HUNTEE+HUNTEE   作:砂漠谷

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とりあえず本日から三話、毎日更新します。

序章をとりあえず今月中に終わらせたくて――(おまけの中身が知りたくて――のノリ)


失楽園

「トーヴさんも、イーファさんも。オーラが滑らかで、まるで念能力者みたいじゃないですか」

 

 老爺と野郎――トーヴと、イーファ。僕の発言に、最初に、イーファの方が答えた。

 

「やっぱりな。あんたも念使いで、合ってるよな? どうりで"纏"が自然だと」

 

 トーヴ爺はしかめ顔でそれに続ける。

 

「死にかけた時に、流れ出るエネルギーを把持するために本能的に"纏"の状態になることは、念使いじゃなくともありうる。むろん一時的なものじゃが。それゆえ黙っていたのじゃが……」

 

 それに僕は頷く。

 

「うん、母が念使いだったから、生まれつき念は使えます。母さんと一緒に海辺に落下したはずなんだけど――」

 

 転生特典の話をするほど心の許せる間柄ではない。適当に誤魔化す。

 

「ふむ。この牢屋に()()()時には、嬢ちゃんは一人じゃったぞ。御母堂のオーラも分からぬし」

 

「いや。念使いに襲われて、母は亡くなった。僕が言っているのは遺骸のことです」

 

 母の死を伝えると、イーファは表情を変えなかったが、トーヴは、ハッと息を吸い、頭を下げた。

 

「そうか――辛いことを思い出させたの。申し訳ない」

 

「いえ。気持ちの整理がついていると言えば嘘になりますが、悪意がないことはわかりますよ。それより、母の埋葬のために、遺骸を取り戻したいんですよね。手伝って、くれますよね?」

 

「……悪意は、なさそうじゃな。よし、儂が取り戻してやろう!」

 

 イーファは老爺トーヴの発言に顔をしかめる。

 

「おいおい、トーヴ爺。任務中だろ? そんなことしてる暇あるのかよ」

 

「うぐ、痛い所突くの、お主は」

 

「そもそも――どうやって、この牢屋から外に出るんだよ」

 

 コンコン、と檻の鉄格子をノックをするように叩く。すると、オーラが励起し、牢を瞬時に覆う。

 

「典型的な禁固型(ジェイルタイプ)封印型(シールタイプ)ではないことが唯一の救いだな。内部で強制"絶"とかにはならねぇ。ただ、その分檻の強度倍率はかなり高いハズだ」

 

「そんなもん儂の全力の"硬"に掛かれば――」

 

「念能力者すら奴隷にできる設備を持つ組織だ。おそらく十老頭レベルのマフィアが仕切ってる。それにトーヴ爺、アンタ変化系だろ、強化系のシングルハンターでようやく鉄格子一本折れるってレベルだぞコレ」

 

 話を遮られたトーヴは、頬を膨らませながらイーファに抗議する。

 

「む、系統をバラされたんじゃが。バイショーキンを要求するぞ?」

 

「ふざけてる場合じゃねーだろ。まずは分析だ。第一に、アンタ、ヘライクレオスと言ったか。アンタはここに、虚空から瞬く間に現れた。心臓がまともに動いてない状態でだ。放出系の別の能力者もいるな。逆に言えば、おそらく放出系の転移能力者がいれば脱出は容易だ。だが残念なことに」

 

「儂ら二人とも、変化系ということじゃなぁ」

 

 はぁ、と溜息を付く二人。

 イーファの話を聞いて、気になったことがあったので子供らしく挙手をする。

 

「ん、なんだ、ヘライ……クレオスだったか」

 

「イーファさん、それだともう一人いませんか? "こいつは放出系じゃない"と、系統を判別する能力者が。特質系なのか、勘とかを強化する強化系なのかわかりませんが」

 

 イーファは頬をかきながら、それを肯定する。

 

「ガキの癖に、意外と頭回るなー。あんたなら、どう脱出する?」

 

 数秒、うつむいて考え込んでから、提案する。

 

「この牢屋、四方が鉄格子で、外が見える。そして、その外にはさらにコンクリートの壁で四方が覆われている。鉄格子の面積は四畳ほど。外側のコンクリの部屋は二十畳はあるでしょうか。四畳の空間にも関わらず息苦しくなっていないので、おそらくこの鉄格子に気体を遮断する能力は無いと見ます。強化に必要なオーラは、おそらく無線で送電ならぬ送念で供給(チャージ)されていると思います」

 

「ふむ、嬢ちゃん。無線でのオーラ供給というが、その心は?」

 

