少し長めです。
──時間を巻き戻せたらいいんですけどね!
そう、軽薄に。気楽に放ったあの言葉を聞いた、あの人の顔を今も覚えている。
そうしたらある人はこう返す。『ダメだよ』と。
どういう事かは、本官には良く分からなかった。
でも、その人がそう呟いた時の目は、まるでとても罪深いものを見るような目で、
「────」
どうにも、あの目を忘れられないのです。
失敗をしたらそれを挽回したい、困り事を無くしたいと思うのは自然な筈。
でも、それでも、本官は……初めて見る、あんなにも悲しい目をする人を忘れたりできません。
「────」
本官はよく、射撃を外してしまいます。
ヴァルキューレ警察になりたくて寮学校に入学したのに、撃っても撃っても変な所に弾が飛んでしまいます。
そのせいで、生活安全局に配備される事になってしまいましたが、本官はめげません!
日々市民の皆さんの為に!安心して毎日を過ごせるように!パトロールを頑張っています!!
そんな本官は、公安局の方から推薦を頂いて……とある方とパトロールをする事になったのですが……。
「────」
「ナツキさ〜ん、ナツキさぁ〜ん…」
「ナツキぃさぁ〜んっ〜…ぅう…起きて下さいナツキさん…。ううぅぅぅ…私が、私が目を離したせいで…!ナツキさんが……!」
「倒れちゃいました……」
本官は、そのとある方を眠らせてしまったのです……。
■
『──カンナが公安局に入りたいって願ってる目を掛けてる警察官を、俺が一日付き添ってサポートする……良いじゃん!その依頼受けた!』
連邦捜査部シャーレ活動開始二日目。
取り留めのない夜を過ごし、明日の活動目標を特に決めもしていなかったスバルは、舞い込んできた一報に目を輝かせていた。
未だシャーレの外には、暴走車両の鎮圧の成果を耳にした報道記者が集まっており、対策を取らない外出はハゲワシの群れに全裸で飛び込む様なもの。
無論スバルは腐肉を付けて飛び込む派なのだが、そんな過激な暇つぶしをする前にカンナからの依頼が訪れた。
気分は上々、調子は好調、アビドスの事案を乗り越えて磨かれたスバルセンサーは今日一日が素晴らしいものになると告げていた。
───筈だった。
「────」
「どうもこんにちは!ヴァルキューレ生活安全局所属の、中務キリノです!」
「────」
「本日はパトロール勤務にご同行をして下さる、ボランティアの方だと耳にしています!よろしくお願い致します!」
「───……」
「圧倒的……陽……だ…」
「陽?」
「うっ、眩しい。ごめんちょっとだけ一呼吸置かせて…」
「ど、どうかされましたか?顔色が悪いというか…真っ青というか…!」
圧倒的、圧倒的な陽。
今まで出会ってきた生徒とは一線を超えた、笑顔の眩しさで人の目を潰せるタイプの陽の者。
真っ白な髪の襟足を三つ編みにして、うなじが露出する程度に整えた髪型に警察帽が乗っかっていて非常に可愛らしい。
白を基調とした警備服に、腕章の紫色に合わせたアクセサリー。
そんなナチュラルボーンシャイニングな中務キリノに、スバルの陰の部分の古傷を抉られてしまう。
まだ確定した訳では無いか、既に挨拶の地点でその気配を漂わせている。
「うっぷ……今日はよろしく頼むな、キリノ…」
物凄く口の端をプルプルとさせながら、ガタガタと奥歯を震わせて挨拶を行う。
シャーレ部長として、これで尻込みしていれば今後が危うい、勇気を持って一歩前へ、そして握手の手を伸ばす。
「はい!……ですが、顔色が優れませんね。体調が悪いのであれば、無理せず休憩を……」
「大丈夫、ここに来るまで走ってきたから酸欠ってだけだから…気にしないでくれ。ほら俺有名人だろ?結構部屋出るのも大変でさ」
「そうでしたか…!カンナ局長の仰る通り、多忙な所を今日は本官に力を貸して頂けるとは、光栄ですっ!」
「はは。光栄……光栄なんだ…そうか…」
ああもう小っ恥ずかしくて溶けてしまいそうだ。
立場として人の上に立つのが全く向いてない、優位性を持っているのをすぐ放棄したがる。
「……よし、それじゃパトロールの先輩に、いっちょ御指南願いたもう!」
「了解しました!それではまず、警察の基本をお教え致しましょう!」
■
警察官が行うべき基本の仕事は、犯罪を予防する事と、善良な市民の害になるありとあらゆる要因を、事前に排除する事。
危険物を持ち込む方、危険な行為を行おうとする又は行っている方、そういった危険に対し、身体を張って市民を守るのが警察官の役目でありパトロールを行う理由。
「……うんうん、とても分かりやすい説明ありがとう」
「ナツキさん…お静かに…」
「でも、でもさ、でもなキリノ。俺多分こういう事じゃないって思うんだよね……!?」
「容疑者に気づかれてしまいます!市民の安全の為、怪しい挙動をする方は見逃せません…!」
──感心したのもつかの間、キリノは踊る大捜査線の様な尾行を始めてしまった。
確かに事前の犯罪抑止は大切だと思う、パトロールってその役目を果たしている訳だし、犯罪者が表立って暴れないような監視の目が必要。
けれどけれども、キリノが尾行をしているのは、ただ単に高価な壺を慎重に運んでいそうな市民なんだ。
端でコソコソしているのも、不敵な笑みを浮かべているのも、「壺って大体高級品だからじゃないの?」と、スバルが疑問を提示したのだが、
『いえ、高級な物を運んでいるにしては、足運びが不自然です……アレは、きっと…!』
『爆弾です!!』
──んなワケあるかっ!!
