Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『始まりの始まり』

 

 

「そこまでよ」

 

 

ーーナツキ・スバルの視界に映る女神。

思わず涙腺が緩む、その少女が本当に空崎ヒナであるのか、確認する様に各所を見渡し、息を飲んだ。

 

間違いない、あのフワモコな純白の髪の毛、要塞を思わせるヘイロー、何よりも目を引かれるのは背に背負った巨大なマシンガン。

その小さな体躯には似合わない程に大人びた、美術品を思わせる顔のパーツの配置、その可憐さ妖美さを後押しするかのように纏う雰囲気も只者では無い。

 

 

「「空崎ヒナぁ!?」」

 

 

良かった、と胸を撫で下ろす。

もしこれが、ナツキ・スバルが死に疲れきった事によって産まれた幻覚であったりするのならば、ぬか喜びを超えた失望を与えられてしまう所だった。

 

彼女の視線に撃ち抜かれた少女達は、今すぐにでも逃げ出したいのか後ろへ一歩後ずさり。

空崎ヒナからの死刑宣告を待つように、膝をガタガタと震えさせていた。

 

 

「それ以上やるつもりなら、規則通りに処罰させて貰う」

 

「ひぃっ…!?釣り合わねぇって!!何もしない!何もしないからぁ!」

 

「逃げるぞ!!潰れたトマト缶になんかになりたくねぇだろ!?」

 

蜘蛛の子を散らすよう……ーーは1度言った事なので省略しよう、余計な労力を使わずにすんだ、と澄ました顔をしてスバルへと手を差し伸べる。

 

やはり規格外、この世界で顔、名声だけで恐れられる事がどれだけ難しいのだろうか。

 

ヒナの目の前で小刻みに震えている少年に目立った傷は無い。ならば服で隠れた場所に傷を負っているのかとセナへ連絡する事まで考えていると、か細く震えた声で少年が話しかけてきた。

 

 

「ヒ…ヒナ…、ヒナなん、だよな?」

 

 

いきなりの下の名前呼びに驚くも、名が知れているのは今更の事、気には止めずに返事を返そうと……。

 

 

「ヒナぁぁぁぁーー!!!ヒナぁ!ぅうう!神様ありがとうございますぅぅ゛ぅぅ!!」

 

「キャッ!?っ!?は、離れて……!」

 

「うぐっ、ひぐっ…ヒナだ、ヒナが居る…ヒナだぁ……」

 

「何を言っているの…!ちょ、ちょっと!」

 

「うグッ……ひぐっ…………ふぅー……すまんかった…」

 

「ちーとばかし、並々ならない……はぁ、事情があってな…」

 

「…事情があれば人に抱きついても良いの?」

 

「本当にごめんなさいッ!!」

 

好感度メータが下限を振り切る前に土下座謝罪を決行するスバル。

自分からすれば泣ける系シナリオの最終盤、ここぞの涙腺崩壊シーンに等しくバスタオルで涙を拭う。

と、冗句を心の中で言いつつも、大分心が参った時に出会えたものだから、感銘して抱きつき泣いてしまった。

 

まだ初歩の初歩なのに、ゴール地点に立ったかのような気持ちになりながら面を上げる。

何故ここまで感動し、感涙の涙を流し、傷心の状態であったのか。

 

 

 

ーーナツキ・スバルは、38回の死に戻りを行っている。

 

 

 

38、38回、前との合計でナツキ・スバルの人生×45回分が消費されてしまった。

顔が強ばって動けないのは、身体が震えて安心を求めるのは、失われた38回を報われるものにする為。

 

この時間帯、逃げ込む先、己の身体を撃たせない為の障害物、その全てを導き出す為に、すり減る精神を無視しながら歩んでいたのだ。

 

『抗争に巻き込まれた』

 

『…これで、12……か…』

 

死んだ。沢山死んだ、流れ弾で死んだ。何の進展も無く死んだ。

 

歩めて死ねたら良かった、命を消費して何かを得れたら良かった、38回の数十回は無意味に死んだ。

 

銃の発射には『乱数』というべきものがある、以前と同じ逃げ方や避け方をしても、1度死に戻りを挟めば次に飛んでくる場所は分からない、つまり避けようが無い。

 

