ごめんなさいお久しぶりです。諸事情により間が空いてしまいました。
みんなも生活習慣病には気をつけよう!(一敗
カルメンから貰った剣の力は凄まじいものだった。耐久性に切れ味、そのどれもが今まで使ってきた工房の武器よりも優れていた。見た目こそ酷い物だが、それを加味しても十分過ぎる代物だった。
「ーーーっふ!」
愚かにも私に向かって来た裏路地のごろつき達に向けて大きく横に薙ぎ払う。赤い残像が相手を切り裂き、叫びと共に血飛沫が裏路地中に広がっていく、すぐ後ろで依頼者が小さな悲鳴を上げるが気にしない。
「はっ!!」
ガタイの良い奴には頭から剣を振り下ろす。感触まるでゼリーの様に柔らかく、容易く切り裂く事が出来る。両断された身体から止めどなく溢れ出した鮮血が自身が着ているコートに染み込んだ。
「ば、化け物だ……」
その様子を見ていた周りのごろつき共は顔を青ざめて後退り始める。だが、もう遅い。武器を手に取り、弱者を弄ぶ奴等には相応しい最期だろう。
「…覚悟しろ、私の目が黒い内はお前達みたいな奴らの蛮行を赦しはしない」
再び剣を構え、走り出す。敵の恐怖に駆られた顔はすぐさま肉塊の剣の餌食にとなり、その血を剣が啜る。所詮三下以下の実力のごろつきなど私の敵では無く、すぐに戦いは終わった。
周りに脅威が居ないのを確認し、今回の依頼人である護衛対象の若い女性に駆け寄る。腰を抜かしていた彼女の顔は疲弊と安堵、そして私への恐怖がある様に見えた。
「…終わった、敵はもういない。立てるか?」
「は、はい……なんとか…」
彼女を起き上がらせようとその白く細い手を掴むと微かに震えているのが分かる。
「……目的地は確かもうすぐだったな、行くぞ」
「はっ…はぃ…」
それからは特に何の障害も無く、目の前が目的地という所まで辿り着く事が出来た。依頼人は襲われた事実が恐ろしかったのかそれとも血塗れの私が怖かったのか分からないが終始ビクビクしていた。
「着いたな、私はここまでだ。それで、報酬の件だが…払えるのか?」
「……はい…。……これなんですけど…」
「ん?」
おずおずとした様子で私に差し出してきたのは細やかな装飾が施された金色の懐中時計だった。煌びやかな雰囲気を感じさせるそれは誰が見ても高価な物だと理解できるだろう。どうやらこれが報酬らしい。
「これが私が持ってる中で一番高価な物で……父が残してくれた物なんです」
手に取ろうとした時、彼女がそう言った。
(あぁ、そうか)
受け取る手が止まる。そして私は理解した。
「……?」
この人は、弱い。
弱い人達は何も無い。
金も、物も、何も無いから、
(
そんな事、昔から分かっていた筈だ。
昔の事を思い出す。ブラッドが傷心する私を抱きしめてくれた時、あの時も同じではないだろうか。
(ブラッドはあの時、自分の気持ちを押し殺して私を慰めたんだ…)
彼女の差し出す手を懐中時計と共に押し戻す。不思議そうな表情を浮かべる彼女に向けて言った。
「報酬は払わなくていい、これはお前が持っていろ。これはお前にしか価値が分からない大切な物だ」
「……!」
「それじゃあな」
彼女に背を向けて立ち去ろうとする。すると不意に彼女は私を呼び止めた。
「あのっ!!」
「…?なんだ」
振り向くと彼女は涙を流していた。涙で濡れた顔に私への恐怖の感情はもう見えなかった。
「本当にっ、本当にありがとうございました!な、名前を教えて貰えませんか?」
「…カーリーだ」
望み通り名前だけを伝えて今度こそ私はそこから立ち去った。後ろの気配は暫くの間消える事は無かった。
ーーーーー
「やっぱりカーリーはカーリーだね」
「なんだそれ」
