Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

102 / 134
『大人らしさを大人らしく子供なりに』

 

──スバルの無念を表すかのような曇天の空模様は、今日いっぱい晴れることが無いらしい。

 

シャーレの部室で寝転がりながら、キヴォトスに来て初めての私室、パーソナルスペースに腰を落ち着ける。

昨日の行動で悪い方向の有名人となってしまったスバルにとって、外で出歩く為の顔は汚されており、再びアコに怒りの念を向けた。

 

『流石に…私が悪かったです。それに───貴方の覚悟は伝わりました、ヒナ委員長の正式な犬として認めてあげます…!』

 

そんな認定要らねーよ、多分ヒナの方が拒否するよ。なんてツッコミをする暇も無く、罰として原稿用紙2000枚分の反省文を書かされていたアコはスバルへ、

 

『その……命令権、まだ消化されてませんからねっ…』

 

──もうツッコミきれないセリフを残し、紙束の海へと沈んでいった。

理解の道は遠い、気質は猫っぽいかと思いきやその忠誠心や立ち振る舞いは、どちらかというと犬だ。

ご主人様であるヒナに喜んでもらうため、道化も智者も同時にこなすアホ。それがスバル評のアコなのだが、あのバカチチにこんな冷静な分析が必要なのかと問われれば疑問が残る。

 

「帰るに帰れなくなっちまったし」

 

昨日はあの後、スバルはアビドスに帰るつもりだった。

『会いたかったぜハニー達!久しぶり!』『まだ一日も経ってないよも〜』なんてコテッコテの展開をする予定が、ネットニュースになった後の複数人からの鬼電に、スバルは携帯をスっと枕の下に隠した。

 

一応、本当に一応事情はメールで送り、5W1Hに当てはまるよう出来るだけ納得のいく説明をした筈。

 

「……」

 

した筈、した。だからって許されるかどうかは別の話。

アロナを怒らせ、シロコをキレさせ、ホシノに戦闘準備をさせてしまった軽率な行動の結果は、スバルの部室軟禁という代償を払う事になり、

 

「────」

 

最も額に怒りマークを浮かび上がらせたリンちゃんの手で、スバルはひたすらに書類と向き合う紙処理マシーンとなってしまう。

 

──何という事だ、超人の後釜が単なる変態だったとは!

そんなイメージを持たれたかと思うと、胸を張ってこれから外も歩けない。今日する事と言えばネットサーフィンぐらいで、スバルの以前の生活が戻ってきた感じがした。

 

「あんまり…話題にはなってない…。川流シノン、だっけか。アイツとはいつかちゃーーーんとお話ししねぇとなぁ…!」

 

《スバル様の自己責任です、軽率な行動はお控え下さい》

 

耳が痛すぎる言葉を受け、バタンとソファーで横になる。

やはり一人でいると何をしでかすか分からないものだ、あの時の自分はアコのせいで冷静じゃなかった。

いや、冷静だとしてもイオリの足は舐めたかもしれない。あの素晴らしい褐色の宝石を前にしては理性等塵芥。

 

しかしこれから求められるのは────そんなスバルの塵芥以下の理性である。

 

「当番制、ね」

 

笑みを浮かべようとしたはずが、作られたのは苦笑。

何故ならば、スバルの活動を補佐すると題して行う事になる『当番制』は他自治区の生徒を呼び寄せる代物だからだ。

 

思い返せば当初、連邦生徒会長とやらの遺言でシャーレ部長になった自分の特権階級具合を自覚したのはヒナとの会話。

連邦捜査部S.C.H.A.L.Eそのものが、連邦生徒会長の狂気とも言える尽力で結成された超越的な権限を持つ組織である事は知っている。

 

「このビル一棟丸ごと俺のモノです!なんて、親父に話したら肝がヒエヒエになるだろ。目を離した隙に息子が異世界で貢がれるとか健全じゃねぇし!」

 

