ウマ娘プリティーダービー -PRIDE OF DRAGON-   作:狐火(宇迦之御魂)

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ドラゴンブレンドのヒミツ①
実はフィギュアスケートが得意


メイクデビューに向けて

 ドラゴンブレンド、もといブレンと正式なトレーナー契約を結び、今日からはメイクデビューに向けた本格的なトレーニングに着手する。

 とはいえまだ選抜レースの疲れもある、むこう3日程は軽い基礎トレーニングに留めて今後の目標や課題、彼女自身がどうしたいかといった部分についてミーティングを行いたい。

 

「体の調子はどうだ? かなり無茶なレースにはなったから、違和感とかがあればすぐに言ってくれ」

 

「いえ、特に違和感とかはありません。トレーニング、始めましょう」

 

「今日はまだ疲れもあるから強くはやらないで、ミーティングを中心にしようか。軽く流して体をほぐしておいで」

 

「わかりました、行ってきます!」

 

 出会った当初より明るい返事が帰ってくる。

 内向的かつ臆病ではあるが、慣れれば人当たりの良いタイプなのだろう。

 担当との良好な関係は非常に重要だ、彼女自身の理解に今後も努めていこう。

 

 そう思いながらブレンの走りを注視し、彼女の走りを見極める。

 契約前のトレーニング、そして前回の選抜レースを通して見えてきた彼女の課題。

 デビューまでに少しでも良い方向へ持っていきたい。

 その後も負荷は軽めに、レースの疲れを残さないよう細心の注意を払ったトレーニングを行い、ミーティングのためトレーナールームに集まる。

 

「さて、今日のテーマはブレンの課題と、ブレンの目標についてだ」

 

「僕の課題と目標、ですか…」

 

「まずは課題から話そうか、今までの練習とレースを踏まえると君の課題は大きく二つだが……この課題は同時に君の長所でもある」

 

「課題なのに長所?」

 

 まず一つ目、彼女の視野が広すぎることだ。

 一般においてレースにおいて視野を広く持てることは悪いことではない、位置取りやコース展開への対策など、広い視野が無くては有利なレース運びができない。

 しかし彼女に関してはその視野広"すぎる"のだ。感度が高すぎると言い換えてもいいかもしれない。

 様々な外的要因から得られる情報を全て受け取ってしまい、オーバーフローを起こすことでパニックを起こす。

 彼女の過集中状態は無意識的にこの視野を狭め、走ることに必要な部分にだけその優れた感覚を向けている状態だと考えている。

 

 そして二つ目、彼女の臆病さ。

 レース中の恐怖や予想外の事態でパニックになってしまうこと、選抜レースの主たる敗因だ。

 周りの環境に左右されやすいのも、臆病故に周囲を警戒してしまうところがある。

 メンコなどの装身具で、一つ目の課題である感覚部分を鈍らせることで対策も打てるが、彼女の大きな武器を殺すことにもなる。可能な限り採りたくはない手段だ。

 そして自分の考えとしてはパニックにさえならなければいいと考えている。

 大逃げウマ娘のツインターボは、バ群への恐怖を爆発力にあの大逃げを実現していたともいう。

 要は前に逃げる分には全く構わない、仕掛けどころまで恐怖に耐えれるメンタル。恐ろしくてもフォームは崩さない安定した走り。

 これを実現できれば、その臆病さは彼女に新たな加速を与える武器に変えられる。

 

「といった次第だな」

 

「僕のダメなところに、そんな利点があったんですね……」

 

「とはいえ課題を手の内に入れないことには武器にはできない。二つ目に関しては性格の部分で一朝一夕には解決しないし、長い目で見ていこう」

 

 よって、メインで着手するのは一つ目の課題。

 以前から訓練はしていたが、あの過集中状態を自在にコントロールできるようになることが、彼女の走りをより成長させる鍵になる筈だ。

 

「はいトレーナーさん、これからトレーニング頑張ります!」

 

