Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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ご指摘頂いたミスを何とか修正、ちょっと無理矢理感があるかも。
感想ありがとうございます!そして誤字脱字報告も…!


『メロスは激怒した』

 

 

──トリニティ総合学園からの戦力支援は、どの死に戻りの中でもスバルの動向にかかわらず、行われている。

それが善意か、と聞かれると言いよどむ。明らかに『目論見』があってのこと、素直に喜んでいたのは最初の内だ。

支援を決行した者は状況が思惑通りに進んで、さぞほくそ笑んでいることだろう。

 

事実、アビドスを攻略した現在の周回では彼女と顔を合わせていない。出兵に対し彼女へ個人的に連絡したぐらいで、実際の活躍は目にしていない。

 

恐らくは不必要なそれによってトリニティが得ようとしているのはあくまでも手を貸した事実、その立て看板である。

 

「久しぶりっつーか、直で会うのは初めましてって方が正しいけど」

 

「………」

 

「トリニティ学園ってさ、所謂お嬢様学校なんだろ?こんなところに来ていいのかよ」

 

内戦が起き外交を絶って尚トリニティ学園は三大学園の中でも特に影響力のある学園であり、ゲヘナとの犬猿の仲を『エデン条約』と呼ばれる代物で調停を試みている最中。

 

そして格のある名家がこぞって手を伸ばす、言うなれば名門高校。打って変わってここはブラックマーケット、ありとあらゆる軽犯罪が行われ、密売やら違法販売当たり前の無法地帯。正直、学園に所属する生徒が居るべき場所じゃない。

故にゆっくりと首を傾げ、唇であろうあたりに指を触れさせながら、苦笑いを続ける妙な袋を被る彼女の様子をうかがった。

 

「……あはは、えぇと、そう…ですよね。ダメですよね」

 

そうだ、ダメなのだ。自分なら大丈夫、今日は特別だから、そういった言葉を使ってもダメ。学園イコール国家、のような形式を成しているこの異世界では特に致命的。

 

「しかも絶賛内紛状態で、その上でエデン条約なんてのを結ぼうって時にさ、トリニティ学園の生徒がここで見つかったら───」

 

最悪の展開が数十個も思い浮かぶ、最悪が複数個あるというのもおかしな話だ、だがそれだけのリスクをはらんだ行動。

 

一生徒の行動が学園に波紋を呼ぶ緊迫状態で、ブラックマーケットに足を運んだとなればそれはもう、格好の的になる。

彼女なりの抵抗なのか、顔の様子が一切見えないようにしているのは及第点をあげてもよいのだが、

 

「君が想像できないくらい、沢山の人間に迷惑がかかる」

 

「うぅ…」

 

彼女自身が想像できない被害が出るのだと、悟らせるように語気を強めて語りかけた。スバル自身、こんな風に先生みたいな注意喚起は似合っていないと自覚しているけれど、だとしても言わねばならない。

 

対する彼女は今も緊張で頭が上手く回っていないのか、それとも不測の事態に混乱していてふらふらと揺れるばかり。

少女──阿慈谷ヒフミは、ここまでの無謀をする人間でもない筈。兵の出兵の指揮官を任される以上、リスク管理は出来る人間。それを考慮に入れて、

 

「───…」

 

「──事情、あるんだろ。大丈夫、俺は今シロコと散歩元いデート中で、ヒフミが危ない目にあってなかったらそれでいいさ」

 

「ん……スバル、何かその子に甘くない?」

 

「甘くない甘くない」

 

思いっきり嘘をつく、大甘のお目こぼしだ、この場じゃ小言残してとんずらした方が良い。

これは彼女の『趣味』に過ぎない。そこに首を突っ込むのは余計だし、お互い望んでいない会遇、偶然で引き寄せられたこの瞬間で言葉を交わす必要も無く、スバルが踵を返したのを見てシロコが袖を掴む。

 

