Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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蛇足編『温泉開発における爆破の必要性』

 

「……ねぇ、アロナたん」

 

「……」

 

「俺さ、酒飲んだ後…つまり昨日の記憶が無い訳でして。つまり今俺が無事なのは俺以外の誰かのお陰って事じゃん?」

 

「はい」

 

「誰がシャーレまで、それにベッドまで運んできてくれたの」

 

シッテムの箱内部にて、アロナのミニマムな両手を握りスバルが問いかける。

しかしアロナは眉を下げるばかりで、心境を明かすどころか目を合わせようともしない。

 

「──お答えできません」

 

「………このやり取りすんの、六回目だよね?」

 

「はい」

 

「なんで!?なんで急に反抗期がウェルカム!?」

 

「いいえスバル様、私は現在…反省中なのです」

 

眉を落とし水面を見つめるアロナの目は、何処か決意と懺悔が含まれている様で中々その砦を崩せない。

自身の戒めか、従者らしさを保つ使命感か、表情筋を沈めスカートの裾を掴んでいる。

 

「自らの欲望を律せず、結果的にカン……お力をお借りした方へ迷惑をかける形に…」

 

「カンナだよね、カンナしかいないもん。事前に呼んでたし、カンナなんだよね?」

 

「……お答えできません」

 

「アロナたん!ねぇ!諦めよ!?」

 

「私は…A.R.O.N.Aは…スバル様の相棒失格です…」

 

「失格じゃないから!つーか、失格ってアロナたん俺が寝てる間に何してんの……」

 

「お答え───」

 

「あー!!ろー!!なー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──朝の身支度を整える。

手を洗う、顔を洗い歯を磨く。鏡に映る自分の姿を適当にチェックして、髪の毛のハネを直していくと、いつも通りのナツキ・スバルが完成する。

 

「よし、今日も俺は俺っと」

 

あと数年もすれば、もう少し顔に貫禄が付いたりするのかどうか。

スバルの顔は、ただ目つきが悪いだけで顔のフォルムは丸めだ。タッパがそこそこ無ければ、デカめの中学生に思われたかもしれない。

 

そんな雑多な思考を切り捨てて、カッターシャツの下にジャージを着込む。

どうにも、このジャージを着ていなければ落ち着かない。調子が出ない、テンションが下がる。

 

一種、呪いの装備と化しているボロボロのジャージ。入院中にアヤネがこっそりと、限界まで直してくれたけれど、元の布地がほとんど焦げていたこともあって若干雑巾を思わせる見た目になっていた。

 

「────」

 

随分と、見違えたものだ。

ソファーに沈み込むだけの情けない男が、スーツを纏って身嗜みを整え、これから訪れる業務に立ち向かおうとしている。

 

幾枚か、いや何百枚ぐらいか撮っておかないと満足しない両親の為に、様々なポーズを鏡の前で練習する。

アロナなら言わずとも撮影し、この晴れ姿をシャッターの奥へ残してくれている事だろう。

 

「───」

 

綺麗な顔だ。

自分の目を見つめても嫌悪感が湧かない、表情筋は自然に動き、憑き物が落ちた様な顔でそこに男は佇んでいる。

もっとも、自分の顔の美醜を評するものではなく、綺麗な顔というナルシスト的評価をする趣味は無い。

 

「弁当用意、宿題…つーか業務やる、担当の子と会話して、問題は先に解決」

 

「ユウカにもお礼参りしとくか…この前めちゃくちゃ世話になったし、カンナにも謝罪のメール送って…」

 

一日の大まかな予定を先に口へと吐き出しておけば、唐突なトラブルへの予防にもなるし、スバルの省エネで選択を行える。

万全で物事に臨める、なんて希望的観測が何度打ち破られたか。大きな理不尽に見舞われすぎて、小さな理不尽に慣れてきた己ならば、コンディションが最低値になっても24時間働いてみせよう。

 

「新卒採用しょっぱなブラック企業に就いた気分」

 

《スバル様、本日の当番の方が到着なされました》

 

「──派遣…」

 

カチャリ、とベルトを回し締める。企業として例えたせいで、当番制に派遣社員の姿を重ねつつ、アロナの声を聞いてデスクチェアーへと腰掛けた。

 

少しカッコつけを含めた仕草で、扉の奥から現れる生徒を待ち望む。今回はどんな相手が、どんな学校からどんな性格の、素敵な生徒がやってくるのかと期待で胸を躍らせて、

 

「ハーハッハッハッハー!!ごきげんよう!シャーレの部長さん?」

 