『……』

 

コンビニの周囲は抗争だらけの地獄、潜んで細道を行っても、裏取りをしようとしていたのか…突き合わせた生徒から驚きと共に発砲される事もあった。

 

何度かは苛立ちを抑えきれずに、泣き叫びながら大通りに出て……、

 

『…轢かれた……のか…』

 

イカせんべいにだって、なってしまった事がある。

 

 

『便利屋に』

 

 

殺されて。

 

 

『生徒に』

 

 

殺されて。

 

 

『…時間切れで』

 

 

諦めかけて。

 

 

30を超えた辺りに、1度塞ぎ込んだ事がある。

結果は同じ、明日を迎えられずに死んだ。

 

死んでも次がある事に絶望して、ナツキ・スバルは、スバルが守ろうとしているモノに殺され続けている事に絶望して。

 

その事実と向き合いたくないから、ひたすらに死に戻った。

 

 

ーーそうして、今があるのだ。

 

 

「っ、そうだ…まだこれで終わりじゃねぇ!イキナリで悪いがヒナ、俺の話を聞いちゃくれねぇ…ーー」

 

そう、まだ始まりなのだから、スバルが辿り着いたのはゴールでは無く、未だスタート地点。

故にこれからの事を全て話して、ヒナに協力を仰ごうと……。

 

「貴方」

 

「助けてと叫んだのは、不良を追い払う事じゃなくて…私が目的?」

 

「っ」

 

 

鋭い、幾ら何でも鋭過ぎる。確かに態度に出過ぎたとはいえ、不良が銃を乱射しながら追いかけていた所を見ているのにか?

 

鈍く光る深紫の瞳に見つめられていると、まるで全てを見抜かれているような気分になる。

 

ーー見定められていた、ヒナは連邦生徒会長の置き手紙の内容に合致する特徴を持つ目の前の少年に、思考を巡らせていく。

 

スバルは慌てて両手を突き出して、そんなつもりは無いと否定の意を示す。

 

 

「あ、あぁいや、別に何か企んでるって訳じゃ無いんだ、カツアゲから助けて欲しかったのも本当だし、ヒナに会いたかったのも本当、とにかく俺は『超』ウルトラミラクルハイパーキュートでビューティフルの空崎ヒナ、アンタに用があって…」

 

 

「……」

 

 

第2のアコを見るような目で見られた気がするが、ここ一番の大舞台、言葉を脳から口へ転がしていき、端的に、伝わりやすく話す。

ナツキ・スバルに嘘は似合わない、嘘をついて通す話がその後にどれ程の悪影響を及ぼすのかを小学校中学校の見栄張りで学んでいる。

 

だから、素直に、実直に。

 

 

「……し、信じちゃ貰えねぇだろうし…今から話す事を『それが真実である保証は?』なんて深掘りされたら、俺はお腹をヒナに向けて寝転がって服従するしかない」

 

「銃も無い、金も無い、一応は天下無双を名乗らせてもらう天衣無縫のナツキ・スバル、17歳だ、宜しく」

 

 

一呼吸置き、出会えた時に話せばいいと考えていた3つの単語を頭の中に思い浮かべて……吐き出した。

 

 

「よく聞いてくれ、まず俺は…『連邦生徒会長の置き手紙』に書いてある人間……っぽいんだ、てかそうだった」

 

「……!!」

 

「スバル、と言ったわね、それを何処で…ーー」

 

「待て待て、待ってくれ…深掘りはNG、今はヒナが観客で、俺が語り手…?まぁ語り手か、取り敢えず………お願い、したい、話を全部させて欲しい」

 

「……」

 

背中のマシンガンに手を掛けたヒナを宥める、この世界で不都合な事があって先に発砲しない彼女の寛大さに感謝しつつ、畳み掛ける。

 

 

「ここら周辺でよく抗争が起きてるよな?それにこの後ヒナが向かう所も抗争の鎮圧、ゲヘナが幾ら無法地帯でも少しおかしくないか?」

 

 

「それは…」

 

 

「俺はその裏で糸を引いてる奴を知ってる、『カイザーコーポレーション』だ、奴らが抗争を隠れ蓑にして犯罪しまくってんだよ」

 

 

「何の為に?」

 

 