「まず、相手に転移系の放出能力者がいるので、物質だけでなくオーラも転送できる可能性があります。この条件だと万能過ぎるので、檻の中に限定してオーラや人間を転送できる相互協力(ジョイント)型の可能性が高いでしょう。それに、有線で鉄線などを握って、それ経由で供給してるなら、電気にオーラを変化させるような能力者がいたらイチコロです。その可能性は低いと思います。――この条件なら、僕の能力が役に立ちます」

 

「ほう。見せてもらおうじゃねぇか、ガキンチョ」

 

「まず、どっちの方が"硬"が得意ですか? 苦手な方は"絶"をしてください」

 

 野郎と老爺は顔を見合わせ、イーファが"絶"を行う。トーヴは拳を握り、筋肉を隆起させる。ひょろひょろだった筋肉とよぼよぼだった肌が、少しずつ力を取り戻していく。

 

「嬢ちゃん。儂の"(プライバシー)"も先に教えておくとしよう。"失楽園(ピュア)"は、細胞培養液の性質を持つように、オーラを変化させる能力。体内に流し込み、筋肉細胞や骨密度の増加、他者の治癒などもできる。もっとも、"削る"方は不得意での。潜入任務と聞いて、一か月でここまでよぼよぼになった自分を褒めてやりたいくらいだわい。いやー辛かった」

 

 数分かけて、はちきれんばかりになった筋肉と、シミ一つない肌の姿になったトーヴ。禿げてはいるが、三十台後半にしか見えない。

 

「では、やっとくれ、嬢ちゃん」

 

「わかりました。――"白い恋人(アウターサイエンス)"」

 

 白い霧が僕の周囲に現れ、檻の内部、そして外部に広がり始める。

 

「寒いな――霧の能力は吸熱か?」

 

 イーファ青年は鉄格子の中にあったぼろ布を纏い、寒さをしのぐ。

 檻の内外に霧が満ちていき、その濃度が濃くなっていく。

 

「いえ、吸収できるのは、それだけじゃありません。トーヴさん、鉄格子を殴ってみてください」

 

「"硬"、ぬぅン!」

 

 熟練の念能力者による、全力での"硬"と殴打。それに反応するように、檻のオーラが励起する。

 ただし。"白い恋人(アウターサイエンス)"は、物理エネルギーの他に、僕と指定したもう一人――ここではトーヴ――以外のオーラを吸収する。

 もちろん、檻のオーラも吸収対象だ。

 

 ガィン、と鉄が歪む音がする。更に二撃、三撃。鉄格子の纏うオーラが弱くなっていくにつれて、破壊は加速する。

 

 結局。五撃で人が通れるほど鉄格子を歪めた。

 

「うむ! 素晴らしい能力じゃ。オーラと熱を吸収できる霧。さて、霧を消してくれんかの? イーファが寒そうじゃ」

 

 霧は、消せない。

 制約として、元のオーラに戻すことも、僕の体内に戻すことも、そのまま消失させることもできない。周囲の熱や運動エネルギーを吸収して増加しているので、自然消滅も起こりにくい。

 "夜は短し歩けよ乙女(モノクローム・デヴォーション)"を使えば絵具にして圧縮することはできるが、この能力は奥の手だ、あまり見せたくはない。

 よく考えれば、環境汚染甚だしい能力である。作った時は正直戦術・戦略的価値に夢中で気が付かなかった。

 

「あのー、消せません……すみません」

 

「ふむ、変な能力の凹凸じゃの、まあいずれ消せるようにもなる」

 

 制約なので消せないのだ。すみません。

 

「さて、ひと暴れしようかの」

 

「あー、そうだな。さっさと壁壊してくれ。爺さんコンクリくらいブチ破れるだろ」

 

「なんじゃの、最近の若者は貧弱な」

 

「強化系寄りのアンタと違って俺は具現化寄りの変化系なんだよ! 一緒にすんな!」

 

「ま、儂は念能力者や乗組員共の相手をしてくるわ。お主は捕まった人たちの救出を頼むわい。嬢ちゃんは、解放された人たちに紛れて御母堂を探せばよかろう」

 

「わぁったよ!」「はい!」

 

「では、行くぞ!」

 

 拳を振りかぶり、コンクリの壁を殴り壊そうとする瞬間。

 

 轟。爆音と共に天井に穴が開き、三人の男が落ちてきた。

 

「チィ!」

 

 トーヴは振り返り、"硬"を"堅"に切り替え、男たちから僕を庇うように前に出る。

 

 イーファはオーラを手の甲から中心に凍らせる。盾と剣のようなものを作り、構えた。

 

 男たちの姿は、スキンヘッドのタトゥー面に、おかっぱギョロ目。そして長髪ポニーテールの三人だ。ポニーテールは西洋直剣を、おかっぱはナイフを構えている。

 三人の男のうち、リーダー格らしき男が口を開く。スキンヘッドにタトゥーを刻んだいかにも反社って感じの面構えだ。

 