等というツッコミがスバルの口から陽の者へ向けて出るはず無く、渋々付き添う事に。
カンナから事前に渡されていた注意事項メモに載っていた情報も、今なら俄然納得がいく。
『①熱血気質であるが、それが裏目に出る事が多い』
『②射撃能力が壊滅的な為、パトロール前に訓練所でナツキさんが彼女の弾道を把握しておく必要がある』
『③頑固さが出てきてしまった際には、最後まで付き合ってあげて下さい』
「────」
注意事項というより取り扱いメモだな、コレ。
そしてパトロール前の訓練所…一度スバルも足を運んだあの場所に行くことも叶わず、現在。
「なぁキリノ…やっぱりあの人は爆弾魔じゃないと思うんだけど…。最悪の事態っつーのを想定したいってのは分かるけどさ、あんま気張る必要は…」
「いえ、そんなはずは無いと本官の直感が告げています!」
「直感なのね!?なんか、こう他には…?」
「証拠となるシッポを見せたその時が、容疑者の最期です!」
「─────」
「む、見てくださいナツキさん。容疑者が更に怪しく深い笑みを…!」
顔を歪ませ、スバルは白目を剥きかけた。
だが───その時。
「ははっ!高そうな壺もってんじゃねぇか!コイツは頂いた!!」
「うわっ!?わっ、ちょ!?」
ブルドッグ顔の獣人市民がコンビニ前を通過しようとした瞬間、不埒な笑みを浮かべた盗人がその手から壺を奪い去る。
スバルもキリノも、想定とは別の角度から現れてしまった犯罪者に一間置いて、
「キリノ!キリノ、アレ犯罪者だよね!?現行犯!?」
「っ、そこ!止まりなさい!止まらないと発砲しますよ!」
「どうせ止まらなくてもぶっぱなすだろっ───て!!」
発砲という単語に怯えないのは、この世界の住人の宿命か。
減速の兆しも見えない盗人に向けて、キリノが照準を定める。ピンと張った両腕の筋が、彼女の射撃への慣れを表していた。
躊躇の無い発砲は見慣れた代物、ただこうもシチュエーションが違うと特別なものに見える。
「指示に従わなかった為、制圧の為の射撃を行わさせてもらいます!!」
「よしっ!やったれキリノ──!!」
スバルは拳を突き出して、キリノの発砲を見守り、彼女の指がトリガーを引き切る瞬間を見届ける。
数発、火薬の破裂音が鳴り響いた後───。
「ぐぁっ!?ぅ…………」
「やったか!?」
「───ぅ……ん?」
「「…………」」
手を身体中にまさぐらせ、首をこてん、と傾げさせた後、スバルと盗人は目線を合わせた。
──中務キリノ、脅威の命中率ゼロを叩き出す。
距離は十メートルいくかいかないか、スバルでもカンナに訓練を受けた際は二十五メートル程度。
命中率は……五割程度だった。
「────」
「に、逃がしません!!」
「うぉ!?やっべぇ早ぇ!クソっ、こんな漬物臭ぇ壺要るかバーカ!」
「あ、待て!待ちなさい!」
■
「うぅ……捕まえられませんでした…」
「……ま、まぁ、その、どんまい」
最早スバルがキリノに掛ける言葉は無かった。
立派なものだとは思う、しっかりパトロールの役目を果たし、起きた犯罪をその場で諌めただけでも素晴らしい成果だ。
犯人が捕まるか捕まらないかは二の次、被害を無くした彼女の行動は、しっかりとスバルが瞳に捉えている。
「ですがこの爆弾は奪い返し……───あれ、この匂い……」
「ありがとうございます!わざわざ私のぬか漬けを守って頂いて……!」
「───ぬ、ぬか漬け…!?」
…どんまいを重ねるか悩み所が来てしまう。
確かに、犯罪を予防したのは間違いなくとも、始まりはこの壺を爆弾と勘違いしての尾行。つまり、パトロールのお陰かと言われれば怪しい。
「……よく、頑張ったなキリノ。凄くカッコよかったぜ」
「う、うーん…ぅぅぅ…爆弾では無かったんですね……」
「爆弾?何の話か分かりませんが…お礼としてこのぬか漬け、お裾分けさせてください!」
「食欲が無い時にも、一口齧れば元気が湧いてくるんです。実家からの贈り物なんですけど、一口も食べられず奪われるとこでした…!」
「ありがとう……ございます。美味しく頂きますね……」
手を振り、帰っていった獣人を見届けて。
スバルはキリノの背中を軽く摩る、パック詰めされたぬか漬けを見つめながらしょげる彼女の、全く間違いでは無い警官としての仕事を励ますように。
振り向き、スバルの顔を見つめた後、花が咲いた様な笑顔を再び浮かべたキリノはぬか漬けを指さして、
「本官の直感もまだまだだったという事で、こちら少し量が多いですし…お昼ご飯のおかずとして一緒に食べましょう!」
「うん、まぁそれも良いんだけどさ…えっと…」
「む、どうかしましたか?何かご用事が?」
「──先、訓練所いこっか…」
スバルはスバルで、どうにか、カンナの依頼を達成できないものか。
この壊滅的なオンチエイムをどう矯正すれば良いのか、主役であり主力の銃が当たらないという、この世界で警察を続けるには必須の技能がかけてしまっているこの少女の今後を必死に想像するのであった。
■
あの後、しばらくパトロールを続け昼休憩を挟み、スバルとキリノでシャーレ付近の区画であるシラトリ区を練り歩いた。
その途中でもキリノは数多くの市民へ、怪しんだり助けたり、基本的には怪しみスタートだが結果的に感謝されたり。
本当、警察官としては優秀の一言である。警察官に必要なのは射撃能力や戦闘能力ではなく、市民に寄り添う優しい心なのだと、改めて実感した。
