Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『ロマンティック・ラブ』

 

──進んだ針は戻らない。

 

例え、

淡い携帯画面の上の数字を巻き戻したとして。

例えば、

部屋の中の時計の針を指で動かしたとして。

例えるとするなら、

一秒おきに鼓動する心臓の動作を緩めたとして。

 

時間の針は戻らない。

例えそれが、世界中の全ての針を戻したとしても、針は決して戻ってはいない。

ただ、自分以外の針が戻っている事に気がついていないだけ。

 

《────》

 

深い眠りにつき、手に入れた安息と日常を謳歌する少年の、目覚まし時計の針を丸一日巻き戻してはどうだろうか。それか、進めてみるか。

 

目覚まし時計だけじゃなく、この世の目に映る時間を示すモノ、それらを自由自在に操作出来るとして、少年が安心の中眠る為に針を動かせるのか。

 

《─────》

 

それが徒労であると知る頃には、全てが無意味になってしまう。

 

例え、『すぐ起きるからぁ……』と言われモーニングコールを止めたとして。

例えば、『起きる……』と言われて目覚ましのタイマーをストップさせたとして。

例えるなら、既に予定された招集時間を過ぎても眠りこける主を目の前にしたとして。

 

全ての行いは、徒労だったのだろうか?

起こす努力を、否定されるべきなのか?

 

《すぅ……》

 

否。

それらが意味を失う事は無い、針は常に動き続けているからこそ、その行いが針に刻む全てが意味のある事なのだ。

 

《起きて下さいッ───!!スバル様っ!!!!》

 

「どわぁぁぁぁ───!?!?」

 

《ね!ぼ!う!で!ご!ざ!い!ま!す!!》

 

「うぉわぅわわわあわわわわわ!?」

 

《あと!1度だけ!と申してから!!一時間が!!過ぎました!!!》

 

《私営プールでの現地集合、既に遅れる事を想定して連絡は取っています。着替え歯磨きはお手隙のセナ様に行って頂きました》

 

《───起きて、頂けますか?》

 

「ひゃ、ひゃい……」

 

漸く──少年、ナツキ・スバルの身体がベッドから離れてくれた。

目を擦り、定まらない視界にうつらうつらとしながら言われた言葉を反復する。

 

私営プール、寝坊、一時間。

三つの単語がスバルの頭の中で何度も走り回っては、チラチラとこちらを覗いてまた走り出す。

 

「…………」

 

何度も何度も、子供のように走ってはコケ走ってはコケ、何度目かの辺りで水を一杯、潤いを喉に補給してみると、くぐもった思考がクリーンになってきた。

そう、クリーンになって───、

 

「遅刻じゃん───!??」

 

自分の大バカマヌケ具合に、目ん玉が飛び出そうになるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい」

 

《…………》

 

「ご、ごめんねアロナたん!」

 

スバルは絶賛、己のしでかした過ちを悔いていた。残念ながら、時計の針が戻らないということはやらかしも消えることは無い。ただリカバリーをしているに過ぎず、だからこそ、

 

《私は構いませんが、アビドスの皆様がどう思うかは…私の預かり知る所ではございませんので》

 

「ひぃん…。なんで俺って奴は…大切な時に限って毎回こう…情けねぇんだ…」

 

《この頃はしっかりとした安眠を取れていた証拠です。寝入りが深くなるのも仕方の無い事かと》

 

「そこはフォローしてくれんのね……ありがとアロナたん…」

 

──助けて貰っている自覚をしておかなくては。

自動操縦のこの車も、みんなへのメールも、アロナが居なければ何も成しえていない。

 

とするなら、もしナツキ・スバル(アロナ抜き)の場合、ナツキ・スバル(アロナ有り)とは結果が大きく違っていて、みんなを待ちぼうけにさせ悲しませているのだ。

 

「なんか、身体治ってからの方がやらかし増えてる気がする」

 

「……けれど!漢ナツキ・スバル、人生の水着デート童帝を捨てれるというのならば!──恥を忍んで頭を下げさせて頂く!!」

 

《スバル様、今の内に皆様の水着へのご感想を考えておく事を提案します》

 

「ろくに女子と触れ合ってこなかった引きこもりが、どれだけやれんのかって話だよな。俺の対人能力は人数分下がっていくが……」

 

「──五人なら、まだ対応できる…!」

 

