序章をとりあえず今月中に終わらせたくて――(おまけの中身が知りたくて――のノリ)
「トーヴさんも、イーファさんも。オーラが滑らかで、まるで念能力者みたいじゃないですか」
老爺と野郎――トーヴと、イーファ。僕の発言に、最初に、イーファの方が答えた。
「やっぱりな。あんたも念使いで、合ってるよな? どうりで"纏"が自然だと」
トーヴ爺はしかめ顔でそれに続ける。
「死にかけた時に、流れ出るエネルギーを把持するために本能的に"纏"の状態になることは、念使いじゃなくともありうる。むろん一時的なものじゃが。それゆえ黙っていたのじゃが……」
それに僕は頷く。
「うん、母が念使いだったから、生まれつき念は使えます。母さんと一緒に海辺に落下したはずなんだけど――」
転生特典の話をするほど心の許せる間柄ではない。適当に誤魔化す。
「ふむ。この牢屋に
「いや。念使いに襲われて、母は亡くなった。僕が言っているのは遺骸のことです」
母の死を伝えると、イーファは表情を変えなかったが、トーヴは、ハッと息を吸い、頭を下げた。
「そうか――辛いことを思い出させたの。申し訳ない」
「いえ。気持ちの整理がついていると言えば嘘になりますが、悪意がないことはわかりますよ。それより、母の埋葬のために、遺骸を取り戻したいんですよね。手伝って、くれますよね?」
「……悪意は、なさそうじゃな。よし、儂が取り戻してやろう!」
イーファは老爺トーヴの発言に顔をしかめる。
「おいおい、トーヴ爺。任務中だろ? そんなことしてる暇あるのかよ」
「うぐ、痛い所突くの、お主は」
「そもそも――どうやって、この牢屋から外に出るんだよ」
コンコン、と檻の鉄格子をノックをするように叩く。すると、オーラが励起し、牢を瞬時に覆う。
「典型的な
「そんなもん儂の全力の"硬"に掛かれば――」
「念能力者すら奴隷にできる設備を持つ組織だ。おそらく十老頭レベルのマフィアが仕切ってる。それにトーヴ爺、アンタ変化系だろ、強化系のシングルハンターでようやく鉄格子一本折れるってレベルだぞコレ」
話を遮られたトーヴは、頬を膨らませながらイーファに抗議する。
「む、系統をバラされたんじゃが。バイショーキンを要求するぞ?」
「ふざけてる場合じゃねーだろ。まずは分析だ。第一に、アンタ、ヘライクレオスと言ったか。アンタはここに、虚空から瞬く間に現れた。心臓がまともに動いてない状態でだ。放出系の別の能力者もいるな。逆に言えば、おそらく放出系の転移能力者がいれば脱出は容易だ。だが残念なことに」
「儂ら二人とも、変化系ということじゃなぁ」
はぁ、と溜息を付く二人。
イーファの話を聞いて、気になったことがあったので子供らしく挙手をする。
「ん、なんだ、ヘライ……クレオスだったか」
「イーファさん、それだともう一人いませんか? "こいつは放出系じゃない"と、系統を判別する能力者が。特質系なのか、勘とかを強化する強化系なのかわかりませんが」
イーファは頬をかきながら、それを肯定する。
「ガキの癖に、意外と頭回るなー。あんたなら、どう脱出する?」
数秒、うつむいて考え込んでから、提案する。
「この牢屋、四方が鉄格子で、外が見える。そして、その外にはさらにコンクリートの壁で四方が覆われている。鉄格子の面積は四畳ほど。外側のコンクリの部屋は二十畳はあるでしょうか。四畳の空間にも関わらず息苦しくなっていないので、おそらくこの鉄格子に気体を遮断する能力は無いと見ます。強化に必要なオーラは、おそらく無線で送電ならぬ送念で
「ふむ、嬢ちゃん。無線でのオーラ供給というが、その心は?」
「まず、相手に転移系の放出能力者がいるので、物質だけでなくオーラも転送できる可能性があります。この条件だと万能過ぎるので、檻の中に限定してオーラや人間を転送できる
「ほう。見せてもらおうじゃねぇか、ガキンチョ」
「まず、どっちの方が"硬"が得意ですか? 苦手な方は"絶"をしてください」
野郎と老爺は顔を見合わせ、イーファが"絶"を行う。トーヴは拳を握り、筋肉を隆起させる。ひょろひょろだった筋肉とよぼよぼだった肌が、少しずつ力を取り戻していく。
「嬢ちゃん。儂の"
数分かけて、はちきれんばかりになった筋肉と、シミ一つない肌の姿になったトーヴ。禿げてはいるが、三十台後半にしか見えない。
「では、やっとくれ、嬢ちゃん」
「わかりました。――"
白い霧が僕の周囲に現れ、檻の内部、そして外部に広がり始める。
「寒いな――霧の能力は吸熱か?」
イーファ青年は鉄格子の中にあったぼろ布を纏い、寒さをしのぐ。
檻の内外に霧が満ちていき、その濃度が濃くなっていく。
「いえ、吸収できるのは、それだけじゃありません。トーヴさん、鉄格子を殴ってみてください」
「"硬"、ぬぅン!」
熟練の念能力者による、全力での"硬"と殴打。それに反応するように、檻のオーラが励起する。
ただし。"
もちろん、檻のオーラも吸収対象だ。
ガィン、と鉄が歪む音がする。更に二撃、三撃。鉄格子の纏うオーラが弱くなっていくにつれて、破壊は加速する。
