Heart for You   作:荒屋

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 皆さま、明けましておめでとうございます。今年もぼちぼちと書いていきますのでよろしくお願いします。




ブラックアウト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「んぅ………」

 

 背中から感じる温かい感触を感じながら僕は目を覚ました。ぼやける目を擦りながら窓を見遣る、窓から差す光は無く暗闇に包まれていた。どうやら早いうちに目が覚めてしまったようだ。

 起きるにはまだ早い時間、もう一眠りしよう。そう思い布団の中にさらに潜り込んだ。

 

 「すぅ……すぅ…」

 

 僕の頭の方から小さな寝息が聞こえる。起こしてしまわないように動きながら後ろに向き直す、視界いっぱいに見えたのは背中から感じた温かさの正体だ。彼女の顔は柔らかで、黄色い瞳を閉ざしてすっかりと夢の中に入り込んでしまっていた。

 あの戦っている時や、外に出ている間の警戒している顔をしていたとは思えないほどの穏やかな顔だ。

 

 その顔に魅入っていると、いきなり背中の方に手をまわして抱きしめるように僕の顔を彼女自身の胸へと押し付けた。

 

 (く、苦しい……)

 

 寝ぼけているのか。彼女と一緒に寝始めてからはいつもこんな状況になってしまっている、彼女は気づいていないようだけど。

 

 (でも、温かいな……)

 

 鼻から息を吸い込んだ。彼女の香りが直に鼻の奥へと伝わって来る。彼女は冗談だと疑っていたが、本当に好きな匂いなのだ。お母さんを思い出させるような、そんな匂い。心いっぱいに幸せが包まれるような安心さがとても好きだった。

 

 (こんな幸せがいつまでも続けばいいな)

 

 笑みを浮かべて、心の底から願う。

 

 どうか、僕たちがこのまま幸せになれますように。

 

 どうか、誰よりも優しいこの人に幸せが訪れますように。

 

 

 

 「うぅん…」

 

  彼女が微かに身じろぐ。起こしてしまったか、そう思ったけどそれから再び寝息が聞こえてきたのでまた夢の世界に入っていったようだ。

 彼女の様子を見計らって起こさないように彼女の腕から潜りぬけ、ベッドから出る。僕のいないベッドで眠る彼女の顔は相も変わらず柔らかい表情だった。それを見て安心して僕は、廊下の方へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぁ~~あ」

 

 便座の下から聞こえる水の流れる音を聞きながら大きなあくびをした。時間はもう真夜中で強烈な眠気に襲われても仕方のない時間帯だった。

  

 「……ねむい」

 

 自然とぼやけていく眼を必死に開けようと擦りながらズボンを履いていく。ベッドに入るまでの辛抱だ。そう自分に言い聞かせて奮い立たせ、出ようとドアノブに手をかけた瞬間、奇妙な音が扉の奥から聞こえてきた。

 

 金属がぶつかり合うような音や、何かが軋む音。始めはただ寝ぼけているだけかと思っていたが、音によってぼやぼやした脳みそがたたき起こされ、意識がはっきりした後、それが勘違いではないと確信した。

 

 ドタドタと複数の足音が廊下に響いている。カーリーじゃない、一体誰だろうか?

 

 今までなかった出来事に心臓がバクバクと鼓動し始める。それはまるで「ドアを開けてはいけない」。そう警告しているようだった。

 

 それでもカーリーに何かあったらいけない。

 

 警戒を振り払い、僕はドアノブを回して外に出た。

 

 

 

 廊下に出て目に入ったのは直ぐそばにあった玄関のドアだ。ドアノブの部分が何か強い力で壊された跡が残っていた。

 

 強盗だ、僕はすぐにそう思った。それも複数人での仕業だ。と、すれば。

 

 (カーリーが危ない……!!)

 

 自分自身がどれだけ無力な存在かは頭では分かっていた。しかし、本能が、彼女を想う気持ちが、僕を素早く動かした。

 

 傘立てに立ててある傘を武器として持ち、彼女が寝ているリビングへと足を進めた。目的の場所に近づけば近づくほど不自然な光が差していることに気が付いた。チカチカと蠢いている光、恐らく懐中電灯の光だ。

 

 破裂しそうな程に高鳴っている胸を落ち着かせながら、リビングを覗いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「カーリー………?」

 

 驚愕で開いた目に映っていたのは、複数の人達に囲まれているカーリーの姿と部屋中を荒らすように漁っている人達だった。

 

 「早く探せ……!何処かにあるはずだ!」

 

 誰かの声が小さく、叫ぶように言った。恐らくバレない様にそうしていると思うのだが、何かを探すように漁るその音が台無しにしていた。

 

 ガチャガチャと音が部屋中に響き渡る。タンスを乱暴に引き開ける音、引き出しに入った物を掻き出している音、僕が描いた絵が収まっている額縁をゴミの様に放り投げ、割れる音。

 

 その音で、目の前の景色によって呆けていた意識が再び戻り、訳も分からないまま叫んだ。

 

 「カーリー!!!」

 

 それがいけなかったと気づいた時には既に遅かった。

 

 ピタリと音が止んで、一斉に全ての視線が僕の方へと向いた。その顔は全て、見覚えがある顔だった。

 

 「ショーンおじさん達……?な……何をしているの??」

 

 部屋を荒らしていた人達の正体は、昨日まで会っていたアパートの隣人たちだった。信じられない光景に手元の傘が自然に落ちていった。

 

