Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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蛇足編『苦労人』

 

 

 

──業務、業務、業務、業務。

万魔殿からの書類を処理し、違法行為を働く生徒を捕縛し、不良生徒の取り締まりをして、風紀委員会の損失と補填、明日明後日明明後日必要なものの準備を行い、漸く朝を始められる。

 

「アコ、この事案はイオリに対応させて。チナツは別行動」

 

「はい」

 

霞む目に刺激の強い目薬を。

凝った肩には敵の銃弾を。

傾く意識にアコの淹れたコーヒーを。

 

私が風紀委員を引退してもこの治安を維持出来るように、上から下まで情報共有が出来る体制を整えて、仕事を引き継いですぐ活動出来るように、活動指針と行動方針を明確に、そしてマニュアル化して、誰がどの仕事を引き受けたとしても苦労しないように。

 

「温泉開発部の件、あの場所には私以外寄らせないで。計画がバレているのに強硬決断をする以上、カスミにも何かしらの秘策がある」

 

「分かりました、周囲一帯に敷かせてある監視網はそのままに、民間生徒の立ち入りを防いでおきます」

 

強い人間が効率を求める為に行動するのは当たり前で、強く在れない人間が上を見るために工夫を凝らすのは当然で、弱い人間が立ち上がり歩き続ける為に必死に頑張るのは言うまでもない。

そして、性根がどうであれソレが出来ない人間がいるのも当たり前で。

 

「……」

 

当たり前だと思い続けてきたモノに、感謝の言葉を述べられる事が長い間無かったから、少しづつ自分を無視する幅が増えていった。

 

人が出来ないことを、私が頑張って出来るのなら、してあげたい。私が『しない』選択肢を取って悲しむ人がいるのなら、それを無くしたい。引退までもう少しでも、あと少し、あと少し、ほんの少しだけ、『する』選択肢をしていきたい。

 

「────」

 

もしも、私が何処か道の途中で、諦めていたとしたら。

もしも、選択肢のもう片方を選んでしまっていたら。

 

「はぁ」

 

あの砂漠で無くなっていたものは、きっと計り知れない。

 

「出るわ、後をよろしく」

 

「行ってらっしゃいませ、委員長」

 

最近、悩み続けている事がある。

私は冷徹な人間だから、優しくも、優秀な人間でもないから、多分間違いに気が付けないと思う、だから───私は『しない』選択で悲しむ人間を見て、悲しまないように『する』選択肢を取ってるのかもしれない。

 

そんな考えが頭を過ぎった、だからどれだけ必死に頑張っても、私のやっていることは徒労に過ぎないのかも。

 

「────」

 

「壊されるのが嫌だったら、あの場所から移動させればいいのに……また嫌がらせの為だけに意地を張って」

 

ゲヘナ学園生徒会長羽沼マコト、優秀だけど意欲の発散方向が権力にしか向いていない人間。まさか黄金で自分の像を作るだなんて、物好きも過ぎると呆れを通り越す。

いつもならイオリに任せた案件だったけれど、わざわざ向こうから指名してきたせいで昼からの予定が丸ごと潰れてしまった。

 

不満は無いけれど、自分が居ない事でまた誰かが不利益を被るというのに。

 

いっそアジトに突入してしまおう。そうすれば、温泉開発部のテロ行為も未然に防げる。それ以降の予定も空いて────。

 

「………」

 

何をすればいいんだろう。

大まかな仕事はさっき振り分けた、パトロール?チナツが当番だけれど、そこに参加でも…いや、それでは彼女らの為にならない。

 

せめて、私抜きでもゲヘナの治安を維持できるように。

私の、小さな願いが未来でも叶うように、頑張ってもらわないと。

 

「────」

 

「スバル」

 

そうだ、彼の元に会いに行こう。

いつも危なっかしくて、死にそうな目に会って、誰よりも苦労してる子に会いに行こう。彼の前に立っていれば、自分の不足を自覚できる。

 

まだ私には何もかも足りていない、暁のホルスのようには成れない。

自分一人で完結していない癖に、人の欠点を指摘して、埋めようと出来るほど自分の事を知ってもいない癖に、責任だけで生きている癖に、どうやってあの場所へ辿り着けるのかも分かってない癖に、不足を自覚できてない。