「カーリーはとっても優しいってことだよ」
「はっ、まさか」
帰って早々先程のことをブラッドに話すと彼のけらけらと笑う声が私の小さな部屋に響いた。私達が今居るのはカルメンの研究所にある私に与えられた部屋だ。外郭に建っているにも関わらず一通りの設備が整っているのはカルメン達の研究が大きくなっていっている証拠だろう。
咥えていた煙草を一息吸い込み、大きく吹き出した。白い煙が天井に張り付いている蛍光灯まで吹き上がるとゆっくりと姿を消した。
「煙草は体に悪いってカルメンが言ってた、肺が汚くなって病気になるって」
「私は体が丈夫だから問題無いんだ」
「うーん…そういう物なの?」
「ああ」
何とか誤魔化して煙草を吹かす私をまじまじと見つめるブラッドは興味津々なようで。
「僕も気になってきたな、煙草。おいしいの?」
「…ブラッドにはまだ早い」
「えーなんでー?」
「……早いったら早いんだ」
「もーーっ!絶対また子ども扱いしてるでしょ!」
「子供だろ、ブラッドは」
変な事言った仕返しだ。目の前でブーブーと文句垂れている子供を尻目に短くなった煙草を灰皿に押し付けた。
「あ〜〜…」
そんな残念そうな顔してもやらない物はやらないからな。どうせあげた所で咽こむのは目に見えている……子供だし。
「飯でも食いに行くか」
「うん……」
しょんぼりと肩を落とすブラッドを横目に見ながら食堂に向かおうとした時だった。
『警告。フロアDにて被検体O‐04‐07が脱走。研究員、及び非戦闘員はフロアDからの脱出を。また、フロアDへの入場は禁止されます。戦闘員各位、迅速な対応を願います』
「「!!!」」
機械的な音声とともに研究所内に鳴り響く警告音、幻想体の脱走だ。すぐさま武器を取り出し、ブラッドと顔を見合わせる。彼も準備はできているようだ。
「行くぞ」
「うん」
口数は少ない、だがそれだけでも互いの信頼は感じられるのはこうして二人で生きてきたからだろう。
それだけ話すと私達は誰よりも早く研究所内を駆けた。
フロアDに着いた頃には肌で感じられる程の異質な空気が研究所内を包み込んでいた。赤いハザードランプが照らし続けている廊下には人の気配は無い、どうやら皆無事に脱出出来たようだ。
「気をつけろブラッド。相手は怪物だ、人間相手の戦略は聞かないと思え」
「うん、分かってる」
赤暗い廊下を慎重に進んでいくと、周りの損傷が激しくなっていっている事に気が付く。どうやらこの辺で随分と暴れていたようだ。
「カーリー、あれ…」
ブラッドが何かに気付いた様で小声で私に呟きながら廊下の奥に指を指した。暗がりでよく見えないが小柄なナニカが蠢いているのが見えた。どうやらあれが脱走した幻想体らしい。
「気づかれていない内に叩く、行くぞブラッド」
「了解」
二人並んで駆け出し、互いに武器を振るった。小さい影の正体は虫のような姿をした肉の塊だった。鋭い歯を揃えた口はあるが顔らしい顔が無く、触角のような角があちこちに体から生えている。
肉を切り裂いた時の柔らかい感触。幸い肉体は柔らかい肉質でできているようで、容易く両断することができた。
斬られた幻想体は小さな悲鳴を上げ、そして溶けるようにその姿を消した。
「これで終わり?」
ブラッドがそう行ったのも束の間、彼の体が何かに強く跳ね飛ばされた。
「っぐあ!?」
「ブラッド!!……っ!!」
飛ばされたブラッドに駆け寄ろうとするも、前方から何かが私に攻撃を仕掛けてきた。咄嗟に剣で防ぐことは出来たが、中々の力だ。
攻撃をはじき返し、そのまま反撃へと転じる。剣を横に薙ぎ払うと手ごたえがあった。
「ふんっ!!」