そんなスバルの尊敬も───時々消えかけるぐらい、酷いエイムと融通の効かないド正論パンチと、熱血の空回り具合と頭の硬さが、スバルの顔から表情筋をどんどん奪い去って、そして極めつけが───。
「………………ふぅぅ…」
「も、もう一度!もう一度お願いします!」
「うん、うん大丈夫。絶対当たるから自信持って、やれば出来るやれば出来る、キリノはやればできる子頑張る子」
「はい!いきます!!」
───バンッ、バンッ、バンッ。と、三発程度の銃声が上がる。狙う先は訓練用のマトであり、犯人が人質を取っている絵がぶら下がっている。
そうここは、スバルが最初に連れて行くべきだった場所の射撃訓練所。
カンナが事前にアポを取っていたのか、スバルの入場には何も言及されず顔パス、流石は公安局長だとシッポを振るカンナをイメージした。本人のそんな姿は一生見ることは出来ないだろうけれど。
「すぅぅぅぅぅ────」
カラカラカラと、視線の奥からマトが返ってくる。
スバルがキリノの射撃能力を確認する為に、実際に撃つ所を見せてもらい───。
「なんで??」
「どうしてですか!?」
──ああ、百発百中だったとも。人質の方に。
綺麗に美しく、華麗に頭と心臓へクリーンヒットだ、人質の方に。
流石は市民の安全を守る警察官、狙いを外さない腕はさすがと言った所か、人質の方に。
四回全て、物の見事に人質の命を奪い去っていく手腕にはさしものスバルも脱帽して、
「たまるかぁ!なんでこうなんの!?キリノの銃なんかおかしくない?」
「そうです!そうですよこの銃の方がおかしいんです!この至近距離で人質のターゲットの方ばかり、こんな飛ぶ訳…!」
「これで調整四回目だよね!?もうその銃も悲鳴上げてるよ!?」
「なら別の銃を!んしょ…ここを…こうして、よし、照尺を調整しまして…出来ました!撃ちます!!」
「───どうして人質ばかりに当たるんですか!?」
「───どうして人質ばっか当てちゃうんだよ!?」
「ふ、ふぅ……貸してくれるか?俺が撃ってみるわ。俺だってキリノの無罪を証明してぇし」
「無罪ってなんですか無罪って──…でも、それでナツキさんが本官の銃がおかしいのだと知って貰えれば…」
「よぅし…!アロナ、頼んます」
アロナの補助を全力で起動させる。
これは別に、外すのが恥ずかしいだの良い所を見せたいだの、そういったものでは無い。
アロナがスバルの身体捌きを完璧に指示し、その上で発砲をして外れるのなら───この銃の有罪が決まるからだ。
──心情的にはもう有罪であって欲しいのだけれど。
《同調完了、合図と共にトリガーを引いてください!3、2、1───》
「っ─────」
「………………」
「ほんっと、ごめん。キリノ」
ああ、残念ながら。
その残念エイムは、彼女自身のものだと証明されてしまった。
アロナの力を借りたスバルの弾丸、それが通過したのは犯人役のターゲット、その脳天ど真ん中。
「────」
「……まさか…だよな…?いやでも、やってみないと…」
「キリノ、一回人質の方狙ってみてくんねぇ?」
「はい。…え、人質の方をですか!?幾ら訓練だと言っても、善良な市民を模したターゲットに銃を向けるなんて出来ません!ヴァルキューレ警察学校の誇りにかけて!」
「もう誇りが風穴だらけなんだって!?十五発分の風穴が空いてんの!」
「そ、それは、そうですけど……うぅ…」
「試しに一発、一発だけでいいからさ。こういう奴の定番も調べとかなきゃ、今日の夜おちおち寝れねぇよ俺」
「……分かりました。人質の方、ごめんなさい!」
スバルの脳内に思い浮かんだ一つの『定番』。
銃の腕がからっきし、なんなら当たる当たらないじゃなくて、常に予想外の結果を引き起こすハプニングトリガーが、唯一作中で活躍を見せる時。
それは、普通に逆らう時だ。普通に撃つ、狙いを定めて撃つ、そういうしがらみから解き放たれた一発は決まって目標に的中する。
そしてこのキヴォトスには都合良く、現実さえ歪める『神秘』がある、このヘンテコエイムが治る瞬間があるとすればそれは───、
「「………………」」
──そういう、『定番』だ。
今度は美しく、華麗に、犯人のターゲットへと命中した。
「よし。これからは人質の方狙って撃とうぜ、キリノ」
「そういう訳には行きません!警察学校の生徒が人質に銃を向けるなんて…!」
「いやもう、百発百中じゃん。ど真ん中じゃん、栄誉勲章ものだよコレ」
「うぐぐ…。こっ、今度こそ…!!」
結局、その後に銃弾が犯人ターゲットに命中する事は無く、キリノは泣く泣く拳銃を置いたのであった。
悔しげなキリノの肩を叩き、泣きそうな眼差しを置き去りにするのに心を痛めながらスバルは次の提案をする。
「カンナから良い所もちゃんと言われてるからさ、えっと…CQB?って奴が目を見張るって」
「至近距離での環境利用戦闘……は、確かに自信がありますが…」
「短所が埋めづらいなら、次は短所をカバー出来るぐらい長所を伸ばす!自論だけど、効率のいい成長目指してそっちを伸ばしてみねぇ?」
「…分かりました!ではそちらの訓練もナツキさんに見てもらいたいです!」
そう胸を張ったキリノに案内された先は、部屋を一つ二つ跨いで生徒同士のハリのある声が響く、柔軟なマットが一面に敷かれた部屋だった。
館内案内板には『CQC訓練所』、ホシノが駆使しているあの技法を磨き合う場所であることが分かる。
部屋に入ったキリノが、威勢の良い挨拶をあげると、それ以上の音量で返事が返ってくる。むせ返る様な熱気がスバルの頬を撫で、この場所の活気が伝わった。
