Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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めちゃめちゃ短いです。そしていつもめちゃめちゃ誤字脱字報告ありがとうございます。


蛇足編『キミに溺れる』

 

 

 

「ナツキさん?」

 

「………ぅ…」

 

「──まだ目を瞑っていても構いませんよ。悪夢を見たのなら、尚更」

 

「…」

 

ああ、そうだ。

悪夢だ、夢を見た。夢であって欲しいものを見た、いつも見ていたものを見た。

どうして忘れていたのか、いや忘れさせてくれていたのか。

 

あんな奇妙で不快で、目を背けたい夢を何度も見てきた。手を替え品を替え、心をめちゃくちゃにするためだけに夢を見る。

そして、いつも暗闇で終わるんだ。

なんの代わり映えも無い、始めから終わりまで同じの光景、おぼろげにしか覚えていない夢。

 

人を殺した瞬間を夢に見るとはよく言うけれど、死んだその後が夢に出てくる事があるのだろうか。有り得もしない空想を夢描く事なんて、有り得るのだろうか。

 

知らない言葉を、知らない景色を、知らない友情を、知らない世界を、このちっぽけな脳は想像してくれるのだろうか。

 

「─────」

 

「おはよ、カンナ。今日も今日とてプリティーフェイスだ、かわいい。大好きだよそのギザ歯。そのイケてるもちもち顔をもっと寄せてくれても良いんだぜ」

 

「貴方こそ、そのような無防備な姿を簡単に晒されては困ります。キリノを抑えるのも大変だったんです、少しは人を褒める分、ご自身も同様に思われていると考えてみては?」

 

「──あ、あう。え、その、ご、ごめんなさい?」

 

珍しく、カンナの口調が強い。

スバルの身体がシャーレまでに届いているという事は、カンナに迷惑をかけてしまったという事、少々のお怒りは甘んじよう。

 

──酔いが回って働かない思考を、そうやって必死に働かせても無駄なのだが。

 

「…まだ酔ってますね…。それに口説かれ慣れては無い…いや、褒められ慣れてない」

 

「ぐぅ!?その、カンナ…。的確に俺の弱いとこ突っつかないで…。むねがずきゅんずきゅんしちゃう…」

 

「弱いところに触れに来るくせ、触れられるのは嫌だと?」

 

「触れる──って、もひかして酔ってる間ぶつれてきになんきゃしたっけ…」

 

「何も!…何もされてませんよ、ご安心を」

 

「耳の端まっかっかなんですけどー。説得力が~ありません!」

 

「っ、ナツキさん…!」

 

先ほどまで何を考えていたのかすっきりすっかり抜け落ちて、ポヤポヤと視点が頭の上にあるかのような幻覚と共に、ソファーにて隣に座るカンナへと飛びつく。

猫のように喉を鳴らすことはできないが、あざとく手を招き猫仕草をして、

 

「っ…っつ───ッ!!!」

 

「耳、モフらせて欲しい。食べてもいい?」

 

「────だ、ダメです!?!??!」

 

「いいじゃん減るもんでも無いし」

 

「減ります!減るんです!!」

 

「ケチ」

 

「─────」

 

《────映像記録再開》

 

「っ…!遺産!見ているのなら助け…」

 

《そのままスバル様の酔いが覚めて、赤面し、私に慰めて貰う段階まで耐えて頂けませんか?》

 

「ふざけっ、ナツキさん!しっかりしてください!」

 

《スバル様───既に帰宅済みです。ご自由に》

 

堂々と見捨ての宣言を言い放った愚かな機械に対抗し、スバルの両肩を掴んで顔を突き合わす。

今までの様に強靭な精神力を持つ彼ならば、こうして冷静になれる場を用意するだけで目を覚ましてくれる筈だと。

 

「────」

 

「大丈夫だって、俺ってば無敵のナツキ・スバルだぜ?…てか暑っ」

 

しかしその目論見も、記憶の混合によって幼児退行を引き起こしたスバルにとって何の意味も果たさなかった訳だが。

見れば、酷く紅潮した顔色だ。発汗している所を見るに体温が急上昇しているのか、死人のように眠っていた時と比べて元気が過ぎる。

 

さらに不味いのは機能を停止した臓器の数々が活動を再開したのか、発汗とともに甘ったるい酒の匂いが先程の数倍強く匂い始めた。

酒の類を一切口にしないキヴォトスの生徒にとって、その匂いは飲酒と同等の錯乱を脳内に引き起こす。

摂取したてとは違い、スバルの全身を酒気が覆っている状況、カンナにとって人生最大の試練が訪れている。

 

「わ、私は!ナツキさんが目覚めた様なので失礼致します!!」

 

「帰るのか?ならちゃんと送り迎えしなきゃだ、アロナ!準備宜しく!」

 

「クソッ…分かってるな遺産!?」

 

《────》

 

「返事をしろ!おい!」

 

「はい!カンナに返事!よし返事おっけー。それじゃ行こうぜ、みんなで手を繋ぎあっえぁう……」

 

「まだ寝ときましょう!ね!?ナツキさんのお身体はまだ外出に適していません!」

 

「適してない…なら、適応するまで!」

 

何を思ったのか、いや思うのならば発熱した身体を冷ますためなのか、遂には服を脱ぎだした。

脱ぐ間にもフラフラと、脱いでる最中に寝てしまいそうな具合でジャージをソファーに投げ捨てる。

 

