Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『魔女』

 

「────」

 

身体が、鉛のように重い。

粘ついた飴のプールで泳がされているようで、息も浅く、生存の為の最小量しか肺に送れずにいる。

 

「────」

 

自分がまるで、古ぼけた人形になったみたいだ。

節々は、オイルを切らした歯車が擦れる感覚。寒さと口の中に広がる鉄の味が、痛みと気持ち悪さを増長させる。今すぐにでも血に溺れる前に吐き出さなければと必死に喉と舌を動かして、その出入口が塞がれている事に気がついた。

 

──目が痛い。

眩い何かを、直視しては目が焼ける何かを至近距離で見つめてしまったから、視界が白飛びしては激痛に悶えてしまう。けれど隙間から見える色は分かる、黒色だ。ならば目が見えても同じか。

ああけれど、黒色は嫌だ。残酷で冷たい記憶を思い出すからだ。黒には、悲しい記憶しか埋まっていない。

 

「────」

 

意識を失う前は何をしていたか、ぼうっと眺めていただけだ。建物が岩石に押しつぶされ崩壊していくのを。空一面から降り注ぐ暴虐に黙って怯えていただけだ。たった一人の力で成せてはいけない神の御業に声すらでぬまま息を止めていただけだ。

 

「────」

 

そうやって冷たくなる頭とは裏腹に、目覚めと共に稼働し始める身体が異常を訴え熱を持つ。傷から、打撲から、気を失う前に砕かれた手首から、心臓の鼓動と共にナツキ・スバルが壊されている場所を指してくる。

所詮、軽傷に過ぎない。この程度。

 

黒服に身体の内側を『開かれた』時に比べれば、まだ呼吸は許されているし、意識も鮮明で苦痛を感じる暇がある。元より鈍っていた感覚、一時期は失われ、平穏な時間と共に取り戻してきたがこのザマか。

 

「────おーい」

 

──返事を返したい。

目が見えなければ頼りに出来るのは、身体に触れる感覚と聴覚だけになる。

体勢はどうだ、何処かの冷たい床にでも寝かされているのか。いや違う、座らされていて、身体にロープを巻かれている。

 

圧迫される胸骨と摩擦を感じる腕、椅子に縛り付けられた状態で────今誰に話しかけられた?

 

「────おーい?」

 

じんわりと、身体に体温が戻ってくる。

そしてゆっくりゆっくり、記憶も帰ってきた。

思い出してしまった光景に荒い息をたて、喘ぐように吐息し口を塞ぐ布を湿らすスバル。そんな惨めな様子を見て憐れに思い、心の片隅にある良心とやらで介抱してくれるものは、

 

「ぁ……えっと、大丈夫?ついさっきまで死にかけてたから…」

 

───。

汚れることを厭わず、口枷を解き嗚咽を吐き出させてくれる。混乱と苦痛、二つに掻き乱される思考がまた少し冷静さの天秤へと傾き、口の端を汚す乾いた涎を肌触りの良いハンカチで拭き取ってもらった。

 

声───には、聞き覚えがあってしまう。

トリニティに足を踏み入れ、茶会に臨み、依頼を解決してエデン条約の調印式でも聞いた声。そして今最も、耳にしたくなかった声だ。

 

「ご、ごめんね…。本当は手首、壊すつもりじゃなかったのに…緊張して思わず…それにしても凄いよ!君のお友達とあの携帯の子!」

 

「本当は会場に居た全員、殺せる算段だったのにさー。ヘイロー破壊爆弾もずっと避けられちゃったし、携帯の子のせいで攻撃は当たらなくて…──右腕、奪われちゃった」

 

「────」

 

「部隊も壊滅!ビックリしたよアビドスの子まで飛んできて、スクワッドも『ミメシス』で作ったユスティナ信徒もぜーんぶ───ああ、これ喋ったらダメだったっけ」

 

「とにかく!私を本気で殺しに来るから、君を抱えて逃げるのも大変だったんだよ?なんとかカタコンベまで辿り着けたけど…後一秒遅れてたら、お腹に穴が空いてたかも!」

 

「あー、疲れた〜。漸くゆっくり出来るって時に起きてくれてありがと☆お話し相手が欲しかったんだー」

 

