Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『ギロチンダンス』

 

チェスは、無限の選択肢がある。ように見えて、その実常人が打てる手は一手目二手目で狭まり、プロと一般人とが争えば、両者に等しく立ちはだかっていた無限の壁はプロだけに取り除かれ、盤上の駒は誘導されるかのように奪われていく。

 

選択肢を見ることの出来る者と、出来ない者の隔たりは絶対的だ。そして当たり前でもある、初心者がプロに勝ててたまるか。絶対。

 

「──であり、─────であることを誓い合い、それを─────。我ら───により血の誓いを立て、──────として、ここに調印を行いなさい」

 

基本、この世に絶対ない、は絶対に無いと言い切りたいスバルであるが、チェス等のボドゲでは別。何故ならばソレは、望む未来の為に『用意された過程』をどうやって通るかの勝負だからだ。

 

プロ同士はそこを奪い合う。だが知らぬ者は、自分の一手一手が無限の可能性を秘めた奇跡の代物だと勘違いして対局を続ける。

 

「─────。────。───次に、連邦生徒会長代理ナツキ・スバルによる調印宣言を行う。────。壇上へ」

 

無自覚に、処刑台に立っているんだ。

無知故に、処刑台へ縛られても何も思わない。

始まった時点で負ける未来が決まっている対局に、心を震わせながら楽しんで駒を進める。

 

ああ。けれどそれは、初心者である醍醐味ではあるか。

 

「…………」

 

息を整え、ネクタイの締りを確認して壇上へと登る。

美しい、とも言える程の青空の下、眼下に広がる人の群れに寒気がした。

 

全校集会で単独表彰されるような、単独スピーチを任されているような。元より、目立つのは好きだが苦手という難儀な性格。

威風堂々たれと念じても、緊張から滲む手汗は止まらない。

 

「キキキッ……」

 

「───あはっ」

 

腹黒さを隠そうともしない微笑を浮かべるのは、ゲヘナ学園パンデモニウムソサエティー羽沼マコト、そしてトリニティ総合学園ティーパーティー聖園ミカ。

 

「今日、この日を迎えられた事を光栄に思うぞ…なんてな」

 

「私も〜。ここまで長かったね、無駄に☆」

 

「お前ら仲良くしろよ…」

 

調印式の場においてさえ、敵意を剥き出しにする両者。

焦りを隠せない進行役の必死な目線に気づき、こほんと一呼吸置いて読み込んだ台本を脳内で開き、台詞を口にしようとする。

 

「────」

 

───ああ。

 

なんと、壮大な景色。街中のモニターにも、ネットにも、ニュースにも新聞にもテレビにも、ナツキ・スバルが映っているんだろう。

そういえば、チェスの話をしていたな。相手を詰ませ、処刑台に立たせる。つまりはチェックメイト。チェックメイトの瞬間は誰の目をも射止める。

 

ジャンヌ・ダルクの処刑の瞬間、ルイ十六世のギロチン、革命の巻き添えを喰らったマリー・アントワネット、石川五右衛門の釜茹で。

 

──隣人に指をさせば処刑台に送る事が出来た、魔女狩り。

 

 

 

 

 

「───チェックメイト」

 

 

 

 

 

決まり手の一声。

 

処刑宣言を言い放ったのは、果たして誰の声だったか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──エデン条約調印式まで、残り八時間。

 

 

 

「─────」

 

 

地雷原注意の立て看板を見て、数多くの人間はその周囲に立ち入らない。

 

当たり前だ、キヴォトスでなくても地球の現実として、文字を読めない少年少女が無残な姿へ変えられてしまうぐらいで、その悲惨さを考慮に入れなければ『まとも』であればその地域を避けて通る。

 

地雷原近辺だけではなく、その地域すら避けるのだから人間のリスク管理能力は素晴らしい。無論、その警戒は正解であり地雷原区域から数十キロ離れた場所でも爆発事故が起きたこともあるらしい。

 

さて、なら『まとも』な人間が勇気を振り絞って地雷原に踏み入って疾走し────何事も起きなかったら?