今やスバルもビル一棟を有するオーナーだ。

一人で住むにはデカすぎる住所を持て余し、有効活用出来てない悲しみは置いておいて、ビル一棟だけならまだいいと言える程の権力を、こんな人間が持ってしまったのが大間違い。

 

他者が利用するに値する、いや万人が利用する為に血眼になるシャーレの権力。

スバルが『当番制』とやらに苦笑を浮かべてしまうのは、自分がこんな事が出来てしまうと、気づいてしまうのが嫌だから。

 

人間、欲望のストッパーには理性が使われている。だが、理性は『出来てしまう事』の前にはいとも容易く崩壊するんだ。

ホシノといい、死に戻りといい、強大な力や何でもできる能力は、理性のラインを大きく引き下げる。

例えば───FPSバトルロワイヤルゲームで一位になれれば願いを叶えられると全世界に放送されたとして、その世界では一位になる為に流れる血の、なんと多い事か。

 

「普通の奴が来て欲しいけど、この状況で普通な奴の方が怖ぇ…!俺の人生の経験上、見て分かるヤバい奴より見て分からないヤバい奴の方がヤバさ具合が段違いだし」

 

今日のスバルの試練は、その当番制に自己申告で参加を申し出た生徒との顔合わせだ。

目に見える地雷に突っ込んでくる生徒は、地雷を踏んでも大丈夫な存在なのか、それとも知らず知らずに権力へ目が眩んでしまっているのか。

 

スバルとしても、仲の深まっていない人間と新鮮な気持ちでの対話だ。何処まで踏み込んで会話すればいいのかは悩みどころ。

 

《スバル様、予定時間となりました》

 

「ひぃん…声が冷たい…。予定時間ですねハイハイ、ちゃんとデスクには向き合っとくか…」

 

《私の案内で部室へと足を運んで頂きます。鏡の前で身なりの最終確認をしましょう、スバル様》

 

「了解!───ついぞ見る事は叶わないと思っていた俺のカッターシャツ姿、一発目はビシッと決めてこそ箔がある!」

 

当番制にフルアーマーを着込み、ドシンドシンと足音を踏み鳴らして襲撃しそうな何処ぞの最強は、スバルからアビドスに足を運ぶから最初の内は他の人間に譲って欲しいと、釘を刺しておいたが……まぁ、大丈夫だと思いたい。

 

「……気っ恥ずかっしいっ〜〜〜」

 

「意外と似合ってんじゃん、大人っぽさが増したか?なんつーか、普通の社会人っぽい感じだ」

 

「コスプレ感も無し、襟整えてる、ベルトもちゃんと締めたし」

 

「うん。完璧」

 

──傷跡以外は、綺麗なもんだ。

どうにも列車砲での火傷跡は治せなかった、目つきの悪さも相まって……ヤカラにしか見えない。ジクジクと皮膚の下には、未だ熱を感じていた。

 

「んじゃ、ご対面とするか!さてさて、どんな生徒が……」

 

《ス、スバル様…!階下にて、少し制御不可な事態になってしまいました…!!》

 

「いきなりハプニング!?せ、制御不可の事態って何!?アロナたんの本体がどうしようもないんじゃ俺何にもできないよ!?」

 

《スバル様しか収められません!どうかお願いします!》

 

「ぐぅっ、分かった!で、一体何が起きてんの……!?」

 

《──本日の当番である早瀬ユウカさんが、シロコさんとノゾミさん、ヒカリさんに襲われています!》

 

「────────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三人、正座」

 

「ん……」

 

「えー」

 

「いいじゃん約束あるんだし…」

 

「正座」

 

「……」

 

「どうして正座させられてるか、皆さん分かりますか」

 

「「「分からない」」」

 

「───皆さんが!今日の当番に志望してくれた早瀬さんに!!迷惑をお掛けしているからです!!!」

 