顔を見ればまたさっきの物欲しそうな顔、今度は彼女の欲望を当てられる。この状況で物欲しそうにするのなら、スバルはお財布に手をつけよう。

 

「ん」

 

物分りが良いとシロコは舌を垂らしたヘンテコな鳥───ペロロ様を指さして、スバルにねだる仕草を披露した。

脳裏に浮かぶノノミとホシノから「甘やかしたらダメですよ(だよ)」と、親目線の小言が流れてくるのだが、それでこの財布に伸びる手を止められるのなら苦労しない。

 

それを見ていたヒフミがピン、と頭の上にビックリマークを浮かべ何か思いついたのか、カバンからぬいぐるみを取り出して、

 

「そ、その…モモフレンズに興味があるのなら、こちらをプレゼントさせてもらえませんか…!」

 

「いいの?」

 

「はい!これも何かの縁ということで、是非これを機にモモフレンズを好きになって欲しいんです。モモフレンズはペロロ様以外にも沢山の素敵なお友達が居ますし──」

 

「ん、検討する。ありがと」

 

取り出したぬいぐるみは、シロコが指さしていたモノと全く同じ代物。カバンから取り出した際に目を細めてその中を見たスバルは、同じようなペロロ様ぬいぐるみがぎっしり詰まっていたのを直視して目の異常を疑った。

 

彼女の、阿慈谷ヒフミの事は詳しくは知らないが、この世界で所謂オタクを貫くにも、ある一定の狂気は必要なのかもしれない。

 

「それじゃ私達行くけど…気を付けてね、ここら辺は物騒だから」

 

「それに顔もバレねぇようにな。服装の…紋章も隠してた方が良いぜ?トリニティの生徒だって一瞬でバレる、金持ち学校のお嬢様ってのは───」

 

狙われやすい、そう言い切る前に背後から「狙い目だからな」と言葉を乗せられる。

唐突な共演に驚愕──できないのがアロナの良いところでもあり悪いところ。登場のネタバレは受けていたスバルがヒフミの前に立ち、その前にシロコが構える。

 

見慣れたヘルメット姿が数十人、こちらを見つめる視線は正に獲物に狙いを定めた狼だ。

 

「こんな真昼間から正々堂々カツアゲかよ…」

 

「金がなけりゃお天道様の下でも笑って歩けねぇんだよ。それか、お前らが恵んでくれるってなら半殺しまでで済ませてやる」

 

「………更生すんのにも、頭冷えてからじゃなきゃ無理だな。──シロコ!」

 

「喧嘩を売る相手が悪かったね。スバルの言う通り、頭冷やした方が良い」

 

ヘルメット団の先頭に立つ、リーダー風な生徒が動き出す前にシロコが接近する。

トリガーの隙間に指を挟み込み、掌底でみぞおちを穿った後襟袖をつかんで投げ飛ばす。あまりの動き出しの速さにシロコの動きに反応出来た者はおらず、銃を抜く前に団の複数人がノックダウンされた。

 

一切の呼吸の乱れを見せないままに、集団の中を突っ切って全方位に敵が待ち受ける立ち位置へと潜り込むシロコ。

 

取り囲んだと口角を上げたのもつかの間、「囲まらせられてんだよ!」と怒号が響く。声の通りに射線の先は味方だらけ、そして先ほどの近接戦闘を見せられて集団の前部は二の足を踏むが、味方であるはずの仲間によって押され、死地へと身を投げ出された。

 

「相変わらず、すっげぇ」

 

アクションものの映画が比にならないぐらいの躍動感、鼻息を荒げるスバルは既に逃走体制。なんの訓練もしていない一般非キヴォトス人が、女の子を守るために出来ることなど限られている。当然、だからスバルもこの場から逃げるぐらいの選択肢しかない。

 

「いい加減、俺も秘められた力がー!ってのがあってもいい時期だとは思うんだけどな…って流れ弾ぁ!?」

 

