最小限だけは死後強まる念として遺しておく。でも、死体に私たちのフリをして喋らせることはできないようにしておくわ。ここからはあなた一人で生きていくの。みんなもそれで良いわね?」

 

「「「ええ(うん)」」」

 

『可決しました。"H.E.L.A"は、最低限の機能以外を消去。残存機能は死後強まる念に変化します。以降、決議および多重発話は不可能です』

 

 本来の場所にあるものを除く、全ての口が消え失せる。

 

「私も、いや、きっと他の人格も。別の国に行って、たくさんのものを見て、色々な経験をしたかった。でも、あなたに出会えて、あなたと過ごせて、あなたに色々なことを聞いて。それ以外のことを望むのは、欲張りすぎよね」

 

 セラが、夢見るように。そして、最後にユウが、ヘライクレオスの魂に刻みつけるように。

 

「こんな最期も、悪くはない。お前が生きていれば、それで良いさ。だから、死ぬなよ」

 

 そして、各人格が代わる代わるに、言葉を紡いだ。

 

「今までありがとう!」

「さよならぁ、どうか幸せにぃ、えっぐ」

「生きて! 生き延びなさい!」

「忘れないでね、私たちのこと!」

「強く生きろ!」

「あなたはもっと、高みに行けると信じてる!」

「だーいすき! ほんとに、だーいすきだよ!」

「私の、本当に自慢の子供であることを、どうか、誇りに思って!」

「どうか、狭い狭いこの国から飛び立って欲しい」

「必要な知識は"H.E.L.A"の中に遺しておく! これが私にできる最大の相続!」

「外で精一杯ツエーしてきなさい! 孫いっぱい作っちゃいなさい、顔見れないけど!」

「悪くない。最良ではないが、本当に――悪くは、ない最期だ」

 

「エリカ母さん、こちらこそ! ノア母さん、絶対幸せになるから! ジュン母さん、もちろん、絶対に死なない! ミヤ母さん、忘れられるもんか! レイ母さん、逞しく生きるよ! ナオ母さん、自分を磨き続けるよ! ココ母さん、僕もみんな大好きだよ! リナ母さん、自分を誇ることは、忘れない! カオル母さん、あの部屋は大切な思いが詰まってるけど、確かに狭すぎたよ! アヤ母さん、ありがとう! 使わせてもらう! セラ母さん、難しいかも知れないけど頑張ってみる! ユウ母さん、あなたのその言葉で、いつも安心できた! ――母さんたち、本当に、今まで、ありがとう!」

 

 そして、双方の口から、言葉は紡ぎ終えられた。

 

『――全人格の消去が、完了しました。自動命名、"十二人の優しい日本人(ALIVE)"。具現化します――具現化終了しました」

 

 USBメモリのような十二個の媒体がヘライクレオスの掌に具現化する。

 ヘライクレオスの右手に六つ。左手に六つ。それぞれがくみ紐のようなもので手首の腕輪に結ばれている。媒体には、それぞれ異なる表情の顔が刻まれていた。

 

 媒体は、すぐに腕輪に吸収された。

 

「続いて、当システム"H.E.L.A(Harmonized Ego Link Architecture)"の、死後強まる念としての処理――機械的助言装置化――完了しました。名称自動変更、"ヘラたちの栄光(ヘライクレオス)"。人格統御機構としての当システムの稼働は終了しました」

 

 H.E.L.Aの肉体に紐づいていたシステムとしてのH.E.L.A。それは額のスピーカーから、二つの瞳を模したイヤリングと、スピーカーが中心にある首輪に姿を変え、ヘライクレオスの耳と首を飾る。

 

「母さん。ありがとう。この国は許せない。――復讐も、いつかはするよ。でも。今は、生き延びなきゃ」

 

 ヘライクレオスは母を横たわらせる。そして、瞼を閉じさせ、手を組ませた。




Q.ベオ隊長強くなぁい?
A.念能力のために放射線浴びまくってるキチガイが弱い訳ないだろ! ちなみに見た目後期高齢者だけど50代だったりするし、東ゴルトー核開発の立役者でもある。

12人の優しい日本人
同名の演劇・映画から引用。日本で十二人の陪審員が被告の無罪に投票するまでの論争を描いた話。『全会一致で、ヘライクレオスの幸福を願う』という意図で引用。フリガナはSOUL'd OUTの同名曲。

ヘラたちの栄光(ヘライクレオス)
ヘラクレス(ギリシャの大英雄)と書いてヘラの栄光という意味を表すことは有名だが、ヘラが複数形の場合、ヘライクレオスと言うらしい(ChatGPT先生に聞いた)
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