ウマ娘プリティーダービー -PRIDE OF DRAGON-   作:狐火(宇迦之御魂)

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だいぶ会話文が多くなった上に、ずっと書こうと思ってた話なので思っていたよりも筆が進みました。


海外ウマ娘の集い

 日はどっぷりと沈み、昼間はあれだけ騒がしく鳴いていたニイニイゼミも鳴りを潜める夜9時の栗東寮。

 その一階の共用部には他のウマ娘と談笑をするウマ娘がちらほらと居た。

 トレーニングの内容や、次のレースについて、はたまた最近起きた面白い出来事や浮いた話など。アスリートらしいストイックなものから学生らしい取り留めのない話まで、密やかな喧騒が響いていた。

 

 ドラゴンブレンドはその隅をそそくさと抜けていく。

 寝る前の支度に洗面所へ向かう彼女、その時間はいつも消灯時間1時間以内だ。

 夕食後の洗面所は朝程ではないにせよ、人が多く集まるホットタイムになる。その人混みを避けたいが故の時間選択だった。

 

 慣れた相手であればいくらかあけすけな性格だが、普段話すこともない相手であればそうはいかない。

 特に他の誰かと居合わせたとて会話を交わすわけでもないが、やはり苦手なことを避けてしまうのは自然なことだろう。

 来たばかりの最初の頃は混雑する時間帯に来てしまい、嵐から逃げる野生動物のように人の居ない場所で縮こまっていた。

 とはいえ既に入学して数か月、時間の見極めにも慣れたもので、洗顔や歯磨きを手早く済ませ自室に戻ろうとしていた。

 

(なんだろ、これ)

 

 共用部のコルクボードに貼られた一枚のビラ。それがふと目に留まった。

 

『海外ウマ娘の集い! 帰国子女、留学生のウマ娘で親睦を深めよう! 参加の折にはシェアする食べ物を持ってくること!』

 

 ポップなフォントとイラストたっぷりに書かれたビラに、まだ日本語が不得手なウマ娘に向けてか英語での表記も為されている。

 加えてそれぞれの出身ウマ娘が書き足したのだろう、手書きでドイツ語や中国語などでも同様の文章がある。

 トレセン学園には日本各地から、そして世界中からもウマ娘が集まる。

 トゥインクル・シリーズで活躍するために親元を離れるのは皆同じだが、海外歴が長いウマ娘や、留学生であれば環境の違いがストレスになることもある。

 近い境遇や同郷の者同士交流を深め、日々のストレスを解消すると共にホームシックなども解決できればといったイベントのようだ。

 

(こんなのやってるんだ……どうしよう、行ってみようかな……)

 

 ブレンの持つレースへの恐怖は熱狂と闘争本能が衝突し合う環境への怯えが大きいが、彼女自身が見知らぬ他者との交流が苦手というのもある。

 レースには日々切磋琢磨し合い走り方の癖も性格もよく知るライバルもだが、話したこともない、資料でしか知らない相手と走ることもままある。むしろそちらの方が相手としては過半数だ。

 ウマ娘の走りはレースにおいて、どんな言葉よりもウマ娘に伝えるものが多い。

 レースで走り、競い合うことでしか伝わらないものだってある。

 それ程に走るという行為は、ウマ娘にとってコミュニケーションと意思の発露の大きな役割を担っていた。

 だがブレンはその性格が災いし、レースというコミュニケーションのキャパシティが小さかった。

 

(いや、トレーナーさんも僕の練習相手を探すために頑張ってくれてるんだ。僕も自分で相手ぐらい探さないと! 頑張れ僕……! 別にただのパーティだ、向こうでだってやってたんだから大丈夫……!)

