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「あんたは……?」
差し出された手を私は取ることは無く、警戒は解かぬようジッと目の前の怪物を睨みつけた。怪物の表情は崩れずに、ずっと笑ったままだった、気味が悪かった。
「私かい?私はただの通りすがりの、しがないフィクサーさ」
嘘だ。ただのフィクサーが、そんな力を持っている訳がない。
怪物は笑みを絶やさない。自然と手斧を握る手に力が入った。
それを見透かしていたのか、剣を鞘に納めて手をヒラヒラと振った。敵意は無い、そう言いたいのだろう。
「随分と警戒されてるね。ま、仕方のない事だけど」
「………」
「その様子じゃ、大丈夫そうだね」
「手に持ってる物、しっかりと握ってな」そう言葉にする彼女。何を言っているのか初めは理解ができなかったが、私達を囲むように増える気配を感じ、理解した。
「裏路地のネズミ共か、音を聞いて駆けつけたね」
再び剣を抜き、周りを見渡した。建物の間の暗闇から貧相な格好をした奴らが群がって来る。その目は皆同じくして血走っており、それぞれの手には凶器が握られていた。
彼等も生きる事に必死なのだ、そう思った。
「お守りは必要かい?」
紫色の女が戯けて笑った。
「………必要ない」
彼女を冷たく突き放すように呟くと更にニヤリと笑った。
「そうかい、なら…ちゃっちゃと片付けちまおうかね」
互いに背を向け、互いの武器を構えた。
鮮血と、紫の影が裏路地に広がった。
静寂に包まれたのはそれから直ぐのことだった。
「相変わらず、ここはホントに酷い所だねぇ、全く」
白い煙が薄暗い裏路地の空へ儚く消えていく。私達の下で血の絨毯に転がっている死体を見て、何だか似ていると思った。
「あんたも吸うかい?」
紫色の彼女が小さな箱に詰められた煙草を私に向けて差し出した。私は首を横に振り、拒否の意を伝えた。
「そうかい」
女はそれだけ言うと、再び煙草を口に咥えた。煙が立ち上り煙草のヤニ臭い匂いが私の鼻を刺激した。だが、決して嫌いな匂いでは無かった。
「で。あんたは何でそいつらの死体を漁ってるんだい?」
「………仕事。依頼主から、こいつらが盗んだ物を取り返してくれって」
首から上が無くなっている男が着ているコートのポケットに手を突っ込んだり、身体中を弄ったりして何かないか探り回すも、目当ての物は見つからず、ただ冷たくなった肌の感触が手に残るだけだった。思わず口からため息が漏れ出した。
「なんだい、お前さんもフィクサーなのかい?随分若いね」
「……あんたこそ、本当に何者なんだ。ただのしがないフィクサーがそんな力を持ってる訳ないだろ」
女は煙草を捨て、あの嫌味ったらしいニヤケ顔で呟いた。投げ捨てられた煙草が放物線を描くように飛んでいき、やがて最後は火種の潰れる音と共に消えていった。
「紫の涙」
「………は?」
思いもよらぬ発言に思わず、漁っていた手を止め、女の顔を凝視した。聞き間違いかもしれない、コイツは今……。
「聞き間違いじゃないよ、本当に私は正真正銘、ハナ協会から色を与えられたフィクサー"紫の涙"のイオリさ」
ほら。と目の前に突きつけられたフィクサーのライセンスを見た。間違いない、ハナ協会の実印も押されている、本物だ。
「本当にそうなのか……」
「だからそう言ってるじゃないのさ」
「…………なら」
「…?」
「なんで特色サマともあろう者が私なんかを助けたんだ?あんたにとって何の利益も無い、意味がないはずなのに」
そこまで話すと紫の涙は顎に手を当て、少し考える仕草をしたのち、口を開いた。
「助けられる命があったなら助けるのが道理じゃないのかい?」
「ーーー!」
胸が貫かれるような衝撃が私を襲った。私以外のフィクサーは、皆自分の利益だけで考えるような奴らばかりだったから。しかし彼女は違う、損得勘定で動かず、自分の意思で、力で、ここまで上り詰めたのだ。
私も、彼女みたいになる事が出来れば……。
家で待つ、愛おしい少年の姿を思い出した。
「それじゃあ、私はこれで。自分の事、大切にしなよ」
「待ってくれ!!!」
私に背を向け、立ち去ろうとしていた所を必死に呼び止めた。ゆっくりと振り返る彼女の顔は驚きで満ちていた。私は気にする事なく続けて声を捻り出す。
"ありがとう、カーリー。僕の事、助けてくれて"
「…私を……強くしてくれ………くれませんか」
"僕は…… カーリーが少しでも大切だと思えた人達を殺した……人殺しだ……"
「守りたい人が居るんだ……絶対に……私が守らないきゃいけない人が………」
"今は、今日だけはさ…誰も見てないから……我慢しなくても良いよ"
「だからっ………だから私は……!」
強くなりたい。
必死になって声を上げた。それは慟哭だっただろうか、或いは決意の表明だったかもしれない。
彼女にこの声がどの様に聞こえたのかは分からない。しかし、ゆっくりと体ごと振り返って、剣を抜いて言った。
「やっぱり、
不敵に笑う顔を見た。それは何処か懐かしんでいるようにも、楽しんでいるようにも見えた。微笑む口から言葉が続く。
「あんたのその意思、決意、どれほどの物か私に見せてみな」
剣先を私に向ける。私の中で何か熱い物が湧き上がった。手斧を握りしめ、構えた。そして走り出す。
剣先が目の前から消える。私が次に目にしたのは横からだった。喰らいつくように手斧の刃で受け止める。凄い力で大きく弾き飛ばされた。
そんな隙を特色である彼女が見逃す筈もなく、次々と恐ろしい速さの斬撃が私に向けて飛んでくる。
"カーリーって凄く強いんだね!"
そんな事はないさ、ブラッド。彼女みたいに私より強い奴なんて幾らでもいるさ。
……でも、それじゃ駄目だよな。
誰よりも
誰よりも
誰よりも!!私は!!
「はぁああああ!!」
反射神経を今ある限界まで引き出し、必死に受け止め続ける。剣を振り続ける彼女は一瞬、驚愕に顔を歪めるも、すぐに笑みを浮かべた。
彼女が大きく振りかぶる。私も同じように振りかぶった。金属同士が大きくぶつかり合い、甲高い音が裏路地中に響き渡った。
鍔迫り合いが続く、私は必死だが、彼女は余裕そうだ。その顔がなんだか憎たらしく思えて感情が昂り、一心不乱に力を込めた。
バキンッ!!
強い衝撃は私を倒れこませ、黒い刃は粉々になって宙を舞った。黒い空と刃の光沢が合わさって星の様に見えた。
「勝負ありだね」
死刑宣告とも取れる言葉が聞こえると同時に私の額に刃先が付き、額から細い赤い線が流れて落ちた。
駄目だったか……。
落ち込み、顔を伏せた私に彼女が顔を覗かせ、笑いながら言った。
「合格だね」
「え………」
思わぬ言葉に顔をあげる。ニコニコと今までの嫌味が含まれた笑顔ではなく純粋な優しい笑顔だった。
「えっ…って、まさか本気で私に勝とうとしたのかい?まぁ、確かにあんたらしいけどさ」
手を私の前に出し、言葉を続ける。
「今日からあんたは"紫の涙"の弟子だよ。私は厳しいけど、しっかりと着いてくるんだよ?」
「………あぁ!」
差し出された手を取る。今日、この時から私は彼女の弟子として、過ごすことになったのだった。
戦闘描写は貧弱です。難しい……精進します。