「今回当番の席を強奪…元い希望させて貰った、鬼怒川カスミだ。よろしく頼むよ」

 

──また厄介そうな奴が来た。

全身の感覚が全力で警戒を告げている、そんな元気いっぱいな小さな来客から差し出された手を、苦笑いで取ったのであった。

 

 

 

 

 

 

「ハーハッハッハッ!やはり何かと権力者とは手を結んでおくべきだな!」

 

「………」

 

「どうした部長くん、顔色が悪いじゃないか!そんな調子では、本日の開発が上手くいかないぞ?」

 

「この顔色が通常だっての!エブリデイ不健康児なんですこっちは」

 

何処か聞き覚えのある笑い声。

何処かと言えば、この世界に来てからシャーレ奪還までの間で、何回も聞いたことのある危険人物の声なのだが。

しかも、アロナから渡された生徒情報にはどこをどう見てもテロリスト以外の何者でもない実績が述べられていたり、

 

「ふむ!ならば温泉に入ってリラックスしてみないか?丁度開発予定区の開発日が今日───いや、先に話しておくべき事があったな!」

 

「部長くん、君の──活動方針を聞いてみたいんだ。無論温泉開発部部長として、連邦捜査部お抱えのキミに、貴重な意見を頂きたいと思ってね」

 

──鬼怒川カスミ。

温泉開発部部長兼テロリスト、温泉開発を行うという名目であちこちで見境のない破壊と爆破を行う部長だが、その活動方針に嘘偽りは無いらしい。

 

なるほど、言葉は通じるけど話は通じないタイプか。もう厄介払いしたくなってきた。

何よりも、こちらを利用する腹積もりしかないであろう彼女の目。

手を貸してもロクなことにならない、そもそもロクな相手じゃない。

 

──を、承知で話を聞き入れる。

初対面で顔面を撃ち抜かれたり銃を向けられたりし、そんな理不尽を行使しないのならば、多少の事は受け入れよう。

 

「活動方針ねぇ……まぁ、出来る限りリンちゃんには生徒の問題を解決して欲しいとは言われてる」

 

「言われてる──ならばキミは?キミはシャーレ部長の座において、何を望むんだい?」

 

「みんなの笑顔、チープだけどいいだろ?」

 

「素晴らしいな!私の期待した通りの人物だ、強硬手段を取らずわざわざ当番の権利を頂いて、鬼が出るか蛇が出るか気になってはいたが……」

 

含み笑いをして、わざとらしい高笑いをスバルへ向ける。

スバルの返答に満足した訳では無いだろう、そんな事には恐らく興味が無い。尻尾が暇そうにブンブンと動いているのを証拠にしていいかは怪しいが、この類の人間は会話に意味を求めない。

 

「……………」

 

「なに、鬼が出たのか蛇が出たのか、どっちなの」

 

「………あー」

 

「──ハーッハッハッハ!うん、止めだ。キミはめんどくさい、かなり、いいや大いに!」

 

久しぶりにめんどくさいと言われ、心の中に笑顔を浮かべる。

けれど何が気に触ったのかは分からない、下手な対応をしたつもりもなく、まだ初対面二分の関係値でめんどくさいの印を押されるとは思わなかった。

 

首をかしげ、カスミへ唇を動かそうとするも、目を細めスバルから視線を扉へ移そうとするカスミの気は引けない。

 

「失礼したね、私は帰らせて貰う事とするよ」

 

「待て待て、そうは問屋が卸すかってんだ。当番として来てくれたのなら、当番として働いて貰うぜ?」

 

「おや、そうだったな!だが私は生憎、開発と関係の無い書類と向き合う趣味は無いのだよ、部長くん」

 

「──そっか。……あーあ、早めにリンちゃんからのお仕事終わったら、『自由時間』が増えんのになー」

 

「ふむ?」

 

「強制するつもりは無いから帰っても大丈夫、でもその後に残される涙目の俺の事を思い出して夜を過ごしてくれよ?」

 

「────」

 

「協力しよう!キミの提案に乗らせてもらおうか!ハーッハッハッハ!!その代わり、キミの自由時間は私のモノになる。これは約束だ、いいね?」

 

──言葉に複数の意味を持たせる会話は苦手だ。

人間は言葉の中で多くのフリ、をする。

建前、冗句、他者からどう見られるかを意識して、自分のブラックボックスに触れられないよう取り繕う。

 

この元気いっぱい開発娘にもスバルの目からは、無数のフリ、が見える。

 