 

 小さく握り拳を作り、自分を奮い立たせる。

 場所はカフェテリアで、夜の営業時間が終わってから門限までの時間、場所を借りる予定らしい。

 予約などはなく当日に食べ物さえ持ってくれば参加可能な、実にラフなスタイルの親睦会だ。

 

 

 トレセン学園の寮に併設されたキッチンで、ブレンが切り分けた食パンへピーナッツバターと、アプリコットやベリー類など様々なジャムを塗り挟んでいく。

 どれも成分表記は英語であり、実家から送られてきたものだとわかる。

 ジャムはどれも一般で想像されるような果物のジャムとは異なり、果肉は入っておらずジャムというよりゼリーのような質感だ。

 それらをたっぷりと掬い取りパンの上にジャムの丘を作れば、満遍なく白パンの上に広げ敷き詰める。

 ピーナッツバターとジャムを塗ったパンをそれぞれ重ね合わせれば、平均的なアメリカ人が高校卒業までに1500個消費するとも言われる定番軽食PB&Jサンドイッチ(ピーナッツバターとジェリー)の完成だ。

 

(これぐらいあれば足りるかな……改めて考えるとこれやっぱりカロリー凄いよね……食べるのは程々にしておこう……)

 

 翌週の体重計を想像し、シェアの為に持っていくのだと自分を納得させれば、完成したサンドイッチを対角線で切り分け容器に詰め込む。

 一緒に、志同じくして日本へやってきた同郷のウマ娘への好奇心と高揚感、少しの不安を仕舞い込みキッチンを後にする。

 

 会場となるカフェテリアの入り口には、美浦寮寮長のヒシアマゾンと生徒会副会長のエアグルーヴが簡易的な受付を行っていた。

 二人が座る長机の前では何人かのウマ娘が各々の持参物を片手に受付を済ませている。

 

「さて次はっと、アンタは見ない顔だね。栗東の子か、受付済ませちまうから、名前と学年を頼めるかい?」

 

「あっ、はい、中等部2年のドラゴンブレンド、です」

 

「中等部2年、ドラゴンブレンド……あったあった! ちゃんと食べ物も持ってきたみたいだね、よし通りな!」

 

「む、以前カワカミが騒ぎを起こした時に居た生徒か」

 

 参加者名簿を整理していたエアグルーヴが聞き覚えのある名前に顔を上げた。

 

「選抜レース見ていたぞ、結果は奮わなかったがあの出遅れから中団にまで伸ばせたバネは大したものだ。精進しろよ」

 

「が、頑張ります……!」

 

 軽く檄を飛ばされ、カフェテリアへと通される。

 特に挨拶なども行うことはないようで、既に会場へ来ていたウマ娘たちが各々持参品を手に談笑に花を咲かせていた。

 大小様々なグループが形成され、しばしば合体と離散を繰り返している。

 つまりはナード気質のブレンにとって最も苦手とする空間だった。

 

(わかってた、けど! このホームパーティみたいな感じ、やっぱり苦手だ……っ!)

 

 既に形成されているグループに後から入り込む、人付き合いが苦手ではないという人であっても少し様子を伺うシーンだろう。

 ブレンは耳をビンと立て、グループに混ざる機会を伺うが、声を掛けるのに二の足を踏み続けていた。

 やがて立っていた耳は、持ち主と同じように行き場を失いふらふらと彷徨い始め、主催側で用意していた軽食の周りへと流れ着いた。

 

「はぁ……結局誰とも話さないで、何してるんだろ僕……」

 

 意気込んでやってきたものの、結局何をするでもなくただ軽食を啄んでいる。その事実に軽い自己嫌悪へと陥り出す。

 ブレンも、開封される事なく持ち運ばれるサンドイッチも所在なさげだ。

 時間が経つにつれて形成されたグループはより親睦を深め、混ざる為の隙は更に小さくなっていく。

 この構築されきった関係の中に割って入る勇気は到底無かった。

 

(軽食とはいえ、もったいないな……ホークさん食べるかなぁ)

 

 思考の対象はどこのグループに混ざるか、どうやって混ざるかではなく、作ったサンドイッチの消費についてへと変わっていた。

 容器の蓋を開け、ブルーベリーのPB&Jサンドイッチを取り出して口へと運ぶ。

 日本に来てからは口にする機会も減った、暴力的なまでの砂糖の甘味とスムースタイプのピーナッツバターが口の中で広がる。

 

「先ほどから表情が優れませんが、大丈夫でしょうか?」

 

「あっ、ごめんなさい、大丈夫です……」

 

 気づかぬうちに暗い表情になっていたブレンに声をかけてきたのは、黒髪ボブにトルマリンの様な青い瞳、綺麗に切りそろえられた尻尾が特徴的なウマ娘だった。

 

「そうでしたか、それならば何よりです。そちらは持参品ですか?」

 

「はい……といっても本当に簡単な物ですけど」

 