呼吸を荒らげ低下していく生命機能を必死に戻そうと足掻くスバルとは対照的に、かちゃん。と茶器同士が軽く当たる音を上げ、ため息を吐く聖園ミカは落ち着き払っていた。

神が人の皮を被っているとしか言いようのない以前とは違い、随分と人間臭さを見せていて、激戦を語る姿からはある種精力的、活発な生気を感じ取らせる。

 

事態を探る為椅子に縛られた状態で芋虫の様にもがくスバルを、まるで美しい芸術品か、立派な戦利品を見る目で紅茶に口をつけ、粘着質な視線がスバルへと突き刺さっていく。

 

「まだ目は見えてない感じ?」

 

「────」

 

「ふんふん、なるほど。目も見えないし声も出ない…。なら、あと数十分は紅茶を楽しもっかな?」

 

周囲に人の気配は無い、たった二人、二人きりのお茶会が開催されている。聖園ミカはアリウスの中核だと認識していたが、スバルと自身以外の生徒がいないということはこっぴどくヤラれてしまったのか。身体を揺らしてアロナの重みを感じようとしたが手応え無し───良かった、アロナは覚えていてくれたんだ、何よりもスバルが優先しているものを。

 

ずい、と顔を近づけられる。明滅が収まる頃には聖園ミカの顔もよく見える様になった。埃と土に塗れた顔は、腹部から弾けた血によって痛々しさを増している。外套をぬぎ、ノースリーブの滑らかな絹の肌着には元の清らかさは無い。

 

腹のど真ん中を撃ち抜かれる寸前で身を躱したのだろう、抉れた箇所は致命傷を僅かに避けている程度。処置をせず放置しているのはキヴォトス特有の超人体質によるものか、自殺志願者であるかで、

 

「えっとね。君にはこれから先も苦しんで貰わないと困るから、あんまりネタバレ?になる事は話せないんだけど……」

 

「どうかな、コレも経験したこと、ある?」

 

「────」

 

「うーん。冷静過ぎてつまんないな〜、もしかしてもっともーっと、酷いことされた思い出もあるのかな。大変だよね、そんな力持っちゃったら」

 

「私の命もあと数時間だし、君を最後まで味わい尽くしたいのに…」

 

「──。ぁにが…もく…れき゛……だ…」

 

「うん?」

 

「な…んの…ぁめに……」

 

「君の為」

 

「────」

 

「私の王子様、私の…処刑人。そんな、君の為に」

 

「死なせないよ。ナツキ・スバル、君がやり直しを選択するまで、君がこの世界を諦めて次に行くまで、絶対死なせない。その分、絶望してもらわなくちゃ」

 

──逆だ。

逆だ、やり直して欲しかったら、死に戻りをして欲しいなら今すぐ殺せ。

やはり分かっていない、桐藤ナギサの手紙の内容だけじゃスバルの力を推測しきるのには足りていなかったんだ。

 

「わかっ…てっ…ないっ…」

 

「────」

 

「っ、ぁ……何で…!お前らは!次だ次だと今を見捨てられるっ!?何にも信じてない癖に、一番信用ならねぇ謎の力を信じて!なんでここまで出来んだよ!?」

 

「君自身がそれを証明してるよ」

 

「ぁ────?」

 

「君自身が、一番分かってる筈だよね。気を失う前の状況を考えれば、君のお友達全員が死んでいてもおかしくない。なのに目を覚ましてすぐに君は、自分の身より、誰かの身の安全より、情報収集をしようとした。その冷静さもそう、怒鳴り散らかしてる風に見えて頭の中は綺麗に整ってる」

 

「──諦めてるんでしょ?本当は、もう、ね」

 

違う。違う。

違う違う違う違う違う違う違う違う、何を勘違いしている、ナツキ・スバルはどんな瞬間でも諦めない、それ以前にこの力をそんな風に捉えるな。違う、無駄にできないんだ、一つも無駄にしちゃいけない────?