そして流れるように剣を叩き下ろすと、地面が割れ、何かが潰れた音と共に鮮血と悲鳴が上がった。形は違えどどうやら先程と同じ個体の幻想体のようだ。
「ブラッド!大丈夫か!?」
「大丈夫だよ、カーリー…」
壁に叩きつけられ、倒れこんでいたブラッドが起き上がる。頭から血は流れているものの、大きな外傷は無いようで、大きく息を吐いた。
「カーリー、周りに…」
「あぁ、どうやら数が増えるタイプの敵らしい。やれるか?」
「勿論」
互いに武器を構える。周りには決して少なくはない数の肉の虫が私達を取り囲んでいた。
「行くぞ…!」
地面を蹴り上げて走り出し、幻想体達の中へと飛び込んだ。
飛び込んだ先に待ち構えていた幻想体に向けて剣を突き刺すと、黒い体液をまき散らしながら暴れる体を刺したまま力強く投げ飛ばした。
「次っ!」
流れるままに此方へと牙を向けた奴らから順に剣で薙ぎ払っていく。赤い斬撃を受けた幻想体はなすすべなく溶けて消えていく。
チラリとブラッドの方へと目を向けると彼よりひと際大きい個体と対峙していたが、丁寧に立ち回り、持っている手斧で着実に敵にダメージを与えていた。
(私も負けて居られない…もっと、もっと強い力を…!あの子を守れるように!)
溢れる力を振るい敵に叩き付ける。
(もっと…!)
斬る。
(もっとだ…!)
斬り続ける。
守る為に。
剣を強く握りしめた。
グチャッ ベキベキッ ゴチュンッ
「……っ!?」
突如、頭の中から何かが鳴り響く。肉が混ざり合うような音、骨が砕けた音が不規則に、それらがぶつかり合って渦巻くような音だ。
いや、音では無かった。これは声だ。誰かが強く、切実に何かを望んでいる声だ。
目の前で戦っているコイツらが引き起こしているのか?試しに剣で周りを吹き飛ばしてみるも声は無くならない、むしろ声は強く、荒々しく、鋭く頭に響いた。
思わず頭を押さえる。こんなことをしている場合ではないのに、守らなくては、あの子を。
「カーリー…?」
グチャバキンコンッバチャックチュゴキンバキバキポキンガラガランヴォングチャグチャガチャゴンゴンゴンバキンッバンッ
声はどんどん大きくなっていく、守りたいと願うたびに、強くありたいと願うたびに。その声は……。
「黙れ」
私の心を飲み込もうとしてーーーーーーーーー。
「カーリーーーッ!!!!!」
突如として何かが私の周りを吹き飛ばした。そしてその叫びにハッとする。聞き覚えのある……そうだブラッドの声だ。
「ブ…ブラッド……」
「はぁっ!はぁっ!はぁ…はぁ…大丈夫…?カーリー……?」
目の前には先程まで戦っていた幻想体の姿は無く、代わりにブラッドが立っていた。その片腕は今まで見たことのある黒い殻を纏っている。
「ブラッド……その腕は…」
今までは意識が無いままに振るっていた黒い腕を今では何ともないかのように平然としている……いや…それよりもだ、ブラッド。なんか怒って無いか?
なんて考えている内に耳が張り裂けそうな怒声が鳴り響いた。
「そんな事気にしてる場合じゃないよ!それよりも大丈夫なの!?いきなり苦しみだしたからビックリしたんだよ!?」
いや、気にしている場合じゃないか…?そう言葉にするのに今の私には度胸が無かった。今まで優しかった彼からは想像出来ない程には彼の迫力は凄まじいものだったのだ。
「幻想体は皆倒したから、急いで医務室行くよ!」
「ちょっ、待っ」
為す術もなく凄い力で引きずられていく。さっきの幻想体の力なんて比にならないくらいだ。
「歩けるから大丈夫だブラッド…」
「駄目!次は僕の番だよ!」
医務室につくまで何度もブラッドに抗議したが、全く聞く耳を持ってくれなかった。
痛風は痛いぞ……尿路結石はもっと痛いし怖いぞ……。