「ピーナッツバターとジャムを合わせたサンドイッチですか、面白い組み合わせですね」

 

「余らせちゃいそうだから、もしよかったらどうぞ……」

 

「ピーナッツバターとジャムのサンドイッチ……摂取カロリー量は多めと想定して調整しています。一個であれば予定のうちで収まりますので、ありがたくいただきます」

 

 一瞬のうちにカロリー量や栄養を計算したのか、少しの間を置いて差し出された容器からサンドイッチを手に取り、口へと運んでいく。

 その様はおやつや軽食を食べるというよりは、パティシエが商品のチェックをするかのようにも思えた。

 

「なるほど、味の濃いジャムにピーナッツバターのペースト、量にしては満足感が大きいですね」

 

「おぉ……これ食べる時にそんなこと考えたことないや……」

 

 さっと作った軽食の代表格にしっかりと評価が返ってきたことでつい面を食らう。

 

「つい癖で。申し遅れました、エイシンフラッシュと申します」

 

「えっと、ドラゴンブレンドです……でも、PB&Jを知らないってことは、出身はアメリカじゃないんですね」

 

「はい、私はドイツから。海外にルーツを持つウマ娘の交流会と聞き、参加のスケジュールを組んだのですが、やはりドイツからという方は珍しいようで」

 

 海外ウマ娘の集まりとの題目ではあるが、やはり人間もウマ娘も自身と同じ属性を持つ者で集まりたがるもの。

 同郷のウマ娘で集まりがちで、先ほどからも几帳面に時間やカロリー量を確認しているらしいエイシンフラッシュはお堅い雰囲気にも感じる。

 それ故かどこかに留まるというよりは、様々なグループで情報交換に努めているらしい。

 

「ドイツかぁ、確かにあんまり聞かないかも。僕はアメリカからなんですけど、あんまりこういうところ得意じゃなくて……知り合いを増やせたらなぁと思って来たもののこんな感じです」

 

「なるほど。でしたら、先ほど頂いたお礼にぜひこちらを。実家ではケーキ屋を営んでいますので、お菓子作りには自信があります。ぜひドラゴンブレンドさんからも感想をお聞きしたいです」

 

 エイシンフラッシュが取り出した包装箱の中には、瑞々しい赤をしたさくらんぼと、深紫(こきむらさき)をしたブルーベリーが宝石のように彩られたミニタルトがそれぞれ敷き詰められていた。

 造形や見た目にもよく気を配られており、小さなお菓子だが、それでも彼女の言う通り確かな自信の元で作られたものだと一目で理解できる。

 

「わっ……凄い美味しそう、本当にお店で並んでるお菓子みたいだ……本当にもらっていいんですか?」

 

「もちろんです。その為に作ったものですから」

 

「じゃ、じゃあ遠慮なく頂きます……!」

 

 さくらんぼの乗ったタルトを手に取り、零さないよう慎重に口へと運ぶ。

 サクサクのタルト生地にはカスタードクリームが詰められ、その上には小さくともよく目立つ真っ赤なさくらんぼ。

 口に入れると、タルト生地の触感とカスタードクリームの濃厚な甘さ、そしてさくらんぼの甘酸っぱさがふわりと広がる。カスタードにはチーズが混ぜ込まれているのか、チーズ特有の風味と塩気が口に広がった甘さとよく合った。

 想像よりも美味しかったそれに、ぎこちない笑みでフラッシュと話していたブレンの表情がきらきらと輝く。

 

「美味しい、これすっごく美味しいです!」

 

「ありがとうございます。気に入っていただけたようでなによりです」

 

 その表情と素直な感想につられてか、事務的な印象も受けていたフラッシュの表情もほころぶ。

 賑やかなカフェテリアではあったが、ブレンの声は思っていたよりもよく響き、周囲の目線がそこに一瞬集中する。

 そしてその視線に気付いたブレンが緊張で反射的に耳と尻尾を跳ね上げた。

 

「Hi! ここは随分賑やかね、何の話をしていたの?」

 

「持ち寄ったものの交換をしていました、デアリングハートさんですよね。あなたもいかがですか?」

 

「Thanks! 綺麗なお菓子ね、確かに美味しそうだわ。お言葉に甘えて一つ頂くわね!」

 

 とても明るい雰囲気でするりと間に入ってきたウマ娘、昨年の阪神JFと今年の桜花賞、NHKマイルカップで頭角を現しているデアリングハートだ。

 勝気な印象も受ける彼女はまさにクイーンビーといったオーラで、ブレンはついフラッシュの影に入ってしまう。

 

(す、すごい向こうでよく居た雰囲気の人だ……! 反射でなんか避けちゃった、すごい失礼なことしちゃってるよね……!)