「……分かってない、かな…でも、奴らはもっっと大きな事をしようとしてるってのは伝えておきたい」

 

「ーー落ち着いて聞いてくれ、ゲヘナが爆撃される、ミサイルぶち込まれて、みんな死ぬ…!カイザーコーポレーションが、キヴォトスを支配するって意気込んでんだ」

 

 

「…ーー」

 

 

「それを防ぐにはサンクトゥムタワーを起動して、カイザーの野郎を元の巣穴に叩き返す!それが唯一の方法だって思って貰えればいい、そんで、タワーを起動出来るのは…俺だけだ」

 

 

そう、ナツキ・スバルだけだ。ナツキ・スバルだけがこの先を知っている、ナツキ・スバルだけがシッテムの箱を動かせる。

 

ーーナツキ・スバルだけが、皆を救える。

 

 

「ーー俺が…俺が!連邦生徒会長の『その人』だ!!俺だけが、俺だけがタワーを起動出来る!俺だけがゲヘナを、キヴォトスを救える!!」

 

 

急激な感情の露出も、ナツキ・スバルの歩みを知らない者から見れば、余りに唐突過ぎて……一種の嫌悪の様なものを感じてしまうかもしれない。

 

話の合理性は問わない、ただひたすらに真実を、ナツキ・スバルが救いたいって思っているこの気持ちを、真っ直ぐに伝え続ける。

 

胸に熱いものを込み上げさせて、何のひねりもなく口から零す、これがギャルゲであるのならば……全ヒロインから0点を突き返されそうな、そんな余裕や、聞いて信頼出来る何かも全て投げ捨てて、伝えたい。

 

身振り手振りは慌ただしい、戯言だと言われれば一瞬で話は挫折する、それでもスバルに出来ることは胸に秘めた感情をぶつける事だけなのだから。

 

 

「こんな事急に言われてビックリすると思う、何故、有り得ない、巫山戯るな、変人変態、頭がおかしくなった、どんな言葉でも受け止める気概はあるぜ、俺」

 

「俺も何で信じてくれねぇんだ、なんて喚くつもりも無い、けどよ……今は、ただ……」

 

 

「俺を信じちゃくれないか、ヒナ」

 

 

「………………」

 

 

ノミよりはまだ頼りがいのある、それでいて雨の日のダンボールに放置されている子猫程度しか安心感の無いスバルは、言葉を吐ききって、目を開き、手を出した。

 

彼女からすればきっと、唐突に現れた変人が気の狂ったことを叫んでいると思っているのだろう、そんな事を自覚したくも無い。

 

ただただ祈り、手を差し出すのだ。

 

 

「…………っ…」

 

 

無言が身体を痛みつける。

 

 

「…まず一つ」

 

 

永遠にも思える沈黙の後、遂に空崎ヒナから言葉が与えられた。

 

 

「連邦生徒会長の置き手紙、その存在自体が絶対秘匿情報に規定されていて、秘密金庫の中に眠っているアレを知れるのは各自治区の指定があった者のみ」

 

 

「貴方はそれに含まれていない、この時点で私は貴方を連邦生徒会に連行する義務がある」

 

 

「ぅっ…」

 

 

「次に、カイザーコーポレーションはそう簡単に情報を漏洩させない、私もカイザーが裏で糸を引いているのは分かっていたけれど、それでも最低限の情報しか知らなかった。貴方が言ったキヴォトスがひっくり返る程のモノならば余計に知れる存在は限られているし……外に漏らそうものなら処分されている」

 

 

「ぅぐぅぅッ……」

 

 

「最後に、サンクトゥムタワーを『起動する』、その言葉はサンクトゥムタワーが停止している事を知っていなきゃダメ……サンクトゥムタワーの稼働が停止してまだ2週間だから、幾らインフラが緩やかに機能を止めていっているとしても、殆どの生徒はサンクトゥムが制御権の中枢だとは知らない事もあって、気付いている生徒は極わずかな人数」

 

「貴方は停止している事を前提に『起動』について話した、ヘイローを持たない『外』から来たであろう貴方が、ね」

 

「不審な見た目に不審な言動、私には貴方を信用出来る要素が無い」

 

 

「ォボグォァアッッ……」

 

 

