ウマ娘プリティーダービー -PRIDE OF DRAGON- 作:狐火(宇迦之御魂)
頑張って書き切りたいと思いますので応援いただけますと幸いです。
夢の始まり
「ウマ娘」
それは別世界の名と魂を受け継いで生まれてくるとも言われる、人とは異なる耳を持ち、自由自在に動くしなやかな尻尾、何よりも超人的な速度を持って産まれる。
彼女たちは生物の中でもトップクラスの脚力を持ち、その速さは時に「ウマ娘は走るために生まれてきた」とまで形容される。
時に数奇で、時に輝かしい運命を辿る神秘的な存在。この世界を生き、走り続ける彼女たちが刻むレースの結果は、まだ誰にも分らない。
トレセン学園、正式名称は日本ウマ娘トレーニングセンター学園。
URAが主催する国民的エンターテインメントレース、トゥインクル・シリーズで活躍するウマ娘を指導・育成する日本最高峰の環境を備えた学校である。
無論そこへ勤めウマ娘を導くトレーナーもまた、日本最高峰の質を誇る。
中央トレーナーになるために受からねばならない、URAが行うトレーナーライセンス試験の合格率は、年度にもよるが5~10%という狭き門だ。
とはいえどんなエリートも最初は新人だ。
等間隔に植えられた桜が花風に舞い、通学中のウマ娘の行先を桜吹雪で彩っている。
そんな中、スーツを着込んだ若い男がトレセン学園の正門に立っていた。
黄色いネクタイを締めなおし、どこか浮つきながらも緊張した面持ちで、男は敷地内へと歩みを進めていく。
ネクタイの傍らにはきらきらと輝くトレーナーバッジが、誇らしげに佇んでいる。誰がどう見ても、新任のトレーナーだな。と思うであろう姿だ。
「俺も遂に中央のトレーナーになれたんだな……」
テレビで流れていたトゥインクル・シリーズのレースに心を撃ち抜かれて以来、中央のトレーナーとして走り続けるウマ娘を支えたいという一心で大学へ進み勉学に励んだ。
卒業後はトレーナーライセンス試験へと挑んだものの、そのあまりにも狭い門に阻まれること2年。
一発で受かる同期ももちろん居た。それを考えればエリートではあれど群を抜いて優秀というわけでもないのかもしれない。
それでも、彼の胸で燦然と輝くトレーナーバッジは、彼がトレーナーとしてのスタートラインに立てたことを証明している。
「やっぱり最初はどこかのチームで勉強させてもらうのが無難か…こんな新人じゃスカウトを受けてくれる子も居ないだろうし…先輩方に挨拶まわりも兼ねてグラウンドを見て回るか」
興奮を隠しきれない様子で、軽い手荷物だけを持って彼は小走りにグラウンドへと向かっていく。
道行くウマ娘たちはそれよりも速く道を駆けてゆく、軽い
自分はあの走りに憧れ、あの走りを支えたいがためにここへやってきたのだから。
国内随一の広さと設備の揃ったグラウンドには多くのウマ娘たちが居る。
実際のレース場と同じ条件を再現した芝、ダートコースは言うまでもなく。
脚への負担を軽減するウッドチップやポリトラックの、天気に左右されないオールウェザーのコースも多く整備されている。
併せを行っているウマ娘、フラットワークでコンディションを確認しているウマ娘、皆一様に勝利を掴むための下積みを行っている。
のだが…その中で一人のウマ娘が目についた。
少し色素の濃い鹿毛で、額から大きく通った白面模様がよく目立つウマ娘。瞳は影のかかった満月の様な吸い込まれる黄色。
ピンと立った耳は一点に止まることなく、きょろきょろと所在なさげに動いている。
教師や担当トレーナーから教えを受けていたり、そうでなくともコース上で練習をしているウマ娘ばかりのグラウンドで、ラチの外でおろおろと立っているだけのウマ娘。
コースに入ろうとしては周りを見て立ち止まり、結局その場から離れていってしまった。
はっきり言って挙動不審だ…
スカウト対象のウマ娘を探している様子だった先輩トレーナーに声をかけ、あのウマ娘について尋ねる。
「あの子か…たしかドラゴンブレンドって子だったか、いつもあんな風にコースに出てきては何もせず帰っていく子でな。声をかけようにも避けられるもんで、どんな走りなのかもさっぱりなんだ」
「そうなんですか…」
結局知れたのは名前と、普段からあの様子だということだけ。けれど彼女の、どこか不安そうにしながらコースを離れていく姿がやけに記憶に残った。
⏱
あの後は先輩たちの指導に付き合わせてもらい、多くのトレーナーやウマ娘たちと交流し多少なりとも経験を積むことができた。
気付けば空も暗くなりはじめ、コース使用時間の終わりが近付きウマ娘たちの姿も見えなくなってくる。
だが、そんな人の流れにとは逆にコースへ入ってくるウマ娘、昼に見かけたあのウマ娘__ドラゴンブレンドが居た。
彼女は周囲に人気がないことを確認すると、坂路コースへと入っていく。
既に別の場所でフラットワークは済ませていたのだろう、軽快な足取りでウッドチップを蹴り上げ走り出す。
そして、その走りに目を奪われた。
さっきまでの不安げな様子は消え去って、強い眼差しで前を見据えて走る姿は力強く、同じウマ娘とは思えないほどで。反射的に持っていたストップウォッチを手に取り、タイムを計る。4ハロン、3ハロンと、その速度に愕然とする。
「かなり速い…!」
坂路コースの平均をウマなりで上回る速度に、思わず意識が奪われたままになってしまう。
そのせいで残り2ハロンのラップを取り損ねてしまい、慌てて最後のラップを取る。
高低差32メートルはある坂路コースを駆け抜ける様はその名を体現するような、正しく上り龍とでもいうべき印象を自分に刻みつけた。
それと同時に、初めてトウィンクル・シリーズのレースを見た時と同じ衝撃も。
(あの走りをもっと見たい!)
気付けばクールダウンを行い息を入れ始めていた彼女のもとに駆け寄っていた。
「君!たしかドラゴンブレn「わーっ!?」
息を入れていたのが、悲鳴とともに飛び上がりそのまま大きく距離を取って逃げられてしまった。
いつでもこの場から逃げられる態勢で、先ほどの走っている時とは似ても似つかない おどおどした様子でこちらの様子を伺っている。
耳は直立して天を衝き、尻尾も力が入りばさりと振り上げられる。完全に警戒されてしまっている……
「な、な、な、なんですか……!?」
「ご、ごめん、驚かせるつもりはなかったんだけれど、君の走りを見て居ても立っても居られなくて…」
「僕の走りを……そ、それで、なんの用でしょうか……?」
しまった。つい衝動的に飛び出してしまったから、しっかり考えていなかった。
欲を言えば、スカウトをしてトレーナー契約を結んだ上で彼女のトレーニングを見たい。
けれどまだトレーナーになったばかりの新人、それもまだトレーナー初日で実績なんて紙切れ一枚程度も存在しない。
それでも、彼女の走りをもっと見たいというエゴを抱いてしまう。そう思わせる力強さが彼女の走りにはあった。
「君、契約しているトレーナーは?」
「それは、その、まだ、です…」
「なら、君がよければなんだが、練習を見させてもらうことはできないか?」
ならば、彼女が正式に担当契約を結ぶまでの間だけでも、彼女の傍であの走りを見続けたい。
この美しい走りに何も関われないままでは嫌だ、せめてほんの少しだけでも。
沸々と湧き上がる本能のような衝動のままに、彼女へそう提案した。