ウマ娘プリティーダービー -PRIDE OF DRAGON-   作:狐火(宇迦之御魂)

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英語本当に苦手です。


4th American Oaks Invitational Stakes

 週末の昼下がり、トレセン学園の正門前で何人もの人々が一人のトレーナーを囲んでいた。

 大きなトランクケースを側に置いたチーム《アスケラ》のトレーナーは、アメリカンオークスへ挑むシーザリオの元へ向かう為日本を離れるところだった。

 ラインクラフトたち同じチームのウマ娘、シーザリオが慕う先輩のスペシャルウィーク、ブレンのトレーナーとチーム《シリウス》の天才トレーナーを筆頭に今回のアメリカ遠征に協力したトレーナーたち。

 その誰もが、シーザリオの日本ウマ娘による米GⅠ初制覇という偉業の成就を願っていた。

 

「トレーナーさん、シーザリオのことよろしくお願いしますね! 私たちも応援してますから!」

 

「シーザリオさんにけっぱれって伝えてあげてくださいっ!」

 

「自分たちも、中継越しですが応援してます。頑張ってください!」

 

「僕も、シーザリオさんが勝つって、信じてます……!」

 

「みんなありがとう、貰った物は無駄にさせない。シーザリオを必ず勝たせてみせる」

 

 先にアメリカへと旅立ったシーザリオへと届くようにと、各々が激励をアスケラトレーナーへと預けていく。

 前人未到の日米オークス制覇、米G I制覇の夢をシーザリオに叶えてもらうために。

 脈々と繋がれてきたアメリカでの夢を託され、アスケラトレーナーが遠路アメリカへと向かう一歩を踏み出す。

 託された全てを、キングヘイローと共にアメリカで待つシーザリオへ渡し、願いを結実させに向かうのだ。

 

「頑張れシーザリオ……! キングさん、トレーナーさんも頑張って……!」

 

「シーザリオさんならきっと大丈夫ですっ! 私たちも信じて待ちましょう!」

 

 桜花賞を共に競ったライバルであり、大事な友人でチームメイトのシーザリオの勝利を強く願うラインクラフト。

 スペシャルウィークは持ち前の明るさでそんなラインクラフトを励ます。

 容易な挑戦では無いが、オークスで魅せたシーザリオならあるいはと、思わせる物があったのもまた事実だ。

 トレーナーであっても、最後にできることは信じることだけ。

 ならばそれ以外の応援する者たちができることも、また同じだ。

 アスケラトレーナーは明朝ロサンゼルス空港に到着し、開催地であるサンタアニアパークレース場で最終ミーティングを行う予定になっている。

 日本に残された者たちは、日本のウマ娘たちがこれより先の未来で海外へ挑む際の礎となる、歴史的な偉業が成されることを信じるのみだ。

 

 

 アメリカンオークス、正式名称を American Oaks Invitational Stakes(アメリカンオークス招待ステークス)という。

 アメリカにおけるティアラ路線の春夏レースの最高峰として設立されたこのレースは、まだ歴史は浅く今開催が第4回目となる。

 近代ウマ娘競争の始まりとされるイギリスで開催されるオークスに習い、日本においてもアメリカにおいてもオークスと名の付くこれらのレースは、クラシック級ティアラ路線ウマ娘にとっても最高峰に位置する。

 昨年の第3回アメリカンオークス以降は、実力を認められた世界各国のクラシック級ティアラ路線ウマ娘が招待される国際競争となった。

 そしてその第3回アメリカンオークスにおいて、日本勢は天才トレーナー率いるチーム《シリウス》がその門を叩き、惜しくも2着に惜敗した。

 

 7月4日月曜日の朝7時、現地では7月3日日曜日の15時。

 アスケラトレーナーが出国便の遅れや、入国審査での拘束に見舞われたとの報せもあったが、本バ場入場前に合流できたとのことだ。

 早朝練習に出てきたウマ娘たちがぽつぽつとトレーニングに励む脚を止め、スマホやタブレットなどにかぶりつき始める。

 その誰もが、シーザリオのアメリカンオークスを見届けようとしていた。

 

「第4回アメリカンオークス、世界から集ったティアラ路線のウマ娘が更なる樫の栄誉を奪い合います。各ウマ娘ゲート入りを始め、日本よりシーザリオは大外枠13番、最後のゲートインになります」

