Re:ゼロから始める青春物語   作:カピバラバラ

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『話し合いという名の』

 

「──補習授業部、まぁ、聞いたことはありますね。なんなら勉強を教えて欲しいと部員の一人にせがまれた記憶が」

 

ウイが語る体験がスバルの聞き間違いでなければ、彼女も重要参考人の一人であることが明らかになった瞬間であった。これで聖園ミカが彼女を案内役として採用した理由も判明、辿らせたかったルートも想像がつく。

ウイの執念による新情報、それと同時に明日、黒服というイレギュラーの介入、この二つがこれからの肝になる。

 

「そいつの顔と名前は憶えてたり?あと、せがまれて……その後は」

 

「…教えてあげたのは──コハルさん、ですかね。あの子はなんというか、一度の理論を飲み込めればすいすいと理解までつながるんですけど、その為の受け入れと思考の入口が硬くて…」

 

「ああね…俺みたいに典型的な勉強苦手属か…」

 

本を開いて四時間、雑談で解放感を味わいつつ、本を修復しながら浮かない顔をしていたウイが気になっていた。

黒服を呼び出した後の方針を、あれでもないこれでもないとアロナと話し合い、偶にウイのアドバイスをもらって定めようとしていた。しかし、この場所で表立った行動を起こさず、情報収集ができるというのなら動く必要が無い。

 

「──。ふむ、補習授業部の内情を知りたいのであれば、救護騎士団が手掛かりになると思いますよ」

 

「アリウス正義実現委員会シスターフッドの次は、また別の部活…。情報が散らばりすぎだろ、かき集める側の苦労も考えて欲しいもんだぜ」

 

「……誰だって、慎重を期し力を尽くした設問を片手間に解かれたくはないと思いますけど。特に貴方みたいなお笑い芸人に」

 

「人の事お笑い芸人呼ばわりはきょうび聞かねぇよ…」

 

スバルがウイ専属のコーヒーマシンになってから、態度はある程度ゆるくなったとは思いつつ扱いはコレだ。随分と声色が軽くなったウイにより、スバルは扱き使われていた。

 

「んで、どうして救護騎士団みたいなところに手掛かりが?」

 

「──白洲アズサが匿われている、とするならどうでしょう」

 

「────」

 

「聞き及んだ曰く───」

 

救護騎士団。セナが所属していたゲヘナの救急医学部のように、トリニティにおける保健委員会の立ち位置にある部活動。詳しい内情は分からないが、学園内外の要救助者への治療を行っているらしい。

 

しかし活動記録には──部長、蒼森ミネは『暴』の化身としてあらゆる場所で怪我人を産んでいると。こんな矛盾した救護を行なっている時点であまり白洲アズサを匿える要素は無さそうだが、

 

「以前から蒼森ミネさんは、ティーパーティーと対立していただとか、殴り込みをして桐藤ナギサを説き伏せただとか。特に人の不幸へ奮起出来る人でしたから、補習授業部の事も気にしていたらしいです」

 

「──。ゲヘナからの転校生って訳じゃないんだよね」

 

「ぁぁ…。それ本人の前で言ったら潰れたトマト缶になってましたよ…。いいですかナツキさん、彼女に見つかった場合は慌てず騒がず、目を合わせたまま刺激しないように…ゆっくりゆっくり離れるんです」

 

「熊の対処法じゃねぇか!?え何、ここに乗ってる被害報告って全部…」

 

「はい。ミネさんが暴れた結果ですよ…」

 

「────」

 

「…決して悪い方では無いんですよ…、ほんの少し、思い込みが激しくて…暴力モードになったら話し合いが通じなくて……それでいて誰も止められないぐらい強くて…」

 

「制御出来ない暴力装置って割とワルの部類に入ると思うんだけど…?」

 

このトリニティでその融通の利かなさは利用しろと言っているようなもの、けれど誰も手を出さなかったという事は──本当に制御不可能なバーサーカーなのだろう。思い込みが激しい理性の無いツルギをイメージすれば───。

