ウマ娘プリティーダービー -PRIDE OF DRAGON-   作:狐火(宇迦之御魂)

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前話書いてて自分で泣いてました。


新たな関係

「はい、確認しました。これでドラゴンブレンドさんとトレーナーさんは正式に担当トレーナーと担当ウマ娘になります!」

 

「ありがとうございますたづなさん」

 

 あの選抜レースの後、ひとまずびしょ濡れになってしまったドラゴンブレンドをカワカミプリンセスに託し、栗東寮のお風呂に連れて行ってもらった。

 あんなことがあったというのに彼女と離れるのは後ろ髪を引かれる思いだったが、学生寮にトレーナーは立ち入り禁止だ。

 それにお風呂に入ってもらうというのに付いていくのもおかしな話だ。

 栗東寮の寮長フジキセキは「おや、こんなところにびしょ濡れのポニーちゃんが二人も、はやくお風呂を浴びておいで!」なんて冗談を言っていたが。

 自分もタオルだけ貸してもらいびしょ濡れの体を軽く拭いて、トレセン学園のすぐ近くにあるトレーナー寮で着替えて戻ってきたという次第だ。

 

「あっ、トレーナーさん……」

 

「遅いですわよ~っ! 待ちくたびれてしまいましたわ!」

 

「ごめん二人とも、急いだつもりだったんだけど…」

 

 LANEで連絡を送り、学園のトレーナーに一人一室与えられるトレーナールームで再び集まった。

 カワカミプリンセスは付き添いで付いてきたのだろう、友達思いのいい子だと思う。

 

「さて、改めてちゃんと話をしようか」

 

「はっ、はい、担当契約のこと……ですよね」

 

「ああ、そうだ」

 

 テーブルを挟んでドラゴンブレンドの正面に腰を下ろし、まっすぐ彼女を見る。

 まだ少し目元が赤いが、真剣な眼差しでこちらに目線を返してくれる。

 

「さっきは正直、後先考えずに思うままに言ってしまって、君からの返事をしっかり聞けてなかったから。ちゃんともう一度聞きたいんだ。俺はまだ何の実績もない新人トレーナーだ。それでも、君がウマ娘としてトウィンクル・シリーズを走る相方として俺を認めてくれるというなら、ドラゴンブレンド、君をスカウトしたい」

 

 そう言って、目が合った彼女が少し顔を逸らし、俯きながら口を開く。

 

「僕は、今回のレースで何も結果を残せなかった。レースはトレーナーさんの言ってた通りになってた。僕が出遅れさえしなければ、トレーナーさんの考えてくれた作戦通りに勝ててたのかもしれない」

 

 その言葉に静かに頷く。

 彼女の言うことはおそらく間違っていない。

 4コーナーの失速、あれは崩れたフォームで無理に追い上げ、本来のポジションにつこうとしたことによるガス欠だ。

 多少のトラブルはあったとしても、あの出遅れからあそこまで進出できる脚が彼女にはある。

 あれが本来の走りではないことは、学園のトレーナーの中で一番わかっている。

 普段の走りをいくらかでもできていれば、着差が付くかはわからないが、最後に競り勝つことはできたと思う。

 

「それで作戦通り勝てて、他のトレーナーさんたちにスカウトを受けてたとしても、僕は断ってたかもしれません」

 

「それはどういう……」

 

 聞き返そうとしたとき、ぐっと机の上から乗りだしてきたドラゴンブレンドが自分の口を手で押さえてくる。

 

「僕も、トレーナーさんに担当になってほしかったんです。僕の走りを褒めてくれて、レースに満足に出れてすらいなかった僕を見つけて、全力で支えようとしてくれて、僕のことを夢だって言ってくれたトレーナーさんに」

 

「それは、つまり……!」

 

 彼女が手を離し、自分の前へ手を差し出してくる。

 

「トレーナーさん、僕と一緒に走り続けてくれませんか?」

 

「___!! ああ、もちろんだ! これからよろしく頼む!」

 

 差し出された手をしっかりと握り返し、互いの意志を再確認する。

 彼女の期待を裏切るわけにはいかない。新人だからと言い訳はしない、する気もない。

 全力で彼女を支え、育て上げ、トウィンクル・シリーズの歴史にドラゴンブレンドという名前を残すんだ。

 

「素敵__ですわ~っ!」

 

「うわぁっ! びっくりした!」

 

「ど、どうしたのいきなり……!?」

 

「失礼いたしましたわ! お二人の関係があまりに素敵で……! まさしくプリファイと伝説のトレーナー……!」

 

 いまいち話がわからず、聞いてみると彼女の好きなアニメ『爆走猛姫☆プリンセスファイター』において主人公のウマ娘、プリファイは王子様__もとい伝説のトレーナーが支えている……とのことだ。

 まあよくある子供向け作品のヒロインとヒーローの関係といったところか。

 

「ブレンさんに姫として先を行かれてしまいましたけど、負けてられませんわ! 私も王子様、トレーナーを見つけてみせますわよ!」

 

「ちょっ、ちょっと待ってよ! 担当契約って別にそんなのじゃ……!」

 

「あら、さっきのトレーナーさんなんてブチかっこよかったですのよ!雨の中、一人泣くウマ娘を全力で励まして手を取る……! 完っ璧なシーンですわっ!」

 

 自分の行為を改めて言語化されると、尋常じゃなく恥ずかしいからやめてほしい。

 嘘偽りのない本心だったし後悔もないが、若さゆえの行動としてあまり触らないでもらいたい。

 巻き込まれたドラゴンブレンドも随分と恥ずかしそうだ、こればかりは申し訳ないと思う。

 