笑顔の裏側は真顔、悲しみの泣き顔には怒りの顔が裏にある。実際の感情を表に出さないように、そして何ともないように他人と接することができるのが人間であるとして、

 

「今日はよろしく頼む、カスミ」

 

「ああ。よろしく頼むよ部長くん」

 

──やっぱり、隠してばっかじゃ味気ない。

隠喩ばかりの会話は、スバルの性にあわないのだ。

 

「俺はみんなに笑顔になって欲しいからな、勿論カスミも笑顔にしてみせる」

 

「笑顔〜?それならば私はとっくに」

 

「──別に、手伝うのは対価じゃない。俺は仕事を手伝って貰わなくても、カスミが困ってたら助けてたってのは覚えといて」

 

「………。ハハッ!何とも有難い言葉だ!次からはそうさせてもらおう!今回は──授業料と言ったところかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒナ、ムツキ、ホシノ、ノゾミ、ヒカリ……カスミ…」

 

──見事なラインナップだ。

ヒナから始まったロリロリズ、最近はなりを潜めたかと思ったが、やはり運命とはいかんともしがたい。

現に、この萌え袖をブラブラと提げ、ショーパンに服の裾を通すと、余り過ぎて裾が下からはみ出てしまう彼女と巡り会った。

 

「ブツブツと……どうしたんだね部長くん。課された仕事は終わり、遂に開発を進める時がきたというのに」

 

「そのさ、ぶっかぶかの白衣着てて邪魔じゃねぇの?地面擦ってるけど」

 

「なぁに、私の半身の様なものだからね!それに身体を大きく隠せるフォルムは何かと便利なのさ」

 

「こっちの世界での機能性って奴か…。同時に激カワ萌えファッションの役目も果たしているとは、流石に恐れ入った。パーフェクト、百点」

 

「ハッハー!それは良かった!」

 

話してみれば、テロリスト相手でも案外口が回る。人種差別ならぬテロリスト差別をする訳では無いのだが、このトリガーハッピーの世界で、武器が言葉とは。

二重の意味で恐れ入る、対話の『話』が『銃』に置き換わった世界で、カスミは言葉巧みに自分の有利をもぎ取ろうとする。

 

悪い方向で、ナツキ・スバルとよく似た相手だ。彼女にとっては鏡を見せられているだろう、この上なくめんどくさく、スバルにとっては今までに見たことのない知略ロリで有難い。

 

「それに助かったよほんと。俺に対してリンちゃんったら容赦無ぇんだこれが…。鼻水をたらし!涙目で命乞いをしても!!突きつけられるのは書類の山!」

 

「当番で来てくれる生徒だけが俺のマイオアシスって事、自分がどれだけ重要な役割か分かりましたか!?」

 

ビシッとカスミへ指をさすと、まるで先から根元まで舐め回す様にスバルの突き出した指を眺め、シッポをパタつかせる。

やれやれ、噂に聞いた怪物が情けない。とでも言わんばかりのヘラヘラ顔を晒す。

 

「ハハッ、あれ程度は処理出来るようにならねばならないよ部長くん!」

 

「ナツキ・スバルは百折不撓ってな。あれ程度って奴を何千回繰り返して、漸くミリ単位で前に進むんだよ」

 

「それなら私も、温泉開発部部長として負けてられないな!不屈不撓で頑張らせてもらおうか!」

 

「んで、談笑致しましたところで…温泉開発って言っても何すんの?」

 

「ふぅむ……地質調査、開発予定区の事前視察、爆薬配備…色々あるが、重要なのは勘、だ」

 

「──勘」

 

「何処を掘り、何処を開発し、どう人員を配備するのか、全ては経験に基づく勘さ!つまり温泉開発とは、我々温泉開発部の経験則に依る純然な開発行為全般を指し示す!」

 

ならばあの、開発だと叫びながらダイナマイトをドッカンばっかんするのも行動意欲による──いわば、学生の健全な行動力の発散と言えるのか。

 

カスミの純粋無垢な笑顔には、温泉開発への至純な想いしか見て取れない。破壊行為をしている自覚が無い訳では無いのだろうに、全く、良い性根をしていると舌鼓を打つ。

ペタペタとサンダルの音を鳴らし、愉快げにどこへ向かうのやら。連れられるままに歩くスバルには、まだ可愛げのある少女にしか見えない。

 

「そこで」

 