頼りないが過ぎる動きでカンナの手を握ると「出発進行!」と腕を突き出し、手を引いて外を目指し始めた。

視線を部屋の隅々にまで配って、遺産の力を借りようとするも静観を決め込んでテコでも動かない。なんなんだあのポンコツは。

この蕩けた表情、はだけた服装、その上で二人きりの外出、公安局長たる身でそんな事案を引き起こせばどんな誤解が生まれるか分かっているだろうに、

 

「本当に大丈夫ですから…!ナツキさんの手を借りずとも、一人で帰宅出来ます!」

 

「一人で、帰れる…?」

 

「っ、はい。勿論、ですので───」

 

「………なら、俺は何をしたらいい?」

 

「…何もせずとも、今は休んでいただければそれで」

 

「休む…でも、カンナの為に、何かしたいよ。何でもしたい、させて欲しい。カンナの為にそんなんも出来ないのなら、俺は居る意味も無い」

 

「────」

 

「頼むよ、なぁ。役に立ちたい……」

 

「俺、役に立てる、出来るから……何でも、やってみせる。何だってやるさ、みんなが望むのなら……なんでも……」

 

「───……」

 

もし、直前に懺悔を吐き出していなければ。

もしも後悔に塗れた心で彼と触れ合っていなければ、こうも恥ずかしがらず済んだのか。

理性と本能の狭間で瞳が揺れる、学生としての本分の一部、聞こえはいいが唯の欲望だ。

 

甘いも苦いも飲み込んできた身からすれば、一般的な恋愛観とは余り触れ合いようが無かった。だからこそこれが庇護欲から来るものなのか、罪悪感から来る代物なのかも分からない。

 

赤く茹で上がった頬の上を流れる涙も、手を離してしまえば今すぐに消えてしまいそうな儚さも、居場所を得ようとする為に懸命に縋る姿も、今まで見たことの無い姿。

 

「…………帰ったとて、するのは仕事か」

 

「学生の本分とやらは、一体何なんだろうな……」

 

仕事で忙殺されることか。それか犯罪者の為に身と心を削り続ける毎日?居場所を得る為に命を張る事?それが学生の、青春時代に───。

 

「……」

 

目を瞑ったまま、涙を流し体重をカンナへと預けスバルが再び眠りに落ちる。

腫れぼったい瞼は零れるものを受け止めることなく下へと落としていく。

 

彼の為に何ができるわけでもないが、何かしたいとは願っていて、何をしたらいいかも分かないまま、そのために行動を起こす。

 

「…………」

 

──身体に腕を回し、休憩室の扉を開く。

まだ誰も使っていない部屋は、窓の縁を指でなぞったとしても埃が付くことは無い。

その場所は、仮眠が行えるようオフィスのソファーとは違うリラックスのための柔らかいソファーや、白無垢のベッドが備えられていた。

 

脳内でゴールの鐘が鳴るような、そんな気がしたのを頭を壁へ打ち付けて目を覚まし、微細の揺れも無くスバルをベッドへ安着させる。

相も変わらず迂闊で、隙だらけで、目を離せば掻き消えそうなのに、細くなってしまった身体が余計消失感に拍車を掛けてくる。

 

キヴォトスは、彼にとって余りにも危険だ。

彼を受け入れ理解している者程、喪失に対しても受け入れる準備が出来ているのだろう。

けれど───尾刃カンナはそうでは無い。もし、ふとした拍子に彼の肉体が欠ける様な事があれば、

 

「……はぁ…」

 

そこに殺意への抑止力は無い。そのイメージだけでも、握り拳の中に血が滲む。

職業柄暴力と長く触れ合ってきたからか、キヴォトスに内在する暴力性への理解は横に並ぶ者は居ないと思っている。

 

──大人と私達の違い、暴力への忌憚の無さ。

 

求める結果に辿り着くために、簡単に暴力という手段を取りうる。

対話を望み、その手段が間違っている彼からすれば恐ろしくて堪らないだろう、コミュニケーションの道具でしかない『銃』ですら、生殺与奪を左右するものなのだから。

 

つまり、私も死に至る暴力への抵抗感を無くせるという事。

 

「本当に、本当に……」

 

「あまり、心配させないで下さい…」

 

「私は貴方のような人間では無い、私は簡単に理性のラインを飛び越える側で、ただ厳格にしていなければならない立場と責任があるからそうしているに過ぎません」

 

「…………」

 

「今度こそ失礼します。仕事に戻らなくては」

 

それでもまだ、彼は私の袖を掴む。その場を離れようとする私の、その逃避を感じたのか今までよりも強く握る。

 

これから彼と知り合う人間は、きっと苦労する。

酒に酔わねば出てこない弱さが、こんなにも優しく残酷なものなのだ。

心を抉るものが痛みでも苦しみでも、絶望でも無く、優しさだけである時───最も弱さを実感するのは、他でもない自分自身。そしてそれは、多分。

 

消えない傷に変わってしまう。

 

「…これぐらいしか、出来ません。これでもう、帰して下さい」

 

腕を首に回し、回した手で頭を撫でる。

それぐらいしか、出来なかった。

それだけしか、出来なかった。

 

 







言うなれば蛇足編『尾刃カンナ』でした、本編で大体語ってる箇所ではあるのでこういうシーンは必要無く、つまりは蛇足です。

(短いのは脳内戦争の末、前話の最後に入れようと思ってからカットしたけど、やっぱりシトシトイチャイチャしてるとこ見たかったんです……ごめんね……)

そしてこちらアルパカ大帝様から、ファンアート頂きました!93話のファンアートとなっています!!

【挿絵表示】



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