「カワカミプリンセス、もうその辺りで勘弁してくれ……」

 

「失礼しましたわ! ブレンさんも落ち着いたみたいですし、私もお暇させていただきますわね」

 

「ああ、色々と手間をかけたね、ありがとう」

 

 キビキビとした動きで一礼すると、カワカミプリンセスがトレーナールームを後にする。

 残されたのは自分と、白い肌を真っ赤にして机に突っ伏すドラゴンブレンドだけだ。

 

「大丈夫か? 改めて担当契約をすることになったわけだし、学校の方に契約書類を出したいんだけど……」

 

「うぅ……大丈夫です……」

 

 顔に赤さを残した彼女がのっそりと起き上がり、差し出した契約書類に記入事項を書き込んでいく。

 カリカリとペンを走らせる音だけが響き渡り、しばらくすれば書類を自分に返してくる。

 

「ありがとう……って、君日本のウマ娘じゃなかったのか!?」

 

「えっ? あっ、はい、出身はアメリカですけど。言ってませんでしたっけ……」

 

「初耳だな……いや大した問題ではないんだけど、全く日本語に違和感がなかったから……」

 

「親戚が日本出身で……よくレースの話を聞いたりしてたので、そのおかげだと思います」

 

「なるほどな。よし、問題はなさそうだ、それじゃあ書類を提出してくる。改めてよろしく頼む、ドラゴンブレンド」

 

 そう言うと、何故か彼女が不満げな表情をする。

 口を少し尖らせ、むすりとした様子だ。

 

「ど、どうした……?」

 

「担当契約、するんですよね。いつまでそうやって呼ぶんですか?」

 

「そうって、ドラゴンブレンド…? それがどうしたんだ……?」

 

「周りの子はブレンって呼んでます、これから僕とトレーナーさんはトウィンクル・シリーズを一緒に走る運命共同体ですから、トレーナーさんもそう呼んでください」

 

「それは……いや、わかった。改めてよろしく頼むよ、ブレン」

 

「はいっ! こちらこそ、期待に応えられるよう頑張ります!」

 

 最初会った時に比べれば、随分と打ち解けてくれるようになった。

 これが彼女の素なのだろう、それを見せてくれる程度には信頼してくれたと考えればとても嬉しいものだ。

 

「今日はレースの疲れもあるだろうし、解散してゆっくり休んでくれ、明日しっかりと今後について相談しよう」

 

「わかりました、じゃあトレーナーさんも、風邪引かないようゆっくり休んでくださいね」

 

「ああ、それもそうだね。それじゃあまた明日」

 

 そう挨拶をして解散し、自分はたづなさんの元に書類を提出しにきたという次第だ。

 書類を受け取ったたづなさんはなぜか随分と楽しそうだ。

 

「どうかしましたか?」

 

「ああいえ、ほんの1週間前に学園に来たトレーナーさんにもう担当ができたということが嬉しいのもありますけれど、噂になっていますよ?」

 

「噂ですか?」

 

「ええ、なんでも選抜レース終わりに、土砂降りの雨と衆人環視の中でウマ娘に告白したトレーナーが居ると……」

 

「ちょっと待ってください!?」

 

 それはいくら何でも誤解だ、そんなことするはずがないだろう。

 女子生徒しかいないトレセン学園、そういった話題が好まれるというのはあるかもしれないが、その噂は些か、いや大分困る。

 それも学園のトップ2に誤解されているとなればなおさらに。

 

「やはり皆さんそういった噂話が好きですからね、もちろん事情はある程度お伺いしてます」

 

「断じてそのような事実はありません!」

 

「ふふふ、わかっていますよ。それでも、きっとドラゴンブレンドさんも嬉しかったと思います。デビューをしても活躍することができず引退してしまうウマ娘はもちろんですが、デビューに至ることなくトレセン学園を去ってしまうウマ娘も居ますから…」

 

 そう言われ、少し浮ついていた気持ちが引き締まる。

 日本国内においてウマ娘は毎年7000人程が生まれており、その多くが競争ウマ娘を志すが、トレセン学園の入学試験を受けれるのは7割程度。

 入学ができたとしても約5%のウマ娘は、体調の問題や実力不足を理由に学園を去っていく。

 トウィンクル・シリーズで一勝をあげるとなれば更に割合は減り、3人に1人程度だ。

 夢に満ちたこのレースの世界は、一方であまりにも残酷な世界でもある。

 

「毎年、様々な理由で学園を去っていくウマ娘を見るのは、とてもつらいものがありますから……ドラゴンブレンドさんがこんなにも熱心なトレーナーさんと出会えたと聞いて、とても嬉しいんです」

 

「……はい、自分にできる全てを尽くして彼女を、GⅠの舞台で勝たせてやるつもりです」

 

「まあ、なんて頼もしい! ぜひ頑張ってください! 応援していますよ!」

 

 嬉しそうな声をあげるたづなさんの激励を受けながら、理事長秘書室を後にする。

 担当契約を結びデビューさせるということは、ブレンの今後の競争生活を委ねてもらうということだ。

 自分を変えるという目標を持って日本までやってきた彼女の未来を、涙で終わらせることはできない。

 

「さあ、これで正真正銘ウマ娘のトレーナーだ……ブレンの願いを叶える為に俺は居るんだ。これから頑張るぞ!」

 

そう自分に喝を入れ直し、明日から始めるブレンのトレーニングプランと目標について思考を巡らせるのだった。

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