Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『求めるべきもの』

 

「…袂を分かってから……何時振りだろうか…?」

 

「大袈裟な、とも言いきれませんね。ツルギ部長」

 

スバルをイチカの翼に隠し、漸く向き合って話し合える様になったツルギが猫背の姿勢に低い声を響かせる。やりようの無い感情を冷静に御している姿は、奇声を上げていた先程と違って大人びている。

 

イチカの頬に指を添わせ、傷んだ手を労るように両の手で包み込む。羽の隙間から覗くその姿に聖母に近い雰囲気を感じながら、二人の間に流れる淡い時間を口を噤んで見守った。

 

「……ああ…」

 

「……」

 

一体幾つの思案を巡らせたのか、互いに疲れきった瞳に濃いクマを浮かべてしまうまでに、どんな道のりを歩んできたのかは分からない。それでもこの瞬間に感嘆の息を漏らす二人の関係は、確実に内紛による影響があるのだと理解できる。

 

「…辛い役目を任せてしまった。……させるべきで無い事を味わわせた、背負うべきでない事を背負わせた……」

 

「いいんすよ、もうそんな事。それより部員達やマシロやコハル、ハスミ先輩達が元気なら…それで」

 

「………すまない…」

 

「────…」

 

「どうしましょうナツキさん…!めちゃくちゃ気まずいですよ…!?」

 

「同感だ…!俺のシリアスカウンターがフル回転してやがる……!!どうするレイサ、このまま先に二人でワカモぶっ飛ばしに行くか…?」

 

「名案ですね…!!ひっそりと失礼しちゃいましょう…!」

 

「全部聞こえてるっすよ」

 

翼で身体を囲まれどこにも出口が無くなってしまい、てへっ、と舌を突き出してお茶目アピール。レイサもスバルに合わせ、冷や汗を垂らしながら「えへへ」とドジっ子ポーズ、やはり親和性が高い。トリニティの政治事情が無ければ当番にスバルから推薦しても良いと思うほど。

 

「そうっすね…湿っぽいのはこれぐらいにして、本題を話しましょう。まずこの休戦が持続するのは今日含めて三日、それがヒフミ補佐官が作ったつかの間の平和っす」

 

「私は立場上、皆さんを連れて行けるのはここまでで…後はツルギ先輩に任せる事になります。宇沢さんは無所属なのでナツキさん方はお気になさらず」

 

「今回求められているのは、何よりも和平派の生徒達をミカ様の元へ連れ出せるぐらいに、交渉の場を設け和解をナツキさん主導で行うこと」

 

指を三本立てて折り、イチカが背に隠したスバルを追い立てる。そして、和平の為の手段であるワカモの捕縛に対し作戦を練って欲しいと。──無論、その為の兵力は和平派から支払われるのだが、その不平等さについてはツルギは言及しなかった。

 

「表面上じゃ分かりませんが、ナツキさん方の想像よりもトリニティは危うい状況っす。ヒフミさんの投降と共に最終決戦を策する人もいたりして、不安定な中…皆さんという更なる不安定要素が加わった」

 

「爆発寸前の爆弾だと思って下さい、三日の猶予が過ぎた後…私たちはなるべく身の安全をお守りしますけど、保証は出来ないっす」

 

「了解だ、時限付きミッションは慣れ過ぎてるぜ!」

 

自信満々に言い放つスバルに「流石っす」と微笑み、役目は終わったと言わんばかりに振り返って歩き始めた。もう伝える事は無いのかと追いかけ肩に手を置いても、大丈夫だ。そんな風に羽根で押し返されて、

 

「立場上、ここまでっす」

 

「…なぁ、立場立場って…せっかくの再会なんだろ。少なくとも俺は、さっきのやり取り見て、はいサイナラとは出来ねぇ」

 

「──ナツキさん」

 

「ミカには俺から言っとく、だから…」

 

「……ナツキさん、大丈夫っす。お気になさらず」

 

それでお気になさらなかったら、スバルに人の心は備わっていない。そうだ彼女は、ツルギの方はどうなのだと振り向くと羽根と手で顔を隠して照れているのでどうしようもなく、必然的にイチカの顔色を探る。

 

端正な顔だ、ショートの影響もあるが一見男装の麗人の様な、そのまた逆も言える容姿。そして髪にハラリと見える白髪、キヴォトスの人間はストレスによる身体への影響は極わずかで、クマを作る生徒も一握り。そんな中でクマと白髪をコンプリートしてる所を見るに、どれだけのストレスに晒されればそうなるのか。

 