 

彼は、スバルは不足だらけの人間だった。

それを必死に埋めて努力して、勝利を勝ち取った。

私は、私は願うのなら、彼のような人間になりたい。

 

───暁のホルスのような完全無欠を、ナツキ・スバルのような不完全を埋める力を、求めていたいだけ。

 

「………」

 

パトロールついでに会いに行こう。

巡り合わせが悪くて、会えなくても別にいい。しないよりは、する方がずっといい。

 

「はぁ」

 

思考を閉じる、自分への文句はこれぐらいで終わらせて、温泉開発部をどうするか意識する。どんな策が、罠があろうと私を足止めできる手段はカスミには無い。

 

「姿を現したら、最短距離で捕縛する」

 

最適解をイメージしながら、温泉開発部の部員が口を滑らせた開発予定区に辿り着く。見れば、以前立派に輝いていた黄金の羽沼マコト像は不良の落書きだらけになっていた。

 

彼女が見たら憤慨する光景だが、心は一切機微を表さず、像の前でたむろしていた不良生徒がヒナに目線を合わせると「逃げろぉぉぉぉぉ───!!」と雄たけびを上げ逃げていく。

 

「………」

 

その光景に少し前の事を思い出した、道中で歩いている途中…横を通った生徒が落とした弾倉を拾い、渡そうと思って肩を叩いたら泣きながら逃げられたことを。

 

「はぁ」

 

ここ一か月で吐いた溜息の数は、数えるのを諦めさせるほどの量で、アコの前では中々疲れた姿を見せれない事もあって長めに吐きだす。

 

引退した後でも、こんな風に人から避けられてしまうだろうか。感謝されたいとは言わないけれど、善行が無視されるのも気分が悪い。

引退なんてしない方が良いのかも、今の自分から業務を、風紀委員長という立場の責任が無ければ何が残る。

 

何も、無い。

やりたいことも無い、目指したいものも無い、欲しいものも分からない、何をすればいいか知らない。ただ風紀委員長という立場に甘えて現実から目を背けているだけ。

どれだけの事を成し得ても、褒められるはずが無かったんだ。ただの現実逃避に誰も感謝なんて、

 

「────」

 

「はぁ…」

 

「…また悪癖が…──」

 

《委員長!》

 

臆病な自分の思考に浸っていると、無線機からアコの呼び声が聞こえてきた。

要件は一つだけしかない、故に他の事を聞く必要も無い。

 

「──人数は」

 

《三十九名、全方位から三人ずつのグループが、それぞれ進行スピードに違いを付けて突入してきます!》

 

「分かった」

 

──違和感。

普段なら隠密行動を徹底しているカスミが、こんなにも雑な正面衝突をするのか?それだけ準備に自信があるか、人数を分散させてしたい事があるのか。

 

けれど所詮、ここは地下の空間が無い噴水広場。どれだけ時間を稼ごうとしようが、地表を採掘しなければ彼女らの目標は達成されない。

 

「…カスミじゃない?」

 

手垢も手癖も無い戦略、誰の匂いも感じられない配置に首をかしげる。

考え付くのは温泉開発部の部員ではなく、雇った不良生徒かヘルメット団。これが陽動だとするのなら、警戒すべきは、

 

「自爆」

 

「どうせあの子の事だから傭兵程度、騙してる」

 

「爆炎で視界妨害、その間に…なら、空から……」

 

黙々と鬼怒川カスミの思考を読み、しそうなこと、やりたい事から逆算して対策を練る。

問題はない、いつも通り対応して、いつも通り捕縛するだけ。

 

隠れてコソコソと、時間を掛けなかっただけ褒められる。こんなに早く仕掛けてくれるというのなら、この後彼に会う時間が増え──、

 

「………────ぇ」

 

「ハーハッ、ひ、ひ、ひぇぇぇぇぇぇっ…!ぴぃぃぃぃぃ…」

 

「お前人変わりすぎだろ!?ヒナの事見ただけだよね!?」

 

「ひっ、ひぃぃ…」

 

「部長、委員長と会っちゃうといつもこうなるんだよねー」

 

──スバルに会いに行く。

その願いは、意図せず叶う事になる、それはナツキ・スバルが温泉開発部の部長と副部長と共にこの場に現れる、という不測の事態によって。

 

