ウマ娘プリティーダービー -PRIDE OF DRAGON-   作:狐火(宇迦之御魂)

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前話でウマ娘の平熱について言及したら公式からお出しされて笑っちゃいました。
馬の体だと毛があるので案外触ってもあんまりわからないんですが、ウマ娘ならはっきり温かく感じそうですね。


力の源、思い出の味

「どこもいっぱいですね……」

 

「相席させてもらうしかなさそうだな……」

 

 暑さも増してきた6月の半ば、日曜日の昼下がり。トレセン学園の食堂は冷と食を求めるウマ娘たちでごった返していた。

 午前のトレーニングを終え、共に昼食を取りに来たが、あいにくとテーブル席や隣り合ったカウンター席に空きは見当たらない。

 人見知りをするブレンのことも考えると、できれば知り合いのテーブルに混ぜてもらいたかった。

 

「シーザリオさんもアメリカ挑戦だなんて、びっくりしました……」

 

「招待を頂けて、大変光栄に思っています。まだ少し不安はありますが、支えてくれるチームの為にも必ず果たしてみせます」

 

 聞き覚えのある声が喧騒の中で耳に入る。そちらに目線をやってみれば、シーザリオともう一人のウマ娘。白い前髪に三つ編みのハーフアップが特徴的な、黄金世代の一角、ダービーウマ娘のスペシャルウィーク。

 会話の内容は既に日本でレースに関わる者ならば皆が知る話。シーザリオのアメリカンオークス挑戦の話だ。

 スペシャルウィークの所属するチーム《シリウス》も前年度のアメリカンオークスに挑戦し、惜しくも二着に敗れている。

 チーム《アスケラ》にとっては初の挑戦であり、トレーナー間の協力関係が築かれ始めている。

 

「ここ、相席いいかな?」

 

「もちろん!どうぞ座ってください!」

 

「ぜひご一緒しましょう、ブレンさんたちも練習終わりですか?」

 

「は、はい、ただ席がどこもいっぱいで……」

 

 相席を快く受け入れてくれる二人。常に明朗快活な雰囲気を纏ったスペシャルウィークと、硬い表情と語気で話していたのが一変して、スペシャルウィークにどこか似た柔らかな雰囲気になるシーザリオ。

 何度か交流を重ね、彼女がオンオフのはっきりしたタイプだと知っても、あまりの変化に驚きが残る。

 

「トレーニング終わりでみんなお腹が空いてますからねぇ」

 

「少し来るのが遅かったかもね。それにしても、二人は随分と食べるんだな……」

 

 ウマ娘はその運動量に比例してか、人に比べると健啖家が多いのは周知の事実だ。

 だが、人でも底抜けた大食いは居るのと同じようにウマ娘にもそんな子はたまに居る。笠松出身のオグリキャップの大食いは特に有名だが、スペシャルウィークもかなりの健啖家だと噂だった。

 実際に目の当たりにすれば、その噂が事実だと痛感する。

 スペシャルウィークの前には何段も積み重なったハンバーグと、それを支えるために突き刺さる巨大にんじん。付け合わせのパスタや野菜も、それだけで一皿を埋めれそうな量がある。

 意外なことにシーザリオのお盆にも、スペシャルウィーク程ではないにせよ、鰻がぎっしりと混ぜ込まれた特盛のひつまぶしが鎮座していた。

 

「ふふ、普段はここまでは食べないんですけれど、スペさんと一緒に居るとなぜかたくさん食べたくなる時があって♪」

 

「食べた分しっかりトレーニングすれば大丈夫です! アメリカで勝つためにもたくさん食べて元気をつけないと! パワーをつけるにはまずご飯だ、ってお母ちゃんも言ってましたし!」

 

 彼女の言うことは間違っていない。どれだけ過酷なトレーニングを行ったとしても、適切な栄養を摂らなければ筋肉として成長に繋がることはない。

 筋肉に限らず、骨を頑丈にしケガを予防するにも、なんなら適切量の食事は過度な食事制限や有酸素運動よりも肥満防止にも繋がる。

 とはいえ、流石にスペシャルウィークの食事量は多すぎる気もするが。彼女もGⅠ4勝の名ウマ娘だ、かの天才トレーナーのもときちんと摂った分だけ成長に変えている筈だ。

 気持ち大き目の制服はその為に必要なことなのだろう、決してただの太り気味などということは無いと思いたい。

 

「なるほど……トレーナーさん、僕ももっと食べた方がいい、ですかね……?」

 

「いや、いきなり摂食量を増やしてもそれを受け入れる器ができていない。ちゃんと栄養を取るにも体質とトレーニングが必要だから、その量で今は十分だ。必要になれば体調に合わせて献立も考えるよ」

 

「体質ですか……」

 

 目の前の圧倒的な食事量と、巨大な質量を腹へと納めていく二人に気圧されたか、自分の食事量と見比べ不安げな表情を浮かべる。

 メニュー自体はスペシャルウィークと同じにんじんハンバーグ定食。にんじんが中央で存在感を主張するのは同じだが、ハンバーグは一段。ごはんの量も普通盛りだ。

 育ち盛りのアスリートとしては少々少ないものの、カロリーと栄養に問題はない。

 

「たくさん食べられるのも才能とはいうけどね、ちゃんと必要量は摂れてるから気にしすぎないでいいよ」

 