 

 枠入り前のウマ娘たちを中継カメラがそれぞれ切り抜き始める。

 世界各国で好走、あるいは勝利を遂げたティアラ路線のウマ娘たちが一同に会し、その頂点を決める。

 緊張か、あるいは強い覚悟からか硬い表情を浮かべるウマ娘。自らの脚への自信か、不敵な笑みを浮かべるウマ娘も居る。

 三者三様に、だが全員が他の誰よりも速いことを示す意志に満ちていた。

 その中でシーザリオは、いつもと変わらないレースへ臨む際の凛々しい雰囲気のままだった。

 サンタアニアパークレース場、芝2000m、良バ場、晴。ロサンゼルスのカラリとした空気が、日本とは異なる環境であると告げていた。

 

「場内、英語の実況でもシーザリオとコールされました。12人、ゲートインが終わりました」

 

ジリリリリリ!!!!

ガコン!!!

 

「スタートしました! さあスタンドに向かってまずは一直線に走ってまいります。シーザリオ、素晴らしいスタートを切っています!」

 

 日本では鳴らない発走のベルにより、戦いの始まりの鐘が鳴らされる、

 シーザリオの隣枠、12番のウマ娘が大きくつまずき、シーザリオの方へとふらついた。しかし、上手く飛び出したシーザリオはそれを躱し先行争いに加わっていく。

 バ群から離れた少し外目から、次第に内へと切れ込むようにシーザリオが前へと進出し2番手に付ける。

 ここ数戦とは異なり前目に付けるシーザリオを、応援する誰もが固唾を吞んで見守っていた。

 

「今まで後ろからのレースだったのに、大丈夫ですかね……」

 

「あれだけレースを研究していたんだ、シーザリオも落ち着いてる、狙い通りだと思うよ」

 

 ズームされたシーザリオに焦りの表情は微塵も感じられない。

 自身の走りをオークスの時と同じように果たし、世界から集う名優を自らの舞台を彩る助演へと変えんばかりだ。

 ややスローペースの隊列の中で逃げを打つ4番のウマ娘。リードを4バ身、5バ身と取って後続との距離を広げていく。

 

「日本のウマ娘がアメリカに挑んでおよそ半世紀、しかし未だGⅠタイトルを手にしたものは居ません。それほどまでに高い壁を乗り越え、日本の女王は世界の女王へと至ることができるのか」

 

 淡々としながらも明らかな熱を帯びた実況が流れる中、集団は2コーナーを回る頃。

 早々にバ群を抜け出し一人旅へと打って出た4番の後ろ、団子状態になりそれが一つの生物のように大きくなっていた。

 先頭を行く旅人はその旅の果てにある栄光を手にせんとして、必死に追い迫る怪物から逃げようとする。

 だが一度開いたリードは縮まっていき、遂に膨れ上がったその体躯に呑み込まれる。

 

「おっと、ここで前が落ちてきた! レースが一気に動き出した! 1番手、2番手を進んでいたウマ娘が沈み、なんとシーザリオがここで早くも先頭に立ちます! これは意外な展開! シーザリオこのまま粘れるか!?」

 

 このスローペースの展開、後方に控えたウマ娘たちは十分に脚を溜めている筈だ。

 シーザリオもまだ脚は残っているように見えた。

 だがここで焦り、栄光に最も近い場所に居るのだと冷静さを欠けば、最後の一瞬でその栄光は他の誰かに奪われる。

 シーザリオは冷静だった、冷静に、レースの展開を見て、自分の脚を信じた。

 

「先頭のシーザリオ! ここでペースを上げた! 後続を突き離し、独走!」

 

 レースを見ていた誰もが悲鳴にも似た歓声をあげる。

 最終コーナーからのスパートだ。脚は残るのか、いやこのまま突き離して逃げ切れる、悲喜交々(ひきこもごも)の叫びがあちこちで聞こえた。

 一際強い踏み込みで、オークスを彷彿とさせる末脚が早くも炸裂した。

 

「最終コーナーを回って最後の直線! シーザリオ落ちない! シーザリオ落ちない! シーザリオがさらに差を広げていく!」

 