結局。五撃で人が通れるほど鉄格子を歪めた。
「うむ! 素晴らしい能力じゃ。オーラと熱を吸収できる霧。さて、霧を消してくれんかの? イーファが寒そうじゃ」
霧は、消せない。
制約として、元のオーラに戻すことも、僕の体内に戻すことも、そのまま消失させることもできない。周囲の熱や運動エネルギーを吸収して増加しているので、自然消滅も起こりにくい。
"
よく考えれば、環境汚染甚だしい能力である。作った時は正直戦術・戦略的価値に夢中で気が付かなかった。
「あのー、消せません……すみません」
「ふむ、変な能力の凹凸じゃの、まあいずれ消せるようにもなる」
制約なので消せないのだ。すみません。
「さて、ひと暴れしようかの」
「あー、そうだな。さっさと壁壊してくれ。爺さんコンクリくらいブチ破れるだろ」
「なんじゃの、最近の若者は貧弱な」
「強化系寄りのアンタと違って俺は具現化寄りの変化系なんだよ! 一緒にすんな!」
「ま、儂は念能力者や乗組員共の相手をしてくるわ。お主は捕まった人たちの救出を頼むわい。嬢ちゃんは、解放された人たちに紛れて御母堂を探せばよかろう」
「わぁったよ!」「はい!」
「では、行くぞ!」
拳を振りかぶり、コンクリの壁を殴り壊そうとする瞬間。
轟。爆音と共に天井に穴が開き、三人の男が落ちてきた。
「チィ!」
トーヴは振り返り、"硬"を"堅"に切り替え、男たちから僕を庇うように前に出る。
イーファはオーラを手の甲から中心に凍らせる。盾と剣のようなものを作り、構えた。
男たちの姿は、スキンヘッドのタトゥー面に、おかっぱギョロ目。そして長髪ポニーテールの三人だ。ポニーテールは西洋直剣を、おかっぱはナイフを構えている。
三人の男のうち、リーダー格らしき男が口を開く。スキンヘッドにタトゥーを刻んだいかにも反社って感じの面構えだ。
「寒ィな。お前らの仕業か。それか生き返ったガキか? まあいい。脱出するような能力者は商品にならない。処分する。アッコ」
「ほいほい、ガキンチョ守りながらで勝てると思うなよ商品共が!」
おかっぱギョロ目の男が、舌なめずりをしながらオーラの籠ったナイフを構え、じりじりと僕に近づく。
タトゥースキンヘッドのリーダーが、コンクリの床に手を当てて念ずる。
「"
直後、おかっぱの男のオーラが励起する。何もない所でナイフを振りかぶりながら。
背筋がチリチリとする、嫌な予感に、反射的に"円"を行う。僕の"円"の半径は6m、1.5ノブナガだ。
「ヒャハァ! "
私の背後、虚空からオーラが僅かに
一瞬の後、おかっぱの男が出現し、私の延髄があった一点を目掛けてナイフを振るう。だが、そこには先んじて筆大筒のペン先が置かれていた
金属音と共に、ナイフが弾かれた。
「ハァ!? これを防ぐかよ!」
不意を突いたと思ったのだろう、おかっぱの男は弾かれた勢いでナイフを取り落とす。
隙だ。あまりにも無防備。
筆大筒のGペンの先端を銃剣のように用い、おかっぱ男の腹部目掛けて突きだす。だが、肉を貫いた感覚も飛び散る血も無く、おかっぱ男は一瞬で消失した。
「ゼェ、クッソ、物騒なメスガキだなおい!」
おかっぱ男は、タトゥーのリーダーの側に再度転移していた。
「こっちのセリフだ、いきなり首取りに来るとかイカれすぎだろ!」
「少しはビビれやガキィ! 百戦錬磨みたいな面してんじゃねぇぞ暗殺者の家系かよ!」
死ぬところだった。流石に文句の一つも言いたくはなる。殺しに来てるので首取りは戦略の一つとして十分アリだろうが、それはそれとして子供相手に鬼畜過ぎる。
おかっぱの念能力は、大方放出系にありがちな転移能力。それも
ナイフだけを飛ばしてくることは無いから、おそらく転移前と転移後で速度の持ち越しは不可能だろう。
これは、天敵だ。
僕の"
だが、転移能力者、それも距離を詰めてくるタイプの刃物使い。刃物の威力の大部分は物理エネルギーによるものではなく、その形状によるものだ。
未熟さ故だろうか、転移の
筆大筒を構え、"円"に意識を集中する。もう一人――イーファと戦っているポニーテールの男――が何かしてくる可能性もあるため、"凝"も怠らない。
"円"と"凝"の並列使用は、母さんの"
さらに"堅"も並列で維持しているので、持って十五分が限界だろうか。それまでにカタを付けたい。
「トーヴさん。何か打開策とかありますかね?」
「大丈夫じゃ嬢ちゃん、安心せい。儂の近くに寄れ」
固まった方がいいかもしれない。手榴弾転移による集団爆破などの可能性はあるが、今はメリットの方が大きい。
「おう、そこのおかっぱの。子供を真っ先に狙うとは、随分な卑劣漢じゃありゃせんか」
「あ゛!? 褒めてんじゃねーぞ戦闘中に!」
おかっぱはやや照れた表情をしながら新しいナイフを取り出す。
「褒めてないわ! 卑劣っつっとんじゃ卑劣って!」
「殺し合いの最中に卑劣って褒め言葉にしかならねーよ、っと!」
来る! "円"の内部にオーラの起こり! 今度こそ仕留める!