大丈夫と自称して大丈夫な生徒は少ないもので、不良達やヘルメット団も、金以外は満ち足りてる、辛くても皆といるから幸せで、だから大丈夫なんだ──そう自分を納得させる奴に限って、溜め込むモノを中々に溜め込んでいる。

 

「………」

 

「…どうしたんすか、そんなに見つめられると照れるというか……なんか付いてます?」

 

「芋けんぴ付いてる──冗談。いやまぁ、トリニティで先輩の名前呼んでた時にハスミ先輩?って人の事も呼んでたし、後輩とか同級生とかとも会わずにここでお別れは…やっぱ俺も寂しいよ」

 

「────」

 

「見た所、そこまで険悪な仲でも無さそうだしさ。和平派とか強硬派とか───」

 

「あ〜、はは。そっすね、そんじゃ」

 

吐き捨てるような返答にスバルは一瞬、頭が白く染まる。虚を取られた表情で突っ立ったまま立ち去るイチカを見つめ、目を伏しリンとアユムへとスバルの行動の答えを求めた。

 

表情は変わらない。だが、何も言わない無言こそ確かに失言を行ったのだと訴えかけている。

 

「何も…知らねぇ部外者が、現状を見てる癖に仲良しこよしの能天気だと、掛ける言葉も無い………な」

 

と、自虐を吹いた事に耐えかねてリンは憂鬱げな顔をするスバルに遠慮なく求められた返事をぶつけ、

 

「能天気とは思っていません、アビドス案件を解決した貴方がそう前向きである事は、多くの人にとっての勇気と…少ない人にとっての不満でもあるというだけです」

 

「その…イチカさんは、元々正義実現委員会で様々な問題を部員の皆さんと共に、善意をもって解決する側でした。けれど今は、皆さんの善意や善行が裏切られる環境です…。それは一重に、権威を持たないからなんです」

 

「…………」

 

なんにせよ、身勝手に口を出すべきではなかった。力ある者から環境を無茶苦茶にされてきて、再び『もっている』側からの稚拙な提案など、耳障りだっただろうに、声を荒らげられ無かっただけでも幸運だ。

幸運──いや、我慢を押し付けただけか。

 

「ナツキさん!!」

 

「声デカ…」

 

「コミュニケーションがドドド下手というのでしたら!私が編み出したお友達作りの秘訣をお教え致しましょうか!!私、今とてもシリアスな感じが心苦しいです!」

 

「レイサに言われたら世話ねぇよ!?ったく…よしっ!こっからまた明るく明るく!早速だけどツル───」

 

「あぅ…その、やはり隠れて頂けると…。あとイチカの事についてはお気になさらず…」

 

「………別人?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キェヘヘヘッ!!──こっちだ、ついてこい…」

 

「…………」

 

アユムの翼で隠されながら、廃墟となった街を蟻の巣に踏み込む気分で辺りを見渡す。ツルギの案内が無ければ所々の行き止まりやバリケードによる封鎖、建物が崩されて迷路のようになっているこの街から抜け出せないかもしれない。

 

奥に行くほど湿度は高く、そして冷たい風が流れる。この暗さと不気味さは、文化祭で演出されるお化け屋敷に似ていた。はからずとも活力を削ぎ、気分を落とす空気感になってしまっている。

 

「迷路みたいですね、ナツキさん!」

 

「みたいっつーか、まんまだ。完全な防衛要塞だわな…そりゃイチカが会いに行けるわけもなかった。道筋がバレたら一気に防衛力が落ちる」

 

既に歩き始めて一時間程度、未だに到着する兆しが見えないのも凄まじい。トリニティ自治区の広さを遺憾無く活かした、侵入者を一方的にハメ殺す蟻地獄。この迷路を設計した人物は相当な策略家に違いない、上空の制空権は手放しているように見えるが───迷路を破壊する為には街ごと、全てを更地にする必要がある。

 

爆撃によってそれを成したところで、最も削がれるのは味方の気力。白熱による現実逃避の闘争の熱狂、それから目を覚まされては困る事を、和平派の参謀は理解して街を人質にとった。

 

「きひ…ここだ」

 

そうして辿り着いた先、ツルギがだらんと落とした肩を更に下して告げた場所は、ただの行き止まり。他の場所の行き止まりと何ら変わりのない、倒壊した建物と建物の壁で作られた袋小路。けれどゆらり、と指さしたのは、

 

「──地面ですね」

 

「んー…!?あ、うっそだろ!どんな性格の悪さしてたら考えつくんだコレ…」

 

「え、え…何ですか、教えて下さいナツキさん!一人でズルイですよ!!」

 