 

「怖ぁ…!?」

 

「……。とにかく、そんなミネさんが…とある時期を境に失踪しています。タイミングは丁度、ティーパーティーの百合園セイアさんが療養した時ですね」

 

次の語りをする前に、ウイから再度珈琲のドリップを望まれる。お生憎様、スバルはシャーレでの日常により珈琲を常用する生活を送っていて、手際だけは良い。上手くなりたくもなかったが。

 

とろん、と眠気を増すウイの瞳にまた活力を戻すため、古い豆挽き機のハンドルを握る。

 

しかし──水も食料も乏しいと聞いていたが、彼女の待遇はやはり相当上位のものだ。古書館だけは以前のトリニティ、そう言える様相が残っていた。この待遇は古関ウイ本人の権威や、焚書坑儒地味た行為をしては反発が大きくなる為か。

 

「────」

 

これで四杯目、催すぞ、とは口が裂けても言えない。スバルとて注意喚起ぐらいはしたいが流石に乙女へそんな台詞を吐けるほど肝も座ってない。そんな黙々と豆を挽くスバルを見つめ、握っているピンセットをくるりと回し、

 

「うへへっ──。良いものですね、助手というのも」

 

ニヤニヤと王様気分を隠せないのか、ウイはこの古書館に生まれた都合の良い存在に助手と名付けた。軽口も増え、段々と容赦が無くなる。

 

「良いように使ってるだけの召使い枠だろコレ…」

 

「高々珈琲を飲むためだけに席を立ちたくないんです、一々ピンセットを置いて、粉がつかないように離れた場所で挽いて、お湯が湧くのを待って──一度作業に集中した状態から気を切らすのも嫌です、めんどくさい」

 

「立ち読みの代金代わりとして頑張って下さい。その後は肩も揉んでホットマスクも用意して、枕は天日干ししてもらって」

 

「だからそれ召使い枠じゃん!?」

 

「──。そもそも、こんな苦労を重ねているのも、人見知りだった私が人前で頑張らなくちゃ行けなくなったのも…!全部内乱のせいで…!!黙って扱き使われる召使いの一人や二人や三人ぐらい寄越せって話で…」

 

やいのやいのと言葉を重ねる前にウイの眼前へ珈琲を差し出す。理解した、最早珈琲と修復作業は彼女にとって酒のような、現実逃避の手段なのだと。現実を振り返れば待ち構えているストレスと、迫り来る業務。何かと気が合うと感じていたのは────。

 

「なるほど、ね……。俺ら、社畜仲間だったのか……」

 

「………悲しいこと……自覚させないでください……」

 

「同情するぜ、マイフレンド」

 

「勝手に同情してないで話を続けましょう…召使い一号」

 

ウイはカップの水面に目を落とし、物語に耳を傾けるスバルの為、蒼森ミネの失踪がどのような影響をもたらしたのかをナードな雰囲気と共に語り出す。本のページが捲られる音が、無音の古書館に乱反射して頭へ吸い込まれた。

 

「思えば、彼女の失踪からトリニティのバランスは崩れましたね。正義実現委員会は桐藤ナギサの手足、シスターフッドは隠ぺい、隠匿体質故の無干渉。影響力を持つ部長が失踪したことにより、寄る辺を失った救護騎士団」

 

「同時に結成されたアリウス親衛隊と補習授業部、少し間を置いてからの暗殺事件、流れるように始まった内乱」

 

「長く長く続いた一本の線、政治から身を遠くに置いていた私からすれば……分かりやすいものでしたよ…」

 

「内乱が始まる前、暗殺事件が起きる直前に何故か補習授業部が解散。桐藤ナギサは部員であった…『浦和ハナコ』『阿慈谷ヒフミ』『下江コハル』を引き抜いて匿い、残った一人は……救護騎士団へ」

 

