ウマ娘プリティーダービー -PRIDE OF DRAGON-   作:狐火(宇迦之御魂)

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クルクル大阪、両日参戦予定です。楽しみですね。
それはそうと寒暖差が実に不快な時期になりましたね、朝夜は寒く昼は暑い。
馬着管理がすこぶるに面倒くさいシーズンです。


チーム《アスケラ》の戦い

5月22日、日曜日。東京レース場2400m晴れ、左回り、ティアラ路線に王手をかける一戦。

樫の女王を戴冠する者を選ぶG1レース、オークスを観に来ていた。

その理由は少し前に遡る。

 

ブレンの誘いから、彼女の同室ブラストホークを交えてトレーニングを行っていた時、少し離れた芝コースの併走練習だった。

 

「もっと速く、もっと強く、もう一段、上の走りを!」

 

「Follow me, シーザリオ!」

 

大柄で褐色肌の黒髪をしたウマ娘を、青毛に流星のウマ娘が追うように併走している。

 

(あれは…シンボリクリスエスとシーザリオか…)

 

シンボリクリスエスは史上3人目の、クラシック級で天皇賞(秋)を制したウマ娘であり、史上初の天皇賞(秋)連覇を果たした。

シーザリオもまた、先月の桜花賞は惜しくもラインクラフトに敗れ2着だったが、G3フラワーCを制した実力者だ。

そんな2人の追い比べは側から見ていてもレベルが違う、特にシンボリクリスエスの加速は群を抜いており、シーザリオもそれに感化されるように加速度を上げていく。

 

チーム《アスケラ》はラインクラフトが変則二冠へと進んだことで、オークスに挑むのはシーザリオ一人になったと聞く。

オークスでライバルになるとすれば、桜花賞4着のエアメサイアだろうか。

彼女の母親もティアラ路線を走ったウマ娘で、オークス2着、秋華賞3着という結果を残している。

血筋を見てもオークスへの適性は高いと見る方が妥当だ。

 

(それにしても、なんて走りだ…あれが、現役G1級ウマ娘の走り…)

 

キングヘイローの走りを見た時とも違う驚愕、世代を考えればブレンが交わることも考えられる相手だ。

自分たちが立たなければならない戦場の激しさに、思わず身震いする。

 

「ブレンにブラストホーク、少し休憩も兼ねて隣の見学に行こう。きっといい勉強になる」

 

「分かりました、わっほんとだ…凄いスピードに加速…」

 

「どっちもG1級…なにからなにまで走りの質が違いやがる…」

 

2人もまたその走りに圧倒されながら、コースの様子がよく見える場所まで移動する。

するとそこにはキングヘイローと一人のトレーナーが居た。

 

「シーザリオ!全力で追え!」

 

名士と呼ばれたトレーナーのチームを継ぐ形でデビューした、チーム《アスケラ》のトレーナーだ。

 

「あら、ブレンさんたちじゃない。敵情視察ってところかしら?」

 

「まさか、いつかは同じ高みにとは思うけれど、今はただ勉強させてもらおうと思って」

 

「どうしたんだキング?」

 

「前少し話した後輩の子とそのトレーナーよ」

 

「ああ、カワカミプリンセスの練習を見たっていう時か。ということは、いつも渡してくれるレポートはそっちのトレーナーが?」

 

「あの時からキングヘイローにはドラゴンブレンドがお世話になっています。見てもらって何かあってはいけないと思ったので…」

 

「短いトレーニングでも詳しく書かれていて参考になった。キングにも指導の経験になる、今後ともよろしく頼むよ」

 

「ありがとうございます、トレーニングに割って入ってしまってすみません。こちらこそ、今後ともぜひよろしくお願いします」

 

「シーザリオも仕上がってきていて、見られたって困るものはないさ。今の彼女は、実力さえ出し切ればどんなレースにだって勝てる」

 

『どんなレースにも勝てる』自分も同じようなことをブレンや、その周囲に言った。

だが同じような言葉だとしても、自分のものと異なり、その言葉にはそう思わせる説得力があった。

それは何より、数多の敗北で嘲笑や失望を受けてもなお、顔を上げ走り続けたキングヘイローと、共にG1の名誉まで辿り着いたという実績と自信が裏打ちするものなのだろう。

どれも、自分には足りないものだ。

 

「トレーナー、私はクールダウンの準備をしておくから、あなたはあの子のことを見てきなさい」

 

「ありがとう、頼んだキング」

 

そう言ってアスケラトレーナーはシーザリオとシンボリクリスエスの元へと向かう。

 

「なんていうか…キングさんもですけど、みんなオーラが凄いっていうか…」

 

「ああ、そうだな…」

 

「………次元が違うってのは、正にこの事か……嫌になるぜ……」

 

シンボリクリスエス、シーザリオ、両名の走りに圧倒されつい言葉が溢れる。

ブレンとブラストホークにとっては、あれがトゥインクル・シリーズにおいて上位1%に位置するウマ娘たちの走りなのだ、という畏怖。

自分は、それに加えて彼女たちをそんな水準にまで成長させた先輩トレーナーたちの手腕にも。

年度によってもその水準は変わるが、G1を走るウマ娘に要求される走りとは、あの水準なのだ。

 

「何をぼけっとしているのかしらあなた達は、シーザリオさんの走りはこれで大きく進歩した…G1の舞台に挑むのでしょう?ならあの子の走りから少しでも学ぶべきよ、あなたたちの走りに生かせる全てを」

 

「もちろん、そのつもりだ。ブレン、シーザリオは君と同じく前目に付ける走りだ、オークスでも先行策を取ると思う。そのまま吸収できる部分は多い、しっかり見て彼女の走りを盗もう」