「その意気だ。あとは君がどうしたいかについても聞いておきたい。出たいレースや、なりたい自分の形、なんでもいい。君について教えてくれるか」

 

 彼女の目指す形を知らないことにはレースプランも組み難い。

 中にはレースプランをトレーナーが全て決めるというチームもあるらしいが、それは避けたい。

 自分たちトレーナーが行うのは、彼女たちの願いを叶える手助けだ。

 最後にレース走るのは彼女たちウマ娘であり、少しでも良い未来になるよう助言はしても目指す先はウマ娘自身に選んでほしい。

 

「僕は……やっぱり、強いウマ娘になりたいです。レースに怯える事なんてなくて、僕自身が強いと認められるウマ娘に。それと……こんな臆病な僕でも結果を出せるんだって、他のみんなに伝えられるようになりたいです。トレーナーさんみたいに」

 

 急に振られて少し驚く。

 自分のことで精一杯だったのが外に意識を向け始めたのは、応援あって活動する競争ウマ娘としても、ブレン個人としても好ましい変化だろうか。

 

「そうだな、必ずなろう。強くて、みんなを勇気づけられる、そんなウマ娘に」

 

「はい!」

 

「まず目指すはメイクデビューだけど、これは君が了承してくれるなら、あまり焦りたくはないかな」

 

「それはデビュー時期を遅らせるってこと、ですか?」

 

「ああ、メイクデビュー戦自体は6月頃から始まるけれど、今からだとそこまで期間が無いし。トゥインクル・シリーズの本番ともなれば、メイクデビュー戦だとしても激しさは選抜レースの比じゃない」

 

「あのレースよりも……でも、そうですよね……初めてのレースで、ファンの人もその走りを見てそれからのレースを見るってなると……」

 

「レース場の空気感や、今以上の激しいレース展開の恐怖に君が負けてしまうことだけは避けたい。だからジュニア級のうちはじっくりとデビューの準備に当てて、本格的にオープン戦や重賞レースを狙っていくのはクラシック級から……という風に考えている。君はどうだ?」

 

 この案は必然的に、ジュニア級のうちはドラゴンブレンドというウマ娘が知られることが無くなる。

 来年のクラシック級に向けた重賞レースや、GⅠ朝日杯FS(フューチュリティステークス)阪神JF(ジュベナイルフィリーズ)といったマイルGⅠ、クラシック三冠への名乗り上げとして名高いホープフルステークスといったレースへの挑戦も諦めることになる。

 同期のウマ娘たちが次々とデビューし、今挙げたようなレースで実績を残すウマ娘も出てくる。

 その中でデビューも終えていないという焦りに襲われ、歯痒い思いをさせてしまうかもしれない。

 それでも、彼女の目標が彼女のメンタル面との戦いになる以上長い目で見て、ジュニア級は耐える時期にしたい。

 

「最後の決定は君に委ねる。もちろんジュニア級のうちに多く出走して、勝負感を養うことだって悪くはない。俺は君が望む結果に少しでも近づけるように全力を尽くす」

 

「うーん……少し考えてから、返事してもいいですか?」

 

「もちろん、期間がそこまで無いとはいえ焦って決める必要はないよ。大事な選択だからね、それにどれだけ遅くとも年内にはデビューさせるつもりだ」

 

「わかりました、僕も具体的なレースプランでどうしたいか考えてみます」

 

「どんな選択になろうとも、君のコンディションを見てその都度プランは練り直すから、一緒にやっていこう」

 

 今日のところは決定を後回しにしてミーティングも切り上げる。

 彼女はまだデビューシーズンすら訪れていないウマ娘なのだ、焦って彼女の未来を狭めてしまうのは望むところでは無い。

 

「まだ選抜レースの疲れは残ってるはずだから、寮に戻ってお風呂上がりと寝る前にマッサージを忘れないように」

 

「忘れたりしませんよ、また明日もよろしくお願いしますトレーナーさん」

 