「そこのいざこざに、失踪していた蒼森ミネさんが関わっていた。──という噂です。聞き及んだ、という言葉の通り噂でしかないですけど」

 

───。

物の見事に、補習授業部は物語の中心に座していた。浦和ハナコも補習授業部の一人だったという事実、記録は消せても記憶はどうともならないのは、彼女とて同じだったか。

 

アリウスの空っぽな復讐、禍根の中心に居た補習授業部、桐藤ナギサの暗殺が始まりの不自然な内乱。

ここまで内容が出揃えば、スバルが求めている物語のマスターピースまでかなり近い。

 

ほの暗い物語の末、聖園ミカが、浦和ハナコが、アリウスが、傲慢にも怠惰にも自己救済の道を選ばなかった事を糾弾すべきなのか。糾弾したとて、彼女達に残る物語はあるのか。

 

──勝ち逃げは許さない。負けて諦めるのも許さない。ナツキ・スバルを頼るのなら、ナツキ・スバルが望む未来を嫌でも受け入れさせる。例え嫌だと首を振って、泣いて喚いて、どれだけ後悔をしたとしても。

 

「…………」

 

瞼の裏、文字を見続けて疲れてしまった眼球に浮かぶ『断罪』の文字。

 

どいつもこいつも身勝手だ。何故、こうまでしてスバルは奴らに気を使ってやる必要がある、『悲しい過去』への配慮?なきにしも、非ず。だがソレで許せる範疇は超えているだろうに。

スバルからしてみれば、贅沢且つ、不相応。この世で最も厳しいのは自分の手で道を選択する事だ、『悲しい過去』で他者に結末を委ねる等、楽な道なのだ。

 

──厳しく言ってしまえば、妥協に過ぎない。

 

「シミコがここに居れば、また別の話も聞けたんですけどね」

 

「シミコ…ってのは、部員か」

 

「まぁ、元ですが。本より人を優先したのが彼女で、人より本を優先したのが私です。他所から見れば冷酷なのは私でしょうね」

 

告げて、黒茶色の液体を啜る。

先程までの無音に重さが乗り、痛ましい自虐の色が見えた。思い返す記憶の冷たさを誤魔化すように、彼女は珈琲を飲んでいる。

 

その姿を絵にすれば、主体は黒色になるだろう。文字にすれば、数ページ。彼女の周囲にある修復済みの本と未修復の本、そして明かりを落とした館内に広がる寂しさを書く。

 

「人が苦手です…嫌いなわけじゃない、苦手で仕方ない…。人から出てくる音が、読書の邪魔になる…」

 

「けれど古書館の本を彩るのはそういった『音』でしたね……。シミコが離れていったのも、私が我儘だったからで……」

 

音、その音が物理的なものでないのが口振りからして理解できた。

内心に込められた苛立ちと孤独、嫌という程分かるとも、そう共感して目を瞑る。

水で薄めた紙ノリがついたブラシが、何度も何度も散り散りな紙の上をなぞる。写しを開き、高速で動く眼球が、如何に正確に失われた元の形を取り戻そうとしているのかが分かる。

 

「──。私は人の悪意に敏感で、そして打たれ弱い」

 

「貴方は、ナツキさんは…人の悪意に鈍感で、打たれ強い」

 

「──ウイ…?」

 

「はぁ、可能性、考えなかったんですか」

 

「私がアリウスの手先だと」

 

「─────」

 

──息が止まる。

今まで何となく見つめていた顔に、自分の命を奪おうなんて気配無かったのに。

 

「────…ぜんっぜん、違いますけどね」

 

ぷふっ、と吹き出すウイにスバルは呆気に取られた。

唐突なカミングアウト、勿論嘘であるとネタバラシをするかの如くケラりと笑う姿は、今コケにされた男を面白がっている。

 

「え」

 

「というかその顔、本気で何も考えてなかったんですか?……よくもまぁそれで……いえ別に悪いというわけでも……いや……やっぱり愚かですよ、ナツキさん」

 