 

「はい…!僕もいつか、あれぐらい強く…!」

 

「……」

 

ブレンはその走りから少しでも多くを得ようと、目に焼き付けるように、先行するシンボリクリスエスに喰らいつくシーザリオを見つめている。

ブラストホークもまた、彼女らの走りから目を離さない。その瞳の奥には静かながら、確かな熱を湛えている。

皆一様に、その熾烈な走りを糧にしようとしている。

 

「終わったみたいね…オークス、あなたたちも見に来るといいわ。シーザリオさんが樫の女王に戴冠する瞬間を見守る人数は多い方がいいもの」

 

「ぜひ、勉強させてもらいます!」

 

オークスの左回り距離2400、恐らくブレンが走ることはないだろう距離だ。

ブレンが走るとすればあって2000、クラシック三冠の一戦目皐月賞、ティアラ三冠最終戦の秋華賞、あるいは春シニア三冠の大阪杯。

だが、改めて頂点たるG1の戦いを見て、自らが進む道を見直すのもいいだろう。

出会ったばかりの頃のブレンなら、むしろその険しさに一歩退いてしまうかもしれないが、選抜レースを終えてその一歩をこらえる強さが生まれた。

ティアラ路線でも一際強い存在感を放つ樫の女王、その座を賭けて競う女傑たち。

その鮮烈に焼き付く、美しくも力強い走りをブレンの飛躍へと繋げよう。

 

 

そして訪れたオークス当日。残念ながらブラストホークは『俺とは路線が違いすぎる、中継で十分だ』とトレーニングの合間で観戦するらしい。

 

「お疲れ様です。シーザリオのコンディションはいかがですか?」

 

「完璧だ。実力を発揮できれば、間違いなく勝つよ」

 

アスケラトレーナーの、シーザリオへの強い信頼を感じる返事を聞き、本バ場入場を始めるウマ娘たちに目を配る。

シーザリオは2枠4番、1番人気に推されている。

一方対抗バとして警戒しているであろうエアメサイアは2番人気に控え、シーザリオの隣外枠3枠5番の枠順だ。

マイル距離を中心にして、中距離も2000が基本となるティアラ路線のウマ娘にとって、オークスの東京2400という距離は想像よりも長い。

たった400m、その距離でレースの結果は大きく変わってしまう。

真に実力があるウマ娘でなければ、樫の女王の栄誉を得ることはできない。

 

「頑張れシーザリオ~!」

 

桜花賞、NHKマイルカップで変則二冠を達成したラインクラフトがチームメンバーへと声援を送る。

朗らかで春の陽気を纏ったような雰囲気ではあるが、彼女もまた桜のティアラを戴いた世代最強のマイル女王という圧倒的実力者だ。

 

「始まる前から凄い歓声…それに迫力も…」

 

「ブレンは日本のG1は初めてか?」

 

「はい、人が多いので…いつもは配信で」

 

そう言う彼女はよくみれば尻尾を足に挟みこみ、耳は前後左右にずっと揺れている。

海外においてウマ娘競争は紳士の嗜みといった要素が強く、レース場に訪れて観戦する人々というのは実は日本ほど多くはない。

トゥインクル・シリーズはまさしく国民的エンターテインメントであり、レース場における動員数は世界でもトップクラスだ。

それだけにただでさえ人混みが苦手なブレンにとって、日本のレース場というのは辛い環境かもしれない。

だが、今ここに彼女は客席からではあるが立っている。いつか自身が喝采を浴びる場所へと立つため、未来の勝利の礎を固める為に。

 

「大丈夫だよ、ここにいる皆は今ターフに立つウマ娘を見ている。君もいつかこの声援に後押しされる日が来る」

 

「これだけの人からの応援、ですか…この場にいるのに想像つかないですね…」

 

できる限り優しく声をかけ、不安を取り除くよう努めると、次第にせわしなく動いていた耳がターフへと安定し始める。

 

「これが日本の、トゥインクル・シリーズのG1・・・でも、ウマ娘の目は、同じですね」

 

誰よりも前でゴールする。最後に先頭に立つのは自分だと、どんな言葉よりも強く彼女らの瞳が叫んでいる。

環境や条件が変わったとしても、全てのレースで共通する唯一の物だ。

 

「さあ、今年度もやってきました樫の女王の座を懸けたオークス。未知の距離2400に挑む、クラシック級のティアラ路線のウマ娘たち、18人です。芝のコンディションは良バ場、かなり速いバ場コンディションになっています」

 

場内に実況が流れ始め、それと同時に会場の盛り上がりもより一層強まり出す。

ゆっくりと、車両の荷台が昇り始め、スターターの姿が露わになる。

掲げられた赤旗と共に、東京レース場のG1ファンファーレの生演奏が始まり、観客たちの大歓声がレース場いっぱいに響く。

演奏の終了と共に一際強まる歓声と拍手に見送られ、ウマ娘たちがゲート入りを始める。

 

「2400mという未知の距離に挑む18人の乙女たち、断然の1番人気は2枠4番シーザリオ、はたして樫の女王の栄冠を掴むことはできるのか、それともライバルたちが一矢報いるか」

 

続々とウマ娘たちがゲートへと入っていき、シーザリオもゲート入りを終え、最後の大外枠18番のウマ娘もゲートイン完了。

これから始まる2400m、およそ2分半程の激闘の火蓋が切られようとしていた。

 

「レースが・・・始まる…」

 

ブレンの小さな声がこの大歓声の中よく聞こえた。

 

「各ウマ娘がゲートに入って態勢完了…オークスが今、

 

ガコン!!

 

スタートしました!」

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