母の骸を横たわらせ、数秒ほどの黙祷の後。
僕自身のオーラを、変化ではなく、具現化させ始める。
精神空間でイメージ修行をしていたとはいえ、最初であるためやや時間はかかったが。
十数秒で具現化が完了したのは、全体のフォルムは投擲筒。対戦車砲RPGのような、持ち手がある太い筒だった。
だが、先端は細く、Gペンの形状をした突起がついており、筒部分は注射器のシリンジのようにその大部分が透明。そして逆側の先端は漏斗のように広がっていた。
全体の意匠としては、黒く、暗く、艶消しをされた金属のように重厚だった。
「"
具現化された筒、否、筆大筒は、漏斗部分から白霧を勢いよく吸引し始める。霧は晴れていき、それに比例するように、シリンジに真白の液が溜まっていく。
液が溜まり切ったことを確認したら、重い筆大筒を振るい、
筆大筒を振るうにつれ、液がかなりの速度で空に
白霧が殆ど晴れたころ。
空中には、真白く、巨大な鯨の念獣が浮かんでいた。
「モビー、起きろ」
最後に変化していない自身のオーラを籠めて、瞳孔が無かった鯨の瞳に、筆大筒の先端を突きさす。
眼球に孔が開き、鯨の念獣は目を覚ます。
「ボォオオオオオ」
鯨は、頭の上の鼻から、白霧を噴射しながら、空を泳ぐ。それに飛び乗り、僕は鯨に命令する。
「モビー。母さんも連れていけ」
鯨は、土ごと、母さんの肉体があった地面を、口で掬うように体内に入れる。
白い鯨には、通常の鯨と異なり、硬く鋭い歯があった。
母さんの遺体をモビーに飲み込ませた直後。
あるオーラを持つ集団の存在が、"円"を使わずとも分かった。
"円"の届く距離ではない。泣き腫らした瞼を見開き、"凝"によって人数と性質を把握する。
数えるに、十一人の兵士。ただし、先ほどの兵士たちと異なることが二つある。
一つは服装。明らかに東ゴルトーの軍服とは異なる、着古された隊服を身にまとっている。
もう一つは、装備。一人は、近未来的な、潜水服を巨大化・装甲化した人型戦車のようなロボだ。他の十人は丸腰だが、それでもそのオーラはそれなりの質と量を兼ね備えているように見える。人型戦車やその他の壁に身を隠すようにして、行動していた。
僕は、この組み合わせを知っていた。
"石壁"……? なぜここに?
『テロリストハ念獣ノ鯨使イカ。厄介ソウダナ』
人型戦車が何かしゃべっているようだ。
原作、暗黒大陸編に登場する、協専ハンターの一団にして、傭兵部隊。
特徴的な人型戦車、『ゴレム』を擁する精強な傭兵だ。
「――突破、するしかないな」
モビーと名付けた念獣と自分の残存オーラ量では、念弾の届かない高度まで上昇することが難しい。更に、相手が用いるのは物理弾ではなく念弾のため、白霧による出力減衰も物理弾よりは低い。
なるほど、無視はできない。一方向からならともかく、散らばられ、全方位から射撃されると、かなり厳しくなる。一方面にオーラを集中できないからだ。
筆大筒を振るい、モビーの頭部に更に部位を付け足す。
角。船の衝角とも言うべきそれは、長さはモビーの体長の十分の一程度だ。しかし、その太さはかなりの樹齢の巨木を思わせ、強度は相当にあるはずだ。
「モビー、霧を撒き散らしながら突撃」
モビーと僕は、共に白霧を周囲に撒き散らしながら、徐々に加速していく。
"
『トリアエズ一当テスルゾ! 一斉掃射!』
人型戦車、ゴレムは放出系念能力者を肩に搭乗させ、念弾を連射した。
同様に、念製の銃器を他の兵士に飛ばす。
「"
筆大筒を構え、引き金を連続で引く。
撒き散らされたのは、真白い液。それは、濃縮された白霧であり、しかもその性質は、エネルギー吸収のうち、『オーラ吸収・衝撃吸収』に特化して調節されていた。
"
念弾によって白液は消し飛ぶも、念弾は僕自身の"堅"によって無傷で受けきれる程まで矮小になっていた。
『ナ、放出系殺シカヨ! ドンナ性質ダ!』
「此岸と彼岸の、狭間の霧だ!」
『ボォオオオオオ!!』
鯨の鳴き声と共に、人型戦車と巨角が衝突する。
『グ、ノガスカァ!』
「何が何でも、押し通る!」
巨角を中心に、モビーを上下反転させる。振り落とされないように、モビーにしがみつく。
