《 ℍuM4n sℎ₃ⅼL 〙
「ぎゃあぁぁぁ!!」
「やめっ、やめてくれぇっ!」
「痛ぇ…畜生死にたくねぇよぉ…!」
守りたいと願うたびに強くなる声を抱えたまま私は多くの物を斬ってきた。
「ありがとうございます…!」
「ありがとう…貴方は私の英雄よ!」
「本当に…本当にありがとう」
それに伴って多くの人も守ってきた。裏路地で理不尽に危険に晒された人や裏路地で生きるにはか弱い人、それからカルメンの研究所で脱走した被検体に殺されかけた人達。
それらの行動全てに大層な思想などない。ただ、誰かが危ない目に遭っているから動いていただけだからーーーーー。
【Y0U 70o aR3 Ⅼo0k1N6 F0R 4 ℎUm4N sHElⅬ 」
願い、血を吸い、今までより強く濃くなった声は私に問いかけた。お前もやはり人間の殻を求めていると。
実際のところ、その質問は私に向けられたものではなかったのだろう、それはただ単に自分の言いたいことを言うだけだ。私を飲み込もうと唆すための言葉でも、説得しているわけでもない、独りでに吐き出された声。
「 1 N3eD i7 』
[ T0 prO73cT )
それなのに私の体はその場で固まってしまった。
【Ⅰs tH3 V@luE 0f oUr L1ⅴ3S tRuLy W0r7H 3xCh4n61NG F0r TH3 v4LU3 oℲ Tℍo5E I H4V3 KILLED ¿ 】
それはずっと何かを言った。果たして私たちの命の価値は私が殺した者たちの価値と引き換えられる程なのか?と。
声はいつも曖昧で、それほど上手く言葉を使うことができていなかったが、どうしてか私の頭はそんな風に受け止めていた。もしかしたら、ただ私が考えていたことだったのかもしれない。
そして私はその声を否定した。何も無差別に殺していた訳じゃない、わたしはただ……誰かがあぶないめにあっているからうごいただけ
【 本当に? 』
「あ……………」
必死に否定していた言葉に私の心は少しずつ揺らぎ始めた。
『 血で血を洗えば、最後には何が残るのか 】
私の目の前が真っ暗になり、ある
荒れ果てた都市が見える、血に濡れた大地に何かが佇んでいる。
人のカタチをした殻だ。
幾つもの殻が重なり合って人のカタチを作り出し、すべてを飲み込んでしまいそうな黒い身体は底の見えない恐ろしさを表しているようだった。
拳を握り締め何処か遠くを眺める姿を私は、とある人物の姿と重ねた。
重ねてしまった。
「 血に濡れた殻だけが残るだろう 』
私は少しへたり込んだ。でも頭を動かすことは止めなかった。本当に飲み込まれてしまえば、いつしかカルメンが言った通り危険なことになるかもしれない。
(カルメン……)
そうだ、カルメンなら違う。誰も行こうとはしない道を進んでいくカルメンのまなざしに勝てるものはいないだろう。あのまっすぐな目つき…演説しながら誰かから野次を受けても、これ以上は進めない状況に皆が絶望するときも。カルメンは皆を導くために自分の事を顧みず皆の前に立った。そんな人を守れたら
あぁ、そうだ。あの人さえ守れるなら………
『 ■■に、■■は■■■の?」
違う……お前も一緒だ…私はお前が幸せに生きていってほしくて…。
[ Tℎ4T I sC4rY 。 ℍ■ is D4⒩g3R0uS 】
それがどうした。そうだ、私にはどうだっていいんだ。あの日に誓ったのだから。
「 He KiLl3D US . Killed and kiLLeD And KiLLEd 、 AND Tℍ3n He S■■■e■ u■ ■w■■ ■■ ■h■■ o■■aN 】
私はあの子の優しさに救われたんだ。だから今度が私があの子を救う、この世界をあの子が笑って暮らせる世界に変えてみせる。
考えがはっきりとしていく、そしてこれ以上座ってばかりは居られないと頭よりも身体が先に素早く反応した。