 

「It`s tasty! 本当に美味しいわ。それに、名前も覚えててくれてるのね」

 

「ティアラとマイル路線、私のレースプランとは異なりますが、もちろん重賞レースはチェックしています」

 

「悔しいけどまだ重賞勝利はできていないけどね、あなたの名前は?」

 

「エイシンフラッシュと申します、どうぞよろしくお願いします」

 

「フラッシュね! こちらこそよろしく! それと、後ろにいるあなたは?」

 

「ひぇっ、ど、ドラゴンブレンド、です……」

 

 自身に会話が振られると思っておらず、悲鳴にも似た声があがり、ハートが苦笑いを浮かべる。

 

「デアリングハートよ、よろしくね。 というかそれ、PB&J? よかったら一個もらっていいかしら」

 

「それはもちろん……どうぞ……」

 

「Thanks! This flavor brings back the memories of the U.S.(この味、アメリカを思い出すわ) ひょっとしてあなたもアメリカ?」

 

「は、はい、まだこっちには来てそんなに長くないですけど……」

 

「そうなのね、同じアメリカウマ娘同士頑張りましょう。 Shake my hand, OK?」

 

「お、OK、よろしくお願いします」

 

 差し出された手を恐る恐る握り返せば、ハートもまたにこやかな笑みを浮かべてその手を握った。

 

「ええ、よろしくね。 ハートと呼んでちょうだい♪」

 

「ぼ、僕も長いので、ブレンって呼んでもらって大丈夫です」

 

「OK.ブレンね、それにしても、なんだかあなた達と話してると不思議な感じがするわ」

 

「奇遇ですね、私もお二人とは初対面の筈ですが、どこかで会ったことがあるような感覚がします」

 

「言われてみれば確かに……ハートさんは特にそんな感じするかも……」

 

「案外、アメリカに居た頃にすれ違ったことでもあったのかもしれないわね♪」

 

 ハートの人当たりの良い性格のおかげか、ブレンの緊張も解れ始め、三人の会話が段々と盛り上がり始める。

 各々が持ち寄った食べ物をテーブルに広げ、周りのグループと同じように歓談に興じる。

 ハートからは昨年今年のGⅠ戦線の経験談が、ブレンからはレースへの悩みと目標が、フラッシュからは綿密に練られた今後のトレーニングとデビューから引退までのプランが。

 各々が持つレースへの話題で話は弾んでいった。

 だが、楽しい時間とは早く過ぎるもので____

 

「さあみんな! 盛り上がってるとこ悪いが、そろそろ門限の時間だよ!」

 

「各々日本へやってきて苦労や不安はあることだろうが、頼れる仲間を作りまた明日からの支えにするといい。忘れ物と門限破りはせぬよう気を付け、本日は解散だ!」

 

 方々から残念そうな声があがりながらも、ぞろぞろとカフェテリアに集まったウマ娘たちがこの場を後にし始める。

 誰もが元から仲の良かった相手や、新たに親睦を深めた相手とともにカフェテリアから出ていき、また明日と挨拶を交わしている。

 

「残念だけど今日はお開きみたいね、また集まりましょう二人とも!」

 

「うん、僕もハートさんのレースの話また聞きたいな……」

 

「私もぜひ、その際のお菓子は私にお任せください」

 

「Wow、それは楽しみね♪ ブレンも、時間があるときならいつでも練習付き合うわ」

 

「わ、ありがとうハートさん!その時はお世話になります!」

 

 ニイニイゼミも鳴き止んだ少し蒸し暑い夜。

 セミたちの代わりに、寮までの帰り道をウマ娘たちの楽し気な声が響いていた。




やけに食事について書いてる気もしますが、うまむすめしの二次創作ではありません。
ラインクラフト持ってない上に未実装なのもあり、ハートのキャラが掴みにくいことこの上ありません。ホーム画面会話すらないのやめてください。

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