ウマ娘プリティーダービー -PRIDE OF DRAGON-   作:狐火(宇迦之御魂)

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思わぬ協力者

 ブレンにメイクデビューについてのプランを伝えてから少しして、選抜レースの疲れもそろそろ抜けてきたと判断して様子を見ながらではあるが、トレーニング内容を詰めようとしていた時。

 デビュープランについての返事が帰ってきた。

 

「メイクデビューの時期なんですが、トレーナーさんの提案の通りでお願いします。僕もまだ本番のレースでちゃんと戦える自信は無いですし……トレーナーさんが安心して送り出せるって思えるようになってから、ちゃんと挑みたいです」

 

「わかった、ならそのつもりで今後のトレーニングは進めていく。君の調子次第で時期は前後するかもしれないけれど、慌てることなくしっかり準備していこう」

 

「はい、トレーナーさん」

 

「ひとまずは君の課題二つに関係するところになるが、とにかく誰かと走るということに慣れていきたいな。レース中の集中のしやすさやパニックの防止に確実に効果の出る部分だと思う、いろんな併走相手が欲しいところだな……」

 

「うっ……でも僕、併走誘えるような仲の子居ないですよ……」

 

 少し可哀想だが、正直それは予想していた。

 元が臆病で内向的な彼女だ、周りと打ち解けるのは彼女にとって高いハードルだろう。

 しばらくは知れた仲のカワカミプリンセスを中心に併走相手を頼むことになるか。

 

「貼り紙とかで併走相手の募集でもしてみるか……?」

 

「僕に友達がもっと居ればよかったんですけど……」

 

「併走相手を見つけるのもトレーナーの仕事のうちだよ。君の課題のこともあるし、経験豊富か器用な走りのできる子が付き合ってくれればありがたいけれどね」

 

 デビュー済みの実践経験のあるウマ娘か、レース展開に合わせて動きを変えれるような器用な走りのウマ娘。

 理想としてはそんな相手が居れば1番だが、併走練習であれば互いに身になる相手と走りたいもの。こちらの都合だけでは決められないことだ。

 

「あら?ブレンさんも朝練ですの?」

 

「あっ、カワカミさん、と……」

 

「ちょっとカワカミさん、1人で勝手に行かないでちょうだい!」

 

 できれば人の少ない時間に練習したいということもあり、授業が始まる前に軽く様子を見て、午後のメニューを決めようとしたのだが。

 偶然カワカミプリンセスの朝練の時間と被ったようだ、そして彼女ともう一人のウマ娘。

 軽いウェーブがかかった鹿毛のセミロングをしたウマ娘、自分も幾度となくテレビやレース場で見たことがある。

 かつてGⅠを制覇した名ウマ娘のもとに生まれたウマ娘と、名士と呼ばれたトレーナーの息子が引き継いだチーム《アスケラ》、彼らは二世コンビとして誌面やテレビを沸かしていた。

 だがジュニア級の活躍から一転しクラシック級は低迷、勝ち星には恵まれなかった。

 それでもマイル、ダート、短距離と舞台を変えながらGⅠに挑み続け、10度のGⅠ挑戦の果てに高松宮記念を制した不撓不屈の一流ウマ娘、キングヘイローだ。

 

「すみませんわキングさん! こちら私のクラスメートのドラゴンブレンドさんとそのトレーナーさんですわ!」

 

「は、初めまして……!」

 

「ええ初めまして、そちらのトレーナーもね」

 

「ああ……」

 

 初めて目の前で向き合うGⅠウマ娘、既に最前線からは距離を置いたとはいえ、軽く見ただけでもわかる。

 デビュー前やジュニア級のウマ娘とは比べ物にならない程のオーラと体の作り、いつかブレンが目指すべき場所に居るウマ娘の姿がそこにあった。

 

「私これからキングさんに練習を見てもらえることになっておりますの! 憧れのキングさんに教えてもらえるなんて、嬉し過ぎてテンションぶち上がりですわ!」

 

「朝は少しだけよ? 朝に体力を使い果たして午後の練習が疎かになるなんて一流とは言えないわ」

 

「もちろんわかっておりますわキングさん! そうだ、折角同じ場所に居ることですしブレンさんも一緒に練習しませんこと!?」

 

「えっ、ぼ、僕はその、ありがたい、けど……」

 

 そう言いながらブレンが自分とキングヘイローを交互に見てくる。

 

「もし君が問題ないなら参加させてくれるとありがたい、GⅠを制覇した一流のウマ娘と練習ができるなんてなかなかない経験だしな」

 

「一流たるもの後進の育成だって務めのうち、相手が2人に増えたところで問題なんてないわ! いいわよ、ブレンさんだったかしら? 一緒に見てあげる」

 

「あっ、ありがとうございます……! その、お願いします!」

 

 そうしてドラゴンブレンド、カワカミプリンセス、キングヘイローの3名でのトレーニングが始まった。

 キングヘイローは併走相手や、気付いたことなどを教えてくれるアドバイザーとして練習をみてくれるようだ。

 人とウマ娘では同じ走るといっても適切なフォームも異なり、理論的なところは教えられても、感覚的なところになると経験を積まないと難しいところがある。

 自分に足りないその経験部分をフォローしてくれるというのは正直助かる。

 