 

「ぅ」

 

「見に覚えがあると思うな〜。もっと、君は直情的で浪漫家で、向こう見ずに走り回る元気な子、って聞いてたし……手紙もそういう風に書いてあったよ」

 

「──。ほら今も、手紙って単語を出したら急に身体の反応が変わった、一瞬で聴者になろうとした」

 

「無自覚?それとも意識的に……どっちでもいいけど、うん。そうだね☆今の君こそ、私達が求めている君の姿!カッコイイね、スバルくん!」

 

桃色の髪を揺らし、席を立ってくるりと優雅に一回転。爛々と輝く星雲がまるで彼女の高揚を代弁しているかのように光り輝く。

そうして照らしてくる光に、スバルはあの破滅的な光景が重なってしまってひどく落ち着かない。

 

「理解してるはずだよ、君なら分かる筈。私達なんかより、いっちばん狂ってるのは君なんだ。私でさえ麻痺しなかった心の根っこ、『哀憐』が消えてるって本当、凄いよ」

 

「そんな事ない──って顔をしても、口には出せない。どうして君を、証明出来ない力を信じているか、だって君が証明してくれるんだもん」

 

「──ナツキ・スバル」

 

「君が私達を肯定してくれる。君の目が、声が、姿形が、君が奏でる全てが、楽園へと私達を導く天使のラッパみたい。ううん、君自身が楽園とも言えるのかな、君の存在自体が私達の救いである」

 

「誰も信じられない。誰の事も信用出来ない。明日を生きる未来を考えることすらない。──Vanitas Vanitatum et Omnia Vanitas」

 

「そんな世界の中心に、たった一つ。たった一人。君が居る」

 

「キヴォトスの古則の解答を有する神の子、ナツキ・スバル。聖典に記述される神の愛を体現する伝導者。あまねく苦痛と苦難を背負い、我ら罪業を抱えし子らを救い給う救世主」

 

「───あははっ。おっかしいよね!君からしたら敵の、アリウスの子達が施されてる教育は『コレ』だよ?みんなが君に救いを求めてる。ほんと、下らない、下らないのに、私も縋っててさ」

 

「それは───それは、おかしい。なら、なんで、どうして殺意を向けるんだ。なんで、こんなこと」

 

「さぁ?君に仕向けられた子達は不穏分子だったんじゃない?今アリウスに残っているのは、君を神様だって信じてやまない可愛い子供達だけだし」

 

愛おしげに聖園ミカはスバルの肌に触れる。「痛い?」と骨の髄まで砕かれた右手首を更に強く刺激し、スバルの反応を紅茶片手に笑みを浮かべる。赤子が気まぐれに積み木を押し倒して笑い声をあげるように、無邪気さを全面に出して。

 

けれど決して乱雑には扱われない、それがかえってスバルの気を揉む。苦痛に歪む顔を笑われておいて何が───そう思いたくとも、見え始めた視界の中心にある聖園ミカの顔は、

 

「────」

 

───あまりにも。

 

「────」

 

───虚しい。

理屈が通っていない、感情の揺れすら感じ取れない悪役に、どうして口惜しい優しさが重なってくるのだ。優しい、その言葉の欠片すら似合わない相手にどうして、ナツキ・スバルの心中に怒りも憎しみも湧いてこないのは何故。

 

「あ」

 

「……あーあ、戻っちゃった。ダメだよスバルくん、私を憐れむのは」

 

聖園ミカの顔から色が抜け落ちる。つまらないつまらないと口にしていた割には楽しそうにしていた彼女の、その目は真に下らない世界としてこちらを見ている。

 

湧き出す嫌悪感、潜んでいた神気が表立つ。可憐な少女はあっという間にティーパーティーのホスト、アリウスの旗印へと変わっていく。

おぞましい程の殺意と敵意、ほんの少しでも和解を目指したスバルの意思を徹底的に踏み潰し、彼女の視線が眼球を通って身体の中身を蹂躙する。

 

「ぅぁっ…──っ…」

 

「──大丈夫。君にはこれ以上手を出さないよ、やり直す前に死んじゃったら全部おじゃんだし」

 

「その代わり──。君以外には、手を出しちゃうね☆」

 

その言葉に、ヒヤリとした感覚が背筋を伝う。

そうだ皆は、あの後はどうなったんだ。聖園ミカの星雲が広がって空から──隕石が降り注いだのは覚えている。それ以降の記憶は無い、が、あの蹂躙を、あの絶望をヒナやツルギ以外が乗り越えられるとは到底思えない。

ならば、今現在皆はどのような状況に置かれて────。

 