そんなひょいひょい足を運べる距離でも無いのに、スバルの目には見知った顔が三つ並んでいて、困り顔をした早瀬ユウカの前でスバルは頭を下げさせる事しか出来なかった。

 

どうやら三人とも、当番関係無しにシャーレへと足を運び……そして当番としてやってきた早瀬ユウカと諸々の話が合わず、侵入者だと思った彼女と口論になったらしい。

 

『スバルに逢いに来た』

 

『逢いに…なら、貴方も当番で…?』

 

『ん?違う、でも私はスバルに会うのに事情はいらない』

 

『……??』

 

───本当に。本当に申し訳ございません。

頭を下げたスバルへ、寛大な心を以て赦しを与えてくれた彼女には、温情の暖かさで涙がこぼれそうになったものだ。

 

「シロコもヒカリもノゾミも、ちゃんと順番通り待ってくれたら俺が会いに行くから!今日はユウカさんの番なの、守って下さい!おっけー!?」

 

「ん………………」

 

「分かってないなぁお兄さんは、私らがお兄さんの所に邪魔しに行くのがいいのにさ」

 

「そうそうー。遊ぼー?」

 

「今日は!ユウカさんの!番です!!……寂しかったら相手するけどさ、当番の子の邪魔は駄目、分かった?」

 

三人が頭を縦に……渋々振ったのを見て、両腕組みを終了させる。

今日の担当である彼女がマトモな人間でなければ、もっと面倒な事になっていたかもしれないのだ。

生徒は、生徒の手の届かない所を想像する能力が欠けていることがある。

自らの行動が想定外の結果を産んだとして、間違いはある事だから…スバルは皆の責任を背負いに行くだろう。

 

だとしても、そこで生まれた不和や損害が無くなる訳ではない。それが皆の不幸にならないように、強めに叱っておく必要がある。

 

「ありがとな、ユウカ。初手で来てくれたのが君で良かった、この三人も悪気があった訳じゃないから……そこら辺は飲み込んで欲しい、頼む」

 

「飲み込んで欲しいって…そこまでの事じゃないので大丈夫です。これぐらいの問題行動ならミレニアムでもよくありますので…」

 

「よくあるないの話じゃない、迷惑かけられたなら、それは嫌な思いをしたって事。ユウカがそんな気分になったってなら、ちゃんと三人に謝ってもらわないとだ」

 

「─────」

 

「ふふっ、本当に大丈夫ですよ。謝って貰う必要はありません、それより、安心出来ましたし」

 

「安心?」

 

「ネットで悪質なデマが流れているのをご存知では無かったんですか?ナツキさんがゲヘナの生徒に、変態的な行為を行ったという……」

 

「ぅ──────」

 

「…ナツキさん?」

 

「……アレは」

 

「アレは……本当です……」

 

「……え?」

 

 

──人を叱るとはつまり、人に叱られる覚悟を持つことである。

責任についてうんぬんかんぬん話すのなら、自身の行動の責任にも、向き合わなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

──早瀬ユウカ。

ミレニアムサイエンススクールの生徒であり、生徒会である『セミナー』所属の会計士。

そしてミレニアムサイエンススクールとは、キヴォトスでも科学技術、所謂理数系を専門とする高校。

 

「文字ばかりの書類を見る時は、各要素を切り取って受け取るといいんです。数字とグラフが関わってきても同じく、何処と何処の要素が関わりがあるのかを因数分解して読み解く」

 

なるほど、これは完璧な人選だ。とスバルは説明に首を振った。

書類に向き合うのが嫌なら、書類に向き合わさせてくれる相手が最適、リンちゃんの目論見通りスバルは淡々と未解読文字と面を合わせていた。

 

「大変そ〜」

 

「大変そうだねー」

 

「手伝おっか?」

 

「余裕余裕、ちゃんと見守っといて」

 