それを掴んだ時、私の身体は何よりも熱くなっていた。これは…怒り?私はやはり声に飲み込まれてしまったのだろうか?そう考えるにはあまりにも心が落ち着いていて、なにより清々しく思える程だった。頭は冷たく、心は正反対に燃え上がっていた。
ふわりと、ふと私の身体を包み込む何かに気が付いた。いつのまにか私は鎧に身を包んでいて、その上にさらに布ではない……霧のようなものが守るように包んでいた。
私は驚きを隠せないまま何度も身体を動かすと、間もなく鎧も霧も自然と消えていった。それと同時に今まで聞こえていた声が聞こえなくなっていることに気が付いた。
赤い剣に目を向ける。大きな眼は未だ私を見つめ続けていたが、今まで感じていた吸い込まれそうな不安感や得体のしれない感覚は無くなっていた。寧ろ感じるのは…安心感…だろうか、何だか不思議な気持ちだ。全能感が胸の中で荒々しく流動するような、力が溢れて止まない感覚が私を支配していた。
「カーリー、何かいいことでもあった?」
帰ってきた私を見るや否やブラッドが目を丸くしてそんなことを聞いてきた。何でそんなことを聞くのかを訪ねると、
「んーー…何となく?嬉しそうにしてたからかな」
「そんなに判りやすいか私は」
「でも、カーリーが嬉しいと僕も嬉しい!」
屈託のない笑みを浮かべてそう返すのだ。喜び、憂い、決意、様々な感情が入交じり思わず私は彼を抱きしめた、こんなにも私は感情的だっただろうかと思いながらも抱きしめる力を更に込めた。彼は終始困惑しているようだったが、何も言わないまま私の背を優しく撫で続けていた。
私より少し低いくらいにまで伸びた身体は抱きしめるのに丁度いい大きさで、温かい。
でも、何かを背負うにはあまりにも小さくて、不安定だ。
だからこそ、だからこそ私がいる。
(お前だけは…絶対に………)
ーーーーー
「~~♪」
何だか最近カーリーの機嫌が良い。いや、機嫌が良いというよりかは憑き物が取れたかのように晴々としていると言えばいいか、そんな感じ。
彼女が嬉しいと、僕も嬉しい。廊下を歩く足取りは軽く、鼻歌を口ずさむその姿は誰が見てもきっと上機嫌だと分かるだろう。
「何だか嬉しそうねブラッド」
「あっ、カルメン。実はカーリーがね…ってあれ?誰その子たち?」
そんな時だった、カルメンが二人の子供を連れていたのは。
「そう、後であなた達に紹介しようとしたの。こっちの男の子がエノク、それで女の子の方がリサ。外郭の廃墟に居た所を私が引き取ったの」
「こんにちは、僕はエノク。よろしく」
カルメンが話し終わるのと同時に隣に居たエノクと紹介された男の子が挨拶をした。淡い青色のパーカーのポケットに両手を入れながら微笑むその姿は子供とは思えないほど大人びていて、珍しく感じた。
「ほら、リサも」
「……………ゎ、私…はリサ」
エノクの服の裾を掴みながら挨拶をしたのはリサという子らしい。オレンジのドレスにきれいな金色のロングヘアーは外郭どころか巣に住んでいる子供だと勘違いしてしまいそうなほど小綺麗な子だった。
ただエノクとは違い、過剰とも思える警戒心がその紫の瞳から伝わってきたが。
「僕はブラッド。よろしくねエノク、リサ。何か困ったことがあったら言ってね、できることなら何でもするから」
「ありがとう、ブラッド」
「……………ありがと」
「ふふふ、仲良くなれそうね皆」
僕達のやり取りを見て優しく微笑むカルメン。でも、今まで自分よりも年下の子となんて関わった事が無かったから年上として上手く関係を築けるか不安だ。
「…………」
(あとすっごいリサがこっち睨んでくる…!)
それから四人で研究所内を案内して回ったが、終始リサは僕に警戒を解くことは無かった。
………本当に上手くやっていけるだろうか…?
一抹の不安を抱きながらその日は流れるように終わった。
多分この時からだろう。
僕達を取り巻く運命の歯車が軋み始めたのは。