Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『子供の抗い』

 

意識が目覚める。

 

 

ーー痛い。

 

小学生の頃、ブランコを漕ぎまくって頂点でジャンプする遊びが流行ってた。俺は見栄っ張りで…小学生の時は、怖いもの知らずだったし。

 

誰も見てくれないから一番大きく漕いで注目されようと、大きくジャンプしたんだ。

 

「ぁ…ぐッ…」

 

痛い。

 

ブランコからは見事大ジャンプ、変わりに全身打撲しながら着地は失敗、親父と母さんに怒られながら色んな所に湿布貼ってもらった。

 

「何が…」

 

「重っ…なん…誰だ…?」

 

痛い、重い。全身に湿布を貼ってもらってから、親父にソファーの上で乗っかられた時と同じ気分。

 

その時と今と、何が違うのか。

 

「暗い…?夕日、まだ降りてる途中の筈じゃ…」

 

何も聞こえない、何も見えない。

 

いや……辛うじて、時間が経ってくると微かに片目だけが見えてくる。

熱くて痛い全身に鞭打って、『やれる事はやる』の言葉を思い出し、いつもの様に立ち上がろうとした。

 

ーー兎にも角にも、この乗っかった重い物体を退けて…。

 

 

「……ぁ?」

 

「ひっ…!?」

 

湧き上がる恐怖心により、乗っかっていたモノを両手で突き飛ばしてしまう。

タンスやロッカー、机か?

そう思っていたスバルの上に…『覆いかぶさっていた』のは…。

 

「アル…!!ご、ぁ…ごめん、ごめんッ!!」

 

突き飛ばしてしまった彼女を両手で包み込もうとしても、足が、手が動かない。

 

ーー痛い。

 

痛みが、ナツキ・スバルの心を磔にする。

 

「なにが…ぁ…ム、ムツキ!カヨコ!!」

 

僅かに開く片目を部屋中に行き渡らせて、便利屋の皆の名前を叫ぶスバル。

 

だが、返事は無い。

 

先程まで戦っていた災厄の狐は何処に行ったのか、この状況は一体何なのか、痛みと恐怖が心を支配するより前に、目の前の命を救おうと這いずっていく。

 

 

「アル!アル…!だいじょうぶか…!?」

 

よく見て見ると、頭の光輪が消えていて、こうなる前に視界に映ったコートは焼け焦げてボロ布になっている。

手探りで生きているかどうかを調べようと、鼻と口元に手を当てて息をしているのかをチェック。

 

「っ、よかった…まだ…」

 

しかし、荒い息だ。腹式呼吸で上下する身体と気絶しながらも震える身体からは重体である事が分かった。

 

持ち上げようと背中に手を回すと、その手が血まみれになる。

 

「ぅ、ちが…クソッ、まだ、まだしんでないなら…ーー」

 

「そこまでだよ、少年」

 

「ーーあ」

 

手の中にあった命を、蹴り飛ばされる。

死にかけだった彼女がモノの様に、遠くへ、遠くへ。

 

「ぉ゛まえッ……」

 

「ふむ、ヘイローを持たないとは真実だったか、あの爆撃でこれ程まで損傷してしまうとは、生憎手持ちは無い、頑張りたまえ」

 

「ぅ…」

 

見えない、開き切らない目と動かない身体を動かし、今行った事を糾弾しようとして…ーー漸く、初めて目に光が入り込む。

 

人工的な光、懐中電灯の様な……。

 

 

「初めまして、黒髪黒目の少年、私の事はプレジデントと呼びたまえ」

 

「ーーかいざー…こーぽれーしょん…!」

 

「そうだとも」

 

呂律が回らない、喉まで焼けてしまった痛みが、今になって感じるようになった全身の痛みが全て恐怖に変換されていく。

それでも確かに見えたのは、大量に武装した機械人間がこの部屋を埋めつくしていること。

 

そして、気絶した便利屋全員を取り囲む機械人間の一人一人に、見覚えのあるロゴが刻まれていたこと。

 

眼前に立つスーツの機械人間はプレジデントと名乗った、つまりカイザーコーポレーションの頂、カイザーの主核がスバルを見下していた。

 

 