「トレーナーさんの言う通りですっ! レース前に我慢した分だけ、レースで勝てたあとのご飯がなまら美味しくなるんです!」

 

「スペさん、それは少し違う話のような……」

 

 シーザリオが柔らかく苦笑する。

 最低限体を作る栄養を摂れば、そこから先食事に何を求めるかは人それぞれだ。

 スペシャルウィークのように食事に日々の楽しみを見出すも、トレーニングの一環としてより効率的な食事を追及するも、正解などありはしない。

 共通するのはウマ娘の走りの根底を支えるのが食事ということだけだろう。

 

「そういえばブレンさん、もしよろしければアメリカの食事について教えて頂けませんか?海外遠征に挑んだウマ娘が現地の食事が合わず、コンディションを崩すことは珍しくないと聞きますので」

 

「えっ、どうだろう……僕の話が役に立つかはわからないけど、それでもいいなら……」

 

「ぜひ、お願いします」

 

 急に硬い雰囲気に戻ったシーザリオに反応が遅れるが、ブレンが少し懐かしむように口を開く。

 

「僕の家だとママが作ってくれることも多かったけど、外で食べるって子も多かったなぁ。って、こういうことじゃないか……えっと、でも基本的には結構カロリー高めで、量も日本より多いね」

 

「そこはステレオイメージかもしれませんが、その通りなのですね」

 

「うん、僕からしたらちょっと多かったな。日本のご飯の方が僕はちょうどいいぐらい、あと野菜が少ないから意識しないと足りなくなっちゃうかも」

 

 故郷について話し始めたブレンは段々と饒舌になってくる。

 事前知識をある程度身に着けていたとはいえ、未知の場所へ一人挑みに来たのだ、郷愁に駆られているのかもしれない。

 次第に家族との食事や、あった出来事など、思い出話が零れ始める。

 

「それでね、PBJっていうんだけど、たまに食べたくなっちゃうんだよね」

 

「ああ、映画で見たことがあります。本当に軽食文化といった食文化なのですね」

 

「うん、僕の家も朝はいっつも軽めだったから、日本に来てみんな朝にブランチを食べてお昼ご飯まで食べるから少しびっくりしたな。あっ、もしよかったら、たまにママが向こうの物を送ってくれたりするから、食べてみる……?」

 

「いいのですか、それならばぜひご相伴に預からせていただきます」

 

 ブレンも打ち解けてきたのか、表情が明るい。

 少しぽやぽやとしたブレンと、全くもって真面目な雰囲気のシーザリオで落差があり、妙に面白く思えてくる。

 

「じゃあまた今度持っていくね。って、トレーナーさん何笑ってるんですか?」

 

「ごめんごめん、いや、ブレンが楽しそうで何よりだなって」

 

「あっ、ご、ごめん、気付いたら関係ないことばっかり喋っちゃって……」

 

「いえいえ、ブレンさんのお話、とても楽しかったです♪ とても参考になりましたし、アメリカでの楽しみも増えました♪」

 

「それならよかった……あ、あと言うとしたら、お水にも気を付けた方がいいかな。一応水道水も飲めるんだけど、お腹壊すこともあるから。飲み物の氷とかも気を付けた方がいいよ」

 

「それなら!お母ちゃんに北海道のお水送ってもらいますよ!おいしいですし安全ですから!」

 

「ありがとうございます。ならば改めて、気を引き締めて臨まなくてはなりませんね」

 

 アスケラトレーナーはシーザリオのアメリカ遠征をチーム一丸で支えると言っていた。

 彼女を応援する者、関わった者も、また彼女を支える別のチームだ。

 日米オークス二冠、日本ウマ娘初のアメリカGⅠ制覇、多くの期待と夢を彼女は背負っている。

 

 談笑に花を咲かせていると気づけば皿の上は綺麗になっていた。スペシャルウィークとシーザリオの前にあった、巨大な皿と器にも米粒一つ残っていない。

 

「ふぅ、お腹いっぱいです~」

 

「私も流石に……」

 

 スペシャルウィークは心から幸せそうに、シーザリオはほんの少し苦しそうだが満足そうな笑みを浮かべている。

 感嘆に値する胃袋だ。あれだけの食事を平らげられるというのは、間違いなく彼女たちの実力の一端を担っているに違いない。

 

「ごちそうさまでした……シーザリオさんも、また何か気になることがあったら、その、聞きに来てもらって大丈夫だから……」

 

「はい、またお力添え頂くと思いますが、その際はぜひよろしくお願いします」

 

 食事を終え、食器を返却すれば二人に別れを告げてトレーナールームへと戻る。

 1時間程休憩し、胃の中が落ち着けば再びトレーニングだ。食べた分はしっかりと消費しなければ、力ではなく重しになってしまう。

 

「そうだ、トレーナーさんもあっちの食事、よかったら食べてみますか……?」

 

「せっかくだし頂こうかな、ブレンの思い出の味なら俺も気になる」

 

「ふふ、わかりました。じゃあトレーナーさんが気に入りそうなものも探しておきますね」

 

 そう言って隣で再び楽しそうに故郷のことを話すブレンを、初夏の日差しで温まった廊下と、食事のせいか重たくなってくる瞼が捉えていた。




ドラゴンブレンドのヒミツ③
実はかなりの甘党
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