過酷なレベリングをさせておいて報酬の無い現状に対する声を、弾丸が一蹴する。身をねじってヒフミを連れ、その場から逃げようとすれば握る手から抵抗感が伝わった。

その抵抗感は迷いの手、この場から何もせず逃げ出す事への拒絶だ。

 

「──よし!やるか!」

 

「うぇ!?あ、その…」

 

「なんで、奪われる側の俺らが必死こいて逃げなきゃなんねぇって話だよな、立ち向かいたいってならとことんやろう」

 

「っ、はい!」

 

根底にあった心理をくみ取ってくれた事が、少女の心に甘い充足感をもたらす。明かしてもいない心の内は言葉にしづらいものだ。喉を経て口に辿り着き吐き出されるまでに、多くの不安と疑心がある。

その工程が必要ないというだけで、ヒフミはスバルの蛮勇に賛同を示す理由になった。

 

この、彼との出会いが偶然でなく、言うべきことを伝える為にアビドスへと足を運び、その結果出会った事実を胸の中に秘めたまま、目の奥がズキズキと緊張を知らせる信号を響かせるままに銃を握る。

そして加勢など必要ないであろうシロコの元へと駆け出した。

 

「シロコさん!」

 

「────!」

 

声に応じて目線を移し、ヒフミが握る閃光手榴弾を目にした瞬間に両手で耳を塞ぐ。目を閉じ、上の耳もペタンと閉じて数秒、破裂音が肌を叩いてから目を開けば、まな板の上の鯉のように悶えるヘルメット団が用意されていた。

 

その数秒があれば、砂狼シロコに出来ない事は無い。勝機を見出す事で必死だったヘルメット団にはご愁傷さまと言う他無いが、カツアゲ元い強盗を企む相手にかける容赦は存在しない。

やはり言葉を掛けるのなら───喧嘩を売る相手が悪かった、となるだろう。瞬く間に腹部へ一撃、態勢を整える暇があるのならば蹴り倒される状況で、ふらふらとリーダーらしき人物が撤退を促した。

 

「ぐっそぉぅ…お、覚えてろよ──!!」

 

「追撃は?」

 

「しなくていいさ、これで暫く懲りるだろ」

 

「ん、それとヒフミ、ナイスサポート」

 

「あはは…あんまり大した事はしてないですよ、シロコさんが凄く強かっただけです」

 

謙遜癖があるのか「助けて下さってありがとうございました!」と頭を何度も下げながら立ち去ろうとするヒフミ。

けれど脳裏にはしっかりと、彼に、ナツキ・スバルへと伝えるべき伝言が残っていて────。

 

「………あ、あの!」

 

「───?」

 

「その…お伝えするべき事がありまして…」

 

「っ、阿慈谷ヒフミは反乱軍指揮官として!ナギサ様の言いつけ通り───!」

 

「これから開かれるトリニティの茶会に、ナツキさんをお誘いしたいんです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──エデン条約。

それは連邦生徒会長の失踪と桐藤ナギサの殺害と共に凍結されている和平条約である事は、何度もアコの口から述べられてきた。

アコからスバルへの約束でも、エデン条約の締結の為に力を貸す事を決めていて、ある種エデン条約とはキヴォトスにおける…学園都市キヴォトスを巻き込んでの『戦争』になりかねない火種。

 

事態を複雑化させているのは無論、エデン条約締結前に始まったトリニティ内の内紛。開始から数ヶ月、様々な学園からの支援がトリニティに施されており、過熱された戦況は支援した学園を巻き込んだ泥沼へと変わり果てた。

 

問題なのはその思想、聖園ミカにより提示されたゲヘナ学園との徹底抗戦。ゲヘナを否定し攻め滅ぼすと明言した過激派が現れた瞬間、元ホスト桐藤ナギサが暗殺される。

 

「……パテル派を止めれば、エデン条約は締結する?」

 

「単純に考えるとそうなる、けどそうはならないんだよなコレ」

 

「ん…??」

 

