昔は勇者。今は魔王専属の料理人   作:冬眠前のクマ

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1食目

 

『ユーシャ!お腹空いた〜』

 

《私の分も作って下さい。是非お願いします》

 

「何でお前らは俺がキッチンに近づいた瞬間、こっちに来るんだよ!」

 

何から間違えてこうなったのか。そもそも、最初からおかしいのかは定かじゃないが。一つだけ言えるのは、コイツらの胃袋は異次元並みだと言う事だ。

 

「あー分かった。作れば良いんだろ?作れば!何食いたい!?」

 

半ばヤケクソ気味にそう尋ねれば、二人はどちらが言うまでも無く揃って口にした。

 

『《(お)肉が良い(です)》』

 

「……昨日も肉だっただろ。太るぞ、お前ら」

 

『ユーシャ、それセクハラ?って言うらしいぞ。ガルシアが言ってた』

 

《魔王様……ガルの言う事はあまり聞いてはいけませんよ》

 

『なんでだ?』

 

俺はただ、お前らの為に言っただけなのに。少し落ち込みながらも、キッチンの奥へと消える事にした。

 

《あの人は少々アレですから……》

 

『アレ?アレって何だ?』

 

二人の会話をBGMに、俺は涙を拭いて魔道具で保存された食材を漁る。が、やはり何度見ても要望の肉は無い。いや、肉はあるっちゃあるんだが、細切れやミンチ肉なんだよな。この二人が求めてるのはガッツリとしたこれぞ肉ッ!みたいな感事を求めてると思う。コレジャナイ感が凄いな。うーん買い出しに行くか?

 

『ユーシャ。まだか〜?我はお腹が空いたぞ〜』

 

《私も同じくです。待てば待つだけ、要求する量が増えますよ》

 

「今作るから、黙って待っててくれ」

 

どうやら買い出しに行く時間も無いらしい。早急に何かを作ってコイツらの胃を黙らせなければ。俺はさっきから無視していた背後から鳴り続ける音を聞き、再び考える。

 

うーんタマネギっぽい奴があるし。そうだな、何とか掻き集めてデカいハンバーグにしよう!万が一残ったら、取って置いて次のご飯の時にハンバーガーにして出せば良いし。よしっ、作る物が決まったので早速調理に取り掛かる。

 

まずはタマネギっぽいのを切る所から始めるのだが、このまま切ると泣かされるので氷魔法で少し冷やす。初級を五秒数えて解除し、そのまま剣聖から教わった剣技でタマネギを微塵切りにして行く。これで俺が泣く事は無い。

 

そしたら、皿に移してタマネギだけを炎魔法で燃やす。最初は中級の魔法で焼き目を出してから、後は初級でじっくりと焼く。そうすると、段々良い匂いと共に飴色になって来たので魔法を止める。

 

後は焼いている間に用意して置いたタネに必要なものが入った器にタマネギもどきを投入する。そして、形を作っていく。個数は二個で良いか、三個にするのは面倒臭いし。取り敢えず一生懸命コネてコネてコネまくる。ハンバーグってこの作業が一番大変な気がするな。

 

それを、半分にして綺麗な楕円形にしてから空気を抜いていく。

 

あー、なんか日頃のストレスが消えて行く気がするわー。ハンバーグのタネの空気抜きの仕事やりたい。

 

 

ここまでして、漸く焼きの作業である。いやぁ、なんか俺もテンション上がるな。やっぱ、肉が焼けるのって良いよね。

 

皿にタネを二つ入れ、先程の要領でタネだけを燃やす。生や半生が怖いから、ちょっと強めぐらいの中級魔法で燃やす。良い焼き目になったなと思ったらひっくり返してそれを何度か繰り返せば!

 

「お待ちどう様、ハンバーグだ」

 

湯気がもくもくと辺りに漂いながら、出来立てだぞと自己主張している。いやぁ、美味そうだな。我ながら良い感じだ。

 

「魔王は、トメトのソースを。ケルはダイコーンを下ろした奴で食べて見てくれ」

 

そして、何よりこの大きさ。存在感!見ようと思わなくても、視界に入っただけで吸い込まれそうだ。それを、火傷しても構わないから熱々のうちに口一杯頬張ってそこからご飯をかっこみたいな。絶対美味い。

 

『美味そうだな……』

 

《美味しいです!!!》

 

『早!』

 

置いた瞬間、ケルベロスはもう食べていた。思わず二度見しちゃったよ、早すぎだろ。いつもはクールな感じなのに、飯の時にだけ出すこの感じが本性なのかな。まぁ、美味そうに食べてくれるのでどっちでも良いか。

 

『ユーシャ!我も食べて良いか?』

 

「どーぞ」

 

お前らの為に作ったんだから何を遠慮する必要があるのか、とは言わなかったがそれを分かってか。いや、絶対分かってないな。ただ早く食いたかっただけだ。

 

『あっつ!』

 

思いっきり火傷して、口の中を冷ましながらゆっくり咀嚼すると面白いぐらい顔が変わって行く。……良かった、上手く出来てたみたいだ。

 

それから、二人は無我夢中で米とハンバーグを交互に食べ。皿が空になるのは時間の問題だった。

 

「ユーシャ!ハンバーグだったか?コレ凄い美味いぞ!また作ってくれ!!頼む!我、あまり野菜が得意じゃ無いんだがこのトメトのソースは普通に食べれたぞ」

 

《こちらのダイコーンのおろしですか?さっぱりしていて、最後まで美味しく食べられました。ユーシャさん、また作って下さいね》

 

「ああ、分かった。また作ってやるよ」

 

 

 

昔、俺は勇者だった。この世界に転生して人類の希望と呼ばれ、その期待に応える為にガムシャラに戦った。努力を続け、どんな敵でも勝てると思っていた。

 

だが、漸く辿り着いた魔王城で俺は分からされた。此処にいる奴らは別格だと、外の奴らとは全然違うのだ。大人と子供ぐらいの差がある。

 

そして、最強と言われる魔王はまだ生まれて間も無くて伸び代があると聞いた時、俺は降参をした。それから捕虜兼魔王専属料理人として日夜頑張っている訳だ。

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