「ふむ…航空爆撃により眼は焼かれ、辛うじて右目は微かに見えている、左足は使い物にならず、右足はちぎれ飛んだ……にしては命には届いていないな」

 

「便利屋が庇ったか、ここで死ねば楽に済んだものを」

 

「なん…で……」

 

「我々が任務達成報告の無い社員を無視すると思うか?人員から車まで、カイザーに所属する全てのモノは皆一様に、管理されている」

 

「車のGPSの履歴を確認して来てみれば、こんな最高級のオマケまで付いてくるとは……クックック、やはり私には天運が巡ってきているな」

 

 

また失敗したのか、またナツキ・スバルは失敗したのか。

心の後悔が増えるにつれ、心は命の終わりを望む。

 

何も出来ない男に与えられた切り札、全てを巻き戻せる力があるのだ、ここで死ねば『次』は車を使わずに…ーー。

 

 

「……」

 

そんな下卑た心情も、庇ってくれたアル、助けてくれた便利屋の皆を見て吐き捨てる。

 

ーーまだ死んでない。

 

『死』が遠い、『死』が魂を犯していない。

彼女のお陰でまだ、まだ死んでいないのなら……。

 

 

「まだ…!うごけるッ…!!」

 

「おっと」

 

アドレナリンを全身へ、飛び掛る先はプレジデント…ーー。

 

では無く、足元に落ちていた電源の切れたタブレット。

 

「あろなぁッ!!」

 

「何?っ、それは……シッテムの箱か!?」

 

「声帯認証完了、A.R.O.N.Aです、ご命令を」

 

 

プレジデントがスバルの手を踏みつぶそうと足を上げると同時。

部室の破壊された扉に立っていたカイザーの兵が吹き飛ばされ、獣の様な唸り声と共に激しいショットガンの銃声が部屋に響いた。

 

それに気圧され振り向いたプレジデントの視界に映ったのは、最後に残った便利屋の一人、ハルカだ。

 

「アル様」

 

「………触れるな」

 

「貴様…ーージェネラルは何をしていた!!」

 

「お前らが触れるなぁぁあァ゛ァ゛ァ゛ッ゛ッ!!!゛許さない!!許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない!!!」

 

《プレジデント!!防衛設備全壊!メンバーの1人が……》

 

「全部隊集中砲火!プレジデントに近づけさせるな!!むぉっ!?」

 

 

一瞬の内に部隊がプレジデントの壁となるが、それはスバルと便利屋から目を離さなければいかず、ナツキ・スバルの手元に最大級のチャンスが舞い降りた。

 

「あ、ろな……!どうにか、できるか?」

 

「はい、シッテムの箱残存電力を全て使用し、部屋内に存在する兵の一時的な武装解除が行えます」

 

「やってくれ……たのむ……!!」

 

「ですがそれ以降のナツキ・スバル様の身の安全は保証できません」

 

「いいから!おれのいのちは、どうにでも!!」

 

「……了解致しました、カウントダウン開始、3」

 

「っ、ハルカ!!便利屋を頼むぅッ!!!」

 

 

この銃声と騒乱の中、発狂しているハルカの耳にこの焼けた声が届いたのかは分からない。

それでも、焼けた喉を酷使して血を吐きながらスバルは叫ぶ、せめてこの場でも『やれる事』を、己が藻掻くその全てをハルカへと預けた。

 

「2」

 

それ故かどうかは定かでは無いが……。

 

「1」

 

ーー掛け声に反応して、銃弾を全身に受けながら兵の壁の奥に寝ている3人へと駆け出した。

 

 

「0」

 

 

「ぬぐッ!?O、OSにハッキングだと!?ファイヤーウォール全損……ーー」

 

 

「ハルカ!!」

 

 

微かな彼女からの一瞥を貰い、便利屋の皆を担ぎあげるハルカ。

脱出する先は『外』、落ちれば即死、ビルの破壊されきった窓ガラス側へと走り出し、空を翔る。

 

心配したのもつかの間、下の階から大量にガラスが割れた音が聞こえると思えば、ハルカが持っていたショットガンと己の手を犠牲に、その2つをストッパーとして壁を滑り落ちて行った。

 

 

「それではナツキ・スバル様、『次』をご期待しています」

 