「桐藤ナギサの暗殺──それがどうも、ゲヘナのせいだって嘘っぱちが流れてる…んだっけ、ヒフミ」

 

「はい…」

 

「───???」

 

──その噂は戯言に過ぎなかった。

誰かが撒いた欺瞞の種、『ゲヘナが漁夫の利を狙っている』。そんな噂は泥沼化した事による内紛によって増長され、ありもしない事実が皆の脳裏にこびりつく。

 

『あの暗殺ってさ、ゲヘナの仕業じゃないの?』

 

そんな言葉を、誰か一人でも発してしまったのだろう。芽生える筈のなかった嘘が、空想が、ただ人を疑うその疑心によって実を結んだ。

事実でも無い、真実でも無い、けれど終わりの見えない戦いによって積み重なっていく不満と怒り、それを発散する先を求めてしまった。

 

正しさを認識している人間も、熱狂の渦の中では段々とその正気を削られる。反乱軍の趨勢が徐々に聖園ミカ率いる三派に飲み込まれているのが現実。

 

「…酷いね」

 

「酷いなんてもんじゃない、これじゃ誰が傷ついても無益な…──地獄だ」

 

反乱軍を支援する学園、過激な思想に待ったをかける反乱軍、ゲヘナを目の敵にして和平条約を踏み潰そうとする分派、誰がどう争ったとしてその結末は血みどろだ。

 

ゲヘナが求めているのは、これ以上の被害を出さない為のエデン条約締結による相互武力の監視。エデン条約さえ締結出来れば、両学園の騒動を納める武力組織が作られる。

反乱軍の狙いはその武力組織での過激派の抑制であるのだが、

 

「そうするにも、あくどい噂が邪魔して無理、そこでお役目が俺に回った…てワケ」

 

「使いたいのはシャーレの権限?」

 

「ああ、多分」

 

入れ子構造だ、和平条約を結ぶ為にトリニティで和平条約を結ぶ必要があるが、それに立ち会う保証人──裁定を下す者が居ない。つまりスバルに白羽の矢が立つ、連邦生徒会会長代理、これ程までにお似合いの役が居たかと。

 

ヒフミは桐藤ナギサの言いつけ通り、と言った。つまりはスバルの登場を予知していた事になる。その開かれる茶会とやらで、スバルが何とかしろ、そんなふうに。だが何故そんな事が予測出来た──?

 

「──連邦生徒会長の置き手紙」

 

そこでピンッ、と指を弾いて目を見開く。そういえばそうだ、各自治区の長に届けられる未来予知、各々内容は違うらしいが、元ホストならば受け取る権利がある筈だ。

この場において解けない謎は、暗殺の真実と過激派の出現、怒りと憎悪を増長させるように現れた過激派を指示する聖園ミカ、今それらに見向きができる状況では無い。諸共含めて解決するのなら───その決定打であるスバルをナギサが求める事は想像できる。

 

「…………きなくせぇ、つーか冷静に考えればだいぶ不自然だぞ…?明らかに誘導されてるっぽいけど」

 

「トリニティにいるみんなが、スバルさんみたいに冷静に考えられる───状況であれば、良かったんですけれど…」

 

「そう、だよな。…そうだよな、自分達のリーダーが殺されといて…ごめんヒフミ、軽口が過ぎた」

 

「…大丈夫です」

 

これは───一筋縄ではいかなさ過ぎる。

真相に至る道が、憎悪と怒りによって隠されている場合、真っ直ぐな一本道だとしても複雑怪奇に見えてしまうもの。

隣を見て裏切り者だと声を上げる状況が当たり前で、どうやって真相を信じるというのか。親愛なる隣人すら信用に値しないのでは真実に欠片の価値も無い。

 

「……」

 

「分かった、その茶会、出席してみる」

 

「──!本当ですか!?あ、その、相手は聖園ミカ様になるんですけど…」

 