ヒソヒソと、スバルの事を見て口を働かせる者もいたが、やはりここもカンナの手が届いているのか直接会話をしようとするものは居ない。
「懐っ、昔の高校ん所の柔剣道場みたい」
「近接戦闘も銃を失った時に必要ですし、何よりヴァルキューレの室内戦におけるシールド部隊の強さは折り紙付きです」
上着を脱ぎ、片手をブンブンと振るキリノがその矢印を向けたのは、現在進行形で訓練を行っている生徒。
「っしょ……ふぅ。ありがとうございました。──キリノちゃん、この時間はパトロールじゃなかったっけ?」
「そうなんですが、本日は本官の為にお時間を割いて頂いてるこちらの……ナツキさんへ、警察官の普段の光景をお届けしようかと!」
「ナツキ…──お会いできて光栄です。カンナ局長から話は聞いています、どうぞ観戦していって下さい」
「やっぱ光栄なんだな……光栄…」
今日の朝にも行った流れを終え、キリノが投げ飛ばされた生徒と交代すると、こちらに敬礼を向けていた生徒へ向かっていく。
両手をふくらはぎに添え、「CQB、実戦形式でよろしくお願いします!」と放ったキリノの声で、周囲の生徒がマットレス周りの環境を変えていった。
「はい、よろしくお願いします……──強いから嫌なんだよなぁ…キリノちゃん…」
「それでは───いきますっ!!」
「おぉ……迫力あるぅ!録画しとこっかな?」
「は、恥ずかしいのでそれはナシで!」
■
───強い。
「ありがとうございました!」
「……ありがとう…ございました…」
シロコの様な、若さによる勢いを味方につけた素早さと膂力の数々。ホシノが彼女の戦闘を見れば光るものがあると一筆置いただろう。
三角形の重心を構えた、安定感のあるタックルや素早く切り返せる足首の柔軟さ、周囲の物を拾って利用できる思考の柔らかさ。
パトロールの時とは打って変わり過ぎな戦闘の模様に、どうして、の一言が漏れだしそうになる口を抑え、肩で息をするキリノへと声をかける。
「お疲れ様、んで、先に一言」
「──警察官ってほんとカッケェわ、憧れるよ」
「はぁっ、はぁっ……そうですか!良かったです…!」
まだ風紀委員の上位陣やアビドスの面々には叶わないが、フィジカルは鍛えれば鍛える程良い。
「いつか素手でヘリ落とせるまで頑張ろうぜ!」
「何言ってるんですか!?」
「いや、素手で戦車とか戦闘機ドッカンドッカン壊す奴がいてさ」
「えぇ…多分ですけど、その方、人間かどうか怪しいのでは……」
言われてるぞホシノ、この世界基準でもおかしいんだなやっぱし。
けれども、今ので見えてきたものがある。射撃があれ以上の進展が望めないのであれば、キリノの育成方針をフィジカルモンスターへと切り替える事で、これからの伸び代に期待するとしよう。
口で話すか、誰かと取っ組みあって貰って指示するか、様々方法は思いつくのだが、スバルの瞬発力と説明力で十二分に伝えきれるかは怪しい。
ならば、最適なのは───。
「俺か」
「……んぐっ…ぷはぁっ、はい?」
「俺とやってみる?今の訓練」
「……はい??」
と言っても、スバルが強いのだと勘違いさせたくは無い。
スバルの戦闘能力は未だミジンコ、アロナが補助する割合を増やせば増やす程強く、ウザくなる。なんならスバル0.01%でも成立する。
「んだから、俺に…何でもいい、一発当てたら勝ちって事でさ」
「───」
「キリノちゃんダメだよ?カンナ局長から何言われるか──」
「お手合わせお願いします!」
「キリノちゃん!?」
「カンナ局長が何度も口にされていた、ナツキさんの素晴らしさというものを身体で味わいたいんです!」
「なんか有り得ないぐらい、いかがわしい言い方な気が……まぁ、とりあえずやってみてからだな!」
───ホシノとヒナが仮に、兵器だとして。
単一で国落としを成せる可能性がある兵器、核兵器だとしよう。
目算、キリノは歩兵程度、だからこそこんな事を心の中で唱えるつもりも無いし、考える事も無いのだが。
頭の片隅に存在する調子乗りのナツキ・スバルなら、強キャラムーブをかますスバルなら、この言葉を口にする。
───胸を借りるつもりでこい、と。
■
「────」
心の底では、怪我をさせないようにと少しだけ、本官はナツキさんの事を案じていました。
「────」
だから少しだけ、ほんの少しだけ。
手を抜いたんです。カンナ局長から、ナツキさんの身体の弱さは聞いていたので。
けれど射撃訓練の時から少しずつ、違和感はあったんです。
「───ぐっ…」
「問題点、結構あっただろ?直線的に動きすぎだし、それにやりたい事が丸わかりだから表情も抑える、力任せにしない」
「は…い…!」
───何をしても躱される。時には足をかけられ、本官よりとても非力な相手に組み合って負けてしまう。
技量?いえ、そんなものでは埋まらない差がある。
最初に飛びついた時でさえ、避けられてから脇腹をくすぐられた。
「頭の柔軟さじゃ、ちょいと年季が違うからな。…そうだ!キリノ体幹すっげぇからさ!拳銃撃つ時…目ぇ瞑って撃ってみない?照準はしっかり構えたままなら、目瞑っても飛ぶ先は一緒……らしいし」
「…………」
「──今勝ちたいって顔してる。いいぜ、ばっちこーい!」
警察官に大切なものが、ただ強さだけじゃないのは分かっています。
でも、射撃が下手であれば……射撃によって解決出来る事件が解決出来ない、弱くては、警察官は助けられるものを助けられない。
ここで黙って下を向いていれるほど、弱くはいられないのです!