「さようなら」

 

 

アロナのそのセリフと共に、シッテムの箱の電源が落ちる。

電源が落ちるという事は、カイザーの兵の麻痺が解けるという事。

 

 

「…………唯の人間だと思って侮っていた、この世界で唯一シッテムの箱を起動出来る存在であったな、貴様は」

 

「ーーへ、へへ……ざまぁみやがれみそっかす…」

 

「まぁ良い、所詮はガキの戯れだ…貴様は間違えた」

 

「……ぁ?」

 

「何故便利屋を助けた?といっても理由は分かる、お前が子供で愚かだから目の前の事しか頭になかったのだろう?」

 

「貴様は…ーーサンクトゥムタワーを起動すれば良かったものの、貴様の自己満足にも達さない愚かな行動で、より多くの損をする」

 

「あの超人が残した存在がどんなものかと思えば、先も見えぬ子供だったとは……起動権以外は期待外れだ」

 

 

 

 

「だから、こうなる」

 

 

 

ーー地震?

 

 

ナツキ・スバルの身体を襲ったのは、強い地面の揺れ。

地震とも思えるその揺れは、ナツキ・スバルに現実を教える為の鐘の音。

 

次いで訪れるのは、光だ。

 

ハルカを見届ける為、ビルの外側を向いていたスバルの片目に強い強い光が飛び込んでくる。

それは懐中電灯の様な小さな光でも、太陽の様な輝きと温かみある光では無い。

 

キヴォトスの暗闇を切り裂いた光の正体は…。

 

 

「ぅあ…」

 

 

「大陸間巡航ミサイル、ゲマトリアはこの世界に見切りをつけた」

 

 

遠くに見える小さな光の塊は、ゲヘナを蹂躙する爆撃の数々。

 

 

「ぁっ、ぁ、あああああ゛…」

 

 

記憶の中、脳ミソが掻き混ぜられる感覚、ヒナやアコ、セナやゲヘナ学園に訪れた全ての光景が焼け落ちていく。

 

ナツキ・スバルの選択で……全てが。

 

想像したくない、想像も出来ない地獄が頭の中に浮かび上がり、スバルの心をかき混ぜ壊す。

苦しみと痛み、後悔が、返しに行くはずだった銃の重みが心を上から押しつぶす。

 

自分のせいじゃない、自分のせいでは無いと……。

 

 

「対空防衛システムはサンクトゥムタワーの沈黙により機能していない」

 

 

小さく丸まって自分を慰める事だけが、今のナツキ・スバルの全てだった。

 

 

「これからキヴォトスは学園都市では無く企業都市として生まれ変わる、その先触れとしてゲヘナの様な無法地帯は邪魔だ、そして便利屋如きが生き残っても変わらない、言っただろう?愚かだと」

 

「ぷれ……じでんと…」

 

「連邦生徒会長、奴は『早すぎた』、私とてあの能力は買っていたというのに、失踪するとはな」

 

「邪魔者とはいえ1度は金になる話をしてみたかったものだが、奴が消えた結果がコレか」

 

「黎明が始まる、神秘は墜落し、ゲマトリア(不可解な者)は去るのだ、ならばカイザーコーポレーションこそがこの世界を支配するに相応しい」

 

 

プレジデントがわざとらしくスバルがシッテムの箱を握る手を踏み、奪い上げてホコリを払う。

 

「ぐっ…ぁあッ…」

 

「これで貴様に利用価値は無い、存在する意味も無い、思い上がった子供には躾が必要だからな」

 

「『黒服』は興味を示すだろう、奴は有用だ、残ってもらわねば困る…ーー連れて行け」

 

「はっ、了解しました」

 

「カイザー……プレジデント゛…」

 

 

連れていかれるその合間、無機物で感情も無いあの男に向けて最後に吼える事が、本当に最後の足掻きだと分かっていて。

 

静かに眠るその時に備え、先に言葉を残す。

 

 

「必ず、俺は……何度繰り返しても…!」

 

「全員、救ってやる」

 

「……」

 

「早く連れていけ、負け犬の遠吠えは聞くに耐えん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー意識が覚める。

 

 

痛い。

 

 