姿を現した後、ヒナへ手を振ったスバルは踵を返して逃げていく。まるで自分を誘うように、プルプルと震えるカスミを抱え路地の向こう側に。

 

「────」

 

納得だ、カスミが強硬手段を取る時点で違和感しかなかったけれど、彼の利用価値を調べるためにこの状況を用意したのだろう。

 

なるほど、捕縛すればゲームエンド、いわば温泉開発部の核となる二人の姿を最初に見せて誘導しようとしているのだ。捕まえればそこで終わりなのだから、ここで追わない理由が無い。

 

理解した、だったらこの人員配備はスバルの手腕だ。彼らしい、嫌らしくてされたら面倒な、守るものがある相手が最も苦労する少数分担。

 

「────」

 

メグがスバルに火炎放射器を突き付けていたのも、カスミなりの脅しだろう。メグ本人は何をしているのか理解してないと思うし、スバルはそんなことをしない。

つまりは、ここで追ってこないのならば、スバルの身柄はどうなるか分からないぞ、そうカスミは言っている。

 

「────」

 

──そんな彼女に、鬼怒川カスミに、一つ。

一つ、アドバイスをするとしたら、

 

「────」

 

成功への道が見えた温泉開発の成功率、それがゼロまで下がってしまったのは、その些細な嫌がらせの結果である。

人をからかい慣れたその悪癖は、抑えるべきであった。

 

「────」

 

「───…」

 

「スバル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『広場への円陣波状爆破!それに伴う空崎ヒナの誘導、そして家屋を爆破し追跡妨害!時間稼ぎをしている間での突貫開発…!!いいじゃないか部長くん!素晴らしい!』

 

『脳みそ雑巾にしてひねり出したわ……つっても、成功するかも分かんない上に、ちょっと時間稼ぎするぐらいで温泉が湧く深さまで掘れるの?』

 

『そこは安心したまえ、部員には戦闘用の装備を外し、全て採掘の為の道具を持たせておく。最大火力で吹き飛ばしてやるさ!いつもならやらない択だがね、今回は敵が一人!!幾ら万人力といえど身体は一つ、頭数を活かそう』

 

『でもさー、スバルくんの作戦、いいんちょーがついてきてくれないとダメだよね?』

 

『ハーッハッハッハ!メグ、それなら最高の釣り餌が目の前にいるじゃないか!』

 

『───釣り餌?』

 

 

 

 

 

「委員長の目、すっごく怖かったねー!」

 

「ひっ、ひぃぃ……」

 

「今更ながらに後悔してきたな…!ヒナを騙し通すのってやっぱ無理なんじゃね…!?」

 

 

 

──スバル、カスミ、メグによる空崎ヒナ一本釣り作戦。

追わない理由が無いメンバーで隙を晒し、全力でヒナから逃げつつ温泉を開発する。

スバルとアロナの意見、そこにカスミによる修正が加えられた策略は、スバルにとっても都合の良い代物だ。

 

一つ目に、カスミの勝手な行動を防げる立ち位置にスバルが居る事。スバルが提案した爆破解体場所は全て、元から解体が予定されていた家屋。

何故、そんな情報を知っているかといえば、とある風紀委員に協力を願ったからで、

 

『──なるほど?温泉開発部のせいでヒナの午後が丸っと潰れてるのか……』

 

『はい。ですがナツキさんにお力添え頂けるのなら、先程の事情込みでも、なんとかヒナ委員長には休憩して頂けるかと』

 

『でも、チナツは?上手いこと行ってもさ、チナツだけは割を食っちまう』

 

『問題ありません、この程度の負担が担えないのなら…ヒナ委員長の傍に居られませんから』

 

『……分かった!後はチナツに頼む。また今度、この分の礼はさせて欲しい!』

 

『ええ──今度こそ、楽しみにしておきます。ナツキさん』

 

裏ではチナツに事情を説明済みであり、スバルの思惑通り物事が運ぶのなら、最後の後始末は彼女がしてくれる事になっている。

そう、思惑通りになるのなら、だ。釣り餌作戦は対ヒナに見せかけたカスミの拘束具なのである。想定外の動きを取られない為の、監視役がスバルという訳。

 