「大ボス狙い撃ちで全部解決するってなら、アコの件もあるし踏み込まない理由はねぇ。それに大ボスの特効が俺だ、尚更断る意味が無い!」

 

邪智暴虐の王を討たんとするメロス、彼は無理無謀にも関わらず内に抱えた義憤によって正面から王の元へ向かった。

よくセリフを引用するスバルにとって、現状は正に写し鏡。人が信じられなくなった王様を、元に戻せるセリヌンティウスの様な相手は用意されていないが、築き上げられた欺瞞の城を打ち崩す方法はある。

 

スバルはメロスと違い、王様が言う事を聞かねばならない相手。そんなスバルが真相を明らかにすれば────、

 

「嘘っぱちの玉座も、支える奴がいないと成り立たねぇ」

 

言うは易し行うは難し、挑むはアリウス生徒の巣窟にして魔境。更にDivi:Sionという名の死刑宣告を受けているスバルにとって、正に『死にに行く』様なもの。

 

「………」

 

「…────」

 

「…とりあえず、ヒフミは俺の話を持ち帰ってくれ。俺が頷いたって言えば勝手に予定も決まっていくと思う」

 

「分かりました!…ナツキさん、わざわざお話を聞いてくれて…ありがとうございます。きっと、今のトリニティはナツキさんのような、みんなを導いてくれる英雄を待っている筈なんです」

 

「ナギサ様もそれが分かっていて───………」

 

──ナギサ。その名前を呼ぶ度にヒフミの表情が暗くなる。

慰めを与えるには傲慢というもの、だとしても慰めずにはいられない。死が遠く、子供ばかりのこの世界での『死者』。その重みはアビドスで散々味わった後なのだ。

もう、誰かの死によって苦しみ、悲しむ人間を相手に私欲を押えられる人間になど、とうの昔に脱してしまっている。

 

スバルはヒフミの肩に手を置いて、目線を合わせる為に少し屈む。求めているような英雄像を形作るのには不足しているかもしれない、それでも、この言葉が持つ重みは、安心にも繋がると知っていて───、

 

「俺が助けるよ、ヒフミ」

 

「────」

 

「悩んでる生徒は見過ごさない、俺が出来る全てで…ヒフミが助けたいみんなのこと、助けてみせる」

 

「絶対だ。俺が、助ける」

 

「っ……はいっ……!!」

 

 

まだ、どうしてもカッコつけ続けたい自分は居なくならないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────」

 

「…ねぇ、スバル」

 

話を終え、今度こそ本当に帰路につく二人。シロコは先程の会話を受け、やはり納得出来ない、そんな態度を匂わせながらスバルの名前を呼んだ。

対してスバルも「ごめん」と謝罪を先置きし、シロコがスバルの『無茶』を嗅ぎとったその嗅覚に感嘆し柔らかく目を閉じる。

 

「……」

 

シロコも、シロコ自身の想いがそこまで都合良く果たされるものだとは思っていない。

スバルの意思は尊重したい、でもそうすると傷ついていくから傍にいて無理させない。けれどけれど、それはスバルへの迷惑に繋がる、でもでも────そうやって堂々巡りだ。

 

何処も妥協出来ない面倒臭さも自覚している。ホシノはそこに折り合いをつけているのだろうけれど、自分は無理だ、出来る限り堂々巡りを続けてワガママを言っていたい。

つまりはガキ、恋愛対象未満になってしまう自分の性根を汲み取ってくれなければ、その愛を向ける相手と向き合えない。

 

それを強いている時点で如何なものか、自分から愛を向けても、向こうは庇護対象にしか見えないのでは語るに及ばず。

 

「────」

 

彼の為なら何が出来るか?──何でもしてやる。

スバルが自分の為に何をしてくれるか?──何でもしてくれる。

 

同じように見えるこの関係も、一つの差異がある。それは『何でもしてあげたいけど、何でもは出来ない』事。

スバルは違う、何もかもを成す努力をする。それこそ命を懸けて戦うのに、自分は立場の違いというだけで『茶会』に参加する資格が無い。

 