オーラの起こりに向けて筆大筒を突きだす、が。
オーラはそのまま空に霧散した。私が振り向いた方向と真逆の方向に、おかっぱが現れる。
「やっぱバカガキだな。オーラだけでも飛ばせるんだよクソガキ!」
ナイフが振るわれる。回避は間に合わない。"円"、"凝"を解き、
だが、鋭い痛みは来なかった。生暖かい液体が背中に当たる。
「ぐ、ぐぅっ、こいつ!」
トーヴが、脇腹を刺されながら僕を庇い、おかっぱを抱き締めていた。
「おおおりゃああああ!!!」
ベアハッグ。肥大化した筋肉を総動員してトーヴは肋骨と背骨を折りにかかる。
肋骨が折れる音が、激しく密室内に響き渡る。白霧の吸音効果など目でもないように。
「ぐ、ぐがぁああ、あ! "
苦し紛れの転移。再度、タトゥーのリーダーの背後に現れる。
「がっは、あっ、はぁ。すまねぇリーダー、俺はここで限界だ、片方の肺に肋骨が刺さってる……後は、頼む」
そう言って気絶した。
「チ、使えねぇ」
そう言って気絶したおかっぱを足裏で軽く蹴とばし端に寄せるリーダー。そして、僕とトーヴに向けて拳を構える。
チラリとイーファを見ると、氷の剣でポニーテールの鉄剣使いと渡り合っているようだ。イーファが優勢そうなため、とりあえずこちらに集中しよう。
「中々やるな。処分の前に念のため聞いておくが、仲間になる気はないか? 一緒に儲けようぜ」
一瞬逡巡する。命の危機を脱するために仲間になるのは選択肢としてアリか? いや、しかし母の恥になることは出来ない。僕は
そんな思考が脳裏で走るより前に、トーヴが断言した。
「貴様らのような鬼畜外道の仲間に、なるわけがないじゃろう! シングルのDVハンターである儂が、直々に殺してやろう!」
「チ、シングルハンターかよ。外れくじだな。まあいい、どちらにしろ、この船内では俺は無敵だ。"
船体中に散らばっていたオーラが、タトゥーの男に集まってくる。
塵も積もれば山となる、と言うべきか。船全てに行き渡らせていたオーラは、男に還元された。
「半分は察してると思うが、タネ明かしだ。俺の"
溢れんばかりのオーラに、背筋が震える。"
「――お主、名前は?」
トーヴは、更に筋骨を隆起させながら、汗を拭って同様に拳を構える。
「バドウ。奴隷船テラワロスの船長だ。地獄で俺を、罵倒しやがれ!」
リーダー、バドウは床を蹴り、トーヴへと向かう。
そこに、そこに挟み入るのはイーファ。血糊のついた氷剣を振るってオーラを広げる。
「"
広がったオーラは氷壁となり、僕たち三人とバドウを分離する。
バドウは拳を振りかぶり、氷壁を一撃で破壊するだろう、それでもワンテンポの遅れは、僕たちにとって貴重だった。
頭上に、彼らが落ちてきた穴がある。
「一旦逃げるぞ!」
トーヴが、僕とイーファの襟首を掴んで跳躍する。オーラの噴射と共に、上階へと逃れた。
原作に地雷形式と結界形式みたいなワードが出てきたんで、拘束能力にも禁固型と封印型とかあるのかなーと思いました。
ワンマンアーミー時のバドウの力は0.2ウボォーギンくらいです。
全会一致ママは0.08ウボォーギンくらい。
最後のオーラ噴射は発とかじゃなく普通のオーラ垂直跳びです。