「ひ、ひぃ……はぁっ、ひぃ……ふぅ…」

 

「……なぁカスミ、少し取り乱すって言ってたじゃん。これのどこが少しなんだよ…?」

 

「ぅぅぅ」

 

「スバルくんごめんね、部長も覚悟はしてたと思うんだけど…」

 

涙と鼻水でぐしょぐしょになったスーツを勿体なく感じつつ、それ以上に酷い顔面になっているカスミの方が勿体ない。

顔を胸元に擦り付けさせ、ピクピクと震える瞼を温める。

 

あんなにも知略家に見えた彼女も、トラウマらしき記憶があるのか、ヒナを前にするとこんな無様を晒してしまうとは。

この場合、恐らくヒナへ畏敬の念を抱いた方が正解なのだろう。

 

「────」

 

「うーん?委員長来ないねー?」

 

「そうだ…な」

 

《…スバル…様》

 

「……ああ。おーい!ABCD班!突入準備出来てるかー!?」

 

──返事が帰ってこない。

その静寂はまるで、ホラーゲームのびっくりシーンの前兆の様な、そんな静けさが無線越しに反響した。

じわりと湧いた汗がニトロのように弾ける幻視が、スバルの心房の動きを早め、無線へ掛ける声も小さくなっていく。

 

「……」

 

《スバル様…!他部隊の部員とも連絡が…!》

 

ああ、そうだった。

英雄なのは、死に戻りで過ごした時間の中だけだ。

 

アロナの力を借りてマッピングをしても、ヒナの頭の中にはそれ以上の完成されたマップが作られている。

 

スバルの作戦策略、卑怯千万をぶつけようと、ヒナがそれに困る事は無い。

スバルが必死に足掻いて視線を送るのが精一杯の場所に、ヒナは元々立っていて、背伸びをする余裕も飛び立つ準備も出来ている。

凡人、いや弱者が努力し尽くした更にその先に、彼女はいるのだから、

 

「メグ、やべぇかも」

 

「えー。もしかして作戦失敗?確かにこの雰囲気変だしね〜。んー、なら私ちょっと委員長ちゃんと戦ってくるー!」

 

「んなっ!?まさか囮の囮になるつもりじゃねぇよな!?」

 

「うん!だって委員長、とっても怒ってたし。ああなったら部長捕まえるまで一生追いかけてくるよ?──私が委員長とお話しして、許して貰いに行ってくる!」

 

迷い、二巡三巡口から吐き出す意見を潜らせて、声に出すより先に行動に移そうと無線機に口を近づけた。

必死に思考を続ける、必死になる理由がある。必死で青春を過ごそうとする温泉開発部に、スバルは声援を送る理由がある。

 

『我々は、徒労を嫌う。やりたいことがある、目指すものがある、欲しいものを、何をしていたいのかも理解している!!』

 

『つまりだ部長くん、我々は誰よりも真っ当に生きているのだよ!無知蒙昧に、日々を堕落させ自分の未来に何一つ貢献しようとしない者達とは違ってな!』

 

『分かるだろう?キミなら、その素晴らしさが。確かに我々が多方面に迷惑をかけているのは事実、だが求めているだけでは満たされない!』

 

『──我々は、学生だ。学生なら、学生なりの本分を果たすのに、何の迷いがある?』

 

その通りでしかなかった、それしかいう事が無かった。そんな自分の望みと向き合える生徒を、スバルは心の底から背を押したいと思うのだ。

 

「待ってくれ、メグ。まだみんなの報告が来てない。両手を挙げてコウサンデスってする前に、状況をちゃんと把握しよう」

 

「わっ……いつもの部長っぽーい!」

 

「まずなんでヒナが追いかけてきてないのか、それに通信の返事が無いのは───」

 

──状況確認をしようとした瞬間。

スバルの目線、建物の向こう側から空に立ちのぼった紫閃が雲を裂き空を割る。

有り得ない物理現象を引き起こしたその光にスバルは生唾を飲み込んで、終幕:デストロイヤーの破滅の光、幾度も敵対者を滅してきた絶望が今度はスバルに降り掛かろうとしていた。

 

「────」

 

頭の中、疲れた目をする彼女の幻影がついて離れない。シャーレ奪還の時にも、病院の時にも、アビドスの時にも、彼女には感謝しか伝えられていなくて、助けて貰ってしかない。

 

無垢な願いにあてられたとはいえ、そんなスバルが彼女の『疲れ』を増幅させて良いものか。

──話せば、分かってもらえるだろうか?