 困惑が頭の中をグルグルとかき混ぜるように僕を混乱させていく。その様子を見た大人達の一人、ショーンおじさんが僕に話しかけた。

 

 「あーー、ブラッド。おじさん達な、ちょっとカーリーに話があるんだ」

 

 嘘だ。なら何故、彼女を縛り付けているのか。

 

 「えー、これはだな……」

 

 言い訳するかのように言葉を必死に探しているショーンおじさんを無視して、カーリーに向かって叫びながら走り出す。

 

 「カーリー!!」

 

 カーリーの目の前、ショーンおじさんの傍へと近づいた瞬間、頬から強い痛みと衝撃が叩きつけられ、後ろへと転んでしまう。

 

 「うぅっ……!」

 

 頬に鋭い痛みが走ると同時に頭がグワングワンと揺れた。荒ぶる視界に移ったのは手を振り払った姿のショーンおじさん。どうやら、彼に強くぶたれたらしい。

 

 「叫ぶんじゃねぇよ、ブラッド。カーリーが起きちまうだろうが」

 

 昨日までの人とはまるで別人のようなショーンおじさんの後ろで何かが少し動く、カーリーだ。

 

 「ブラッド……………?」

 

 「うっ、うぅう。カ、カーリー……」

 

 「あーあ、起きちまったじゃねえか」

 

 悪態を付きながらカーリーの方へと向き、苛立ちを隠そうともしないまま喋るショーンおじさんにカーリーの顔色が変わっていく。しかし、彼女も目の前に広がる現状に困惑しているようだった。

 

 「ブラッド!!」

 

 縄から抜け出すように動くカーリーに卑劣な声が響いた。

 

 「おっと、カーリー。無理だろうが、抜け出そうとするなよ。お前が何かしようものなら……」

 

 ショーンおじさんが僕の方を再び振り向いて、素早く僕を捕まえた。大きな腕が僕の首を挟むように締め上げた。

 

 「うぐぅ……!!」

 

 息が上手くできない、必死になって空気を取り入れようと、ショーンおじさんの腕を剥がすように掴みかかるも、大人と子供の力の差は一目瞭然で、ピクリとも動かない。息苦しさに苛まれながら目の前に移るのは絶望に濡れた顔をした彼女の姿だった。

 

 「こいつがどうなっても良いってことだな?」

 

 「……っ!」

 

 静かに、それでいて恐ろしく冷たい言葉が吐き捨てられる。片方の手にはナイフが握られていている。ナイフの刃先を僕の方へ向けて、彼女を脅していた。

 

 彼女なら、縛られた縄を力で解くことなんて出来るはずだった。しかし、それができないのは……。

 

 (僕が居るからだ……僕が居るから、カーリーが抵抗できない……。僕が居る所為で……)

 

 呼吸もままならない中、酸素が足りない脳みそから出た言葉を吐き出した。

 

 「な…なんで」

 

 「あぁ?」

 

 「なんで……おじさん達はこんな事をするの…?」

 

 それは僕とカーリー、二人が同じくして持っている疑問だった。僕の問いかけに反応したショーンおじさんの腕が微かに緩んだ。その隙に、肺に空気を必死に入れながら更に訴えかける。

 

 「カ、カーリーは皆を守りたくて、お金を渡したんだよ…?ただ、おじさん達が今の暮らしを少しでも楽にしようと……」

 

 僕の言葉にカーリーが何か口を開こうとするも、それを遮るようにショーンおじさんの口が開いた。

 

 「これはチャンスなんだよ。ブラッド」

 

 「……?」

 

 「お前らの家から大金をせしめて他の場所に移住出来るチャンスがな……!」

 

 頭の上から聞こえたのは卑しく、笑みがこぼれた()()()の声だった。

 

 「ハハッ!!今の暮らしだと!?お前ら二人が何を考えてるか知らねぇが、他の奴らは違う!誰もがここから抜け出したいって考えてる!!お前らガキ二人の家から金奪って、ここから抜け出せるなら喜んでするさ!!」

 

 僕に、カーリーに、そして周りで漁っている隣人たちに演説するように声を荒げた。

 

 信じられなかった。

 

 今までの暮らしは何だったんだ。

 

 僕が遊びに来ている間もそう考えていたのか。

 

 ふと、キッチンを漁っている人影に目が行った。その人影は僕が隣人達の部屋へと遊びに行くきっかけをくれた、グースお姉さんだった。

 

 あぁ、何て茶番だったんだろう。

 

 頭が絶望の一文字に包まれる。呼吸が荒く、視界が震える。瞳の奥から、悲しみが零れ落ちた。

 

 

 

 「お前は怪物だ

 

 

 声が聞こえる。ショーンおじさんの声でも、カーリーの声でも、ましてや隣人達の声でもない。頭の中で響く声。しばらく聞いていなかったお父さんの声だった。

 

 

 

 「お前は怪物だ

 

 

 「うぁ……」

 

 

 

 やめて……そんな事、聞きたくない。

 

 

 「お前は怪物だ

 

 

 

 やめて。

 

 

 「お前は怪物だ

 「お前は怪物だ

 「お前は怪物だ

 

 

 

 

 やめて!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界がブツンと、途切れた。

 

 視界が黒に埋め尽くされながら、ぼんやりと浮かんでいたのは、彼女を想う気持ちと、隣人達の確かな殺意だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

 新年早々絶望回。

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