ウマ娘プリティーダービー -PRIDE OF DRAGON- 作:狐火(宇迦之御魂)
是非感想評価のほどよろしくお願いします。
ドラゴンブレンドと正式な担当契約が決まるまでの間トレーニングを見る、仮契約のようなものを結んだ翌日。
トレセン学園はトゥインクル・シリーズに挑戦する競技ウマ娘を育成する場所でもあるが、一方で中等教育と高等教育を行う教育機関でもある。
競技者であると同時に学生でもある以上トレーニングだけを行うというわけにもいかない。
ひとまず初日ということもあり授業終わりの時間に昨日と同じグラウンドで集合するように伝えたのだが……
「来ない…」
コースにドラゴンブレンドは現れなかった。
(やっぱりこんなぺーぺーの新人トレーナーにトレーニングを見てもらうなんてできないってことだろうか…)
最初に断られることは予想していたが、一度OKをもらった上で断られるのは少々、いやかなり心に来る。
連絡もなしに約束を破るような子には見えなかったが…
(そうだ、ひょっとしたら何かあったのかもしれない)
担当契約を結んだ訳ではないにせよ、指導をする以上その間は教え子。
まず指導する立場の人間がウマ娘を信じないでどうするんだ。
そう思い連絡を入れようとしたとき、LANEに着信が入る。ドラゴンブレンドからだ。
『集合別の場所じゃダメでしょうか…?』
『何かあった?』
『ごめんなさい。人の多い場所が苦手で……』
そういえば昨日最初に見かけた時も挙動不審だったが、この環境に尻込みしていたということだろうか。
練習コースの人混みですら避けてしまうというのは中々に大変そうだが、課題があるのならばそれについても聞いておきたい。
ドラゴンブレンドのお願いに了承の返事を送り、ひとまずは人混みの少ない場所に集合場所を移す。
⏱
「すみません、変なわがままを言ってしまって…」
「大丈夫だよ、ただよければ話は聞かせてもらってもいいか?」
使用状況を見て一番利用者が少ないコースを選び集合場所を変更すると、集合場所で先に待っていたドラゴンブレンドが開口一番、申し訳なさそうに謝罪してくる。
ウマ娘は人よりも高い身体能力や感覚器官を有しており、特に人混みや騒がしい場所というのは人よりも嫌がる傾向にあるのは事実だ。
とはいえ、満員電車や都内の繁華街ほど混み合うわけでもないグラウンドを、ここまで嫌がるというのは少し過剰な気もする。
「その…走る時に他の誰かが居るのが苦手、なんです…」
「それはバ群に飲まれたり競り合いをするのが苦手ってことか?」
そういうウマ娘も居ないわけではない、視界に他のウマ娘が入ることを嫌ったりバ群の位置取り争いを苦手とするウマ娘。
そんなウマ娘であれば、まずはバ群と干渉しないよう常に先頭を走る逃げ戦略を取ったり、逆に最後方に控え続け終盤に全てを差し切る追込みの戦略を取るというのも一つの手だ。
あまり多くはないが、七夕賞、オールカマーを制覇したツインターボや、宝塚記念や天皇賞秋を制覇したグランプリウマ娘のサイレンススズカのように、逃げウマ娘より更に前を行く、破壊的な大逃げウマ娘というのも居る。
そこまでの走りに持っていくには本人の適性も絡むが、適性があるのであれば逃げウマ娘を目指す形にしてトレーニングするのも十分ありな選択だろう。
「それもあるんですけれど……怖いんです……レースの圧や、走ってる僕に向く目線や意識が…それを意識しちゃうと、怖くて逃げ出したくなってしまって…」
「昨日コースの周りでうろうろして走らないでいたのも、周りのウマ娘が怖かったから?」
「み、見てたんですか!?あ、や、はい、そうです……」
バ群や競り合いを嫌って逃げを打つのはまだ聞くが、レースそのものから逃げてしまうとなると……かなり重症かもしれない……
「やっぱりその、トレーニングを見てもらう話は、無し…ですか?」
「そんなつもりはないよ、ありがとう教えてくれて。対策は一緒に考えていこう」
沈黙をトレーニング指導の話を白紙に戻すか思案していると取ったらしい。
もちろん投げ出すつもりなんてない。ウマ娘が走りに悩んでいるのならば、とことん付き合うのがトレーナーというものだろう。
なにより自分自身が、ドラゴンブレンドの走りをもっと見ていたい。
それはそれとしても、レースから逃げてしまうというのは小さな課題ではない。
そういった環境要因に影響されやすいとなれば、ゲート試験においても手こずってデビューが遅れてしまう可能性だってある。
スカウトをする先輩トレーナーたちも彼女のスカウトに消極的になるだろう。となれば。
「よしわかった、なら目下の目標はまず他のウマ娘と走れるようにするところからにしようか」
一番近くにある課題から少しずつ、堅実に行くべきだろう。
「すみません…でも、僕はどうすれば…?」
遠目に見える練習中のウマ娘を見て不安そうな様子だ。
昨日の坂路を見た時から思うが、走っている時とそれ以外では別人のようだ。
走っている時はウォーミングアップの段階から気が張り詰めており、周囲の事なんて気にした様子も全くなかった。
