ウマ娘プリティーダービー -PRIDE OF DRAGON-   作:狐火(宇迦之御魂)

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舞い散る閃光

「えっ、この日もお休み、ですか?」

 

「ああ、夏に入って運動量も大分増やしたし、休養も取ったほうがいい」

 

 週終わりの日曜日、来週の予定表を確認したブレンが素っ頓狂な返事を返した。

 普段は月曜日を毎週休養日にして、要望があれば調整する形を取っているが、ホワイトボードに書かれた予定表では月火水が休みとなっていた。

 しかし休みを与えられた当人は些か不服そうだ。

 

「でも僕、まだ全然大丈夫ですよ」

 

「それでも。案外溜まった疲れには気付かないものだから、偶にはしっかり遊んだりしておいで」

 

「うぅ~……」

 

 耳を絞り、言葉にはしないがはっきりと不満ですと主張している。

 やる気に満ちているのは良いことだが、鍛錬の結果は十分な休息の後に出てくるものだ。

 逸るブレンを宥め、休息の必要性について滔々(とうとう)と説く。

 本人も、トレーナーの言うことが間違っていないというのは分かっているのだろう。渋々ながらその内容を受け入れた。

 

「でも急に休みって言われても、どうしようかなぁ」

 

「まあ何もせずに寮でのんびりするのもいいんじゃない?」

 

「1人で3日ものんびりしてたら牛になっちゃいますよ……」

 

「他の子たちは合宿中だもんな……なにかやりたい事とかはないのか?」

 

「やりたいこと……あっ、そうだ! じゃあトレーナーさん、買い物付き合ってもらえたりしませんか? できれば車を借りたくて」

 

「ああ、もちろんいいよ」

 

「ありがとうございます! じゃあ今日帰ったら準備しておきますね」

 

 買い物に準備とは何だろうか、トレーナーの脳裏にふと過るが、年頃の女の子であれば出かけるにしても色々あるかと自分を納得させる。

 中央トレーナーはエリートのスポーツ指導者であり教育者である。コンプライアンス教育も念入りに行われているのだ。

 その日は休養日以外のトレーニング内容について軽く確認をして解散することとなった。

 

 

 そして翌日、トレセン学園の駐車場で待ち合わせをし、時間になればブレンが車の窓をノックする。

 ジーンズに日除けになりそうな薄手のパーカーを羽織り、ボーイッシュな印象がより強い恰好だった。

 

「じゃあトレーナーさん、お願いします」

 

「いいけど、そういえばどこに行けばいいんだ?」

 

「近場だと……ここでお願いします」

 

「えっと、分かった、車ならすぐ着くと思うけど、ここで合ってるのか?」

 

「はい、ここでお願いします」

 

 スマホの地図で示された場所を見て、怪訝な表情を浮かべるトレーナー。

 一方ブレンに気にした様子は全くない。

 せっかく頼まれてのお出かけで口を挟むのも野暮だと思い、シートベルトを着けて車を発進させる。

 地図で見た通り、目的地まではそう遠くない、車で10分少々走れば着く距離だ。

 そして着いた場所は、大型のホームセンターだった。

 

「買い物って言ってたけど、ホームセンターで何を買うんだ?」

 

「トレーナールームで僕のスペース貰ってるじゃないですか、ちょっと物寂しいなって思ったのでラックとか椅子が欲しかったんですよね」

 

「なるほどな、それは確かに車が欲しいわけだ」

 

 現時点で担当ウマ娘はブレンだけであるために、他のチームでは大抵チームの共有スペースとして使われるトレーナールームは現在、二分割してトレーナーとブレンそれぞれのスペースとして使われていた。

 トレーナー側は特に特筆すべき点もない、事務机や書類、モニターなどを置き仕事用のスペースといった感じだ。

 一方ブレンはすこし厚めのラグマットを敷き、その上には大型のクッションなどを置いて第二の自室の様に使っていた。

 授業のある日の昼休憩では、食後にトレーナールームで横になっていることも珍しくない。

 一度チーム《アスケラ》と合同トレーニングについて軽い相談をした際に、ラインクラフトがそのエリアを羨ましそうにしていた。

 