何の変哲もない地面は、瓦礫とホコリを被って一切違和感なく唯の地面としてそこにある。だがアロナの目からは逃れられない、検知したこの真下の空洞に幾人か、スバル達とは別の生体反応が点滅していた。

 

ツルギが指さした地面の上で、靴のカカトを使い一定のリズムで叩く。それはまるで誰かに対しての合図であり、案の定その地面だった場所は秘密基地への入口へと様変わり、

 

「おおぉ!」

 

「まさかコレ、街のあちこちにあるのか…?」

 

「──お帰りなさい、ツルギ」

 

そして、ツルギの名を呼び捨てに中から出てきたのは、今までの誰よりも長身美麗、長い長い黒のロングストレートに、あと、あとは─────。

 

「───」

 

「きゃっ!?な、何をなさっているんですか!?」

 

頭をガンッ、と建物の壁に打ち付けて頭に登った血を下ろす。というか出し切る勢いでぶつける。どう見てもどう考えても、今の状況に合わない思考が頭の中を支配する。

 

──美人なのはそうだが、スバルよりも身長が四、五センチ程高く、男では避けられない物体が視線上に絶対映り込んでしまう問題が発生していた。

というかなんだそのスリットは、どうなっている、漫画やアニメじゃあるまいし現実でソレは駄目だろ。

 

「─────」

 

「…彼は時々奇行をする癖があるんです、無視して下さって構いません」

 

「そ、そうですか…」

 

扇情的なモノに過敏、であるとは言えない。だが興味が無いと紳士ぶる事も無い。あわや見た目の、見た目の……──えっちさに苦しめられる時が来てしまうとは。

現代版八尺様?いや流石にネットミームに汚染され過ぎか、邪な感情を罰する為にひたすら邪念を壁へとぶつける。

 

「ハァッ……ふぅ、行こうぜ、俺はバッチシグッドだ」

 

「バッチシバッドの間違いじゃ…?」

 

「レイサ!!な!行こうぜ!!」

 

「ツルギさんの豹変振りも凄かったですけど、ナツキさんの変わりようも大概ですよね…!」

 

鼻の下を伸ばした顔でも晒せば、非難轟々雨あられ間違いなし。気を持ち直しレイサの呆けた顔でリフレッシュし、今まで以上に薄暗い地下へと足を踏み入れる。

 

余計な間を挟んだものの、やはりこの迷宮要塞を作り上げた者の手腕は鋭いの一言だ。人間心理を突いてると言ってもいい、街のあちこちに『出口』として偽装された道が用意されているのだから。ブルーシートによる天幕が張られ、暗く、ジメジメとした空間にポツリと点っていた明かり。人は自然とその光に安息を感じる、道中そうやって偽のゴールが複数個用意されていた。

 

アレは良く効く、スバルも味わってきた。人の心を最も効率的に折るのは断続的な成功、そしてその成功が徒労と化す事。成功とは呪いであり、成果を求める心を折られては戦い所ではない。アリウスとトリニティの中核を相手にしながら泥沼の戦へと持ち込んだ存在が、和平派に居る。

 

「こほん…和平派副参謀、羽川ハスミです。以前は正義実現委員会で副部長をしていました、よろしくお願いしますね、皆さん」

 

「よろしく頼む…その、ハスミは…───ん?ちょっとまった、なんか…聞こえね?デカイ破裂音…?」

 

「ああそれは…私が合図を送ったからです。陽動、というには稚拙ですが各地で空砲を撃つ事で集合の合図とも兼ねています」

 

「……徹底してる。それで続きだけど、ハスミは副参謀、てことはこの迷宮の主…参謀様がこの先でお待ちしてるワケだ。多分だけどヒフミの代わりに代表務めてるのは、その参謀だと思う」

 

「ええ、そうですね」

 

「どんな奴かは知らないけど、注意しておいて欲しい点が一つあるって先に伝えといて欲しい」

 

「注意────…」

 

「お越しのお客様は、絶賛疑心暗鬼の真っ只中。道化師を宮廷に入れても大丈夫なように、心の準備はお済みでしょうか?ってな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──トリニティへの出張、それは誰かの力になりたいという目的意欲と共に、とあるスバルにとってのエゴ的側面を併せ持つ。それはdivi.sionへの抗い、いわば死因となるモノ全てを排した時、その絶対である予言を覆す事が出来るのか。

 