もし立場が逆なら、スバルはあらゆる手段を使って茶会に転がり込んだ事だろう、それこそ給仕として潜り込むとか。

それを自分が出来るか?いいや、無理だ。視野が狭い知識が少ない世界観が小さい、そんな自分が果たせる事なんて精々、皆と同じく彼の背中に声を掛けるだけ。

 

「……むー」

 

───そう、そんな事、我慢ならない訳で。

我慢できるはずが無い、最初にスバルを頼ったのは自分だ。スバルが頼ったのも自分だ、皆と同じ場所だなんて、そんなそんな。

 

耐えられないんだ、ワガママな自分はそれに耐えられない。誰よりも傍に居ると言い切りたいのに、それが許されない未来は最悪も最悪。

まぁ、それに、なんだろうか。最近のスバルの様子にも引っかかる所があるし、

 

「──よし」

 

「…な〜んか嫌な『よし』だなぁ!?やりたいことあるなら、ちゃんと相談してくれよ?そう前に俺に言ってたじゃんか…」

 

「うん、だから単刀直入に言うけど…最近ホシノ先輩の事避けてるよね?」

 

「──────」

 

「避けてる…というか、反応が過敏?どっちにしたって様子が変。そんな状態でトリニティに行っても…はっきり言って無謀だよ」

 

「……叱ってくれんのな」

 

「ん、他の人に奪われない立ち位置、スバルの事しっかり叱れるのは私だけ」

 

怒る、ではなく叱る。近いように見えて遠い二つの立場で、『叱る』を実行出来るのは自分だけの自負を持って言い放つ。

 

彼の無謀さや自身の顧みなさを、怒りで表すのは簡単だ。けれど理性的に理知的に、その自傷とも言える行動を正しい道であったのか、それを説くに必要な理解度はぶっちぎっていると自信満々。

なので───明らかに不調を患うスバルがスバル自身を、また新しい戦場へと送り込む事にシロコは忠言をする、無謀だと。

 

「よそよそしさのワケ、話せる?」

 

「…………」

 

「……その、あー……」

 

「───……」

 

「夢」

 

「夢?」

 

「…夢を見るんだ、最近。まぁ、俺がソワソワしてんのは…夢以外にも理由はあるけどさ。でもなんつーか、もっと根本的に言うと…──」

 

「自分が怖い」

 

「怖ぇ、最近はずっと人間に似た何かじゃないかって思ってる。俺はホシノを避けてるんじゃなくて、俺が俺自身を信じてないから…ほんと、変な話だけど…色々凄いことしてる内に、夢にまでその怖がってるもんを見ちまった」

 

──そうだ、化け物を信じないように、身体が自然と拒絶した。

夢でホシノに酷い目に合わされた、それがなんだ、たったそれだけでホシノを避けるものか。

 

もし、スバルの愛が形を持って解き放たれるのならば、このキヴォトス全てを埋めてみせよう。もし、世界が皆を悲しませるのなら、世界すら変えてみせる。もし、望む道が絶望と失望によって歪ませられているのなら、太陽よりも明るく輝いて道を照らしてやる。

 

つまりは──問題はスバルの内にあるという事。夢はその恐れの一つでしかなく、少し先の未来すら手の平の上となった今、自分の存在に疑問を抱いた。

別次元だの平行世界だの時間軸だの、そんなものの中枢になったナツキ・スバルは、もしかすると自覚してる以上の厄ネタが潜んでいるのでは──?

アレを夢と思い込みたかった、でもアレはきっと『ありえた世界』か『どこかの自分が体験したもの』だ。

 

「………」

 

「シロコ、俺ってカッコイイだろ。アビドス救って…みんなのこと助けて」

 

「うん」

 

「それが無茶してるってのも、あの時の交換会で知ったと思う」

 

「それは前から知ってるよ」

 

死に戻り、そんな権能を持つ人間がマトモな命の形をしているか?