「寒ィな。お前らの仕業か。それか生き返ったガキか? まあいい。脱出するような能力者は商品にならない。処分する。アッコ」

 

「ほいほい、ガキンチョ守りながらで勝てると思うなよ商品共が!」

 

 おかっぱギョロ目の男が、舌なめずりをしながらオーラの籠ったナイフを構え、じりじりと僕に近づく。

 

 タトゥースキンヘッドのリーダーが、コンクリの床に手を当てて念ずる。

 

「"Basic(ブラック・マジック)"、再起動(リブート)

 直後、おかっぱの男のオーラが励起する。何もない所でナイフを振りかぶりながら。

 背筋がチリチリとする、嫌な予感に、反射的に"円"を行う。僕の"円"の半径は6m、1.5ノブナガだ。

 

「ヒャハァ! "Portal(ソウ)"!」

 

 私の背後、虚空からオーラが僅かに()()()として発生する。刹那の判断、私は"夜は短し歩けよ乙女(モノクローム・デヴォーション)"の筆大筒を具現化し、切っ先をオーラの方に向ける。

 一瞬の後、おかっぱの男が出現し、私の延髄があった一点を目掛けてナイフを振るう。だが、そこには先んじて筆大筒のペン先が置かれていた

 金属音と共に、ナイフが弾かれた。

 

「ハァ!? これを防ぐかよ!」

 

 不意を突いたと思ったのだろう、おかっぱの男は弾かれた勢いでナイフを取り落とす。

 隙だ。あまりにも無防備。

 

 筆大筒のGペンの先端を銃剣のように用い、おかっぱ男の腹部目掛けて突きだす。だが、肉を貫いた感覚も飛び散る血も無く、おかっぱ男は一瞬で消失した。

 

「ゼェ、クッソ、物騒なメスガキだなおい!」

 

 おかっぱ男は、タトゥーのリーダーの側に再度転移していた。

 

「こっちのセリフだ、いきなり首取りに来るとかイカれすぎだろ!」

 

「少しはビビれやガキィ! 百戦錬磨みたいな面してんじゃねぇぞ暗殺者の家系かよ!」

 

 死ぬところだった。流石に文句の一つも言いたくはなる。殺しに来てるので首取りは戦略の一つとして十分アリだろうが、それはそれとして子供相手に鬼畜過ぎる。

 おかっぱの念能力は、大方放出系にありがちな転移能力。それも相互協力型(ジョイントタイプ)。タトゥーの男が設定した『部屋』の中であれば、マーキング要らずで無条件に自他を転移させることが可能。

 ナイフだけを飛ばしてくることは無いから、おそらく転移前と転移後で速度の持ち越しは不可能だろう。

 

 これは、天敵だ。

 僕の"白い恋人(アウターサイエンス)"は、相手を近づかせないことが大前提。念弾や実弾にはめっぽう強いし、相手が強化系でも持久戦に持ち込めばオーラ吸収で優位に立てる。

 だが、転移能力者、それも距離を詰めてくるタイプの刃物使い。刃物の威力の大部分は物理エネルギーによるものではなく、その形状によるものだ。低熱量の(つめたい)ナイフが低運動量で(ゆっくり)刺さっても痛いものは痛い。

 

 未熟さ故だろうか、転移の()()()があるのが救いだ。"円"で警戒しておけば不意を取られることは多分ない。後は僕の反射神経の問題だ。

 

 筆大筒を構え、"円"に意識を集中する。もう一人――イーファと戦っているポニーテールの男――が何かしてくる可能性もあるため、"凝"も怠らない。

 

 "円"と"凝"の並列使用は、母さんの"MUGEN(イマジナリ・スクランブル)"の精神空間内でかなり鍛えたつもりだが、それでもかなり集中力を使う。

 さらに"堅"も並列で維持しているので、持って十五分が限界だろうか。それまでにカタを付けたい。

 

「トーヴさん。何か打開策とかありますかね?」

 

「大丈夫じゃ嬢ちゃん、安心せい。儂の近くに寄れ」

 

 固まった方がいいかもしれない。手榴弾転移による集団爆破などの可能性はあるが、今はメリットの方が大きい。

 

「おう、そこのおかっぱの。子供を真っ先に狙うとは、随分な卑劣漢じゃありゃせんか」

 

「あ゛!? 褒めてんじゃねーぞ戦闘中に!」

 

 おかっぱはやや照れた表情をしながら新しいナイフを取り出す。

 

「褒めてないわ! 卑劣っつっとんじゃ卑劣って!」

 

「殺し合いの最中に卑劣って褒め言葉にしかならねーよ、っと!」

 

 来る! "円"の内部にオーラの起こり! 今度こそ仕留める!