 応援する者たちには更なる夢を、相対するライバルたちには絶望を。

 最終直線に飛び込んできたシーザリオはもう止まらない。

 アメリカ挑戦の歴史、託されてきた想い、脈々と受け継がれてきた支脈は今、シーザリオという大河に繋がった。

 大地を穿つ大河は、何者にもその流れを阻ませない。

 

「シーザリオ先頭! 3バ身、4バ身のリード! 後続も追ってくるがその差は縮まらないっ!!」

 

 追ってくるウマ娘からぐんぐんとシーザリオは差を広げ続ける、セーフティーリードだ。

 シーザリオを応援する誰もが、半世紀の夢の結実を目の当たりにしようとしている。

 画面に齧り付いてレースを注視する者たちから歓喜の声が、隠しきれない興奮の声がどっと溢れる。

 

「シーザリオだシーザリオだ! 日本のスーパースター___シー! ザリオォオー!!」

 

 日本の悲願、アメリカGⅠタイトル制覇の夢。

 半世紀という長い、長い挑戦の支脈は遂にシーザリオという大河となり、アメリカへと辿り着いた。

 それだけでも歴史的偉業、万雷の拍手でもって迎え入れられるべきことだ。

 

「タイムがなんと、1分59秒03のレコード勝利! これが日本の樫の女王の実力だ! ついに、ついに日本の悲願、アメリカGⅠ初勝利ーっ! そして前人未到の偉業、日米オークス制覇だーっ!」

 

 堂々たるコースレコードでの勝利、まかり間違っても相手に恵まれたなどとは言わせない。

 日本の樫の女王は強かった、世界にも通用するほどに。

 至る所で祝福の歓声があがり、幾人かが興奮のあまり投げ出したスマホは、レース場の紙吹雪の様に空を舞っていた。

 画面の先、遥か海の向こうのサンタアニアパークレース場のコースで、シーザリオは膝を着き両手を合わせていた。

 喜びか、感謝か、あの先頭の景色を見た彼女にしか分からない、彼女を突き動かすなにかが、彼女を祈らずにはいられなくさせた。

 ゆっくりと立ち上がるシーザリオが、スタンドを向き、拳を掲げる。その姿は二冠を背負うに相応しい、威風堂々の女王の姿だった。

 

「これが、歴史に名を残すウマ娘ってやつか……」

 

「僕も、まだドキドキしてます……かっこよかったなぁ……!」

 

 レースに挑むウマ娘ならば必ず憧れるような、歴史に残る金字塔を打ち立てた。

 こんな瞬間を目の当たりにし、火が付かないウマ娘は、トレーナーは居ない。

 後に続くまだ見ぬウマ娘たちも、このシーザリオの走りに憧れてトゥインクル・シリーズを志すことだろう。

 そして夏が明ければ、シーザリオの穿った大河の支流はブレンにも繋がっていく。

 合同トレーニングを通し、世界を圧倒した彼女の走りは引き継がれる。

 彼女自身が、これまでのティアラウマ娘たちに憧れ受け継ぎ、かの場所へ辿り着いたように。

 

「夏が終わればチーム《アスケラ》との合同トレーニングも織り交ぜていく、この走りから学べるものはとことん学んでやろう。夏の間に、その為の準備を整えるんだ」

 

「っはい! トレーナーさんが結んでくれた機会、無駄にはさせません! あの場所はきっとまだ遠いけど、いつか同じ高さまで登って見せるんだ……!」

 

 あれだけの偉業を成し遂げるウマ娘と共にトレーニングが行えれば、それは余りにも大きな経験になる。

 圧倒的なまでの強者と共に走った、トレーニングしたということそのものが自信にも繋がるだろう。

 純粋な走りの技術は言わずもがな、学べることは語り尽くせない。

 打たれた布石はその価値を、更なる高みへと引き上げていた。

 

 バクバクと脈打つ鼓動はレースへの興奮と、白金にも勝る価値を持ったトレーニングの機会への期待からか。

 夏を終えれば、そう遠くはない刻一刻と近づいてくるメイクデビューの時。

 鬼胎を抱いていたブレンの胸の中に、恐れや怯えとは異なる高ぶりが確実に沸き上がり始めていた。




メイクデビュー戦は来月中には行うつもりです。
今はまだ先を行く偉大なウマ娘たちのレースばかりですが、ドラゴンブレンドのレースを早く見ていただきたいと私も思っております。

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