パチンと指をはじき、その矛先をスバルへと向ける。視線にまとう雰囲気は怪しさと危険さが増し、スバルの第六感へ針を刺すように突き刺す。

人との出会いは一期一会なんて言われ方をするものだが、その機会をここまで全力で利用しようという気概を持つのは、スバルを利用するその価値を推し量っているのかもしれない。

さすがに、それは杞憂が過ぎるか。単なる温泉開発への無垢な想いと考えておいた方が間違いない。

 

「──開発の障害となるのは、語るまでも無く風紀委員会となる。いや、その自治区を守る治安部隊全般かな?我々の邪魔物達は日夜目を光らせている」

 

「今日、部長くんにしてもらいたいのはね。そういった『邪魔者』達から私達を守って欲しいんだよ、確か……シャーレの活動は、健全な生徒の育成や部活動の補佐といった役目もあるんだろう?」

 

「……要するに今から部活動したいから、シャーレはシャーレらしく活動しろって事か」

 

「そんな風に言ってはいけないよ部長くん、キミはキミらしくしてくれればいいだけさ!」

 

「良い風に言ってるけど俺の役割ってさ───ゴミ捨て場のペットボトルだよな!?」

 

「ハーハッハッハッハ!!そうは言っても私に今同行してくれているのが、キミの意思と決定を表しているんじゃないかね!」

 

それはそうだと返すほかない、どんな下っ端の役割を任せられようが雑務をさせられようが、ナツキ・スバルはこの愉快な少女に受けた恩を返さずにはいられない。

それにこれは証明にもなる。連邦捜査部シャーレは、決して生徒の問題行動や性格を矯正するものではなく、それをより有効的に導いていく組織だと。

信じていいモノと信じれないモノ、その区別が難しくなるにつれ苦痛は増えていくもの。

 

「カスミ」

 

「俺は全然それでいいし、なんならもうカスミを信頼してる。だから無駄に読み合って疲れんのも無し、俺は身体投げ出して信頼するから…その分、信頼してくれよな」

 

「────」

 

「さあ!ゴミ捨て場のペットボトルでもぶら下がったカラス除けのCDでも、何でもいい。カスミがやりたい様に、俺はついてく」

 

「ハハッ、キミは私の部下によく似てるな!そのあどけなさは大切にしておくべきだ───さっ…こちらへ来たまえ!」

 

手を引かれ、町中のシャッターが下りた家屋の前に連れられる。乾ききった雰囲気とシャッターの凸凹に積もった埃が、スバルの肺に侵入しようとするのを溜息で跳ね返す。

積もった埃の数か所には、何かが触れた様な小さい跡があり、丁度彼女の指先程度の大きさなのが見て取れた。

 

トントントントン、そう四回分のタップ音がシャッターの向こう側に聞こえたのか、何かが引きづられる音が聞こえると開いたのはシャッターではなく横の壁そのもの。

 

目を見開いて興奮した鼻息を漏らすと「こういう仕掛けが必要な時も多くてね」と、スバルに対して横目を流した。

誘われるがままに暗闇の奥へと歩んでいき、

 

「あ!お帰りぶちょー!」

 

暗闇とは似ても似つかない、全ての暗雲を祓いそうな明るい声が聞こえてくる。

 

「ただいま、メグ。何も異変は無かったかい?」

 

「うん!今ね、みーんなでババ抜きしてたとこ!」

 

「ババ抜きって……こんな暗くて手札見えんのか…?」

 

「ううん見えない!だからね、誰がどんなカード引いたのかは頭の中で考えるの!───あれ、今の人誰?燃やしていいー?」

 

「燃や、え?」

 

疑問符と共に、闇の中へ烈火の炎が吹き荒れる。

アレは、とスバルの脳内百科事典がめくられると、その闇を照らす炎を生み出した兵器がナニであるかを見抜いた。

 

──火炎放射器だ。銃器は見ても、他の兵器を見ることは少なかったキヴォトスで、火炎放射器などとロマンあふれるものが自分に牙をむくとは思いもしなかったが、

 

「ストップだメグ、出かける前に言っただろう?協力者を連れてくると」

 

「うん!ってことは、その人が協力者?ぶちょーのお友達って事?なら…私ともお友達だね!私下倉メグ!よろしくねー!」

 

「お、おう。宜しく…。初対面で燃やされかけたのは初めてだわ……」

 

こうしてまた、スバルのハジメテチェッカーが埋められてしまった。これは監督不行き届き事でカスミに責任を追及しよう、お宅の部員はどんな教育がされているのだと。

暫くして電球のうなり声に伴い部屋が光で照らされる。先ほど炎でちらりと覗いた姿形はかなりのガタイをしていたが、暗闇が開けてみれば唖然、スバルの意識は火炎放射器を持つ彼女ではなく、この狭い空間に押し込められた部員たちに吸い込まれた。