死因を排する、具体的に言えばアリウス生徒を炙り出す事だ。聖園ミカとの茶会以降は視えるようにはなってきたが、それでも不安定なまま。またアビドスの時の様な強いアリウス生徒が襲って来た時に、死に戻り無しで退けられるとは考えにくい。そしてアリウス生徒は何処にでも潜んでいると考えていい、和平派強硬派、中立の立場を取っている者だとしても、潜り込めない理由は無い。

 

表立っての組織、アリウス親衛隊が聖園ミカ管轄であるからして、この内紛が起きる前からその魔の手は伸びていたのだろう。イチカの発言が裏付ける様に、一般生徒はこの戦が何故始まって、どうしてこんな事になっているのかすら分からないのであれば、内紛が始まる理由は無い。

 

「平和ってなんだと思う」

 

そも、ゲヘナへの侵攻を巡って内部分裂したのであれば、最も増える派閥は中立になる。普通に考えて隣人と殺し合う方針の過激派の人数は増えないし、その意見を止めようとする和平派も普通の生徒が属するには志しが高すぎる。

 

何せ相手は同じトリニティだ、仲が悪いと噂のゲヘナや他の学園を止めるなら分かる。けれど今の今まで友人だった相手に銃を向けられるか?同じ部活、同じ学園、同じ趣味、同じ時間、それらを共有してきた仲間に、学生でありながら敵意を向けられるか?必然的に、和平派に回るのは正義実現委員会の様な元々『慣れている』生徒に偏っていく。

確定でなくとも、やはり中立派が増えるべきなのだ。それがどうした、中立派に関しては誰も口にしないし噂にもならない、話も出てこない。

 

「…うふふっ、平和…ですか?」

 

「ああ」

 

この内紛を、この熱狂を、この血で血を洗う地獄を続ける為には、少しでも『正気』を残してはいけない。一個人に秘められた想いや思想を塗り潰す程の世界にするには、和平派と強硬派は手を取りあって演出しなければならない。

 

───これは大義ある戦いである、と。

 

流れる血を黄金と同価値に、零れる涙は意志薄弱なものとして、戦果こそが誉である。『学生』である『生徒』へそれを強いるのに、ただ戦うだけでは成しえる事はない。

 

「そうですね…平和…──私にとっての、と捉えても…?」

 

「立場を含めて言わせちまったら…アレだよ、学校のイジメアンケート?それかガクチカとか、そういうありきたりな返事にさせちまうだろ」

 

「うふふっ…素敵な例えをなさるんですね」

 

「学生に対しちゃ、丁度いい質問じゃん?」

 

「………学生…ですか…」

 

地下を案内され辿り着いた先、ホコリの被った机を挟んでロウソクの灯りを元に、対面する参謀にスバルは問い掛ける。平和とは何かを。

 

「少なくとも、私にとっての平和は…食料、弾薬の在庫を考えなくとも不足せず、隣り合わせの友人に銃を向けずともよくて、親友を敵地……いえ、敵地と呼ばなくていい筈の場所に送り込まなくて済む時間、のことでしょうか」

 

「同感。俺もつくづく思うぜ、そんな運命クソ喰らえって」

 

「──なら、どうしてこんな問いを?」

 

疑心暗鬼の道化師、ナツキ・スバルがその目を向けるのは、トリニティ和平派参謀───、

 

「浦和ハナコ。俺ならこの戦いを終わらせる力がある、権力ってのがついてまわってる」

 

桃髪を揺らして思考する黒幕の一員候補、浦和ハナコに対してだ。何故そんな目を向けるのかと問われれば───そうせざるを得ないから。

 

「客人として迎えてくれた事は、まずありがとう。敵じゃないだけ助かるが、こんな奥地まで…アンタらの口の中まで迎え入れて貰って、緊張するな…は難しい」

 

「あらあら…ですが、ええ、そうですね…。おっしゃる通りです」

 

「リン、アユム、そして俺。部外者も部外者を簡単に土足で上がらせたよな?ミカもそうだけど怖ぇのよ、どうしても」

 

「ええ、はい」

 

「つまり、俺たちが作りたい平和とそっちの平和、齟齬があったら喧嘩になるだろ。喧嘩になって───生殺与奪、どっちが握ってる?」

 

「それは勿論、貴方達ですよ。道中見て貰えませんでしたか?他の学園の支援があっても、もう私達にこの勝負を続けられるだけの余力は無い」

 

「余力が無いからこそ、ヒフミさんが身を削っているんです。ここに居る誰もが、最悪の結末を避ける為に抗ってきた。私からナツキ・スバルへ求めているのは、私達の抗いが無駄にならない事だけですよ♡」

 