「んー?」

 

スバルの思考へ答えるように、次々と白無垢の影が伸びてくる。身体に爆弾を巻き付けた、如何にも今から行おうとしていることを表明している様子に嫌な予感の終わりが見えない。

 

「どうかしたの?」

 

「────」

 

「あー。あははっ、ベストタイミングって奴?──行ってきて」

 

両手の平を合わせ、聖園ミカは笑顔で命令を下す。太陽の様な笑みの矛先は全てスバルへと向かっていて、漸く開ききったスバルの瞳を覗き込んだ。

 

「ねぇ」

 

「──その通り、だよ?」

 

悪辣な笑みだ、ナツキ・スバルという存在を見透かすように気分を高揚させていき、頭の中の想像を的中させる言葉を吐き出す。

 

「空崎ヒナを先頭に、君が今まで救ってきた全員がカタコンベに来てるの!あは、あははっ!馬鹿だよねほんと!君にとっての一番の逆鱗で、一番の弱点は、君以外の存在なのに!信じてるんだね願ってるんだね、ナツキ・スバルが居ればどうにかなるって、ナツキ・スバルさえ助けることが出来れば自分達なんてどうでもいいって!」

 

「分かってないなぁ、分かってないよ。どれだけ自分達が大切にされてきたのか、君はどれだけ繰り返したの?彼女達をあそこまで希望を持たせるまでに、どんな苦難を乗り越えたの?」

 

「──。君が助けた生徒が、そんな浅慮なモノじゃないのは分かってる。でも、でもでもでもでもでもっ!ぜんっぜん、分かってないじゃんね☆」

 

ひょい、と羽毛を持つように椅子を掴みあげ、止まない狂気がスバルを襲いその熱に炙られる。スバルが何か言葉を紡ぐ前に、人差し指を唇に当てられ、グリグリと鼻頭から唇まで執念を感じる嫌がらせを受け、じわりと浮かんだ涙と零れる唾液を顔でミックスされてしまう。

 

「ぁぅあっ…──やめっ…」

 

自分の余命をあと数時間と宣告しておきながら、この無駄な行為にたっぷりと時間を掛けるのは最早、意味や理由といったものを超越したモノ。感情に身を任せハグをして、凄まじい力で胸骨が軋むのをスバルの胸へ耳を当てて聴き入って、

 

「ねぇ、ねぇねぇねぇねぇねぇ」

 

「おかしいと思わない?おかしいと思うよね、私もおかしいと思うよ。ナギちゃんも絶対おかしいって言うしセイアちゃんは『理解不能だね』っていつも通り偉そうに言うだろうし、それをお気にのお店でそうだよねって返すんだ。おかしいよね、あははって」

 

「見てよほら、見てって、君が、君がどんな存在なのか君自身分かってないよ何も、勝手に背負わされたんだよね?勝手に連れ去られてきたんでしょ?勝手に理不尽な運命を歩まされてるのに?何も疑問を抱かないの?」

 

「──ねぇ、ナツキ・スバル。何の為に君は生きているのかな?」

 

──ナツキ・スバルへ狂喜乱舞して見せつける映像は、この暗闇の『外』、キヴォトスの有様だ。

 

赤黒く染まったサンクトゥムタワー、それに応じて全てを赤で塗り重ねようとする空の色。天輪は崩壊し地平線までが瓦礫の海へと沈み、何もかもが『終幕』へと向かっている。

映像を映しているのはワカモであろうか、何かに取り憑かれているとしか思えない狂騒を演じ、楽しそうに野を駆け回り外の情報を伝えていて、『スバル派』はその世界を駆け巡る。

 

踊り疲れ、聖園ミカはスバルを地に下ろす。そして再度、瞳を覗き込んだ。

 

「───。お前ら…が…?」

 

「ううん。違うよ?これが君の因果、君の運命、君という存在に紐づいた全ての連鎖反応。私は紐を一本だけ引いただけ、なのに、あははっ!ほら、おかしいと──思わない?疑問に、思ってよ?」

 

「ち…がうだろっ…!お前が、お前らアリウスがあんな事して──!」

 