 

トランプ、ババ抜き以前にこのおしくらまんじゅう状態では何もできない。よくも火炎放射器を放てたなと、改めてメグへ視線を戻すと、案の定火炎放射器の余熱で頬を赤らめていて、大きなタッパに立派な兵器、カスミと同じようにツルツルとした、海洋哺乳類の肌を思わせる艶のある尻尾。

燃えるような赤髪はそのまま、所有する武器と温泉開発への熱意を表している様に思える。

 

「……」

 

この空間に押し留められて、誰も何一つ呻きも不満も聞こえそうに無いのが驚きだ。場に満ちているのは、鬼怒川カスミの帰還への喜びだけ。

 

「さぁさぁ全員注目だ!今回の温泉開発における救世主の紹介といこうじゃないか!」

 

「遺産継承者にしてカイザーを滅ぼした傑物、超人の後釜とまで噂されるナツキ・スバル!彼が!我々の温泉開発を支援してくれる……──ならば!我々は彼の名に恥じない働きを見せなければならない!!」

 

「「オォ─────!!!」」

 

落ち着いていた場の雰囲気は一変、カスミの添加料タップリの演説に酔いしれていく。

拳を突き上げ、この狭い空間には鬼怒川カスミの声とそれに応える信者達の声しか存在しない。

 

「今回は最大にして最悪、最強の敵が立ち塞がっている!大敵空崎ヒナ、彼女に対抗する為の秘策が彼だ!」

 

「「うぉぉ────!!!」」

 

「へ〜、俺がヒナに対しての秘策……ヒナ…に対しての──!?!?」

 

明かされる衝撃の真実、なんとスバルはあのヒナに対抗出来る実力の持ち主だった。

なんてことはなく、耳に飛び込んだその単語から導かれるのは『無茶振り』の一言。彼女を敵に回すなんて、スバルのメンタル的な問題では無く……そも、何があっても敵に回さないのが正解の相手。

 

世界最強として挙げる内の一人にスバルが何をしても叶う筈が無い、もしやスバルが超人の後釜だなんて呼ばれているから、それこそスーパーマンの様な強さを想像したのだろうか?

 

パッと現れ、温泉開発部の温泉開発(テロリズム)を助けて去っていく、そんなスーパーヒーローに。

 

それならばお門違いを超えてお国違い、スバルがヒナに出来るのはあのふわふわな髪の毛をモフる事と、ありがとうありがとうと頭を下げ続けることだけ。

 

「安心したまえ、部長くんの想像している様な使い方はしないよ」

 

「使わせて貰いたいのはココ」

 

指先で頭をトントン、詰まった脳みその音を聞かせるように突っついて、スバルの無謀な思案を打ち壊す。

 

「俺の、頭…」

 

「ハーッハッハッハ!キミの実力は下調べしてある、武力的側面では私と同等とも。だからこそあの終わりとも言える戦局をひっくり返した頭脳を借りたい」

 

「だからってカスミ……ヒナは、ヒナは俺無茶だと思うんだ…!」

 

「無茶がどうした!温泉がそこにあるというのなら、そこに我々がいる!温泉がなくとも我々がいる!ならばどんな壁にも向かわなければならないのさ!」

 

「絶壁が過ぎるんだって!?例えるならデスフォールだ!登っちゃだめ、向かっちゃダメのデスゾーン!!」

 

「キミが配信で見せた死中に活の精神はどうしたんだ!」

 

「活の字が見えねーつってんだよっ!死中じゃなくて死だろ!死んでたら活もクソもねぇって!」

 

自分でも何を言っているのか分からないが、それほどまでに無茶であり無謀であり、無理。

万が一を引き当てる為に奔走する弱者と、万が一を防ぐ強者では余りにも力関係に差があるし、何よりその差も対岸が見えなくなる程とあれば、

 

「部長……開発、ダメそう?」

 

「カスミ部長……」

 

「むぅ…」

 

「────」

 

──俄然燃えてきた。

見えないのなら見えるまで近づきに行こう、こんなにも悲しそうな顔をする生徒をスバルが生んでしまうなんて、何があっても許されない。

何よりこれ程慕われているカスミの、その部員達の期待を裏切る様な態度をとってたまるか。

 

「ふはっ…心配すんな!!無茶無茶無理不可能、貫き続けて早百年!」

 