滅多打ちに続く滅多打ち、最早降参の白旗は目の前に突き立てられている、今すぐにでも土下座謝罪へ戻りながら犬のように腹を見せ、服従を示すしかこの先のスバルに出来ることは…ーー。

 

 

「……」

 

 

「ーーでも、貴方の言った事は全て真実だった」

 

 

「連邦生徒会長の置き手紙、ヘイローを持たないお調子者の黒髪黒目生身の子、そこにも……嘘は無さそうね」

 

 

「スバル、貴方には利も、得も無い、今のを誰かに話す意味が無い……話さなくても知っているのならば、カイザーにつけばいい…そっちの方が合理的だと思う、それに貴方は『救える』って言ったけれど、それでどうするの?救って、貴方は何を得るの?」

 

 

「貴方には、何の理由があるの?」

 

 

 

 

 

 

「ーー何も無ぇよ」

 

 

 

 

 

紫紺の瞳が、僅かに大きくなる。強く、引き込まれる、ナヨナヨしい雰囲気だった目の前の少年の瞳の中へと意識が。

 

 

 

「御大層な理念も、損得考えない行動なんてのも出来ない、カイザー側についてガッポガッポなら俺はそうしてる」

 

「無償で誰かを救える心根も無ぇ、こうやって頑張ってる理由も自分じゃ分かんねぇ、救った後はご勝手に、ナツキ・スバルサポートサービスはここまでですって突っぱねたい」

 

 

 

「でもな、ただ俺は…ーー」

 

 

 

「助けてって声を無視出来るような、そんな人間でも無いってだけだ」

 

 

 

「……」

 

 

「そう」

 

 

 

 

空崎ヒナはナツキ・スバルから視線を逸らさない。

 

ナツキ・スバルは空崎ヒナから視線を逸らさない。

 

 

互いが交える視線の先、ナツキ・スバルの伸ばした手を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

細い街道を疾走する少女が居た。

背後には機械人間3人が追いかけており、それから逃げている事が分かる。

 

路地裏にまで逃げ込むも、裏回りされて挟み撃ち。

 

袋のネズミだ。

 

 

「はぁっ、はぁッ、誰か!!誰かぁぁ!!」

 

 

何でこんな事に何でこんな事に何でこんな事に!?!?

 

わた、私……ただ学校から帰ってただけで…。

 

 

「おい、黙らせろ」

 

 

「誰かッ!誰かぁ!!助け…ーー」

 

 

何かを注射されて、身体から力が抜けていく。

何もしていない、何も変わらない日常だったのに、唐突に壊れていく。

 

助けを求める声は、届いていても誰も反応しない。機械人間に刻まれたカイザーコーポレーションのロゴを見て、誰もが顔を背けていった。

 

ーー責任を負いたくない。

 

その少女を助ける事で生まれる責任を負いたくない。

その少女を助けた後は?相手はカイザー、どれだけの損が、どれだけの得が、どれだけの被害が、痛みが、悩みが、後悔が、そこで生まれる全ての責任を背負わなければいけないというのに。

 

助ける事に満足出来ても、助けた後は見放すから、そもそも救いを差し伸べない。

 

 

「ぁ……ぁう…ぅぅ」

 

 

悪い事をしたのなら良かった、天罰が下るような悪い事。ゲヘナじゃしょっちゅう皆バカボコ悪い事をしている。

 

でも、私は何もしてない、何もしていないのに…。

 

 

「さっさと連れていくぞ、黒服とやらが提示した人数にまで間に合わせなくてはならん」

 

 

「了解」

 

 

助けて、誰か助けて。

 

 

……ーー誰も助けてはくれないの……?

 

 

そう思い、目を瞑ろうとした時。

 

 

 

 

「ーーオイオイお前らぁ!若い乙女にふてぇ事しやがる!助けの声を塞ぐなんてふてぶてしい奴もいたもんだ!!」

 

 

「この天下無双、仁義をかざすナツキ・スバル様がその悪行…見逃す訳にゃぁいかねぇなぁ!!」

 

 

 

 

「「「……」」」

 

 

 

 

「……はい、時間稼ぎ終わりッ!全員やっちゃって!ヒナ!!」

 

 

 

「ーー勿論よ」

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