───。

俗に、語るに落ちるという言葉がある。

後は、策士策に溺れるだとか。

とにかく自分の放った言葉に首を絞められる、そういった事態を表すものなのだが。

 

「───」

 

「パヒャヒャ!なんて顔してるのさ、スバルお兄さん?」

 

「クフフ〜。ま・さ・か、たった六人でプール貸し切りなんて…贅沢な事見逃すと思った〜?」

 

「はひゅっ」

 

「おにーさん、元気になって良かったー。でもさっきから変な声出してどうしたのー?」

 

「おぴょっ───」

 

普通の男子高校生には、この圧倒的な肌色の暴力を受け流す術を持っている筈がなく。悲しくも、視界を占有する水着の数々に喉から空気を締め出した変な音を鳴らす他無かった。

 

スバルの職場復帰の為のリハビリとして選ばれた、ホシノ達とのプールデート。

まだ彼女らだけなら良かったんだ、まだ五人分の可憐さなら受け止められる、けれどこれは───最早許容量1000%オーバー。

 

「わー、顔真っ赤〜」

 

「スバルきゅん、こういうの慣れてないんだ〜?」

 

「パヒャヒャ、私達のでそんなコウフンしてたら…この後持たないよ?」

 

「っす、うっす」

 

「ラッシュガードの下のお腹のおへそ、見たかったけど…隠してるって事は…もしかしてその下『見せられない』?」

 

「あ、あっはい」

 

「オケオケ!それじゃ本命の所に案内してあげるね〜♥」

 

──いや、既に貴方達が大本命です。

沸騰して煮立った脳みそを使って、そんな気の利いたセリフをスバルが吐けるならどれだけ良かったか。

 

これが所謂脳破壊という奴なのか?違うか、いや違わない、既にスバルの脳みそは普段我が子のように思っていた相手の水着姿でボコボコのボコにされてしまっている。

 

「───」

 

紅潮を押しとどめるので精一杯、恥ずかしがる顔を収めるので精一……収めきれてないし。

 

「そんなにお顔ガチガチじゃ、あの子達の事ちゃんと褒められないよ、スバルきゅん?そんなに緊張する程の事かなぁ〜」

 

「なんというか、普通もっとフリフリした可愛らしいものを着てくると思うだろ、どうしてビキニ風味なんだ、というかムツキに至っては黒ビキニじゃねぇか。ここプール、ビーチじゃないです」

 

「え〜、私達、文句は求めて無いけど♥?」

 

「ぐっ………皆さんお綺麗です……ね…。蠱惑的で、物凄く……好みです……」

 

「ヒカリ可愛いー?」

 

「世界一可愛い」

 

「もう世界一を使っちゃったら、この後お兄さんの世界一がどんどん増えていっちゃうと思うよ」

 

仕方ない、その点を責められたらスバルは自刃する他無し。

みんな世界一可愛いじゃダメなのか?ダメか、なるほどアロナが考えとけって言ってたのは確かにそうだ。

 

これでは、これでは───言葉を堪えきるなんて不可能だ。考え無しに思い付いた言葉を投げかけては、どんな失言をする事やら。

 

何故にこうもみんな魅力的で、言葉を尽くしても足りない良さしかないのか、一ミリだって投げる言葉が足りているとは思えない。

 

助けてくれ、と。一度も直面した事の無い未曾有の危機の中、瞳へ刻み込まれる水着姿をこの先一生刻んだままにしておく為、スバルの目はシャッターの如くパチパチと開閉を繰り返す。

 

「だぁぁぁ!!可愛いが溢れ過ぎててもう無理!早く案内してぇ!!?」

 

「仕方ないな〜♥社長〜!みんなのこと呼べる〜?」

 

「─────」

 

ああ、その瞬間が来てしまう。

スバルの失われた青春を満たすものが、満たす所か器をぶっ壊す勢いで流れ込んで来るものが。

 

ブランコの件で女子に嫌われてからというものの、スバルの人生において『女子』とは未知の開拓分野、選んできた道の中で絶対選ばれることの無い『サボり』の部分。

 

チンチンたらたら生きてきた男が、口先だけでこの佳境を乗り越えることが出来るのか、否か。

 

どう褒めたらいい、どうやって堪えればいい。

というかデートも人生初なのに、人生初デートがプールデートなのは何かの嫌がらせか?