結局居座る事を許した三人の声援を受け、唇を噛み締めながら目を開き続ける。

口調と顔つきこそ余裕さを装っているが、中身は必死。この程度も分からないのか───そんな軽蔑を受けない為に、脳内は逃避行を始めようとしているのを押さえ付ける。

そんなこんなで小一、二時間、ソファーでくつろぐヒカリとノゾミが、チラチラと時計を気にし始めた頃に、スバルの頭も限界が訪れようとしていた。

 

「ふぃー……」

 

《お茶休憩等はいかがですか?》

 

「お願い、ちょっと雑談休憩と行こうぜ…?俺の脳みそがレンチンされる前に」

 

「うん……リン行政官に頼まれた分は終わってる…。まぁ文句言われないわよね…?」

 

「やっぱリンちゃんの計らいだったか、どうしても俺に丸メガネを付けさせたいらしいな…!」

 

「仕方ありませんよ、連邦生徒会長が居ない間に滞っていた事案は無数にあるんですから」

 

これも連邦生徒会長、あれも連邦生徒会長、どれもこれも連邦生徒会長。スバルが知らない彼女が、このキヴォトスに落とした影は余りに大きい。大きすぎてスバルが隠れてしまいそうになる。

 

「連邦生徒会長って超人なんて呼ばれてっけど、ユウカ的にはどんな人だったか覚えてんの?」

 

「どんな人……ですか。うーん、可愛らしい人でしたよ、可愛らしくて───」

 

「恐ろしい。こんな事言いたくはありませんが、大半の生徒は同じ感想だと思います」

 

「恐ろしい?恐ろしいって、何だ。目つき悪かったとか?」

 

「そんなナツキさんじゃあるまいし……って何言わせるんですか」

 

「言わせてねーよ!?つか今自分から言ったよね!?」

 

しかし───恐ろしい、か。

この世界であらゆる生徒から恐れられるなんて不可能だと思っていたが、余計どんな人間か分からなくなってきた。

武力で恐れられているヒナも、怖がっているのは不良達だし、身近に居る生徒達は風紀委員の様に愛おしさを理解していることだろう。

 

「んで…何で怖ぇの」

 

「……分からない、からですね」

 

「───分からない?」

 

「連邦生徒会長が何を考えていたのか、人当たりの良さがあったのにも関わらず、です。未来を見通したような言動と、的中する現実、私達を見ている様で、何処か別の場所を見ているような視線」

 

「連邦生徒会長の行動が間違っていた事は一度たりともありませんでした。……必ず、全ての選択肢を間違えない。そんな事が可能なのかと、そしてその理由も分からない事が、怖くて仕方無かったです」

 

「ふーん…。流石に超人って呼ばれるだけはあるんだな、未来的中って何のチート使って────」

 

────。

やはり何か、少し引っかかった。何度も何度も、彼女について考えれば引っかかる事がある。今回は心の中で「俺が言う資格無ぇな」と唱えた時に、魚の小骨がつっかかった。

 

「……」

 

「アロナは覚えてないの?」

 

《はい、連邦生徒会長に関する記録は全て失われています》

 

「アロナの親元が連邦生徒会長って事はさ、アロナの全力を使ってたワケじゃん?」

 

《そうかも……しれません》

 

「超人って言われてんのは、もしかしたらアロナのお陰かもよ?さっすが俺のアロナたん!最強!天才AI!」

 

《えへへ…ありがとうございます!》

 

アロナたん可愛いポイントを摂取し、スバルにとっての栄養素を吸収する。やはり可愛いは正義、最近もっと可愛くなってきた。この調子で、その無限に可愛い笑顔を振りまいて欲しい。

 

「…………」

 

『あいしてる』

 

「へいへい、愛されすぎて困ってますって。ファースト愛してるから結構人数増えたし」

 

「お兄さん独り言大きくない?堂々と恥ずい事言わないでよ」

 

「じゃあノゾミは俺の事愛してるって言ってくれないのか……残念。俺は何度でも言ってあげられるのに…」

 

「だから!堂々と恥ずかしい事言わないでって!?」

 