「いきます!」
「んじゃ逃げます」
「ぅえ───!?」
「はいここでターン、猫騙し。アロナたんフラッシュ!!」
「うぶわっ、ちょわっ!」
「ふぅ、うん。ここら辺で終わりにしとくか、キリノ。集中力も欠けてきただろ?」
「そんな!?まだ本官はナツキさんにワンタッチも……───わひゃっ、あははははっ!?」
「うっそー。さっきもやられただろコレ、騙されなーい」
───挫けちゃいそうですぅ……!!
勝てる勝てないじゃなくて、届くイメージすら湧かない、その域に達していない気がして……。
物を投げたり、倒したりしてもこちらから目を離さないんです。ずっと、何があってもこっちを見ていて、少し怖いぐらい逸らしてくれません。
ひたすら、一つ一つの動作に注目されて…──気がつけば、また一回転、マットの上に倒れてました。
「うぅ……」
「いつか街中で戦車が爆走してても何とか出来るように、鬼の軍曹ナツキ・スバル!手を抜くわけにゃぁいきやせん!」
「その割には、とても余裕がありそうですね…!」
「本気と全力は使い分けって事。全力を出させたいなら、少しは小賢しさを……そんなん学ぶ必要無いか……──ほら、立てるか?」
「……その手は、本当に優しさの手ですか!」
「ほんとほんと、俺嘘つかない」
「むー…」
この方は、善意と悪意に本心を混ぜない。
だから分からないんです、どれだけ騙されても、誠実にされても、ナツキさんが何をしようとしているのかが掴みようもない。
これはきっと、彼だけの武器だと思うんです。
冗談らしさが満載でも、行動一つ一つに意味がある。そして何度でも私は───、
「ぁ───……」
「よっと」
また騙される。
掴んだ手を離されて、後ろに倒れかけたのを支えてもらう。無表情で、もう大丈夫だと思った瞬間に差し込まれた不意の一撃。
離れた手はもう一度、彼が握り込み、立ち上がる力を失っていた私を優しくもう片方の手で抱え、鼻と鼻がくっつきそうになるぐらい、身を寄せられた。
「────」
「口先八丁で生きてきたってのにも、これで信憑性が湧くだろ?口先だけしかないけど」
「…………はぃ…」
「休憩したら、午後のパトロール!頑張ろうな、キリノ」
「はぃ…」
───。
くたびれた顔で、瞼を軽く落とし細まった目で見つめられる。程よく脱力した、柔らかな表情が瞳に飛び込んでくる。
地域の方々は殆ど、機械のお姿か動物の姿をしているから……ナツキさんのような男性の方を見るのは久しぶりで……。
「……────!!!???!?」
「ん?」
「…はっ!……なんでもありません!休憩次第パトロールですね!!」
「お、おう」
「もう大丈夫ですから行きましょう!こうしている間にも危険に陥っている市民の方がいるかもしれませんし!!事件は会議室で起きてるんじゃありません、現場で起きてるんです!!!」
「え───そんなすぐ大丈夫な……おわぁぁぁぁ!?!?」
キリノはスバルの腕を握って、汗だくのまま上着を回収し飛び出していく。駆ける様は風のように、そこに居た全員を振り切っての華麗な脱出を繰り広げるのであった。
「────」
「うーん……」
「──凄かったねー、ナツキさん」
「ねー」
「キリノちゃん、たぶらかされてたよね?」
「ねー」
■
「ぉぐらほまみきさ──!?」
「あ、申し訳ありませんナツキさん!」
「お、俺ただの一般ピーポー、キリノ達みたいに身体強くない、オッケー……?」
「了解であります!」
キリノによる逃走が終わった頃には、スバルの体力という体力は消えて無くなっていた。
キヴォトス人とはスタミナが違いすぎるスバルを掴み走らせたキリノもまた、休憩を挟まずの爆走に息も絶え絶え───なのかどうかはあまり分からないが、汗は滝のようにかいていた。
「……ここどこ?」
「あれ…ここは何処ですかね…?」
「うっそん分かってないの!?」
気が付けばいつの間にか、明らかに雰囲気が違う冷たい空気が通る路地裏へと二人して迷い込んでしまう。
辺りを見渡しても、人気は無い。何時ぞやのスバルが足を踏み入れてしまった場所によく似ていた。
つまりは、悪そうな事が起きそうな雰囲気、という奴だ。
「ほ、本官の直感がここへ行けと告げていました!」
「フィーリング過ぎるだろ!ぜってぇこんな場所、来たくて来れねぇって!」
「でもビシバシと感じませんか?この犯罪の気配を!」
「犯罪……まぁ犯罪つーかアングラっつーか、裏社会っつーか……」
「ですよねっ!ならばこそ、パトロール再開です!私のフィーリングを信じて下さい!」
「悪い信頼しか抱けないけどね…!?」
ヒュウ、と風が吹き、スバル以上の無鉄砲さを持つキリノへのツッコミに冷たさを乗せていく。
そんなつもりも無いのに、場の雰囲気は冷えていくばかり。恐怖の冷たさというやつか、キリノの表情も落ち込んでくる。
「……───」
盛り上がりに欠ける場の為に、何か口に出そうと画策するも、出てくるのは軽い空気の塊。
片っ端から思いついた言葉の数々も、スバルが語れば味気なくなってしまうだろう、味気ない言葉は余計に場の温度を下げるだけ。