 

訪れるのは安心ではない、絶望的な不安だ。勇気ある若者の捨て身の行動は、埋まっている『危険性』を何一つ排除できなかったという事。

 

若者はその場所から再度動ける勇気はなく、そして若者の家族が今後安心して通れる道は作られない。何が原因であれ、若者は最悪の末路を辿ったのだ。

 

───そこでどんでん返し。

 

その地雷原注意の立て札は、村の住人をその地域より外に出さない為に作られたプロパガンダであり、若者が夜の孤独に耐え切れず踏み出した一歩、足裏に触れたのは空き缶だったとさ。

 

「────」

 

示されたのはそんな二つの可能性。

足が吹っ飛ぶか、それとも杞憂か。

 

そも、若者が地雷原に向かった理由は家族に安全な外部との交通路を作る…なんてことではなく、村のとあるホラ吹きのせいでした。

 

『地雷なんて無いんだ!みんな信じてくれ!村の外には雲を貫く建物が建ってたんだよ!』

 

小さな少年、小さなホラ吹き屋は、一人の少女が村の外に出たいと願った時、口上で道案内をしてあげます。

────翌日、村に戻ってきた少女の両足は、失われていました。

 

「────」

 

唯一、村の外を見たという少年の口から出る言葉はそれ以降、誰も信じなくなります。数年、数十年、とあるしわくちゃのおじいさんがぼそりと零した言葉が、その天真爛漫な若者の耳へと届いた、というだけでした。

 

『──本当なんだ、地雷なんて、無かった』

 

「────」

 

この話の中だけでも、『真実』と確定出来る事はあまりにも少ない。

 

少女の両足を奪ったのは本当に地雷だったのか?

少年が外の世界を見たこと自体、真実だったのか?

地雷原はただ起爆していないのか、それとも埋まってなんかいなかったのか。

 

それとも皆、『まとも』でなかったが故に、理解しておきながら村に留まり続けたのか。

 

未来や真実、今の現実と現象とはそれほどに無体なもので、炎の揺らめきでありその影である。そんな揺らめきに、今も囚われ続けているのは村の外に出ない村人?それとも誰も『真実』と断言できない外の世界を信じ続けるホラ吹き?

 

──答えは何処にもなく、全てでもある。

 

「……──馬子にも衣装、だな」

 

《お似合いです、スバル様》

 

──早朝、五時。

 

──いつもの適当オールバックではなく、少しお高めであろうラベンダーの香り香るヘアクリームで、しっかりと固めた髪に合わせるように、肩パッドが入ったこれまた堅めの印象を持たせる白の礼服を着飾った。

 

内側は黒色で統一し、ファッションとして手渡された腕時計を身につける。

 

引き篭っていた頃では味わえなかった、一段上の『大人』の処遇。前借りに過ぎない『大人な見た目』に、鏡の前で釘付けにされる。

 

誰だよ。それが心の底から吐き出された本音だ。

 

「エデン条約までほんと、トントン拍子…──白馬の王子様の馬側が、乗ってる側に変われるもんだ」

 

特に、腕時計はやはり一線を超えた魅力を持っていると感じた。大真面目にファッションが持つ力を信頼しきって───女装の底力を理解してる側にとって、男としてどれだけのケアを怠っていたのか、嫌でも分かるものである。

 

ナツキ・スバルの晴れ姿、披露先は暗黒なのだが。

 

「エデン条約エデン条約エデン条約…」

 

身に着けたネクタイ、時計、礼服、手の込んだ髪型。全ては今から行われるエデン条約締結の場への参加が為。

用意された台本、格式張った作法、指導者としての所作発言纏う雰囲気全てが、『エデン条約』に相応しいものへと練り上げられていく。

 

しかし、不満は不満。特に汚れが目立ちやすいピカピカの白色、こんなものを着させないで欲しかった。秘密を探りにジャングルの奥地へ足を運ぶような男、ナツキ・スバルにとっては枷そのもの。

 

そして身体に武器を仕込めるスペースも限られすぎだ。未だその信頼感が衰えないカンナからの贈り物と、多少の縄であれば切断できるミニナイフ、隠せる限度はそれぐらい。

 

「エデン条約エデン条約…」

 

──時に。

 

時に、復讐者は『形式』に囚われる。

復讐者、端的に言えば過去の未練と不満を解消出来なかった存在の事。

復讐方法、復讐する場所、復讐する理由、復讐の正当化。ドラマを見ていればどれかを見ることがある筈。

 

復讐は、相手の命を奪う事が最優先では無い。復讐者にとって『復讐』足り得る事実をこの世に成立させることが目的なのだ。

 

スオウを思い出し、むせる。スバルにも思い出したくない顔が複数あるが、彼女も若干その領域に踏み込んでいる。がしかし、思い出す相手としては最適だろう。

 

『復讐者朝霧スオウ』

 

彼女は形に拘り過ぎた、ホシノを、アビドスを否定するという『復讐』の為に命までも捧げた。

簡単には破滅させない、簡単には終わらせない、出来るだけ苦しむように、出来るのなら自らの手で復讐を果たせるように。

 

「───エデン、条約」

 

胸のざわめきがよりいっそう増す。トリニティを離れて以来、回転を早めていた脳みそと鼓動を高めた心臓が、スバルに天啓をもたらそうと必死に足掻いている。

 

この物語の根幹は───そう、エデン条約だ。エデン条約を巡ってトリニティでは内紛が起きた、意見の相違で殺し合いさえ起きて、今更条約を結びたがるゲヘナ側もゲヘナ側だが、トリニティもトリニティ。

 

必要、無い。

結論は、必要無い。二校の間で結成される中立武力組織?だからどうした、権限があろうがなかろうが暴れるのがゲヘナであり、目的を果たしても本当に今までの犠牲を補える効果があるか?