神の嫌がらせだとするのなら───まずは、ありがとうございます。そして殴らせろ。

 

「─────」

 

耐えろ、耐えてくれ。

ここを耐えても何も進展しないし、多分その後に待ち構えているプール入水の方が絶望的かも知れないけれど、それでも───!!

 

「ここで耐えなきゃ!!漢じゃ───」

 

「ん、遅かったねスバル。寝坊?」

 

「─────」

 

「スバル?」

 

意識は遠く、空の太陽の麦畑へ。

柔らかな光に包まれ消え失せそうな意識は、雑草根性虚しく段々と透明感を増している。

 

後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた、水滴の音もだ。振り返ると、シロコの姿が───ぴっちりとしたスポーツ用水着の隙間から水を排している所を見るに、先程まで泳いでいたようだ。

 

「………スバル?」

 

信じていいのか、これが現実だと。

信じていいのか、これが歩き続けてきた褒美なのだと。

 

こんなにもロマンチックな物語があって良いのか───?

 

「──────」

 

「……水着、どう?」

 

「──凄く、綺麗だ」

 

「……ん」

 

堪える必要なんてのは結局無くて、本当に口にしたい言葉なんてのは、自然に出てくる。

やらない事の多かった人生で、こんなにも美しくて綺麗なものを見れたのだから正直な所───。

 

「よく似合ってる、宇宙一」

 

「カッコイイし、可愛い。全部の要素が天使みたいに儚い、シロコが何したって許せるよ」

 

「ん」

 

もう、何を言っても許して欲しいと思うのであった。

死ぬほど可愛い上目遣いで、ずい、と顔を近づけられて、身体が触れ合う後数ミリで、スバルは、

 

「スバル──!」

 

「遅かったね、おじさんちょっとヒヤヒヤしちゃった」

 

「そうよ!時間厳守だって胸張ってたのはアンタよ!?」

 

「けど、寝坊する気持ちも分かります……私もドキドキして寝られなかったですし…」

 

「ナツキさんも、もしかして私達の水着を想像してドキドキしてたんじゃないですか☆」

 

世界で一番、宇宙で一番幸せな男になったのだから。

もう、何があっても許されて欲しいと、ただひたすらに願うしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───肌の下に刻まれた無数のおびただしい傷を隠し、腕にケロイドの様に張り付いた戦いの跡に塩素の波が押し寄せる。

 

肺に空気を貯め、脱力し、浮かぶ。

みんなの笑顔を空に描きながら、手足を重力という枷から解放し、目をつぶった。

 

「……」

 

精魂付き果てた様子で、波打ち際に漂流したクラゲの気分へと。

口先だけの男から口先を取り上げ、本音を絞り尽くす、そんな事をすればこうなるのは当然。

 

正直、スバルはみんなの事を年相応に見れていなかった。学生服の状態ではどうにも、アニメの中から飛び出してきた年齢不詳の美少女達にしか見えず、現実感が無い。

それも今は、現実感マシマシになって襲いかかってきたものだから、ギャップも相まって心停止寸前だ。

 

「……」

 

セリカとアヤネが初恋奪いマシーンと化したのも、弱っちい心臓に悪すぎる。スバルが幼い頃私営プールであの二人に出会っていたら、一生その心を掴んで離さなかったと思う。

 

暴力的な肉感程、頭が悪くなるものは無い。

流されるままに流されていたら、いつのまにかクラゲになっていたワケで、

 

「……」

 

───逆に死ぬほど冷静になってしまう。

摩訶不思議、幸せしかない空間で意識が漂い、現実感の薄さから自分の存在すらあやふやになる中で、冷静に冷静に……どうしてこうなったのかを考える。

 

何も分からないまま転移して、何も分からないまま奔走して、何も分からないまま連邦生徒会長の遺書に振り回されて。

 

した事と言えば、所詮死に戻りを繰り返しただけなのに。こんなにも幸福でいていいのか───?