痛い時は、親父が、母さんが助けてくれた。

 

 

「クックック…ククッ、なるほど」

 

 

誰の笑い声なんだろう、少し、不気味に感じる。

 

 

「本人の意思に準ずると、やはりシッテムの箱は『ナツキ・スバル』の為に調整されたのでしょうか?」

 

 

「クッ、クククッ…実に興味深いですが……ーーお目覚めの様ですね」

 

 

「…………ーー」

 

 

声が出ない、誰であるのかを問い掛けるのも、今どんな状況であるのかを聞こうとするのも駄目だった。

 

そして、目も見えない。

 

 

「この様な場で申し訳ありませんが、自己紹介をしておきましょう」

 

 

「ゲマトリアに所属する黒服と申します、鼓膜は貼り替えておいたのでしっかりと聞こえる筈ですが…聞こえていれば、反応を頂けますか?」

 

 

なんと有難い事に、ずっと半端に聞こえていた音がよく聞こえるようになっている。

返事代わりに、右手を上げようとして……。

 

 

「……ーー?」

 

 

「クックック、ありがとうございます」

 

 

「…」

 

 

ーー右腕の感覚が、無い。

 

 

「貴方がここへ連れてこられた時には、既に左足と右腕が壊死していましたので、このままでは命に関わると仕方なく切除させて頂きました」

 

 

そうだったのか、だからあの痛みが消えて……。

 

あれ?ならば何故だろう?何故『痛い』が全身に増えているんだろうか?

 

痛い?いや、寒い。冷たい、まるで身体の中にエアコンを取り付けたように感じる。

 

 

「おっと、安静に」

 

「今、貴方の中を開いている所なので」

 

「……ーー?」

 

「…ーー」

 

「…??」

 

冷たい。寒い。何故だろう。

 

原因が分からないまま、ナツキ・スバルは死んでいく。

 

 

「テセウスの船……ーー我々でもシッテムの箱を扱う為に、貴方を使わさせて頂いています、クッ、クックック…まだこの様な興味深い繋がりを持ったモノがキヴォトスにあるとは」

 

 

何を言っているのかも分からない。

 

でも、寒い事だけは分かる。

 

なぶられている、ねぶられている、開かれている、愛おしまれている、黒服と名乗った男の手が、自らの身体に入り込んでくる。

痛みが、後悔が、悲しみが、ただただ真冬の海の様な冷たさに塗り潰される。

 

ーー寒い。

 

目も見えない漆黒の世界で、いつ寒さが終わるのかわからない世界で、スバルの空虚となった心を支配するのは……。

 

死んでいく身体が、死んでいく魂が、いつ『死』に辿り着くのかだった。

 

「それでは、摘出にかかりますね」

 

いつ死ぬ?まだ生きているのか?死んでいるんじゃないのか?痛い、痛いということはまだ死んでないという事か?

痛い痛い痛い痛い痛い、何かが、己の大切な何かが己の身体から離れていくのを感じる。

 

心臓が鼓動していれば生きているというのか?こんな空っぽで、何も無くなっていく身体で生きていると言えるのだろうか?生死を人に握られて、誰かも知らないのに弄り回されて生きていると呼べるのか?

生死ってなんだ死ぬってどうして恐いんだ??

 

 

ーー俺の今までに、意味はあったのか?

 

 

産まれて、小学校中学校高校頑張って、親に顔向けしたくて、ここに来て、皆に恩返しをしたくて、頑張って、便利屋を助けようとして、頑張って。

 

寒い、寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い。

 

とめどなく押し寄せてくる、寒さ。

あぁ、死ぬのだと。『死』が近づいてきているのだと。

そうだ、本当の『死』はこれだった事を思い出して、死ぬ事に対する拒絶を表す心を、恐怖の手が握り潰す。

 

 

近付いてくる、ーー怖い。近付いてくる、近付いてくる、ーー怖い。怖い、怖い怖い怖い、死ぬ、魂に近付いてくる、死が近付いてくる。

 

 

ナツキ・スバルの脳の中を、恐怖が埋めつくした時。

 

 

 

 

 

あ、死んだ。

 

 

 

 

そんな感慨を最期に、ナツキ・スバルの命はあっけなく消費された。

 

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