 

「エデン条約」

 

ホワイトボードの前に立ち、黒ペンを握りしめ学園の名前を白色の盤上へと記入する。トリニティ、ゲヘナ、連邦生徒会の三角形で配置されたサークルの中にはアリウス、強硬派和平派、万魔殿。

次に赤ペンを走らせてそれぞれの関係を文字にして、

 

「アロナ」

 

《トリニティネットワークからの情報収集及び、エデン条約に関連する文献を表示します》

 

「ん」

 

『エデン条約』という線の輪で、全部を囲いこんだ。

着地点が見えてこない、エデン条約を通して得るもので成したい成果と、今起きている惨状とでは既に天秤の上で釣り合ってない。

 

まずはゲヘナ。噂によれば───万魔殿の長、羽沼マコトは大のヒナ嫌いらしく、エデン条約すらヒナよりも知名度と権力を得ること、そしてヒナが口出しできない武力組織の成立させることが目的……。

 

「俗すぎやしないか…?」

 

仮にも立場的にはトリニティのティーパーティーとニアリーイコールだ。私欲と私情を完全に公務へ混ぜて成立する組織なのか、万魔殿は。

 

いや──疑い深くいこう。そも、ゲヘナ生徒は根本的に反りが合わないトリニティ生徒が嫌い。この嫌いという感情は『生徒』としては無視出来ない重要なエッセンス。

 

ヒナが嫌いと言ったか。頭脳明晰にして最強の戦闘力を持ち、何処を取っても素晴らしい生徒であるヒナが嫌い。だが良く考えてみろ、あのプリティーでスバルの究極のアイドルである彼女が、本当に、これ程恨みと妬みを受ける人物……──。

 

「いーや、無いね。ヒナの事を本気で嫌いになる奴は『それ相応』だ!全くあの世界一可愛い生き物が嫌いだとか…───羽沼マコト、コイツには空崎ヒナ様のプリティー演説を三時間は聞かせてやる。朝起きたらまずラジオ体操、そしてヒナ賛歌だ」

 

相当な因縁持ちか、権力欲を抑えきれない生徒なのか。

ニュアンスを大切に、この羽沼マコト目線をイメージする。

 

日常のツイートから見て取れる、溢れんばかりの自己顕示欲。ヒナを下に見たいが為に過激な行動を起こすらしい私情と公務の混同。そんな精神性で、ティーパーティーと仲良しこよしをするつもりがあった。

 

「─────」

 

「んな訳…」

 

こういうタイプは、自分と『対等』か『それ以上』の存在が許し難い。ティーパーティー全員が揃っていた時期のトリニティと和平条約…──エデン条約を結ぶ、という思考にすら至らない筈。

 

「怪しさポイント加点っと、次はトリニティ…」

 

──トリニティ。

エデン条約を結ぶか否か、たったそれだけの事に産まれた『ティーパーティーの崩壊』。死者すら出し、内戦すら引き起こし、かけがえのない日常を失って、

 

「これがどうも、な。違和感どころじゃない、理解不能の領域」

 

小さな小さな火種を、トリニティ全てを焼き尽くす大火にしたのは何だ。酸素をあれよあれよと送り込み、過熱の抑えを効かなくさせたのは誰だ。

 

──アリウス親衛隊と聖園ミカ、そして浦和ハナコ。

この三者間には明らかに意図が絡み合っていた。イチカの様に、隣の同僚と戦い合うようになってから…。

 

「早すぎた」

 

《開戦から二日で和平派の結成、そして一週間で街の迷宮化、ゲリラ戦による膠着状態が始まったのは恐らく開戦五日後かと。情報の正確性は担保できます》

 

「─────」

 

アリウスに関しては単純に、彼女らは『復讐者』であると定義できる。

歴史の闇に葬られたアリウス分校、第一回公会議の唯一の反対派閥にして、今や文献にしか残っていない古い復讐の火種。

 

ホシノや……朝霧スオウが持っていた『復讐心』。アリウスも、その火が消えるまで走り続けるのだろう。否定や拒絶はしない──ただし、火種を燃え上がらせたと思われる『ベアトリーチェ』とやらを許すかは別だが。

 