 お疲れ様、と軽く労い栗東寮に帰るブレンを見送る。

 彼女がどんな選択をしても大丈夫なようにいくつかプランを練り直そう。

 出来ることはまだ色々とある。

 

 

「あ、ホークさんも戻ってきてたんだね」

 

「なんだブレンか、あんまり疲労を溜め込むのも非効率的だからな、さっさと切り上げてきた」

 

「そっか、僕もトレーナーさんにまだ選抜レースの疲れが残ってるからしばらくは軽めのトレーニングって言われててね」

 

「話題の新人トレーナーって奴か、随分噂になってんぜ?俺のところにも話がくるくらいだ」

 

「僕もクラスですごい聞かれたよ……みんなが思ってるようなのじゃないっていうのに……」

 

 眼鏡の向こうからケラケラと愉快そうに笑う黒鹿毛のウマ娘、同室のブラストホークは困った様子の僕を見ながらボンと鞄をベッドに投げ捨てる。

 少し当たりのきついところもあるけど、グイグイ来ないで程よい距離感で割と心地よい。

 

「まあいいんじゃねえの? トレーナーが付いてデビューの最低条件は満たしたって訳だ、走ることすらままならねえ時に比べりゃマシだろ」

 

「うん、僕もそう思うよ」

 

 問題はまだまだ山積みだけれど、僕が認められる強いウマ娘になるっていう思いがより固まって、トレーナーさんの期待に応えたい気持ちもある。

 レースは怖くても、挑んでやるんだって勇気が前よりも大きくなった気がする。

 

「付いたのは経験ゼロのトレーナーって話だろ? 大丈夫かよ」

 

「うん、凄く親身になってどうするか一緒に考えてくれて、良いトレーナーさんだと思ってるよ」

 

「へえ、ずいぶん健気なこったな。まあ誰もトレーナーが居ねえよりかはマシか。俺も担当を早いとこ付けねえとな……」

 

 スマホを片手にホークさんはそのままベッドに横になる。

 僕も荷物を片付けて、机に向かい合いトレーナーさんと話していたことについて考える。

 今後のことを考えてデビューを遅らせるか、ジュニア級のうちからレースに挑んでいくか……

 

 今のところは、トレーナーさんの案で行くのが1番いいかと思っている。

 僕がまだまだレースに怯えるような情けないウマ娘というのは、悔しいけど事実だ。

 こんな状態でレースに出て囲まれでもしたら、トレーナーさんの褒めてくれた走りなんて到底できないかもしれない。

 そしてその時に笑われるのは僕だけじゃない、一緒にレースに挑むトレーナーさんもだ。

 それは僕1人でレースに挑む時よりも辛い思いをすると思う。

 だからあと少し、自分に自信を持ってからデビューするのもいいと思った。

 

「ホークさんは、デビューしたらどうしようかとか……考えてる?」

 

「あ? まァ〜そうだな、俺は適性としてはダート寄りだ。重賞も見据えて兎に角場数を踏んでコースを覚えるつもりだな。ダートなら脚への負担も小せえ、故障のリスクも抑えられてある程度の連戦も効くしな」

 

「思ったより考えてた……そっか、なるほどなぁ……」

 

「例のトレーナーさんに何か言われたな? 顔にそう書いてやがる。ウマ娘とトレーナーは一蓮托生とも言うがな、現実としてお前のトレーナーは新人だ。ちゃんと選ぶところは自分で選んどけよ」

 

「もちろん。心配してくれてありがとうホークさん」

 

 そう言うと彼女はつまらなそうに画面に目線を戻す。

 これが彼女なりの心配の仕方なんだということは、そう長くないわけでは無いけど同室として過ごしてわかってきた。

 入学試験の座学ではトップの成績だったって聞くし、きっと僕とは比べ物にならないぐらいいろんな考えを持ってるんだろう。

 トレーナー選びでも色んなトレーナーたちと話し込んでいるのを見たことがある。

 

 思えばここ1週間は色んなことがあった。

 パパとママにレースのこととか、トレーナーさんのこととか、話したいことでいっぱいだ。




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