「車に乗る分だけだし、そんなに大きいのは要らないしなぁ」

 

「ん? 家具のコーナーはこっちだぞ?」

 

「あ、目的はこっちなので、大丈夫です」

 

 ショッピングカートを押しながら店内を進むブレンは、何かを考えた様子で何故か家具コーナを素通りしていく。

 家具コーナーを通り過ぎて辿り着いたのは、大小様々な木材や鋼材が並ぶ資材コーナーだった。

 トレーナーが呆気に取られていると、ブレンは慣れた手つきでメジャーを取り出し、資材に当てては空に図形を描く。

 

「待ってくれ、家具ってまさか作る気か!?」

 

「はい、そうですけど……」

 

 シャッと、伸ばしていたメジャーを格納してトレーナーに返事をする。

 さもそれが当然だとでも言うような態度だった。

 

「ものすごく大きいものとかならまた別ですけど、小さい家具とかなら自分で作りたいんですよね」

 

「逆に作れるのか……」

 

「パパがやってたのを手伝ってたので。そういう子、そこそこ居ましたよ。まあ、男の子ばっかりでしたけど……」

 

 恥ずかしそうに笑うブレンに、今までで1番大きなカルチャーショックを受ける。

 驚きに固まるトレーナーを尻目に、ブレンは必要なものが決まったようで、手頃なサイズの板材とスチールの角パイプなどをカートに放り込んでいく。

 その様子は、年頃の女子中高生がウィンドウショッピングに興じる姿そのものだった。

 

「あとは、工具も少し借りないと……」

 

 目的が分かれば指で描いていた図形が設計や、工程をなぞっていたということも理解できる。

 手早く必要な資材や工具を放り込めば、内容物を確認し始める。

 

「トレーナーさんは何か欲しいものとか無いですか? 僕にできそうなものなら作りますよ」

 

「あ、ああ、いや、俺は大丈夫かな……」

 

 普段とは打って変わり、トレーナーがブレンの勢いにたじたじになる。

 カートの中身が半分ほど埋まれば、選定も終わって満足気にブレンが資材コーナーから出てくる。

 中には板材や鋼材、工具類に何に使うのかもわからない器具など、ホームセンターが本来主として取り扱うものばかりが入っている。

 

「必要な物はこれぐらいなので、あとは戻って作るだけなんですけど、何か買う物ありますか?」

 

「飲み物とかが減ってたから、それだけ買い足そうかな……」

 

 2Lのスポーツ飲料水を何本かカートに加えて、レジへと運ぶ。

 商品と2人を見て、日曜大工に励む保護者と子どもかなにかだと思ったのだろう。

 店員が流れ作業でレジに通し終われば、マニュアル通りに案内を続ける。

 

「こちらの商品、あちらのカウンターで加工もできますのでよろしければご利用ください」

 

「あっ、鋼材のカットって、どれぐらいまでできますか……?」

 

「えっ、あっ、カウンターに料金表などございますのでそちらをご確認ください」

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

 トレーナーに向けて案内をすれば、思わぬ方向から返事が返ってきたことで店員が一瞬フリーズするが、すぐに再起動し案内を終えた。

 嬉々としてカートを押していくウマ娘とその同伴者を見て、店員は訝し気な表情を浮かべていた。

 

 

 大きくは無いがそこそこの量があった資材類だが、紐で縛って一纏めにしてしまえば、ウマ娘の力にとっては軽いものだ。

 車に詰め込み学園へ戻ると、夏合宿中に使う者は流石に居ないミニライブ用の野外ステージを借りて、購入した資材を並べていた。

 ブレンは資材を運び込むと、必要な物取ってきますと言って寮へ戻っていった。

 

「しかしこれ、組み立て式でもないのにどうする気なんだろ……」

 

 最近は珍しくない、家で組み立てるタイプの家具でもなく、本当にただの材料の山。

 それを前にしてトレーナーは困惑していた。

 程なくして足音が聞こえ、ブレンが戻って来た。

 

「お待たせしました、それじゃさくっとやっちゃいますね」

 

「す、すごい恰好だな……」

 