「おまっ、おまえ、お前さぁっ!?」

 

「体験させたかっただけですよ、隣人が敵という環境がどのようなものなのか。余程鈍感な生徒でも無い限り、簡単に信頼が壊れます。そして壊れたものに──正常な評価を付けることは出来ない」

 

「一応……これでも…交友関係はあったんです」

 

「──聖園ミカさんとも」

 

──交友。

その言葉が指す先は、友情か。政治から身を離したと言うならば、聖園ミカとの交友とは私的なものに他ならない。

 

「ただ、本を読みに来てる一人の読者でしたけど」

 

読者という存在へのリスペクト、古関ウイは生粋の人見知りでありながら、その本音をさらけ出さなかった。人が隣に居れば二、三メートルは距離を開ける性根も封じ込め、外交官への任命を受け入れた理由は、

 

「それでも、友人の一人だったと……思います」

 

それこそ、理由の無い『友愛』だったのか。

ウイが初めて飲食以外で作業の手を止める、止めた明確な理由は──本人にも分からないのか、手持ち無沙汰に筆ペンをクルクルと回し始める。

遠くを見つめる瞳は曇り空の様で、この世のどこでもない場所を彷徨っていた。

 

「優しい方でしたよ、聖園ミカは」

 

「…俺に聞かせてどうすんだ」

 

「言い聞かせただけです」

 

「……聞いても、手加減してやれねぇよ」

 

「──。貴方は本当に……はぁ…まぁ、同じ質問にシミコはこう返しました、『だからなんですか』と。普通はそう返します」

 

「一つ。アドバイスをしましょう……。貴方と聖園ミカは…致命的に相性が悪い、彼女は無垢なんです。私の…この子達への献身に邪心はなくとも、あったとしても、この子達は変わらないように」

 

「あのお姫様は、単純で──単純故に愛されて、無垢故に嫌われて、受け止めるものを受け止めたまま返す。責任感の欠片も無い身勝手な人間ですが、だからこそ多くを惹きつけた」

 

「なんでもかんでも、中身を探そうとしていると道端の小石に躓きますよ、ナツキさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──隙間風に紛れるのは僅かな寝息と、月の光。

感じることは無いと割り切っていた平穏の中、背もたれに体重を掛ける。静寂の中で問うは無垢という言葉の意味。

 

──聖園ミカに『無垢』が似合う訳も無い。そして、無垢という言葉が許されるのは赤子までだ。

 

──邪悪の化身でないことは分かっている、善良な人間とも言い切れない。曖昧で、無味で、形の無い生徒。

 

「────」

 

夜になった古書館で、ウイから一晩眠りにつく許可を貰ったスバルは、ブランケットを被り椅子で眠る彼女を前に頬杖で月を眺めていた。

聖園ミカへの解釈を口にした後、会話を交わすことは無かった。気まずい沈黙かと聞かれれば、首を横に振る。

 

「無垢…単純…」

 

善悪の区別がつかない赤子であれば、善悪すら教えられなかった子供であれば、言葉相応だ。

 

「────」

 

ウイから聖園ミカへの客観的な印象でしかない、だからどうした、とまでは言わないが、願いの為の殺戮を許しはしない。

 

「──────相性が悪い」

 

面白い言葉選びだな、致命的に相性が悪い、そう言われて何時間も悩んだ。ホシノや──スオウ、最初は虚無に飲まれ、全てを嫌っていた相手も、結局は一人の悩める生徒だったと。決して相性が悪いとは言えなかった。

手の届く範囲で、見える範囲で救ってきた。手が届かない場所に、見えることのない暗闇の中に、差し伸べられるものはない。

 

知れば知るだけ救いたいものは増えても──、

 

「………」

 

「でも、どうやって……」

 

「──。そうか」

 