「いいバネをしているわね、全身を使って走れている証拠よ。カワカミさんは踏み込みは申し分ないから、接地時間を短く、回転をより早くすれば伸びるんじゃないかしら」

 

 走る2人の様子を確認しながらキングヘイローはその隣を並走している。

 併走ではなく並走だ、それだけ彼女とあの2人には実力差がある。

 全力で並びかけてみたとしても、彼女に勝つことは不可能に近いだろう。

 

 ブレンはそんな彼女に驚きつつも少し悔しそうだ、GⅠウマ娘相手なのだから追いつけなくても当然だ。

 臆病ながら案外と負けん気がある、本人が気付いているかは定かではないが。

 カワカミプリンセスとの併走に慣れてからは、競り合いになった時に抜かせまいとしていることが多い。

 知らない相手にはその負けん気も鳴りを潜めてしまうが……今後に期待といったところか。

 

「ブレン! キングヘイローに気を取られすぎるな! 前方の進路にだけ意識を向けるんだ!」

 

「っっはい!」

 

 必要なことは意識リソースの管理、彼女が気にするべきは自らのコース取りに影響する要素だけだ。

 それ以外の情報は少しでもシャットアウトさせ、彼女本来の走りを出せるようにする。

 そのようにして3、40分ほど練習を行ったところで3人をコース外に戻す。

 

「お疲れ様、カワカミプリンセスとキングヘイローもありがとう」

 

「ありがとう、ございますですわ〜……!」

 

「ありがとうございました……」

 

「もうカワカミさん、途中から飛ばしすぎよ……」

 

 憧れのウマ娘と練習をしているからか、カワカミプリンセスは途中から段々とかかり気味になり疲労困憊といった様子。

 ブレンはそれに着いていこうとしたために少し息が切れている、抑えて足を溜めていく感覚も掴んでいくべきだろう。

 一方のキングヘイローは多少は疲れている様子だが、息の入りが違う。すぐに平常にまで戻している。

 

「ありがとうキングヘイロー、ブレンにもいい経験になった。もしよければまた付き合ってくれると助かるよ」

 

「チームの後輩のこともあるし、それ以外の時間のある時なら構わないわ」

 

「ありがたい、アスケラトレーナーにもよろしく伝えておいてくれ。あと、大きな負荷にはならないだろうが念の為」

 

 渡したのは今行ったトレーニング内容と3人の運動状態をまとめた簡易的なレポート。

 担当トレーナーの目の届かない場所で他のウマ娘と併走して何かあってはいけない、どのような内容か伝えておくのは義務のようなものだろう。

 

「真面目なのね、嫌いじゃないわよ。そういうこまめな姿勢は」

 

「ありがとう、君のようなウマ娘に言ってもらえると嬉しいよ。それにしても、流石一流ウマ娘だな……レース場で見た頃と全く衰えてない」

 

「当たり前でしょう? 一線は退いたとはいえトレーニングを怠るような真似はしないわ。というか、私のレースを観ていたのね」

 

「ああ、言っちゃなんだがトレーナーを志したのは君の高松宮記念がきっかけでね。こうして話せて光栄だ」

 

「そうだったの、私も罪なウマ娘ね。ならあなたも、一流と呼ばれるに相応しいトレーナーを目指すといいわ。さあカワカミさん、私たちも戻って授業の支度をって、こんなところで寝ないでちょうだい!」

 

「はっ!? ね、寝てません! まだ寝てませんわ!」

 

 生で見るキングヘイローは思っていたよりも親しみやすく、苦労人のようだ。

 疲れてうつらうつらとし始めていたカワカミプリンセスを連れ、寮の方へと戻っていく。

 そんな彼女たちを苦笑いしながら見送り、自分もブレンのケアして解散をかけようとする。

 

「どうしたブレン?」

 

「いえなんでも……楽しそうでしたね、トレーナーさん」

 

「ん?ああ、そりゃ遠くから見ていた憧れのGⅠウマ娘が目の前に居るんだ、トレーナーとしてもファンとしても興奮はするさ」

 

「へぇ〜、そうですか……」

 

 ゆったりと荷物をまとめる彼女の言葉には妙にトゲを感じる。

 

「どうした……機嫌悪そうだが……?」

 

「別になんでも無いですけど……トレーナーさん、僕をスカウトした時に言ってたみたいなこと、他の子にも言ったりしてないですよね……」

 

「当たり前だ、だいたい俺の担当は君が初めてだしな。スカウトする相手もいないよ」

 

「そういうことじゃなくて……いえいいです……ありがとうございました……」

 

「?ああ、お疲れ様。また後でな」

 

 なにか言いたそうな表情をしたままその場を立ち去ってしまう。

 俺に不満があるのだろうか……まだ至らない点は多いだろうし、改善するためにも言いたいことがあればすぐに言って欲しいが。

 担当ウマ娘とトレーナーの間の不和により契約解消に至る例は無いわけでもない、そのような事態だけは避けなければいけない。

 彼女にとっては故郷を離れてやってきた異国の地だ、気付かぬうちにストレスを抱えてしまうということもあるかもしれない。

 彼女のリフレッシュになりそうな事も探しておいて損は無さそうだ。

 

 朝からG1ウマ娘と有意義な練習ができたこともあり、いい気分のまま荷物をまとめて、その場を後にするのだった。




いろんな事情抜きにすると実馬はキングヘイローが1番好きです。
プボは有馬勝ちます。
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