声をかけたときも息を入れていたとはいえかなり集中していた。
人間よりよっぽど優れたウマ娘の聴覚ですら、俺の接近に気付いていなかったということだ。
ならば、彼女の集中のスイッチを周囲のプレッシャーに負けないよう押すことができれば状況は変わるかもしれない。
「君が走っている時の集中力は強い武器だ、それを活かそう」
ひとまずはすぐできることから、シンプルではあるが深呼吸で副交感神経を優位にさせ、適度なリラックス状態を作ることをルーティン化させれば緊張を抑える手段として利用できるだろう。
過度のリラックスは彼女の武器である集中力を鈍らせる要因にもなるが、今必要なのはこの武器を自在に操る手段だ。
「深呼吸、ですか。わかりました」
そう返事をして彼女は大きく息を吸い、吐き出すを繰り返す。
おそらく今の彼女にとってあの集中状態を作るスイッチは走り出すという行為そのものだ。
けれど他にウマ娘が居ると委縮してしまい、走ることよりも逃避行動に移ってしまう、故にそのスイッチを走り出す前に押すことができるようになればという考えなのだが……
「深呼吸をして落ち着いたら、普段のように集中して走ってみようか」
「すぅ~……わかりました、じゃあ行ってきます」
できる限り間を置かずそのまま彼女が走り出す、周りにウマ娘はほとんどいない。
彼女の集中を遮る要因はそう多くない、走り出してすぐにあの気配を感じる。
真っ直ぐに前を見つめ、全身を使った少し長いストライドだが力強い走り。
思わず笑みが浮かぶ。
(やっぱり、綺麗な走りだ)
長いストライドで深く踏み込めているのもいい点だが、上半身のブレが小さい。
強い踏み込みで走っているにも関わらず、体が硬くなることなく一定の位置で走り続けることができており、まるでバレエダンサーが跳ねて舞っているような印象を受ける。
1周トラックを周回すればもう一度同じように深呼吸を行い走り出し、集中のスイッチを入れるという流れを何度か繰り返す。
ルーティンを体に馴染ませることで意味が出てくる行為なので、今すぐ効果が出る訳ではないが、無意味ということはないだろう。
「よし、一回休憩を入れよう。お疲れ様ドラゴンブレンド」
「はぁ…はぁ…あ、ありがとうございます、トレーナーさん」
戻ってきたドラゴンブレンドに冷えたスポーツ飲料水を渡して休憩させる。
彼女にトレーナーさんと呼ばれ、ずっと憧れていた場所で彼女たちウマ娘を支える一助になれているのだと実感してつい頬が緩むが、それをぐっと抑え込み彼女の走りを振り返る。
まだはっきりとは言えないが、彼女の走りを見る限りマイル戦が向いているようにも感じる。
走り方としてはストライド走法の長い脚を使うタイプだが、長距離レースを走るウマ娘ほどではない。
しかしその分パワーのある走りもしており、マイルから中距離で様子を見て距離適性を見極めていきたいという印象だ。
彼女の特徴である集中状態、なんなら過集中と言ってもいいかもしれないが、この状態は彼女の走りを支える一方で体力の消耗を加速させるというデメリットもある。
走ることに集中しすぎて、体がその意識に追いつかなくなるのだ。
事実休憩に入った時の彼女はかなり疲労している様子だった。
息の戻りも悪くはないので長い距離が全くダメとは言えないだろうが……まだ見始めて初日だ、どちらとも断言はできない。
ただ今は、やはり一度他のウマ娘と走った時がどうなるのかが気になる。
他のウマ娘と走ることは消耗も大きいが得られる経験も大きい。
「ドラゴンブレンド、休憩が終わったら一度他のウマ娘と2人で併走をしてみないか?」
「併走…ですか…でもその、それは…」
「何も全力で併走をしろって訳じゃない、できるならそれもいいけど、少人数から他のウマ娘と走ることにも慣れていった方が良いと思うんだ」
「それはそうなんでしょうけど……うぅ……やっぱり怖い……」
やはりこの臆病さはかなり根深そうだ。随分と渋っている様子。
それでも全く誰とも走らないというのは、デビューできたとしても経験の面でハンデになる。
なんとかレースや他のウマ娘が居る環境に慣れてほしい。
しょぼしょぼと下を向いて渋るドラゴンブレンドの説得を続けていると。
「こーーらーーっ!!!!!! 彼女嫌がってますわーーーっ!!!!!!!」
「ん?」
ドドドドドドッと尋常ではない勢いでウマ娘がこちらへ走ってくる。
彼女はそのまま自分たちに距離を詰めてくると大きく踏み込み、自分に跳んでくる…!?
「てぇええりゃぁあああ~~~っ!!!!!!!!!」
「うぉぉぉぉぉぉおお!?」
「なっ、何!?」
すんでのところで地面に伏せ、その跳び蹴りを回避する。
真上から風切り音、直後に先ほどまで体重を預けていたラチが粉砕される音が聞こえる!
(あ、危ない……!)
跳び蹴りでラチを粉砕し貫通していったウマ娘が、バク転で態勢を立て直しビシッとこちらを指さす。
「あなた!嫌がる相手を無理やり言うこと聞かせようなんて酷い行い!プリファイに代わって私がぶっ飛ばして差し上げますわっ!」
目覚めるようなピンク髪の、強気そうなウマ娘は自分を指さしながらそう宣言した。