 戻って来たブレンは、全身を厚手の装備で覆い、調達していたよくわからない機材を引っ張ってきていた。

 襦袢(じゅばん)に厚い革のエプロンと手袋、そして一際目につくのは異質な形をした、顔全てを覆うヘルメット。

 声がかからなければ、それが誰かもわからないだろう。

 ステージの庇の下、暑さもあるのだろうヘルメットの下の汗を拭うと機材をセッティングし始める。

 

「なあブレン、随分重装備だけど何をする気なんだ?」

 

「とりあえずはラックの枠を作って、あとで組み立てます。作業始めるのでトレーナーさんは離れててくださいね」

 

「ああ、わかった……」

 

 トレーナーに声をかけ、その場から離れさせるとブレンは上げていたヘルメットを被り直す。

 そして手際よく角パイプを合わせ、なんらかの器具で寸法と角度を固定すると、用意していた機材を持ちそれに近づける。

 するとバチバチバチッと、目の眩むような閃光が走る。

 ブレンは迷いなく手元で弾ける閃光を操り、次の作業、次の作業へと移っていく。

 やがておおよその形の様なものが見えてきた。

 

「こんなものかな……ふぅ、日本の夏は暑いなぁ……」

 

「終わった、のか?」

 

「あ、はい、溶接作業はもう終わったのであとは板材ぐらいです」

 

 ブレンがあっけらかんとした様子で、溶接機のコードを回収していた。

 暑さが堪えるのだろう、ヘルメットを外し厚い革エプロンや手袋もどんどん外していく。

 エプロンの下のシャツはぐっしょりと汗に濡れ、普段のトレーニング後と変わらない程汗をかいていた。

 

「買ってきた水、飲むか?」

 

「あっ、頂きます……!」

 

 渡された2Lペットボトルを両手で掴み、ゴクゴクと飲み干していく。

 その勢いは止まらず、あっという間にペットボトルの半分近くを消費してしまった。

 エプロンの肩部分を外し腰掛のようにしているが、その下の発汗量を見るにそれも致し方ないといった印象だ。

 

「思ってた数倍は本格的だったな……」

 

「いろいろ作ってるうちに楽しくなっちゃって、溶接も覚えたんですよ」

 

「溶接って個人でできるものなんだな、初めて知った……」

 

「危ないので勉強は必要ですけど、やろうと思えば。Do It Yourself(DIY)ですよトレーナーさん。」

 

 一息入れて汗を拭うと、再びブレンは作業に戻った。

 板材の大きさや形を整え枠に合わせ固定して、完成形が見えてくればヤスリをかけ、水で溶いたニスを塗り付ける。

 その後数時間程乾くのを待てば、作品が完成した。

 

「おぉ、凄い。かなりしっかりしてる」

 

「ふふん、こういうのならちょっとは自信ありますから」

 

 出来上がったものはラックというよりはミニテーブルといった物だ。

 低めの天面の下に、また少し小さなテーブル面が付いており、アフタヌーンティースタンドのような形をテーブルにしたと言えばいいだろうか。

 丁寧に作られている印象だが、既製品とは異なり溶接痕がはっきりしているなど手作り感も強い。

 

「これがあればクッションを枕にしても椅子にしても、テーブルとして使えるって訳です」

 

「本格的に自室として使う気だなさては?」

「うっ、寮の部屋もいいですけど……アメリカに居た頃よりは狭いし、あんまり自由にできないですし……」

 

「まあ君が過ごしやすくなる分には好きにしてもらっていいんだけどな」

 

 散ったおがくずなどを綺麗に掃除し、余った端材などを回収して、完成品と共にトレーナールームへと帰る2人。

 完成したミニテーブルを設置し、ブレンがごろりと横になるとその使いやすさをチェックする。

 

「うんうん、いい感じの高さだ。これでばっちりですよ!」

 

 座っても横になっても、ちょうど手を伸ばせば物が取りやすい位置に天面が来ている。

 横に置いてモニターなどがあれば、かなりリラックスして映画鑑賞でもできそうだ。

 満足そうにクッションに寝転ぶブレンを見て、ブレンの思わぬ一面を知れた一日になったと、トレーナーも満足そうにしていた。




流石に溶接機は触ったことないです。

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