──唐突な閃きに突き動かされ、席を立つ。

古書館の扉に触れ、ウイが起きないように静かに外へ足を運ぶ。何も纏まらない思考の内容は、基本誰にも打ち明けられないヒミツのソノ。

だがしかし、ある程度事情を把握した上で、この混沌を紐解ける相手が一人居る。

となれば、出向くしかない。アロナを握り締め、濃密な死の予感を受け止めながらスバルは、問題を打ち解けられる相手へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こーんな夜遅くに訪ねられるとは思わなかったなー。スバルくんって案外常識無い感じ?」

 

「淹れたての紅茶を俺の分まで用意してる奴に言われたくねぇわ。おうおうクッキーまで…夜の菓子は太るぞ」

 

「女の子が摂取する糖分はカロリーにならないの!でも、そうだね。待ってたよ、スバルくん。ウイちゃんは役に立ったかな?」

 

朝の茶会と何一つ変わらない場所で、クッキーを食べていた聖園ミカはスバルを歓迎するように椅子を引く。テーブル上のティーカップには注がれたばかりの紅茶が湯気を立てていて、さしずめ監視でもしていたかと思うほどに準備がいい。

 

煌めく装飾は夜の世界でも輝きを失わず、そしてトラウマの象徴であるヘイローも変わらず美しい。そんな彼女の眼前で、スバルは小さく息を飲む。

 

「ビッックリするぐらいお役に立ってくれたよ」

 

「ふぅん?良かったー、ウイちゃんで無理なら他の子じゃ期待に応えられないもん」

 

「……全部が予定通りに進んでたら、俺はどうなってた?ここにこうして、足を運ばなかったら」

 

「────」

 

きょとん、とした顔は偽りで、すぐに目元を緩ませる。

微笑みの『色』が一変し、晒す笑顔に背筋が冷たくなる。隠す必要も無いと、聖園ミカは大胆に笑って、

 

「あはっ───。それで今、何回目?」

 

こうして再び、互いに『共通認識』を持つ。今ここに居るナツキ・スバルは聖園ミカの期待した通りの『ナツキ・スバル』であり、スバルは全ての陰謀が『やり直し』前提である事を。

 

「残念だが、無様を数える趣味は無いんだ。お前のせいでどんどん心が尖り穿った中二病にさせられてるんでな」

 

彼女好みの言い方を思考し、『やり直し』が簡単且つスバルにとって何度でも行える手段であるのだと強調する。あえて気軽な話し方で無様と貶して、平常心を保った顔を見せた。

 

「君が何も警戒せず、ここに来てそんな話をするってことは……。うんうん、『そういうこと』でいいのかな」

 

「さぁな」

 

「……それじゃ本題、今回は何の為に来たの?スバルくん」

 

「世間話だよ、ワガママ図書委員長を超えるワガママお姫様に、何回突っぱねられてもアタックしてるんだ。そろそろ許して欲しいけど」

 

「──。やっぱり君は、『ナツキ・スバル』なんだ…!凄い、凄いよほんと、君が来るのを……ずっと待ってて…」

 

喜びを爆発させて、嬉しそうに羽をパタパタと跳ねさせる。

──これが、想像力の欠如というものか。『やり直し』をさせた相手を目の前にして喜んでしまうというのが、まさに単純。

 

「嬉しそうだな、どれだけ自分が殺したか理解してないのか」

 

「うーん、はっきりは分かんない!でももういいの、漸く、犠牲に意味が生まれた。みんな、必要な犠牲になった」

 

「──おまッ………ぇ…は…!本気で、言って……」

 

「あれ?まだ慣れてなかった感じ?それともちゃんと話し合えてなかった……うん、まだまだ途中って解釈しちゃうよ、スバルくん」

 

抑えきれない怒りが、意図していないミスを生み出す。冷徹な鉄人仕草が解かれ、その一瞬にミカは目を光らせる。舌の上に次に乗せる言葉を全速力で紡ぎ出し、聖園ミカを再度欺こうと咳払いを挟む。