しかし、同時に両者共にクールダウンを行える時間でもあった。冷静に、火照った身体も周囲に合わせ適温になっていく。
ふとキリノの横顔を覗けば、パタパタと手うちわで赤く染まった耳を冷ましている所だ。
「…キリノは、生活安全局に居続けんのは嫌なの?」
「それは…いえ。私は別に嫌という程でも……。ですが、元々望んでいた居場所は公安で、治安を守る警察に憧れてて…」
「今でも十分、地域に愛される優秀な警察官だと思う。目的が憧れ…ってなら、別に大丈夫だとは思うけど」
「う、えっと───」
「……でも!一度憧れに挑戦してみたいのです!本官が最初に志した場所へ、辿り着いてみなくては見えない景色もあると思うのです!」
「ふっ───最高じゃんか…!それなら、これからもキリノのパトロールをサポートしたいな。俺もキリノが公安で頑張ってる姿見てみてぇ!」
「はい!これからも頑張ります!…──それでもやはり、最初の試験の時に、今日みたいな射撃を命中させる方法を知れていたら……」
「──時間を巻き戻せたらいいんですけどね!そうしたら、本官は公安局所属としてナツキさんの前に……!!」
「………ナツキさん?」
深い、深い瞳の色。
穏やかに微笑む彼の顔は、何故か、見ているだけで泣きそうになってくる。
脳内に思い浮かんだのは、本当にどうしてか、死人の様な。彼が浮かべる穏やかさは冷たい味がした。
手を伸ばしたくなる、何の理由も無く胸元へ抱き寄せたくなる欲を抑え、彼の顔を見つめ名前を呼んで───。
「ダメだよ」
「───」
「……あ、あ〜ほら!巻き戻っちゃったらさ、今まで出会った友人とか居なくなっちゃうわけじゃん?大切にしてきたものとか、受け取った愛って奴を手放したくないだろ?」
「そう、ですね。本官もフブキと別れたくありません!」
「今が一番!毎日が最高だって思って生きていこうぜ!それに、こっからチャンスは幾らでもあるからな!」
「はい!」
「それじゃ早速、今から犯罪者共を根絶やしに───!!」
「あぁん?根絶やしだぁ?」
「「─────」」
余所見、厳禁。
ドンッと、硬い壁にぶつかったかと思いきや、響く低音は聞き慣れた機械人の反社のソレ。
ゴーゴーと拳を天高く伸ばしていたスバルの拳も、今やヘナヘナと地面へと墜落していった。
「チッ…テメェら何処の回しもんだオイ!この取引をどこで知りやがった、ぶち殺すぞ!!」
「ひぃん!?キリノヘルプミー!?」
「ほ、ほほ、本官が相手です!!貴方の言動は録音され、これは本官に対する脅迫罪に…!」
「ほんかん…?はん、なら丁度いい。攫って沈めておさらばといこうか」
「モノホンじゃねぇかァ───!?キリノ!ここは一旦引こう!」
キリノの手を引いて逃げ出そうとしたスバルの逃げ道に、先んじて新手が現れる。
機体が違うところを見るに、取引とやらの相手だろう。前門の虎後門の狼にされてしまったスバルは、胸をトントンと叩き密かにアロナへ合図を送る。
送り先は───カンナ。この地域に最も早く駆けつける事ができ、尚且つマップを網羅している相手。
「へへっ」
「ガキ二人…──あ?ナツキ・スバル!?おいおい、こんなにも早く復讐の機会が来るとはなぁ!!」
「俺アンタらに何かしたっけか!」
「テメェがカイザーぶっ潰したおかげでよぉ、こちとら大迷惑してんだワ」
「そりゃ良かった。俺のやったことでお前らみたいな、こそこそ隠れてしか生きられない馬鹿が困ってるなら万々歳だよ」
「言いやがったなぁ!!?」
売り言葉に買い言葉、スバルの挑発にもれなく全員のヘイトが集中する。
キリノだけでも何とかして無事に帰せればいい、そんな思いで背にかばって壁側へと後ずさるも、悪事を働こうとする相手を前に黙っているだけの彼女ではなく、
「ちょっと待ってください!」
「な、なんだお前…」
「貴方達はまだ容疑者です!この場で、一体何をしようとしていたのかをお教え下さるのなら、まだ脅迫罪のみで…」
「──ふざけたこと抜かしてんじゃねぇ!」
「む!公務執行妨害!!」
殴り掛かる機械人の腕を組み伏せ、地面へと叩き付ける。
加減の無い叩き付けに相手は一撃で気絶、ヤクザ達には少しの面倒臭さと、怯えが表れた。
「あなた方には弁護士の立ち会いを求める権利があります」
「……」
「俺からも一つ───もう通報済みだぜ?銃を使ってもいいけど…余計に、キリノみたいに優しくない、怖〜い警察官がやって来ちゃいそうだってのは言っておく」
「───クソっ、覚えてろよ…!撤退だお前ら!」
即座に口封じが出来なかった時点で、ヤクザ達の目論見はご破算になっていたのか、気絶している機械人に一瞥もくれることなくその場を去っていく。
置いていかれた機械人にキリノが手錠を付け、あわや湾の底で骨になる危機は脱する事が出来た。
キリノの威勢の良さには驚かされた、しかも今のは相手を威圧し優位性を保つには最適な、素晴らしい演技。
スバルならば震えてビビっているのを見破られていたことだろう、流石は若人、先程の訓練で学ぶべきものは学んだという訳だ。
「全員逮捕…は出来ませんでしたか、残念です…!」
……。
いや、普通に全身全霊で立ち向かっただけか。
「グッジョブキリノ!最高に、最高のお巡りさんしてたぜ!」