「百年も!?」

 

「はいそこメグ、ツッこまない。ごほん、ここにいるみんなの笑顔が見れるってなら、俺の全力貸してやる!」

 

「温泉開発?上等だ!このシャーレ部長が何とかしてやらぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムリムリムリ!ムリポ、もう無理!ぜぇんぶだめ!!」

 

《この経路での空崎ヒナ様の行動パターンはデータが少なく、誘導できるか否かの確率は五割程かと……》

 

「ぐぅぅぅ……ぐぉぉぉぉ……」

 

───やっぱり無理だ。

カスミにトイレ休憩の時間を貰い、作戦会議から離脱してアロナにお力添えをと頼み込んだのはいいものの、やはり無理。

 

スバルには別の目標もある、それは温泉開発部によって不幸を被る相手へのフォローだ。想いが純粋無垢だからといって、破壊行為テロ行為を肯定する訳じゃない。

あらゆる手段、あらゆる人手を借りて温泉開発部による被害を抑える。

 

「カスミとの約束は守る、ヒナ達の迷惑も考える、両方やらなきゃいけないってのがシャーレ部長の辛いところだな…」

 

どうしようも無くはない、目的と手段を入れ替えて考えてしまってはいるが、カスミ達の目的はヒナを止めることでは無く温泉開発。

カスミ曰く、本来なら存在を悟られる事もなくダイナマイトを仕掛け、爆破開発後即退散のつもりが、よりにもよってヒナにその動きがバレてしまったらしい。

 

故に、警備にあたっているヒナを突破出来なければ予定地の爆破は行えない。目的と手段が入れ替わる理由がここにある。

 

「名付けるなら『空崎ヒナ攻略戦』って所か…ゴールまでが果てしねぇ……光明すら見えないってのに…」

 

《……不躾ですが、カスミ様の計画を未然に防ぐ、と言った手段は…》

 

「取らない、その選択肢は無い。せっかくあんな目ぇキラキラさせてんのに、裏切りで泣かせたくねぇ!でもヒナがどうしようもない!!」

 

頭が捩じ切れるかと思わせる難題二つ並びに、スバルの奥歯もそろそろ噛み砕けてしまいそうだ。

後ろ頭をかき、首をひねり、喉を唸らせても何も出てこない、それでもなんとか出来る限りの誘導と作戦は立てよう、そんな面持ちでトイレのドアを開けて、

 

「───」

 

「随分と大きな独り言だったね、部長くん」

 

「キャー!ストーカー!?……冗談。付いてきてたんだな、カスミ」

 

「逃げ出されでもしたら皆悲しんでしまうからね!部長として、キミから目を離す訳にはいかないのだよ」

 

「逃げねぇって、あんなに頑張って作戦考えてたろ」

 

「作戦…。ふふっ、まぁそうだ。部長くんは実に、真摯に、我々に助力してくれている。そして風紀委員側にもね」

 

「……………そっすね」

 

「そんな顔をしないでくれたまえ。我々は同類なのだから、仮面の一つや二つ被って当たり前だ」

 

「仮面の下の素顔さえ本物である保証も無い、それでも、我々は手を取り合って温泉開発という大きな目標へ向け一致団結している。それそのものが素晴らしいと思わないか?」

 

「……ああ」

 

不敵な笑みは、真意を悟らせないためのエグザジュレイトなのか、ただ単に笑顔が不穏に見えるだけなのか。

同類、と呼ばれるとしっくりきてしまう。誰でも自分を装うのは普通だが、そのやり方も人それぞれ。同類ならば、その装い方が似てると言えよう。

 

「部長くん、キミは───」

 

「仮面を被りすぎている、キミはどちらかと言うとメグ側だ。少なくとも私の様な人間に同類と呼ばれる筋合いは無い」

 

「ゆめゆめ、仮面の下の自分を忘れないように」

 

「どうしたんだよ急に……しめっぽい」

 

「性根と合わない他者への尊重は、いつか身を滅ぼすと言っているのだよ。私もそうしてみた時期はあったがね、結局は先に私が我慢出来なくなってしまった。その分、私のメグは最高の部員さ」

 

「──俺もそう思う、俺の姿に自分の姿が重なったってなら、そう言える相手は余計に大切にしなきゃだな?」

 

「ハッハー!言われてしまったね!それでは会議室に戻ろう!!」

 

「さて部長くん、空崎ヒナをどうにかする方法は……思いついたのかな?」

 

「────勿論」





『空崎ヒナの天下無双』①
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