テーブルを囲む面々は錚々たるメンツ、リンとアユムはスバルの一言一句に顔を歪ませながらも、その意図を汲み取って黙認し、ツルギとハスミは二人の会話の結果を待ち望む様に、冷静沈着にスバルを見据える。

宇沢レイサは……宇沢レイサだ。

 

正義実現委員会の制服、黒を基調とし赤が差し込まれる隊服が周りにズラリと並んでいて、一部シスター服の生徒も見掛けるが、誰しも緊張感溢れる場に息を止めずにはいられない。誰かの呼吸音が聞こえる程に静まっており、スバルとハナコの会話が止まればその場は静寂そのものへ変わる。

 

「………」

 

「おや、私の返事に何処か不満がありましたか」

 

「ナイナイ。概ねの認識を擦り合わせたかっただけ」

 

「奇遇ですね、私も同じようなことを考えていました」

 

「んじゃぁ…思ったよりも似た者同士かもな、俺達」

 

「うふふ…そうだと嬉しいですね…」

 

──交渉の場へ予想よりも良い状況で臨めるならば、それに越したことはない。この会話も、相手の性質を読み解く為に必要。

交渉には高い純度の成果が求められる、純度、つまりは互いに差し出したものへの納得が出来ているかどうか。

 

常、正しい判断というものは、時に不都合な事実を含む。けれど正しく在るからこそ、その不都合を乗り越える為に力を尽くす。

対して交渉における正しい判断とは、提示された不都合を納得するだけに留められる。それを解決する事や、解消する事は求められていない。欲しいのは納得だ、リスクリターン、天秤に掛けたモノを等価にする為の納得。

 

「ハナコ」

 

「なんでしょう」

 

「俺がもし、俺なりの解決策の為に…その苦労を台無しにする場合があるのなら、俺をどうしたい」

 

「ふふっ、どうするではなく、どうしたい…中々難しい事を問いますね。ですが…うふふっ、別に構いません。私にも、『私なり』というものがありますので」

 

「…………」

 

「私の求めているものは変わりません、桐藤ナギサがそうであったように、私は私の全てを賭けて…トリニティの元ある形を取り戻す」

 

「たったそれだけの願いの為に、尽力しているんですよ。ナツキ・スバル」

 

「────」

 

今、情弱であるのはスバルだ。ハナコの妖艶であり妖しげな表情の裏を読み解く事は出来ない、がしかし。

 

──聖園ミカは紛争の解決を望んだ。あの過激な思想は何処へやら、エデン条約まで結ぶとまで言い出して、何の野望があるのかどうか。

 

──浦和ハナコはどうなのか。何を知り何を悟り、何のためにこの不毛な争いに身を委ねているのだろうか。

 

今、元の形を取り戻すと告げた瞬間に感じた、トーンの下がりに意味を見出しても良いのだろうか?

 

「…………」

 

「…………」

 

「───お疲れ様だぜ、ほんと」

 

「…?まぁ、そうかもしれません。皆さん…この戦いの為に、疲れきった身体と心を、まだ動かそうとしてくれています」

 

笑顔を崩さない参謀に、スバルは姿勢を崩してテーブルに肘をつく。手の甲を頬に当てて、学生の時の休み時間を思い出しながら声を和らげる。表情筋を緩め、肩の力を抜いて───そう、まるで放課後に話す些細な日常話を語るように。

 

「俺はさ、ヒフミがめちゃくちゃ良い子だったな〜、っていうめちゃくちゃ個人的な感情でここまで来てる」

 

「それは…──うふふっ、良い事だと思いますよ」

 

「そうだよな、良い事だよな。ここに居る全員の努力だとか、そういうのを無駄にしたくないから頑張ってるし、誰かが助けて欲しいって泣いてんのに放ってかれてるのが嫌だから、何とかする為に行動してる」

 

「だからまぁ、ワカモの事とか他の悩みとか、全部言ってくれ。俺はヒフミを信じてる、だからハナコの事も、みんなの事も信じる。俺が怪しく笑ってても、悪役みたいに見えても…多分、怪しいと思えば相手のことなんて幾らでも怪しめるから」

 

「──誠実さだけが売りの男を、魅力の無いセール品にさせないでくれよ。嘘も方便、俺は俺が信じてきたみんなをガッカリさせたくないだけの、モテたい一般高校生だ」

 

「ハナコはそんなモテたい一心で背伸びする男子は、嫌いか?」

 

「───」

 

「初心で可愛いな、と思います♡」

 

「ありがとよ、可愛げも売りの一つにしとくぜ」

 

 





浦和フラワー!お前…!シリアスゲージが振り切れすぎてエロ要素が…!!
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