 

「さ、作戦Iだ!メグはカスミ担いで逃げろっ!ほんっと申し訳ねぇけど温泉開発は中止!全員逃げる事だけ考えて走れ──!!」

 

「あはは!おっけー!みんなスバルくんのお話聞いた〜?逮捕されないように逃げてね!」

 

「ひぅっ……」

 

「そう、それで作戦Iってどんな作戦なのかしら」

 

「来る前に話しただろ!作戦IのIは色仕掛けのI!俺が何とかしてヒナの事を連れていくからメグ達は……!」

 

「えー?その話もう聞いたよ〜?」

 

「うん。うん?ああ、うん??」

 

──今、確実にここに居ない筈の第三者の声が聞こえたような気がして。

 

有り得ない有り得ない、そう思いつつスバルは一拍間を置いて、深呼吸をする。

油をさしていない錆びた歯車が回るように、首を声が聞こえた方に回す。

 

回した先には、誰もいなかった。

当たり前か、そうだよな、向こうで銃撃ってるのを見てたのに、もうここに来てる訳が無いもんな。

みなぎる焦燥感をスバルは手で制して、自分の早とちりに乾いた笑いを浮かべる。

スバル達以外を殲滅してここに来るなら、それ相応の時間が掛かるはずだ、その為に円形に少数ずつ配備したのだから。

 

「それで続きは?私をい、色仕掛けした後に……どうするつもりだったの」

 

───居たわ。

思いっきり背後に居る、声を掛けてからどうやって背後に回り込んだのか一切分からないけれど、居る。

 

ションベンを撒き散らし掛けるのを抑えて、背後から放たれるとんでもない圧に首を再度回せずにいた。

 

「あーはい、えっとですね。俺がヒナを散歩にでも誘ってその間に温泉開発してもらおうかと」

 

「……そう」

 

「ひ、ひ、ひぁ、ひぃぃいいいっ!?!?!?」

 

「カスミ。今回ばかりは目を逸らしてあげられない、貴方のその悪癖で、誰に、銃を向けたのか……教えてあげる」

 

「──覚悟しなさい。今後一切、彼を利用しようだなんて考えられないようにするわ」

 

ヒナの言葉と共に、重い物が床に落ちる音がした。複数個の硬い物体が地面に置かれ、ヒナの圧が更に増す。「あ!仕掛けた爆弾……」とメグが言葉を漏らし、まさか各家屋に仕掛けた爆弾全てを取り除いたのかと目を見開いた。

 

「ふ、振り返っても……?」

 

「ダメ。スバルは少し、反省してて」

 

「はい…」

 

最短最速、そうは言っても早すぎる。

部員を制圧して仕掛けられた爆弾全てを取り外し、その上でスバル達に気づかれずにここまで接近する───何を言っているのだ本当に。そんな事が出来てたまるか。

 

爆弾を仕掛けた位置はスバル達しか知らないし、部員も各々距離を置いて各自行動をしている筈。

何か裏がある筈、幾らヒナでも今回の作戦を無視して動こうものなら何処かでトラップに引っかかってもおかしくない。

スバルが仕掛けた思考への罠、温泉開発部の行動を阻止するのか、スバルを助けに来るのか。

その迷いすら感じられない速度に、開いた口が塞がらないものだ。

 

「委員長ちゃん、私がスバルくんに相棒を向けてたの。部長は悪くないから見逃して欲しいな」

 

「それもダメ。カスミには、行動の意味する所が全部分かってた筈。それでも実行したのは……」

 

「──どれだけスバルが、私に有効なのかを調べるつもりだったからでしょう?その時点で、貴方を許せる範囲を超えてしまった」

 

「使えると思ったのなら、何度でもスバルを危険に巻き込む。もしいつか彼がそれで死んでしまったら?……そんな事が起きないように、今、徹底的に教えておくの」

 

「二度と、彼に手を出さないで。と」

 