最後、連邦生徒会。

エデン条約は不可侵条約、エデン条約機構の作成によりゲヘナ、トリニティ両校の衝突を回避する構想…なのだが、

 

「………」

 

「連邦生徒会長」

 

立案者、提案者は──連邦生徒会長。

 

「────」

 

《───……》

 

「一旦外して考え…──くそっ…」

 

手を付けづらい所であるのは事実。

伏された情報の多さでは、彼女よりスバルの頭を悩ませる相手は居ないだろう、どうしてエデン条約なんて代物を提案したのか、その心境すら分からない。

 

《一応…ですが…》

 

《エデン条約の構想は、ゲヘナ前風紀委員長『雷帝』に対抗する策、だったとは記録されています。現在のエデン条約は桐藤ナギサ、羽沼マコトによって元の形とは細部が異なってはいるようです》

 

これにて──一応の疑心暗鬼ポイントは書き込んだ。

夕日の落ちる頃、トリニティからスバルが帰還して程なく、エデン条約調印式が決定されて半日。

 

人生ゲームでサイコロ五倍のカードを使った様な進み方に、これまた違和感。浦和ハナコと聖園ミカが対談した、あの時の重い唾がまた喉を通っていく。

 

「…………。こういう時、力を貸してくれよ予知夢さん」

 

「…───」

 

「─────」

 

「………───!!!」

 

「待てよ、待て待て待て、そもそも、そもそもっ、桐藤ナギサはヘイロー破壊爆弾で死んで…ヒフミが遺言で捕虜になって、俺を呼び寄せる為に戦力を貸して……ってのが全部アリウスのせい……」

 

「っ違う待った、アリウスがエデン条約に関わった事件は見える所だと二つだけだ。桐藤ナギサの暗殺と、親衛隊の結成…。それ以前にティーパーティーからは一人消えてるよな…?」

 

「誰が、誰だ、誰かが何かしてる。ベアトリーチェみてぇに、裏でコソコソ隠れてる。浦和ハナコ?聖園ミカ?アリウス?違う、なんか違う」

 

「でも、もうとっくに表には出てんだよ。ベアトリーチェ…も…サブ黒幕って感じしか……」

 

「誰─────」

 

「─────」

 

 

 

『───。サクラコ様とあの方は、この事態を事前に予測していた?』

 

 

 

「───…マリー。………サクラコって名前、調べてくれアロナ」

 

《はい!》

 

連邦生徒会、そうだ思い出した、連邦生徒会長の置き手紙。各自治区の長か、特定の人物に渡されたとされるパンドラの箱。ヒナにも渡されていたアレが、どうして羽沼マコトに、聖園ミカに、届いてないと思ってたんだ。

 

そうか───アリウスがナツキ・スバルを元々知っていたのは、トリニティに届いた手紙を入手していたのか。

 

誰から奪った、桐藤ナギサ…聖園ミカ…。この中で一番、この整理して羅列した繋がらない情報達を繋げられるに値する人物は────。

 

《歌住サクラコ: 不干渉主義を貫く独立集団シスターフッドを取り纏めるリーダーであり、トリニティ内の派閥争いへ参加しない事を盟約ともしていて、今回の内紛では……》

 

《桐藤ナギサとの誓約によって参戦しています》

 

「─────」

「─────。───」

 

『派兵を提案したのもヒフミちゃん、この計画を立案したのもヒフミちゃん。まぁきっと…──ナギちゃんが仕込んでた事だろうけど』『桐藤ナギサの暗殺──それがどうも、ゲヘナのせいだって嘘っぱちが流れてる』『ゲヘナを攻め滅ぼしたい過激派は桐藤ナギサが暗殺されてから現れた』『アリウスってのはトリニティの古い、統合前の学園だろ?分校がどうしてトリニティでの武力組織になんかなっちまってんだ』『ミカ様の意向っす』『──ナギちゃん?』『エデン条約…楽しみだな〜。長い長い小競り合いが漸く終わるんだから』『うんうん、でもそうやって小難しい事ばっかり言ってると、みんなから嫌われちゃうよ?』

 

 

『私の友達はチェスがとっても強くてさ、何回やっても…負けちゃうんだ。あっという間に、目を離したらぴょーい。キングを取られて終わり』

 

『最後まで勝てなかったし、今更お勉強して強くなっても誰も相手してくれないし、一局やりたくなっても…──ううん、今は君が居るね』

 

『私ね、沢山練習して、ようやく…一手打っただけじゃ負けないようになったんだ〜。こういう風に』

 

 

『はい。チェックメイト』

 

 

『どうかな?私、チェス強くなったでしょ』

 

 

 

 

 

「桐藤ナギサは、まだ生きている────?」

 

 

 

 

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