「スバル。愛してるよ」

 

「俺も愛してる、ほらノゾミも」

 

「いっ─────」

 

「ぁ……」

 

「……」

 

「あいしてる……」

 

「俺もだよ、ノゾミ。愛してるぜ」

 

「───何見せられてるんですか、私」

 

仲が良いで終わらせていいのか否か、多分否である光景に瞼をピクピクと震わせ、困惑を隠せないユウカ。

リン行政官に依頼されて名乗りを上げたものの、この非常に不健全かつ目に悪い態度を見せられると、今後の心配がつのるばかり。

今の所このスケコマシに、想像をスーんと通り越して不安しかない。超人の後釜とまで呼称される存在がここまで軽率だとは。

 

書類もある程度文を読めればなんとかなるものしか渡されておらず、ナツキ・スバルが引き起こしたアビドスでの成果を抜きにすると、まだ超人とは程遠い。

 

「…はぁ…仲がよろしいんですね」

 

「そう、死線をくぐった絆って奴」

 

「死線───そういえば、あの放映では…ナツキさんの、その傷は見受けられませんでしたね。その、やはり…?」

 

カイザーにやられたのか、と聞かれていそうな問答に、口の端をへの字に曲げて有耶無耶な音を返す。

ユウカがスバルの泳ぐ視線を捕えられる事は無く、「ほら、俺銃弾一発で死んじゃうから色々大変でさ」とコップに口をつけ、瞼を横一線に伸ばしながら妙な笑顔を返される。

そうこうしている間に、ノゾミとヒカリが立ち上がってノビをした。軽く欠伸を挟み、足先を部室の出入口へと向けた。

 

「そろそろ帰るね、お兄さん」

 

「お邪魔しましたー」

 

「ん、私もそろそろホシノ先輩に怒られるから帰る」

 

シロコもソファーから起き上がり、ノゾミが火照った頬を手で隠しながら、部屋を後にしようとしたその瞬間───。

 

「うわ────!?」

 

「わっ、揺れたー」

 

部屋全体が、地震が起きたかのように横に揺れる。

その後訪れる爆発音に、キヴォトスの日常が帰ってきたのかと外に目をやれば、黒煙がビルの壁面ガラス越しに立ち上っていた。

 

目線を泳がせていたスバルも、ノゾミの悲鳴を受け、後ろ下がりに転倒しそうになった彼女の手を掴むとアロナへ声を掛けて、

 

「あ、ありがと…」

 

「アロナ、状況は?」

 

《───不良生徒による武装車両の窃盗かと。ブラックマーケットから強奪した軽戦車で市街地を走行中》

 

「…こういうのも俺が対応した方が良さげ?それともカンナ達待っといた方がいい?」

 

《発生した犯罪の被害拡大を防ぐのも、シャーレの活動の一部としていいと思います。何よりスバル様自身が満足のいく行動をなさってください》

 

「──オーケー了解!」

 

グッジョブを返し、カッターシャツの上からジャージを羽織ってシロコの手を握るスバル。

胸元の携帯を開き、表示される最短ルートをシロコが把握して、アロナが操作して開けられた窓から飛び降りる準備をしていた。

 

「っ?まさかナツキさん、止めに…──ダメです!通報されてれば自警団もすぐに行動してくれるんですから、わざわざ戦場になんて……!!」

 

「あ〜、もしかしてリンちゃんから口酸っぱく言われてる…?凄い慌てようだけど」

 

「リンちゃ──!?…リン行政官からの依頼がなくとも、貴方のような怪我人を戦場に出すなんて非常識はしませんよ!」

 

「非常識なのは重々承知!破天荒にて天下不滅の俺にお任せあれってな」

 

「任せられません!!」

 

「えっ」

 

「今日一日の当番は私なんですから、ナツキさんが仕事に出るというのなら私も行きます!それでいいですね!?」

 

「あ、は、はい。よろしく頼みます……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───早瀬ユウカの総合能力は、キヴォトスでも上位に属している。