 

 オーラの起こりに向けて筆大筒を突きだす、が。

 

 オーラはそのまま空に霧散した。私が振り向いた方向と真逆の方向に、おかっぱが現れる。

 

「やっぱバカガキだな。オーラだけでも飛ばせるんだよクソガキ!」

 

 ナイフが振るわれる。回避は間に合わない。"円"、"凝"を解き、ヤマ張り(カン)でうなじ部分に"硬"。

 

 だが、鋭い痛みは来なかった。生暖かい液体が背中に当たる。

 

「ぐ、ぐぅっ、こいつ!」

 

 トーヴが、脇腹を刺されながら僕を庇い、おかっぱを抱き締めていた。

 

「おおおりゃああああ!!!」

 

 ベアハッグ。肥大化した筋肉を総動員してトーヴは肋骨と背骨を折りにかかる。

 肋骨が折れる音が、激しく密室内に響き渡る。白霧の吸音効果など目でもないように。

 

「ぐ、ぐがぁああ、あ! "Portal(ソウ)"!」

 

 苦し紛れの転移。再度、タトゥーのリーダーの背後に現れる。

 

「がっは、あっ、はぁ。すまねぇリーダー、俺はここで限界だ、片方の肺に肋骨が刺さってる……後は、頼む」

 

 そう言って気絶した。

 

「チ、使えねぇ」

 

 そう言って気絶したおかっぱを足裏で軽く蹴とばし端に寄せるリーダー。そして、僕とトーヴに向けて拳を構える。

 

 チラリとイーファを見ると、氷の剣でポニーテールの鉄剣使いと渡り合っているようだ。イーファが優勢そうなため、とりあえずこちらに集中しよう。

 

「中々やるな。処分の前に念のため聞いておくが、仲間になる気はないか? 一緒に儲けようぜ」

 

 一瞬逡巡する。命の危機を脱するために仲間になるのは選択肢としてアリか? いや、しかし母の恥になることは出来ない。僕は母たちの栄光(ヘライクレオス)だ。

 そんな思考が脳裏で走るより前に、トーヴが断言した。

 

「貴様らのような鬼畜外道の仲間に、なるわけがないじゃろう! シングルのDVハンターである儂が、直々に殺してやろう!」

 

「チ、シングルハンターかよ。外れくじだな。まあいい、どちらにしろ、この船内では俺は無敵だ。"Basic(ブラック・マジック)"――権力集中(ワンマンアーミー)

 

 船体中に散らばっていたオーラが、タトゥーの男に集まってくる。

 塵も積もれば山となる、と言うべきか。船全てに行き渡らせていたオーラは、男に還元された。

 

「半分は察してると思うが、タネ明かしだ。俺の"Basic(ブラック・マジック)"は、檻を強化する能力――じゃあない。神字を刻みオーラを籠めた()()()()から一部屋を選択し、それを強化する能力。で、部屋の定義はけっこうガバくてな。俺のタトゥーにも神字の意匠がある訳だが、『皮膚や筋肉、骨で囲まれて、臓器が住む部屋』とも言える訳だ、俺自身が。この解釈のお陰で船の一部になって出られなくなっちまったが、それでもお釣りが出る程度には強ぇぞ」

 

 溢れんばかりのオーラに、背筋が震える。"白い恋人(アウターサイエンス)"によるオーラの吸収もまるで追い付かないオーラ量。全会一致を経た母に、更に倍するほどの莫大さ。

 

「――お主、名前は?」

 

 トーヴは、更に筋骨を隆起させながら、汗を拭って同様に拳を構える。

 

「バドウ。奴隷船テラワロスの船長だ。地獄で俺を、罵倒しやがれ!」

 

 リーダー、バドウは床を蹴り、トーヴへと向かう。

 

 そこに、そこに挟み入るのはイーファ。血糊のついた氷剣を振るってオーラを広げる。

「"透明なゆりかご(ソウル&クール)"、全開!」

 

 広がったオーラは氷壁となり、僕たち三人とバドウを分離する。

 バドウは拳を振りかぶり、氷壁を一撃で破壊するだろう、それでもワンテンポの遅れは、僕たちにとって貴重だった。

 

 頭上に、彼らが落ちてきた穴がある。

 

「一旦逃げるぞ!」

 

 トーヴが、僕とイーファの襟首を掴んで跳躍する。オーラの噴射と共に、上階へと逃れた。




原作に地雷形式と結界形式みたいなワードが出てきたんで、拘束能力にも禁固型と封印型とかあるのかなーと思いました。

ワンマンアーミー時のバドウの力は0.2ウボォーギンくらいです。
全会一致ママは0.08ウボォーギンくらい。

最後のオーラ噴射は発とかじゃなく普通のオーラ垂直跳びです。
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