静かなため息を吐き、目を伏せその行為を糾弾するかのように続けられたヒナの言葉。

スバルが自分を損得勘定に入れていなかったせいで、思い当たらなかったリスクを述べた。それは酷くスバルの心を痛撃して、自戒させる。

 

「ごめん、ヒナ。俺が軽薄だったんだよ、二人は悪く…──いやカスミは多分悪いけど、メグは悪くない」

 

「……スバルはどうして温泉開発部の味方をするの、脅されてる訳でも無さそうなのに」

 

「カスミとの約束があってさ、俺の時間を仕事手伝ってくれた分、カスミにあげるって…。それで、俺も温泉開発を手伝ってるだけ」

 

「……そう」

 

不満がたっぷり詰まった相槌をされて、スバルも内心焦りが湧く、手を貸した本当の意味を理解してもらわないと、スバルはただヒナを裏切って犯罪行為に加担しただけだ。

 

けれど分かってもらえるのだろうか、無垢であれば、純粋に願えばこんな事をしても良い訳では無いけれど、カスミの言葉には納得してしまうだけのモノがあるのだと。

 

「──この前」

 

「この前、ヒナにお返しをしたかったのに、有耶無耶になっちまった。あんだけ助けて貰って、まだ何も…」

 

「お返しなら大丈夫、感謝の言葉だけで十分よ。それに…スバルなりに温泉開発部の被害を抑えようとしていたのは分かる。爆弾、全部廃屋に配置されてあったし」

 

「それに、風紀委員の誰かにも声を掛けてるでしょう?」

 

「うっそぉ…!?分かってんのね!?感服アンド降参だ、ほんと敵わねぇよヒナには」

 

「貴方を信用してるだけ、温泉開発部の行為を…約束したからってそうそう見逃す貴方じゃない」

 

「だからこそ、分からないの。本当にどうして、その約束を律儀に守っているのか」

 

酷く冷めた、疲れた目でそんな質問をするものだ。

これも業務の一部でしかないのだろう、変わり映えの無い、日常の風景の一つ。

そこに新しい刺激が加わることもない、常に等しく、責任と仕事を全うするだけ。

 

「────」

 

どんな言葉を返そうか、どんな考えを伝えようか。

それらを考えても、答えが出てこない。

 

コレは伝えるのがとても難しいし、感じ方も人それぞれで理解出ない人間はごまんと居る筈だから、ヒナにも分かってもらえるかは分からないけれど、

 

「みんなが、楽しむ事に真剣だったから…かな」

 

「……?」

 

「これに関しちゃ、どう言えばいいか分かんないからさ」

 

擦り寄って、ヒナの手を握る。

伝えにくいのなら、伝えやすい体験を。コレは、経験こそが物を言うものだ。

 

「ヒナ、やりたい事とか、ある?」

 

「…………」

 

「したいこと、休日に遊びたい事とか!後は…夢とか目標とか、趣味でやっておきたい事とか」

 

「……」

 

「…まさか、無いって訳じゃ…──無い、んだな。なら丁度良い、この後時間あるなら…俺の言い訳に付き合って欲しい」

 

「言い訳に、付き合う───?」

 

「作戦I、色仕掛け大作戦。今日は色んな事に目ぇつぶって、後のことは俺とチナツ、風紀委員に任せてさ」

 

「───俺と、デートしてくれませんか」

 

「デート」

 

「うん」

 

「─────」

 

ヒナの顔がゆっくりと、赤くなっていく。

あんなにも冷たかった表情は、理解が進むにつれて柔らかくなっていき、しまいには破顔して目を開き、口をあわあわとさせる。

瞬きの回数が倍増しデストロイヤーを地面へ落とし、プルプルと握る手から震えが伝わってきた。

 

「……ヒナ?おーい?」

 

「───」

 

「…しゃあねぇ!無理矢理連れてくか!!」

 

硬直したヒナの手を引くと、無言でいそいそと付いてくるのを確認し、目線で逃げろ、とメグに合図を送る。

スバルの実力ではまだ、両立した目標の達成は出来なかったが、後拭いぐらいはさせてもらおう。

 

それよりも今、大切なのは───。

 

 

「──デート!?!?」

 

 

この、学生としては枯れ果ててしまった彼女の青春を、取り戻してあげることに全集中しよう。




『空崎ヒナの天下無双』②
天下無双(恋愛面)
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