その自負がある。頭ばかりで戦闘がからっきしという訳でもなく、ミレニアムで日々行われる不正の対応や、データサーバーが置かれた場所への侵入者を跳ね除ける役目も果たしている。

 

指揮、戦略、戦闘技能、事前準備。それぞれが高水準な能力を保っているが故の、生徒会セミナー所属だ。

 

「──────」

 

「どう?凄いカッコイイでしょ、ウチらのお兄さん」

 

「───……」

 

ユウカの目の前には、大破した軽戦車の上で簀巻きにされた不良生徒が目を回している。

紺色の瞳が、映し出された光景の情報量に激しく揺れ、心臓を高鳴らせた。

 

事態の収束は───殆ど砂狼シロコの力ではあったが、それまでの手際に再現性が無い独特な代物だ。

自身はエレベーターを使い降りたのだが、窓から二人飛び出した際には口から叫び声を出したもの、余りの無茶に額に青さが浮かんだものの、外に出た頃には車両が鎮圧される瞬間だった。

 

罵詈雑言を吐き、囮として躍り出た彼に注目が集まった数秒で砂狼シロコが車両の上部に取り付き、乗組員を鎮圧。

そして最も驚くべきは、狂乱して銃を乱射した不良生徒の、その一発すら命中しなかったナツキ・スバルの身体捌き。

 

「ぢぐじょぉ…!なんでこんな強い奴がついてんだよぉ゛……」

 

「ナツキ・スバルは唯の変態だって話は何だったんだ…!!」

 

「おおい!?変態つったかぁ!?聞こえてるぞー!」

 

「「ひぃ!?」」

 

──まるで。

まるで、未来が見えているかのような動き。それ以前の囮になっていた時も、何処で車両が停止してどれだけ時間を稼げるのか想定していたかのような。

 

急いで怪我が無いか問い詰めても、本当に怪我は無く。本人は遺産のお陰だと言うが…、

 

「……なるほど」

 

確かに、影が見えた。連邦生徒会長の影が、背中が。

瞳の上でダブったように、ナツキ・スバルと連邦生徒会長の姿が重なったのだ。

 

「後は任せていいぜ、シロコ。コイツらはちゃんと説教するから」

 

「ん。お疲れ様、スバル。それじゃまた明日…あ、ハグして」

 

「ずるーい。私もハグプリーズ〜!」

 

……。それはそれとしてスキンシップが過剰な気がしなくもないが。

どうして人前で、あんなスキンシップが出来るのか疑問でならない。ネットニュースもあながち間違いではなかったし、素がアレならばとんでもない男だと思う。

 

「二人とも温かいな…ふわふわで、眠っちまいそう…」

 

「こほんっ、…ナツキさん」

 

「む。どうか致しましたかっ、ユウカさん」

 

「何で敬語なんです?──ナツキさんには、今から部室に戻って損害の諸計算をしてもらいます。その人達がシャーレと、その他周辺に与えた被害をヴァルキューレに突き出した後、提出しましょう」

 

「また!?またやるのあの作業!?俺もう結構心折れてたけど??…つーか別に警察に突き出すつもり無いしさ」

 

「───はい?」

 

ジャージを脱ぎ片肩に掛け、スバルが涙を流している不良生徒を一瞥すると、沈黙した戦車に登る。

不良生徒の前で膝をかがめ、ヘルメットを取って顔を見合せた。簀巻きの状態を軽く緩めて、目線が同程度の状態で話し出す。

 

「よっ、お疲れさん」

 

「ぐっ……!テメェ覚えてろよホント…!」

 

「如何にもてんぷら、いやテンプレなセリフだな…。んで、どうする?今から怖〜い狂犬が来てシゴかれちゃうって状況だけど」

 

「そんなの知らねぇよ!捕まってもどうせ釈放されるんだ、その後また好きなだけ暴れさせてもらうぜ?」

 