それは、モビーの鼻の孔が下に来た、ということだ。
モビーは、鼻の孔から霧を勢いよく噴射し、その反作用で、上昇し始める。
『ヌ、ヌォオオオ!!』
人型戦車の足裏が、地面から浮き始める。
『ボォオオオオ!!』
瞬時の判断。鯨の鳴き声が、更に強くなり。首を振って、人型戦車を投げ飛ばす。
人型戦車、ゴレムが数メートルほど投げ飛ばされ、姿勢制御に集中させられた瞬間。
「全速前進!」
モビーに思念で指示をし、上下反転を元に戻させる。白霧を鎧のように身にまとわせ、急上昇を行う。
『ナンダアリャ。マ、無料サービス分ノ仕事ハ果タシタロ。深追イハスルナ、軍本部ニ連絡ダケシテオケ』
"石壁"たちは、上空百メートル前後を飛んでいく鯨から見れば、点のように遠くなった。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」
鯨に乗って一時間と少し。
僕の、オーラと体力が枯渇しかけていた。
ただでさえ、この七歳女子の身体はひ弱だ。
それに加え、初めて具現化系の"発"を作成し、クソ重い筆大筒を振り回したのだ。
体力やオーラを"絶"で回復させることはできない。それをすると、霧はともかくこの白鯨モビーがいい所機能停止、悪ければ消失する可能性が高い。
"
能力は三段階に分かれる。漏斗→注射器シリンジ→Gペンと、各パーツが段階に対応している。
第一に、変化系念能力によって変質したオーラの吸収。このオーラは自分だけではなく、他者のオーラも吸収することができる。ただし、抵抗されれば内部から筆大筒が破壊される可能性があり、破壊された場合三日間の強制"絶"。よって、相手が抵抗しないことが前提条件となり、
第二に、吸収した変質オーラの性質調整。たとえば、僕の"
第三に、調整したオーラで、"念獣"を描写する。念獣は必ずしも動物的モチーフである必要はない。最後に、僕自身のオーラによって"意志"とその象徴としての瞳孔を宿し、自律行動を可能にする。
応用技として、調整オーラを絵具としてではなく水鉄砲的に運用することも可能だが、僕自身に放出系の適性があまりないので、射程距離は精一杯伸ばして五十メートル前後だ。念弾に当たったのはかなり奇跡の産物だろう。
制約と誓約は他にも幾つかある。念獣の維持時間であったりもその一つだ。
白霧の効果で、念獣の維持コストは低減しているはずだが、それでもこの幼い身体と7年の念使い歴では、負荷が大きい。
正直、意識が薄れてきている、それでも。背後を振り返り、もはや水平線の向こうにあり見えない東ゴルトーに向けて、吠える。
「母さんを幽閉して、果てには殺した東ゴルトー! 絶対に許さない――生き延びて、戻ってきたら、上層部から末端まで、叩き潰してやる!」
祖国を呪う。
吠えた勢いで、白鯨の維持が解けた。
上空百メートルから、母の遺骸と土くれと共に、海に転落する。地上には、やや離れたところに小島が見えた。
母の遺骸を抱きしめ、残り少ないオーラを噴射して姿勢を制御する。なんとか小島近くの浅瀬に落下するように、半ば願いながら。
眼を瞑り、墜落する。水面が身体を殴打する感覚と共に、僕は気絶した。
目を覚ますと、牢屋で、老爺と、野郎が、僕をヤろうとしていた。
覚醒一発目に親父ギャグが脳裏に過り、最悪な気分だ。僕の目の前にある皺くちゃひび割れた唇と、僕の幼い乳をまさぐっている野郎の存在以上に――。
「いやそんな訳あるかい」
親父ギャグより強姦魔の方が不愉快に決まっているだろう、如何に僕の前世が男だとしてもだ。
「おお、目覚めたぞ!」
「心臓も動き始めた! 良かったぜ、本当に良かった!」
老爺――頭が禿げて頬がこけ、しかし目だけはギラギラと光っている老人。
野郎――長髪で髭を生やしているが、こちらも痩躯で、身長は190もあるだろうか。目つきは死んでいる。
二人は、僕から離れてハイタッチをし、抱きしめあっている。男色でもあるのか。気分は地の底にまで落ちた。
――しばらく抱きしめあって喜んで泣き合っている。