 

「────」

 

答えは否、自問自答すればするほど、ナツキ・スバルの命の形はあまりにも醜く、歪んでいる。

ナツキ・スバルが恐れ、怖がっているのは悪夢を現実にする、ことではなく、

 

「俺の事、こわくないか?」

 

「ううん、こわくない」

 

それを引き起こす可能性のある、ナツキ・スバルそのもの。

突き詰めると、そこだ。この命の形をしたナニカがこれから先の未来を歩む足を竦ませる。

 

シロコがナツキ・スバルを恐れていなくても、スバルが『ナツキ・スバル』の歪さを怖がっている。

アビドスでは死に戻りを恐れた、死に戻りそのもののおぞましさを飲み込むのに、果てしない苦しみを味わった。

 

けれども、未来予知──divi:Sionが発現してからは、嫌悪するべき対象が丸ごとスバル自身へとすげ替わって、

 

「怖く…ないか…なら、大丈夫。俺は大丈夫だよシロコ」

 

「…………」

 

「もう少しで校舎に着くし、これ以上話すなら夜にしようぜ?お泊まり会、楽しみにしてたんだろ」

 

───いつから、普通の引きこもり高校生菜月昴は。

 

───いつから、得体の知れないナツキ・スバルのようなものへと変わってしまったんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢の終わりは、いつも黒で終わる。

それは『死』の黒だ、死を迎え、新しい世界へと旅立つまでの景色。少し経てば、死に戻りをして『黒』以外の色へと戻る。

 

夢の始まりは暖色だ、可愛らしい声が小難しい事を言ってから、冷たい物語が語りを始める。

始まりから終わりまでの旅路は、例えるならば薄汚い灰色。別に灰色が汚いと言っているわけでは全く無くて、単にその旅路を進む男が薄汚く足掻いているから。

 

それを何回も、何百回も、何千回も繰り返す。目に映る色を失っても、回数を忘れても、歩いている理由さえ忘れても。

まるで繰り返し続ける星の元に産まれたかのように、男は先の見えない道を前へと進み続ける。

 

「──何故」

 

理由を問われても答えられない、本人が理由を知らないから。

そんな風に生まれてきた訳でも無く、そう望まれている訳でも無い。元より何かを望まれて形を持った訳でも無い。

星が如く、そこに在るだけだ。軌跡を残す流れ星に、その軌跡を描く理由を聞いても───さぁ?が、答えになる。

 

「で、あるのならば、君は尽く徒労を繰り返しているだけだ」

 

「ゴールの見えないレースは続けられない、目的地も無い旅は行う理由が無い、守る相手のいない騎士は意味が無い」

 

ならば、ゴールの見えないレースを続け、目的地も無いのに旅をして、守る相手がいなくとも騎士を語る奴が居るとして。

流れ星のような、そんな奴がいるとして、みんな違ってみんな良いの話で終わるのに、どうして意味を嘆くのか。

 

「───」

 

「それはっ……」

 

「……」

 

「…それは、残した軌跡が、儚すぎるからだよ。脆く、すぐ消えうせるその様に、我々は問わなければならない。──何故だ、と」

 

「何も無いものには、何も感じられない。けれどその軌跡は語りかけてくる。心臓を高鳴らせ、今すぐに足を駆け出させる動力に成りうる」

 

「──何故だ。どうして、理由があるはずだ、意味があるはずだ、そうでなければ、何も無いのであれば、こんなにも心揺さぶられる事は有り得ないんだ」

 

「そうやって、問わざるを得ない」

 

ああ───そうか。

そうか、なるほど。

 

「……」

 

「思い出せ、ナツキ・スバル。思い出すだけだ、君の夢の終わりは死による『黒』じゃない。そんな冷たいものではない」

 

何処かを目指すまでもなく、誰かのレースのゴールになって、誰かの旅の目的地になって、騎士にとっての守る相手になる。

問わずにはいられないから、答えを用意せざるを得ない。

 