「だから、違うよ。確かに、エデン条約に参加した全員の排除は計画の内だったけど、君がイチカちゃんに目を付けた。その時点でみんな諦めちゃったの、計画の完遂も願いの実現も。後は私に全部任せて無茶苦茶にしていいって、だからあんな事したけど……別にこんな世界は望んでないし」

 

「予言は君を指し示した、彼の者の元で救われぬ魂は無い、つまり君が一人、一つでも取り零した時点で──救われるのは、『次』。今じゃない」

 

「だから削るの。だから君を苦しめるの。君はどんな苦難も乗り越える、どんな試練をも突破する、どんな命も取り零さない。そうなるまで、君がその世界に『至る』まで終わりはない。君の因果が実を結ぶまで」

 

「───私達の声が、君に……届くまで」

 

───。

そうして、祈りを捧げる聖園ミカに衝撃を受けたあと、ふつふつとスバルの心の底にはどす黒い感情が澱んでいく。

それは侮辱している、侮蔑している、ナツキ・スバルの積み上げた『足跡』を無下にしているのと同じだ。自らの願いで自らを殺すやり方だ、卵の中で死んでいく雛の末路だ。

 

救いを求めるならば、よりにもよって『他者』に救いを見出すなら、まずは醜悪な欲望を押し付けるな。砂漠の孤島で泣いていた少女を知らないくせに、誰の声も届かない場所で朽ちていく運命に抗い続けた少女が、やっと二本の足で歩けるようになったのに、全部巻き込んでおいて身勝手な───、

 

「誰の目にも止まらず、声をあげることすら許されなかった彼女達を」

 

「──助けて欲しいな。スバルくん」

 

───。

 

───。

 

────。

 

─────。

 

「はいっ!これで説明終わり!また同じ話を聞いて、同じぐらい絶望してもその時は───『もう一回だ、一度勝ったきりで終わりなんて寂しい事言うなよ』───って、言ってくれると嬉しい。私達、勝負を一度ひっくり返されたぐらいで泣いちゃうからさ」

 

スバルに最後、もう一度ハグをして聖園ミカは離れていく。テーブルの上に残った最後のロールケーキを食べるみたく、口惜しそうに。そして、死出の旅路へ出向くように。

──代わりに、また一人、魔女をそこに呼び寄せて。

 

「後は任せるね、ハナコちゃん」

 

「────ああ。貴方も、役目を果たしにいく。という事ですか」

 

「バイバイ、ナツキ・スバル。『次』もまた、仲良くして欲しいな!」

 

「ま……待って、待て……待て……待て待て待て待て待て……ッ!…っぁ──行くなよ゛ッ!聖園ミカッ──!お前は!お前とは!もっと話をしてから……っ、軽々しく次でもいいって話してるけど、この力は───!!」

 

「ふふっ。分かってるよ、スバルくん」

 

「…は?」

 

「いいの、ここで終わりで。私、もう疲れちゃったし。分かってる、何処にも行かない、何処にも行けない。私───ここで、終わるんだって」

 

──言葉の意味を理解するのに、三秒。

 

「ミ───……」

 

彼女が、離れていく。呆然とその姿を見ているだけしか出来なくて、聖園ミカの言葉の真意を聞く前に居なくなろうとしている。ここで終わりと言った、終わっていいと言い切った。それはつまり『次』に、『やり直し』に対して、今の自分の消失を受け止めるということだ。

自己の連続性──それを、放棄する。放棄してはならないものを、手放している。それは、その考え方は、

 

「みかっ……」

 

決して、あの様な一人の生徒が抱いてはいけないものだ。

 

星雲が再び光り輝く。この世の闇の全てを照らさんと広がっていく、あの落石を、あの驚異的な破壊力を炸裂させようとしている。

しかし、今回はその力が発揮されきる事は無い、相手は空崎ヒナと小鳥遊ホシノ、二人以外にも『その程度』と乗り越えられる生徒が押し寄せているのだから。

 

敗北、そして『死』。魔女の笑みが、それを予感させながら遠く、遠くへ消えていった。

 

「ミカぁぁぁぁ!!」

 

聖園ミカが何を経験して、何を味わって、何故この結末に至ったかさえ、何一つ痕跡を残さず消えていった。

聖園ミカという少女は、何一つ理解されることなく、何一つ暴かれることなく消えていった。

 

───消えてしまった。

 

 

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