何かがおかしい。男色が終わったら激アツ! レイプ継続! のCRく〇ら〇くす確変状態に入るのじゃないのか。
思考が覚醒直後で変になっているようだ。
もしかしてこいつらはレイパーではないのか?しびれる身体を起こし、布団の上に胡坐をかく。母さんに起こられてしまいそうだ――ああ、もういなかったんだっけ。
乾いた涙腺が、活性化してくる。母の最期を思い出し、涙が頬を伝った。
冷たい母の遺骸を抱きしめた感触を思い出し、更に数滴。
「お、お嬢ちゃん! どうしたんじゃ! 生き返ったんじゃぞ! 喜ばなきゃいかん!」
「そうだ、あんたァ! 人売りに捕まっても、奴隷になっても、死ぬよりゃマシだ! ――いや、すまん。女の子の場合は違うかもな。撤回する」
「えーっと、あなたたちは。とりあえず、僕を襲っていた訳じゃないの?」
野郎と老爺はお互い顔を合わせ、そして二人の爆笑が始まった。
「だはははは! 必死こいて救命活動をしていた儂らも、嬢ちゃん目線から見たら暴漢か! すまんすまん! ファーストキス奪ってもうたわ! だはははは!」
「ぎゃははは! おっぱい揉んでやったぜ、って言うべきなのか? 心臓マッサージだから大丈夫! 救命活動はノーカン、あんたはまだ
「の、ノンデリ……」
脅威のデリカシー皆無具合に逆方向の恐怖が走ったが、ともあれ、ある程度の状況は把握した。
この二人は、認めたくはないが、命の恩人だ。
それは、飲み込もう。
「ともかく! ありがとう、ございます。母から、感謝はきちんと言葉にするように、言われているので。正直あんまりありがとうと、言いたくない人たちだけど!」
「うむ。このトーヴ。嬢ちゃんの心からの感謝をしかと受け取ろう」
「同じくイーファ。あんたの真心こめた感謝に、逆にこっちが感動しそうだぜ!」
感謝は正直言いたくないっていってるだろうが!!!
まあいいか。ともかく。
「えーっと、ここはどこですか?」
「――それはじゃな、嬢ちゃん……少し長くなるが」
「奴隷密輸船の上だな! 俺らは人売りに取っ捕まって売られるってワケ! 場所は多分だいたいバルサ諸島の上だが、詳細はようわからん」
「おい、イーファ! もっと慎重に伝えろ! この子の心理状態にも配慮するべきじゃろ!」
――なるほど。最悪+最悪、という訳では、なさそうだ。
念能力者の強み、それは身ぐるみ剥がされても、割と何とかなるということだ。
母の遺骸は、見渡す限り牢屋の中には無い。最悪は海に捨てられている可能性もある。だが、母の服装は動きやすさを阻害しない程度に、古いがかなり良い生地を使っており、死体だとしても貴種であることは分かるはずだ。
人体収集家に売るなり、遺族に売りつけるなり、利用法はいくらでも思いつく。今だけは、海賊が目端の効くことを祈る。
「船の規模って分かります? 乗員数は、排水量は?」
これがマフィアの超巨大船とかであれば、敵の念使いが乗船している可能性が高い。しばらくは大人しくしておいた方が良いだろう。
一方、小型から中型船であれば、念使いが存在する可能性が低い。思う存分暴れて、船を乗っ取って適当な国に降りて問題はない。
「えーっと、嬢ちゃん、何をするつもりなのかな?」
「嬢ちゃん、じゃなくて。ヘライクレオスです。トーヴさん。何って、脱出すべきか伏竜すべきかの情報収集ですよ」
「脱出って、あんたなァ」
「あなたたちも、やろうと思えば出来ますよね? 脱出。だって、トーヴさんも、イーファさんも」
オーラが滑らかで、まるで念能力者みたいじゃないですか。
夜は短し歩けよ乙女
夜(復讐感情)は短し、歩けよ(行動せよ)乙女
みたいな意味で小説の引用です。まあ実際はそんなに短くはないんですがね、初見さん。
モノクローム・デヴォーションはUVERworldの『モノクローム ~気づけなかったdevotion~』の歌詞が状況にぴったしだと思ったので、少し変えて使わせてもらいました。
白い黒雷は白いブラックサンダーが元ネタ。
今回の連続更新は終了です。一か月以内に更新できるといいなァ。
P.S. ちょっとでも面白いと思ったり先が期待できると思ったら感想や評価お願いします、作品の存続に関わります。