「思い出すんだ、ナツキ・スバル。夢の終わりを、『黒』の理由を」

 

「目の前が真っ暗になる理由なんて、一つを除いて存在しないだろう───?」

 

───星は輝く理由を問われた時点で、輝いた意味を得た。

なるほど、と別に納得した訳でもなく、賢い人の偉い言葉を受けて……なーんとなく、本当になんとなく、感化されただけだけど。

 

夢の終わり、その『黒』を、言われた通り思い返してみることにした。

 

 

 

 

『─────』

 

『そこまでだよ、ホシノ先輩』

 

 

 

 

 

「…………」

 

「………」

 

頭の上には、柔らかい太もも。

右腕には、小さな身体が巻きついている。

左腕は足で蹴飛ばされていて。

お腹の上には、二人分の足が乗っかってる重みを感じる。

 

お泊まり会、そうだ、みんな一つの部屋で寝ることにしたんだっけか。

 

「………」

 

夢はいつも『黒』で終わる。それは死の色、終わりを迎えた空白。でもそれは違うと、誰かに叫ばれた気がする。

そういえば、この柔らかさ。誰の太ももだったか……───気持ちの悪いことを言ってる自覚は大いにあるが、この柔らかさ、恐らくシロコ。

 

最も慣れ親しんだ柔らかさであり、最初に味わったあの瞬間の安心感たるや、今思い返しても涙が零れる。

夢のせいで起きてしまったか、そう辺りを見渡して真上にシロコのヨダレが垂れてくるのを直視し、全速力で袖を使い拭き取った。

 

「…………」

 

『そこまでだよ、ホシノ先輩』

 

「………………」

 

『思い出すんだ、ナツキ・スバル。夢の終わりを、『黒』の理由を。目の前が真っ暗になる理由なんて、一つを除いて存在しないだろう───?』

 

「──────」

 

頭に伝わる、柔らかい感覚。それには妙な親近感……──いや、『慣れ』がある。日常的に膝枕をされる異常事態でなければ味わえないぐらいの『慣れ』。

理由は一つだけ?死で終わる夢に、死以外の理由があるのか?

 

「あ」

 

目をパチリ、と開けてからもう一度閉じる。

あれ───これじゃね?と。

 

何度も何度も閉じては開き、『黒』と現実を行き来する。何度も何度も繰り返す度に、そうだよな、と納得する。

目の前が暗くなる理由なんて、目を閉じる以外に無い。

そう、思い出した。

 

「ったく、なんだよ」

 

そういえばそうだ、居たじゃないか。ナツキ・スバルが歩む道が徒労であっても、死刑宣告がされていても、意味の無い歩みを今続けていて、『死にに行く』が正しくとも、それに意味を持たせてくれる相手が。

───でも、スバルの目を閉じさせてから、泣いてくれる女神様は一人ぼっちで寂しいだろうな。

 

「最初から心配しなくて良かったじゃん」

 

幾百、幾千、幾万回。

ありえた自分の、あるかもしれない結末の『黒』。

それはただ目を閉じただけの、いや──閉じてくれただけの色。

 

『ナツキ・スバルのようなもの』にだって与えてくれる、優しい優しい、温かい色という事を、思い出した。

ならばもう、怖がっても怖がらなくても同じ事か。

 

 

「──おやすみ」

 

 

 

 





『一人ぼっち砂狼シロコの膝枕』
『雛鳥によるヤンデレ体験《啄んだ餌は呑み込むまで離さない》ノーカット版』:終

蛇足編の話の流れをぶった斬るようですが、次回トリニティ編突入します。蛇足編が思ったよりも書くの難しかった…ごめんなさい…。

そしてガチのマジで紹介が遅れて本当に申し訳ございません、こちら今作の各シーン、そのファンアートを書いてくださっているアルパカ大帝様です。

https://www.pixiv.net/artworks/136199601
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