「───暴れたあとは」

 

「あん?」

 

「暴れて、スッキリして……その後は?」

 

「……私らにゃ限界なんて無いのさ!暴れるだけ暴れ尽くす!それだけだ!!」

 

「じゃあ人生そのまんまか、それで終わりにするって事?」

 

「はぁ?お前何言って……」

 

「ダサいって話だよ。子供の頃抱えた感情のまま、暴走し続けたら、いつか自分をボコボコにしたくなる時が来る」

 

歯を剥き、目を血走らせる生徒の頭に手を置いて、そう言い宥める。

反面教師が自分なんだから、教材には事足りる。

 

「今日は見逃そっかなって思ってる。被害は花壇とか、道路だけだし」

 

「へっ…馬鹿丸出しじゃねぇか。なら次も…!」

 

「俺は許すさ。何があっても、俺は何度だってやり直せるって考えてる派閥の人間。……でもな、同じように他の奴の言葉を無視してみろ」

 

「いつか、本当に誰も傍に居なくなる。怒る相手も暴れる対象も苦しむ方向も、最後には全部自分に向くぞ」

 

「このっ……っ!上から物言ってんじゃねぇ──!!!」

 

「上から言わせてもらうぜ。だって──お前らはそういう風に生きてきたんだから。暴力に対話を委ねんのならさ、暴力で押さえつけられても文句は言えねぇし、誰も聞いてくれねぇ」

 

「ぐっ……アタシらは明日食う飯にも困ってんだ!今から強盗だって時に…。言葉だけで腹が埋まるかよ!」

 

「なら差し入れにいくよ。それかシャーレに寄ってくれれば、部費で飯でも用意しておく」

 

「─────」

 

「金欠だとか不満だとか、それで暴れんのなら今から見逃す俺の責任だ。だからこれ以降、お前らが人に迷惑かけたら俺も謝りに行く」

 

「──それで、不満が消えるまで頑張ってみようぜ?」

 

縄に手を伸ばし、固く結ばれた箇所を解こうとする。

けれど頑丈な結び目にスバルは為す術もなく、指を痛めるだけで終わってしまう。

「いてて…」と赤みがかった指先を撫でていると、背後からユウカが声を掛け、

 

「全く、お優しいんですね。甘いと言った方がいいのかしら…?」

 

「結果が伴わなかったら甘さで終わり…かな。これ頼める?」

 

「了解です。…丁寧にやりすぎですよ、こういうのは…──ふんっ!」

 

縄が悲鳴を挙げ、握力そのままに両断される光景に絶句するスバル。「俺ってやっぱ雑魚なんだ…」と少しだけ骨に付いた自信が消えていく感覚に襲われる。

縄を解かれた不良生徒は、スバルを睨みながら気絶している仲間を担ぎあげ、

 

「チッ……覚えてろよ───!!!」

 

「覚えとく覚えとく、飯ね」

 

「そっちじゃねぇ───!!!?」

 

──颯爽と、街並みへと消えていった。

そして一段落すると、ユウカは肺から溜めた息を吐き出したスバルの肩をツンツンと刺激し、問いかける。

 

「あの、部費でどうとか言ってましたけど……ナツキさんってちゃんとシャーレの財源理解してます?」

 

「…………」

 

「それにこの被害も、あの人達が逃げるなら誰が補填するんですか」

 

「……ウチで?」

 

「──」

 

「なら!余計に!お勉強が!必要みたいですね!!さぁ帰りますよ!これからしっかり、ナツキさんには会計士としての能力を身に付けて貰いますから!」

 

「嫌ぁ〜〜〜〜〜〜〜!?!?!?」





日常パートが説教臭くなってしまう男っ!スパイダーマッッ!!!

何のお話投稿するか決めちゃいま〜す。

  • くらーい話がいい!
  • あかるーい話がいい!
  • へい、大将のお任せで!
  • どっちも見たいよー!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。