「はいっ、光栄です!それでは早速現場検証を…ふむ…ふむ、闇の取引とやらがここで行われていて…───これは?」
「すっげぇ安価なダンボール箱。こういう取引の商品って、アタッシュケースとかに入ってんじゃねぇの?」
「開けてみましょう!実行犯の方は既に捕らえていますので、これは現場調査ということで!」
「オープンザセサミってな、何が入って───」
「────」
「水?」
「…水…ですかね…?むむ…むむむ…ナツキさん、少しお待ち下さい。本官の手帳で一旦確認してみます。えーっと、えーーっと…」
ダンボールのガムテープをバリバリと取り外し、中を開けてみれば首を並べていたのは透明な液体の入ったペットボトル。
お土産につまらないものですと言われコレを渡されれば、つまらなさすぎだろ、と跳ね除ける、何の変哲もないペットボトル。
備品だろうか?多分備品だ、ヤクザの取引がこんな代物な筈が無いし、水なら丁度いい。訓練した後にそのまま飛び出て喉が渇いている。
キリノも水分補給したい頃だろう、押収品としてコレは頂いてしまおう。
「アロナ、毒は?」
《そういった成分は検出されませんでしたが───》
「毒じゃないなら…頂くとするか!お昼にも水分取れてないし…」
蓋を取り外し、中身を一気飲みする。毒で無いのならどうとでもなるだろ、なんて軽率な思考だが……既にキリノは傍に居るし、カンナも呼んでいる。迂闊な思考だが死に至らなければ全て安い代物。
多少の粗相、負担は大丈夫。安全性の検証を兼ねて、ペットボトルの中身を飲み干すと────。
「ん…普通」
若干、甘ったるい匂いが鼻腔を突いたが、それ以外は無味の普通の水だ。その甘さにも危険さは受け取れず、いろはすの様なささやかなもの。
寧ろ奥ゆかしい深みがあって、一息を吐き出すと肺に甘さが広がる気分になる。
これなら普段から常備していたいぐらいだ、普通のお茶や炭酸飲料に飽きれば、この甘い水で優雅な一時を過ごそうではないか。
「むむむ…む?ナ、ナツキさんそれ飲んでしまわれたんですか!?」
「おぉわ!?う、うん。何か普通の水っぽいし。キリノも飲む?」
「駄目ですよ!!そちらの押収物は───」
「キヴォトス規制品の一つ、醸造酒かもしれません!」
「…………酒?そんな叫ぶ様な…ものか?」
「甘酒、料理酒等の度数が規制ラインを超えないものは、入手は難しくありますが流通しているんですけれど…」
《…スバル様、そちらの品は…醸造酒の中でも雑酒と呼ばれるもので……》
《度数、三十六度前後かと…思われます》
「そうなの?やっばい、なんか甘ぇかと思ったら日本酒かよ!?向こうでも飲んだ事ねぇのに前科持ちになっちまった!?」
「ナツキさん、あなたには黙秘権があります…!」
「直接豚箱行き!?い、いやいや、これ事故だから!検証中に起きたふてぎわ……だろ?いやそんな…わりっ、親父俺未成年飲酒な上に犯罪者になる…」
一般的に、怪我人の飲酒は厳禁とされている。
アルコールは出血を悪化させ、脱水症状を引き起こしケガの修復に必要なエネルギーを不足させる。そして骨や筋肉の修復に重要なカルシウムの吸収を妨げて傷の治りを遅延させるのだ。
無論、怪我を治した後でも一定期間は間を開ける必要がある。栄養素が不足している分、酒による影響も早く、大きくでてしまう。
そこでスバルはというと───、
「─────」
「キリノ、ちょい寝るね」
「ナツキさん!?」
こちらも無論、夢の世界へと旅立った。
ペットボトル一本分、三十六度のアルコールの一気飲み。となれば眠りではなく引き起こされるのは気絶。
静かに、静かに瞼を閉じて、壁を頼りにもたれかかり……瞼を閉じる。意識があるかどうかは曖昧で、夢と現実の狭間にスバルは囚われてしまった。
「…ナツキさん?」
「────」
「ナツキさ〜ん、ナツキさぁ〜ん…!」
「ナツキぃさぁ〜んっ〜…ぅう…起きて下さいナツキさん…。ううぅぅぅ…私が、私が目を離したせいで…!ナツキさんが……!」
「──中務キリノ!彼から通報があった!何があっ……」
「倒れちゃいました…──カ、カンナ局長!?」
「─────」
状況を俯瞰し捉えるのは尾刃カンナの得意とする所。
そんな、駆けつけたカンナの瞳に映るのは、手錠を掛けられ、制圧された機械人。涙目を浮かばせてナツキ・スバルを摩る中務キリノの姿と、寝息も聞こえない程に静かに、まるで死んでいるかのように壁にもたれ掛かる…彼の、脱力した姿。
想像と想定は、一瞬の内に最悪を辿る。が。
「─────」
「────…」
「…ふうッ、ふぅッ…───ふぅぅッ…酒、だな?中務キリノ」
「は、はい!その通りであります!規制品の取引現場に遭遇後、検証の為にナツキさんが行動した結果、この様な状況に…!」
「……ふぅ、なら、いい。……迂闊な方だ、相変わらず」
「迂闊だったのは本官の方です!ナツキさんはキヴォトスの外から来た方ですし、こういった現場では市民の方に現場を触らせてしまってはいけないのに…!」
「彼の手が早かったのもある、そういうお方だ気にするな。……酷い匂いだな、やはりアルコールの類は嗅覚が狂う」