機械的な救済──アビドスを一度その魔の手で沈ませかけた姿を思い出し、聖園ミカが求める『ナツキ・スバル像』を脳髄へと。

 

「……そうか?お前から、愚直で真っ直ぐに義憤に燃えるのが元々の『ナツキ・スバル』だって聞かされたから、勘違いしちまった」

 

「……あー。………うー、ご、ごめんね。気を使って貰ったのに気づかなくて……これだからナギちゃんにもセイアちゃんにも怒られるんだよね……。うん、今の君のままで居てくれるなら、世間話でもなんでもしてあげる!何でも聞いてよ、スバルくん。そうだ、エデン条約の作戦も…知ってる?」

 

「爆弾で混乱させてから、皆殺し。とりあえず俺にやり直させればいいから、山ほど手段用意してたな。一番怖かったのは…お前の隕石だけど」

 

「──。話が早くて助かっちゃう」

 

一手差し込まれた『確認』に対し迅速に切り返す。そうした姿勢に聖園ミカの感情は喜びに振り切れ、満点回答を前に飛びつく寸前、気を落ち着かせ吐息を零す。

 

「何が欲しいのかな、ナツキ・スバル」

 

「欲しいもんはお前に頼らなくても手に入れられる、なのにわざわざお前の所にまで来た、それで理解出来ないなら帰る」

 

「────」

 

「──躊躇してる。違う?私っていう存在を、消すか消さないか」

 

「大当たりだよ、今は品定め。最初散々試されてばっかだったからな、今のお前に恨みは無いけど、意趣返し」

 

スバルの言葉に、聖園ミカは満足げになる。

狂気に彩られた面が、今にも全てを破壊し尽くそうと語りかけるような凶暴さも併せ持つ。

聖園ミカから降りかかる視線は、スバルを『理想』とみなした目。即ちそれは、聖園ミカにとって、ナツキ・スバルによって断罪される事を願っていい。そう判断されて───生理的な嫌悪感が、スバルの心中を渦巻いた。

 

歪みに歪んだ『ナツキ・スバル』像と、今のスバルに、さほど違いは無いと自覚してもなお、気持ち悪い。

 

「……何の為に生きてるのか」

 

「───?」

 

「お前から言われた言葉だよ、そっくりそのまま返す。聖園ミカ、お前は何の為にここまで生きてきて、そして死にたがる?」

 

「────」

 

「………誤魔化しても、君の前じゃ意味がないよね…何の為に、かぁ」

 

身を固め、舌を固め、歯を食いしばって返事を待つ。

最後の一秒まで悟られず、そして彼女が自分を振り返り、そこから滲み出たモノを味わう為に。

 

愉快げに頭をくるくる回し、思考の為か視線は上の空、考えているのかいないのかはっきりしない顔が、遂には動きを止め、結んだ口を開いた。

 

「…………」

 

「──。あれ」

 

「無いかも?」

 

「は」

 

あまりの予想外の返事に、目を見開いてミカの顔を見つめる。正気なのか、冗談だろ、ふざけるな。そんな視線に慌てて言葉を付け足そうとして、

 

「えぇっと、ううんと……そうだ!思い出した!」

 

「──あのね、スバルくん、私……」

 

「助けて!───って言われたの」

 

「気がついたら、身体が動いてた」

 

「それじゃ…───ダメ、かな?」

 

その声にダメだ、と言える筈もなく。

 

──スバルは、聖園ミカが必死に絞り出した言葉の味に、戸惑うしかなかった。





申し訳ないことに、これから後古関ウイの見た目への言及を挟む余地を作れず…──誠に勝手ながら、ブルアカをご存知でなくこの二次創作を読んでくださっている方、彼女の見た目やキャラクター性を知りたい方は、『古関ウイ』と検索して頂けると幸いです…。私的チャームポイントは雰囲気がうすほそで、タートルネックの服を着ていること。
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