ああ、多分恐らく、別にいい。スバルが感じている幸福は、過去に味わった人間が何万何億と居る人間の、当たり前の幸福。

 

「……」

 

いや……冷静になるなよ。

ここで馬鹿になれない人間の方が、圧倒的に馬鹿だ。勿体ない、遊ぶべき場所で大人ぶって普段子供で居る事になんの意味がある。

夢の中でナツキ・スバルが大人しかった事があるか?無茶無謀の冒険に踏み出した筈だ、こんな思考を放棄した微生物なんかになっちゃいない。

スバルのあの空回りばかりの態度と、恥ずかしがった声に微笑まれて心を摘まれたからといって、スバルを愛してくれる複数人にコレでは誠実さが欠けている。

 

「……」

 

───『スバルの事、好きだよ。みんなの前でも……言い続けるから』

 

「俺って……ほんとクズ野郎だな……」

 

「信念持てよ。ぐらぐらでブレブレじゃんか」

 

「クソっ、クッソ……──可愛いすぎんだよ…!!」

 

死に戻りと、恋心の板挟み。

応えないとは言った、応えられない、拒絶するって。だとしてもスバルだって我慢してる、爆発しそうな想いを抑え込むのに必死で泣きそうになる。

どうして我慢する必要があるんだ、素直になれば───なれる訳無い、何千回自問自答したんだ身勝手野郎。

 

「うぐっ……」

 

滝のように流れる涙を、そのままプールへと流し込む。

この幸せも苦難も、何度でも味わえるものなのだろうか。身体が治ればスバルは連邦生徒会へ帰る、そこでリンちゃんとシャーレの活動をする。

 

何をするのかは詳しく知らない、アロナ曰くシャーレの特権を活かして各地の自治区、そこの問題を解決する何でも屋になるらしい。おお、似合ってるじゃないか、結局足掻きまくって人を助けようとする事しか出来ない自分にはお似合いだ。

 

「……」

 

何だってやってやるよ、世界の危機を救ったんだ。もう怖いものなんて何一つ無い。

書類と向き合ったりするのはお断りだが、人と向き合う事に関しては磨かれてる、大丈夫だこれからも上手く───。

 

「───ぁ」

 

……これから、がある。

そうだ、まだこれからだ。スバルはいつか、日本に帰る。帰って、帰れれば、あれ───帰っていいのか?

 

「…………」

 

「…スバル、酷い顔だね」

 

頭がコツン、と、プールの端にぶつかった、漂ってる間に終点へ着いたようだ。

隣から声が聞こえたかと、首を動かさずほのかに視線をそちらへ向ければ、同じくクラゲの様に脱力したシロコが居る。

 

「でとっくす中……」

 

「デトックス?」

 

「顔から、老廃物を流してんの」

 

「ふふっ……そっか」

 

虚ろな目をして、虚ろな顔をして、涙と鼻水を垂れ流す高校生なんて見てられないだろうに。

情緒不安定様々だ、みんなの水着姿でぶっ壊れてブレーキが無くなって、スバルから垂れ流るものから加減を奪う。

 

好き過ぎる、愛おし過ぎる、見れば見る程好きになっておかしくなる、おかしくなるから、こうなってる。

 

「……今まで、不幸がスバルを支えてたんだね」

 

「そぅか……?」

 

「ん」

 

「そっか……」

 

「ん」

 

そうかもな。幸せになればなるほど不安になるってことは、不幸であればあるほど安心出来るって事だし。

───そうか、これが普通の青春か。

 

「────」

 

「─────」

 

傍まで近づいた水音に、耳を傾ける。

シロコが横を振り向いて、スバルの顔に近づいてきているのか。頬に見覚えのある柔らかさを感じて、ぺろり、とスバルの老廃物が舐め取られた音がした。

 

「────……」

 

理性が壊れそうな感情の濁流が襲いかかる頭の中で、すべき行動は一つだけだと示しているかのように、身体が動き始める。

そして、シロコの頬に───チークキスをして、

 

「もしかして、愛の告白?」

 

「……丁重にお断りするって意味の返しだよ」

 

「ん───良かった。それならまた、何度でも告白出来る」

 

「めげねぇなぁ…………」

 

ゼロから始める青春の中に、彼女との思い出がまた一ページ、綴られていく。

失われていた青春を、これから歩いていく時間を、スバルとみんなの足跡を、残していく。

この乾ききった砂漠の中心で───もう一度、始まるんだ。

 





オラァ!ハッピーエンドだ!!キスしときゃハッピーなエンドになるんだよぉ!!!今後の活動示唆!?ちょい盛りでヨシっ!!!!!
ここが実質的な2章のエンディングです、モノローグは2人の水着姿共にジ・エンドってね!!
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