「──ここで吐かせていってもいいが、今の彼には酷だろう。私がシャーレまで護送して帰る。キリノは捕縛した容疑者の身柄を留置所にまで送れ…と言っても道のりは同じだが」
「はい!」
人より数倍優れた嗅覚が、カンナの判断に冷静さを保たせる。
ひとまずの無事を確認し、胸を撫で下ろした。命に別状が無ければ良いのだが、鼻の奥をつく刺激的にかなり度数の高い酒、シャーレに連れていくよりも病院が先か。
思案し、悩みつつもカンナはスバルに歩み寄って、そして近づけば近づく程死体にしか見えない静かな彼を背負おうとする。
時々送られてきた経過報告、中務キリノとのパトロールと訓練の光景を共有していたスバルは、きっと彼女の能力を見定めてくれた事だろう。依頼は十分、達成されている。
目をつぶっていれば、思いのほか愛らしい顔。
警官としての、公安局長としての誇りがあるから、御の字だと寝顔を堪能したりはしないが、
「────」
「意識はありますか、ナツキさん」
「……………………んぁ…」
「…殆どありませんね、分かりました。背負わせて頂きます」
こんな失態の姿を晒すリスクも、ちゃんと理解してもらわなければ。
特に注意すべきメンツも居る、ここに来るのが彼女らで無くて良かった、恐らく大変な事になっていたと思う。
誰よりも先に、自身を呼んでくれたこと。その事実だけでも喜ばしいというのに……。
「ふっ…」
「あまり、その様な姿を晒してはいけませんよ。次から気をつけて下さい……と言っても、聞こえていないだろうが…───」
「─────」
スバルを背負う為に、膝を曲げたカンナ。
顔と顔が一直線上で交わる関係の中、パチリ。とスバルの目が開く。
「ぁ────」
瞳と瞳が見つめ合う、赤面し、自身の荒い言葉遣いを見られたかと思い耳の先まで紅潮したカンナに対し、スバルは手をカンナへと伸ばす。
慈しむ顔で掌を、指先を頬に添わせ───、
「────!?」
片方の手が、懐から拳銃を取り出した。
未だにあの時渡したものを、大切にして下さっていたのか。そんな歓喜とは裏腹に、カンナの心中は混沌に染まる。しかし淑やかな喜びは、判断を鈍らせる原因だ。
──取り出す理由も無い、撃つ相手もいない、なのに何故か、心の奥底がザワついて。
「ッ──!!」
拳銃を握る手首を、神速で掴み取る。
「…………」
「………──」
「ナツキさん…!?カンナ局長、今の…」
「…なん、でもない。行くぞ」
「りょ、了解です…!」
───見間違えであって欲しい。
きっと見間違いだ、そうでなければ、理屈に合わない。けれど、けれどもし、今のが見間違えでないとするのなら。
「………」
銃口を向けようとした先が、彼自身であるとするのなら。
「………はぁぁぁぁぁ…」
理由はともかくとして、とりあえず風より早く動いた自分の手を、褒めちぎってやるのが先決だろう。
「…………」
「中務キリノ、今この瞬間には、何も起き無かった。我々は何も見ていない、いいな?」
「…はい」
「それよりも、どうだった。彼とのパトロールは」
「色々ありました!色々、沢山あったのですが……えっと…」
「ですが、なんだ」
「本官の言葉だけじゃ、表しきれない事が多かったです!」
「ふむ」
「でも、一つだけ確かだったのは…ナツキさんとのパトロールは楽しい!という事です!」
「───楽しい」
「本官の事をずっと見て下さっていたので、行動の隅々まで知って下さっているのはとても安心感がありましたし」
「何よりナツキさん自身が優しいお方でしたので、御指南頂いた時には彼の背中に憧れました!───全てひっくるめて、彼との時間は楽しかったと報告します!」
「……中務キリノ、良い報告だ」
「私も、そう思う。夕方のパトロールも、抜け目の無いように」
「はい──!!!」
想定よりだいぶ長くなってしまいました、読みやすさを考えるともう少し減らした方がいいんですけれどね…。ご愛読感謝です。
※ちなみに本編先生は基本、この数倍女たらしな上、釣った魚に餌をあげません。←マジで何なんだよテメェは…!責任取れ大人なんだから…!あでもやっぱり先生から生徒への恋愛感情は要らないですそんなの先生じゃないぃぃあぁぁぁ!!!うわぁぁぁぁ!!!???でもちょっかいかけて大丈夫そうな生徒には甘い顔見せてんの何なん?????ワンッ!う゛〜キャンキャンキャンキャンキャンキャンッッッッッ!!!!!!LOVELOVELOVE!!!!こっち向いて───!!!!向くなぁぁぁぁ!!!!
何のお話投稿するか決めちゃいま〜す。
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くらーい話がいい!
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あかるーい話がいい!
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へい、大将のお任せで!
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どっちも見たいよー!